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アランサイド~動揺

 残月祭当日。


 俺は、魔法学園入学してから2度目の残月祭会場ーーー学園の生徒全員が入ってもまだ余裕のある体育館の中に入って、すぐにリーネの姿を見つけた。


 去年は女学生に囲まれて動くに動けず、不快な思いしかしなかった残月祭だったが、今年は婚約者のリーネも参加することで、去年のようにはならないだろうという気持ちはあった。


 だが、きらびやかに飾られた会場の中、溢れんばかりの人達の中で、ついリーネを探してしまっていた自分にも驚いたし、会場に足を入れた瞬間、まだ豆粒のような大きさにしか見えないリーネにすぐに気づいてしまった自分にも笑いがでそうだった。


 リーネしか見えなくなってしまったのだろうか。まさか自分の身にこんな感情が芽生える日がくるとは。

 しかもその人はすでに、自分の婚約者なのだ。

 焦ることは何もない。ゆっくり、リーネと距離を縮めていこう、そう思いながらリーネの方に歩いていくと、リーネの服装がはっきりと見え始めた。


 白のニットのワンピース。白だけの糸で繊細で複雑な模様を造った芸術品のような綺麗な服ではあるが。少しだけ首もとが開き、丈も膝より短い。何よりニットのワンピースはリーネの身体のラインをそのまま形にしていた。

 ドレスでも胸元が開いているものは沢山あるがそれとは違う魅力で、何やら妙に色っぽく、可愛らしさと相まって保護欲をくすぐってくる。

 周りの男どもが、リーネの姿に釘付けになっていた。まるで視姦されているのではないかと疑いたくなるほど、その視線は熱い。


 俺は歩くスピードをあげてリーネの方に向かう。

 だが、俺がリーネにたどり着く前に、ノクトがリーネに近づいた。リーネがノクトに微笑み、楽しそうに話をして笑う。

 リーネが笑うとあまりの可愛さに、くらりと眩暈がした。

 

 俺はノクトを信じている。

 友人の婚約者に手を出す男ではない。

 そうーーー信じてはいるが、あの白いニットのワンピースを着たリーネを間近で見て、堕ちない男がいるとは思えなかった。そしてあの姿をしたリーネを他の男に見られるのが、俺は心底、嫌だった。

 気づけば、息を切らすくらいのスピードで歩き、リーネに向かうノクトの目をつい手で塞いでしまっていた。


「ーーーアラン殿下。止めてください」

 さすが親友。

 目を塞がれただけで俺だとわかるとは。

 俺のすべての思考を読んでいるとしか思えない。


 しかし、止めてと言われても、この手を離したらまたリーネのこの姿をノクトに見られてしまう。できればこのままノクトの目を塞いでしまいたいが、残月祭中ずっとこの体勢でいるわけにもいかず、ノクトだけでなく他の男もリーネを見ている。

 困ったな、、、と思いながら、ノクトの陰からリーネが見える位置まで身体を動かした。

 リーネと目が合い、そのあまりの可憐さに視界がぶれる。

 最近会ったばかりのはずだが、ずっと長いこと会っていないような、欠乏症にも近い感覚に襲われた。

 会っても会っても全然足りない。

「リーネ、久しぶりだな」

 俺が言うと、リーネは不思議そうに首を傾げた。

「一昨日、お会いしたばかりですわよ?」

 そんなの知っている。知ってて久しく思うのだから、よっぽど重症だ。

「ーーーそう、だったかな。忙しくて忘れた。それよりリーネ、確かにその姿、よく似合っていて綺麗だが、その、少し身体のラインがーーーいや」

 俺は大勢の前でファッションを指摘しようとしてしまったことに気付き、口を止めた。女性の服を非難するなど、紳士としてあるまじき行為だ。しかし周りを見ると、やはりリーネを皆が見ている。また不快な感情が押し寄せてきた。

 視界を塞いでいたノクトにも、俺の手を払い除けられる。

「ちょっと、アラン殿下。ほんとそろそろ手を離してくださいよ」


 舌打ちしそうになった。

 だが、皇太子として完璧であろうとしているのに、こんなささやかなことで舌打ちしたら、小さい人間と思われかねない。今まで完璧であろうとした努力が、そんな些細なことで崩れても癪に触る。

