第10話 異世界の勇者たち
王は異世界から召喚した若者たちを見た。
やっと自分たちの世界とは異なる世界に召喚されたことを理解したようだった。
王は王女の肖像画の前に彼らを連れて行った。
「諸君らを連れてきたのはこの王女の婿候補としてだ」
「何でお前らから見て異世界人の俺らが婿候補になるんだ」
王は返答に困った。
王女が異世界恋愛物にはまっているからとは言えない。
コホンと咳をした。
「この世界に魔王が復活した時、魔王を倒せるのは異世界から来た勇者のみだからだ」
若者の間から歓声が起きた。
「俺が勇者だと。マジか」
「夢じゃないのか」
「ただし」
王は厳かな声で言った。
「貴殿らは元の世界に戻ることはできない」
しかし、彼らはもう王の話など聞いていなかった。
「やっぱ、俺TUEEEになるのか」
「チートな力とかを手にしているはずだぜ」
「魔法は使えるのか」
「それよりハーレムだよ、ハーレムを作るぞ」
「俺はエルフとやるぞ」
元の世界に帰れないと聞いて絶望したり、怒り出すかと思いきや訳の分からないことを言って狂喜していた。
(本当に、この者たちで、大丈夫なのか)
王は不安になった。
だが、後藤は彼らのことを保証していた。彼らも電子映し絵で、異世界の勇者になって魔王を倒し、その世界の乙女と恋をして、子作りに励む話が大好きで、毎日そういう話を見たり、読んだりして生活していたのだとういう。
(それなら王女と趣味はあうな)と王は思ったのだ。
要は跡継ぎが生まれればいいのだ。
彼らは現実には存在せず、行くこともできないと知りながらも、異世界の王女と恋に落ち、子作りする夢を見るあまり、適齢期を過ぎても結婚どころか女性とお付き合いもせずに電子映し絵の物語を慰めとして30歳近くまで純潔を守り通して来た人材だという。
それはそれである意味、十分に勇者と呼ぶに値する。こちらの世界の男子には真似できないことだ。
(今は別の意味で勇者とも言うべきこの純真な若者たちに王国の未来をたくすしない)
王はそう思った。