第15話 謎の襲撃者 その2
ジョンとオクトパスの弾丸は男の頭部に着弾した。
肉片と血が飛び散るのが目視できた。
しかし、男は止まらなかった。
「おおおおあああああ」
男が刀を振り回す。
アンはトリガーを引いた。
男の右肩に9ミリ弾が着弾した。
普通なら刀を取り落として倒れるはずだ。
しかし、男は刀を持ったままだ。
まどかとジルもグロック19を襲撃者に向けて連射した。
だが、男は少し後退したが倒れなかった。
すると、後ろから声がした。
「またれい! 私が相手だ」
「勇者だ!」
「勇者殿だ!」
見ると異世界人の若者が自信ありげに進んできた。
もっとも一人だけだった。
残りの二人は震えて腰が抜けたようにしゃがんでいた。
異世界の若者は刀の男に手のひらを向けた。
「ファイヤー!!!」
何も起きなかった。
「サンダー!!!」
また何も起きなかった。
異世界の若者は不思議そうに自分の両手を見た。
「おかしいだろう。異世界転移の勇者なら魔法が使えるはずだろう。それとも詠唱を覚えなくてはならないのか」
刀の男が異世界の若者に迫る。
「危ない! 逃げろ」
「ひぃ! ひいいいい」
若者は血の付いた刀を向けられて泣きべそ顔をして固まって動けない。
アンは飛び込んで若者を突き飛ばした。
刀の刃が空を切った。
そのまま横になった姿勢から男の胸に9ミリ弾を打ち込む。
ジョンが飛んできて。アンを引っ張った。
ジルとまどかが援護して弾を打ち込んだ。
すでに何十発と9ミリ弾を受けているのに男はまだ動いていた。
自分の血で赤く染まっているのにだ。
「何? バケモノ?」
アンは立ち上がり、体勢を立て直すと男にグロック19の銃口を向けた。
トリガーを引いたが弾が出なかった。
弾倉に装填した15発の全弾を撃ち尽くしていたのだ。
グリップの横にあるマガジンキャッチボタンを押して空の弾倉を落とすと、タクティカルベストのポケットから取り出した予備の弾倉をグリップに差し込んだ。
刀の男が迫ってくる。
スライドを引いてチャンバーに弾を装填するが間に合わない。
「隊長、伏せてください!」
オクトパスが叫んだ。
アンはとっさに床に身を投げ出した。
轟音が響いた。
刀を持った男がちぎれ飛んだ。
振り向くとオクトパスがグラネードランチャーを装着したM4ライフルを構えていた。グラネードランチャーの円筒からは白い煙が出ていた。
刀を持った男は、体がバラバラになり、肉片となって床に散っていた。
「いったいどういうこと」
アンは立ち上がりながら副隊長のジョンに問いかけた。
「私にも分かりません。しかし、一つ確かなのは、奴は普通の人間ではないということです」
「ということは?」
「魔族ではないでしょうか」
「魔族だと!?」
瞬く間の間に広間にいた大勢の人にそれは伝わった。
「魔王無しに魔族は出現しない」
「ということは魔王が再降臨したのか」
「そんな馬鹿な」
「千年、平和だったんだぞ」
「皆さん、落ち着いてください。本当の魔族は物理的攻撃では倒せません。魔法か、勇者の特別な力でないと制圧できないのです。今、私達特殊部隊が使ったのは確かに特別な武器ですが、魔法ではありません。物理的攻撃です。それで倒せたのですから、まだ魔王が再降臨したと断ずるには尚早です」
アンがその場を鎮めるよう言った。
その言葉に多くの者が頷いた。
アンは勇者たちを見た。
一人は失禁し、もう一人は泣いていた。そしてさっき魔法で攻撃しようとした勇者は気を失っていた。
(もし、魔王が復活したというのなら、彼らの力に頼るしかない。だが、彼らで本当に大丈夫なのだろうか)
王宮舞踏会は、未知の襲撃者の来襲により、予定よりも早く終わった。