 仕方ない、と俺は着ていた濃いブラウンのジャケットを脱いで、リーネの肩にかけた。

 周りの男どもの目に入らないようにするためだけではない。リーネの白いニットから盛り上がった胸元が視界に入ると、俺自身がどうかなりそうだった。

「、、、そんな格好で風邪ひいたらどうする。それをかけておけ」

 言ってはみたが、肩にかけたくらいじゃ周りからの視線は防げても、リーネの真正面に立つ自分からはまだ、しっかりとリーネの身体を隠しきれていない。

 俺はリーネから視線を反らした。

 リーネは白鎧くらいでちょうどいいと思う。


 ノクトが、リーネにプレゼントボックスについて熱く語っていた。今年の生徒会長となったことで、前生徒会長であるジルから、神からのギフトと言われるプレゼントボックスについて、これ以上ないほどの説明を受けている。語っても語りきれないほどのその情報を得て、ノクトは一種の信仰のようになってしまっているようだ。


 リーネもプレゼントボックスにかなり興味があるようで、目を輝かせながらノクトの話を聞いている。

 頬が紅潮し、笑うことでその目尻が下がっている。込み上げてくる期待が堪えきれないようだ。その姿はこねくり回したいほど愛らしかった。

 リーネのその生き生きとした表情から目が離せず、自分でも困ってしまう。抱き締めたい衝動をどうにか耐えた。


「そのプレゼントボックスの品物は、わたくしもいただけるのでしょう?」

 リーネは、小首を傾げて尋ねる。

「勿論ですよ。この残月祭に参加する人は皆貰えます。学園の講師達も準備に駆り出されるのに不満も言わずそれをやってくれるのは、自分達もプレゼントボックスに入れるからという人が大半のようですよ」

「それだけの品物が入っているということですのね。ますます楽しみになってきましたわ」 

 ぱっと花咲くようにリーネは満面の笑みを見せた。

 また俺の胸の底の熱が高まる。心なしか顔も熱い気がした。もうほんとそろそろ止めてくれないだろうか。悶え死にしそうだ。

 ノクトはよく、これを目の前にして平然としていられる。鉄人だろうか。少しだけ、俺はノクトを尊敬した。


「それで、いつ頃、プレゼントボックスに入りますの?」

「残月祭の流れとしては、催し物が3つ準備されています。それが終わってから3曲のダンス。3曲の歌の鑑賞のあと、プレゼントボックス入場、解散となります」

 ふむ、とノクトは間を置いて口を開いた。視線は俺を向いている。

「ーーーそうですね、特別な方との時間は、その移行の時にという感じでしょうか」

 明らかな意図がそこに込められていた。


 リーネを誘うなら、そのタイミングだぞと暗に教えてくれる。ノクトのそういうところ非常に有能で大好きだが、今は感情が追い付けておらず、勘弁して欲しかった。にやりと含み笑いをするノクトから、視線を明後日の方向に反らすしかできない自分も悔しい。

 俺が視線を反らすと、その方向に何があるのかとリーネが俺の視線を追いかけてきたのは、笑いそうになった。


 リーネは可愛い。

 可愛いだけじゃなく、凛とした姿勢、意志の強さを表す表情が果てしなく魅力的だと思う。

 リーネの頭の中は、宇宙のようだ。

 何かを考えているらしいが、その考えから導き出す答えは突拍子もないものが多い。

 非常に単純であり、思い込みが激しく、それに人を巻き込むが、その自覚がないのが困ったものだと思う。

 だが、その答えは決して悪意のあるものではなく、むしろ自分を置き去りにして他人のことを思って空回っているのがわかるだけに、微笑ましく思うのだ。


 しかし、なぜか俺に対しては、悪い方向に思考を進めやすいようだ。確かに去年まで、婚約者のリーネに対して会いに行きもしなかったし、婚約者の役目も放置していたが、それ以外に何かをしたわけでもないのに、なぜか俺の好意を好意と思わない傾向にある。

 それが不思議だった。


 自惚れているのかもしれないが、リーネの俺への好感度は、多分高い。

 俺がリーネに会いに行くと、必ずリーネは頬を少し赤らめる。そしてたまに意味なく拝まれる。

 冗談を言うとすぐに怒るが、そのあとの笑顔は明らかに親しみが込められていると、、、思うのだが。

 

 今、またリーネは、少し何かを考えた後、急に俺を睨み出した。殺気まで含んでいて、非常に穏やかではない。

 一体、何を考えたらこうなるのかと思うが、大体、こういう時は俺の事なのだろう。殺気まで込められたのは初めてだが。


 戦いに慣れていないノクトが、リーネの殺気に当てられて青白くなっている。そして俺に小声で聞いてきた。 

【リーネ嬢、急になんで機嫌悪くなったんですか?殺気が凄いんですけど】

 これには苦笑するしかない。

【そんなこと俺が聞きたい。そもそも俺は何もリーネと挨拶以外話してないぞ。ノクトが『特別な人』とか言うから、ノクトにからかわれたと思ったんじゃないか?】

 ノクトの言葉で機嫌が悪くなったのは確かだ。理由はわからないが。

 ノクトは首を振る。

【いや、アラン殿下がリーネ嬢から顔を反らしたからでは?殿下に照れて目を反らされるより、しっかり見つめて欲しかったとか】

 リーネが俺にそんな感情があれば、もっと話は早くて苦労せずに済むのだが。

 リーネは俺に、冗談でも好意をぶつけてくることはない。俺に見つめて欲しいからと甘えてくるような女では、ーーー少なくとも今まではなかった。

【、、、、リーネがそんなタイプだとは思えないが、、、】


 俺とノクトは、リーネに視線を戻す。そして俺は口を開いた。

「、、、リーネ。何か誤解があるのでは、、、」

 リーネは更に俺を睨み付けてきた。睨んだ顔さえ可愛く見えると、もうどうしようなく感じる。

「誤解なんてものはしておりません。皇太子殿下こそ、己の欲のために誤解を招くような行動はお控えになられた方がよろしいのではなくて?」

 

 ーーー何を言っているんだろうか。

 誤解される行動を控える? 

 己の欲?

 何のことかわからない。

 だが、やはり俺の事で怒っていたらしい。


 俺の欲望とは一体。

 俺の欲望なんて、このリンドウ帝国国民が幸せに暮らすことと、リーネがもう少し俺に興味を持って欲しいと思うことくらいだ。

 それを思うことさえ、いけないと言うのか。

 俺は顔を強張らせる。

「、、、それは、俺に対する不満か?ーーー俺は誤解を招くような行動を取ったつもりはないが、、、、己の欲に忠実で何が悪い」

 すると、リーネは哀しそうな表情に変わっていった。スカイブルーの瞳が揺れ、わずかに涙が滲む。

 息を飲むように、リーネは言葉を吐き出した。

「ーーーその欲に振り回される人の気持ちを、ちゃんと考えていただきたいと言っているのです」

 

 薔薇色の唇が、その言葉を形どった。

 俺を真っ直ぐに見つめる澄んだ空色の瞳に吸い込まれて、俺は思考が緩む。


 リーネを想う心が欲望というならば、その欲に振り回されるのはリーネということだろうか。

 

 リーネが俺を悪くは思っていないことを知っている。では、リーネは本当はそれ以上の気持ちを持っていて、俺の態度に困惑しているとでもいうのか。

 俺のリーネの態度が、好意ではなくからかっているように見えて、それが誤解を招く行動だというのならば。

 それは誤解ではないと。俺はリーネが本当に好きなのだと言葉で伝えれば、理解してくれるのだろうか。


 しかし早合点せず『振り回される人の気持ち』の相手を確認する必要はある。これで別の人のことだったらまた話は変わってきてしまう。


「ーーー振り回される気持ちーーーそれはリーネのことか?」

 俺は、切実な思いでリーネに尋ねた。

 頷いて欲しかった。 

 俺が『誤解をするような行動』をとるのが辛いと。

 リーネはそんな俺を真っ直ぐ見つめて、泣くように言った。

「そうですわ。わたくしのことですの。アラン殿下には、わたくしの気持ちも理解していただきたく…」


 ーーー限界だった。


 気づけば、俺はリーネの腕を掴み、自分の腕の中に引き寄せていた。

 なんでこんな人間が存在するのかわからなかった。

 こんなに人が愛しく、こんなに胸が苦しくなることがあるなんて、今までの人生で思いもしなかった。


 周りで野次馬達の悲鳴が上がったが、俺は自分の感情が爆発するのを堪えるのが精一杯で、外野を気にすることができなかった。


 あぁ、違う。

 ぼんやりする頭の中で、リーネを抱き締めてしまっている自分を否定する。

 態度ではなく、言葉にしなければ。

『誤解を招く』ことがないように、ちゃんとリーネに言葉で伝えなければ。

 俺はリーネを腕に抱いたまま、その名を呼んだ。

「リーネ」

 リーネが身体を強張らせる。

 リーネが動くと、リーネの白銀の柔らかい髪が俺の頬をくすぐった。

 リーネの身体は、俺のそれよりずっと小さく細かった。力を入れたら壊れそうなのに、いっそ壊してしまいたいほど気持ちが溢れて頭が回らない。言葉にしなければいけないと思うのに、うまく言葉が出ず、今にもリーネが逃げてしまいそうだった。

「ーーーアラン殿…」

 困惑した声で名前を呼ばれて、俺はそれを掻き消すようにもう一度、リーネの名を呼んだ。逃げないように、リーネを強く抱き締めて。

「リーネ」

 ちゃんと俺に言わせて欲しかった。

 しかし、リーネは俺の手を無理やり解いて離れた。息を切らすように、これ以上ないほど真っ赤な顔をして。

「ーーー何をなさいますのっ?」

 声を掠らせ、リーネは自分の両耳を手で塞いでいる。


 もうダメだ。

 可愛すぎて俺が死ぬ。それなのに、リーネから目を反らせなかった。俺の身体の細胞1つ1つがリーネを欲しているようだ。

「、、、リーネ」

 思考回路さえ切断されたかのようになっていた俺だったが、周りがまたざわつきだしたので、少しだけ意識が戻ってきた。

 俺は自分の金色の髪を掴み、ため息を吐き出した。

 こんな人が沢山いるところで告白したら、リーネのことだ、またきっとすごく怒るのだろう。


「ーーーあぁ、こんなところではダメだな。、、、リーネ、こっちへ」

 俺はまたリーネの手を掴み、会場の外へと連れ出そうと歩き出した。ちゃんと、静かな場所で、リーネに誠意を持って伝えよう。誤解を招くなどと言われないように。

 リーネが俺の愛を信じてくれるまで、何度でも伝えようとーーー。


 そんな事を考えながら、会場の真ん中にあるプレゼントボックスの横を通った時に、リーネが叫んだ。

「ーーっきぁっ」

 ビックリしたというリーネの声に俺は振り返る。

「どうした?」

「プレゼントボックスの中が急に光って、、、」

 俺はプレゼントボックスを見るが、特に光っていなかった。ボックスの中でプレゼントの箱が数多く浮いているだけだ。

 

「箱の中に光るものが入っているだけじゃないのか」

 プレゼントの箱には、何が入っているのか全くわからない。物でもあれば、魔法でもあり、才能である可能性もある。光るものが入っていても全く不思議ではない。


「そうかしら。でも眩しすぎて」

 そんなに強く光ったなら、さすがに俺でも気づいただろうに。


 リーネはどうしても気になるようで、まだプレゼントボックスに入る時間ではないのに、ボックスの中に顔を覗き込んだ。


 しまった、と俺は焦った。

 プレゼントボックスには、儀式のようなものが必要だと聞いた。3回の催し物。3曲のダンス。そして3曲の歌をその会場で行わなければならない。何故それが必要かはわからないが、そうやるように伝えられている。

 儀式を破れば『良くないこと』があるかもしれないと。

 

 リーネだけ危険に曝すわけにはいかなかった。すぐに俺もそのボックスを覗き込む。ケリー先生が、慌てて俺達に警告した。

「あ。ダメですよ。プレゼントは1人1つであって、一緒に入るのは禁止されていまして」

 そんなことは知っている。だが、ちゃんとした儀式を経過していない以上、今更だった。

 リーネだけに何か起こってからでは遅い。

 するとリーネと俺から、赤いコアのようなものが飛び出していった。それらは1つになり、グルグルと宙を回っては形を変えていく。


 俺はリーネに何かあってもすぐに対応できるように、リーネを掴んだ手を絶対に離さなかった。リーネはずっと握られていることを途中で気づいて恥ずかしくなったようで、その手を放すようにお願いしてくるが、俺はそれを無視した。

 リーネの手を離したくなかったというのも勿論あるが。

 

 何分経っただろうか。

 その赤いものは、ずっと動き形を変え続けていた。

 案の定、俺とリーネ以外にその赤いものは見えていないようだった。

 そもそもプレゼントは、浮いている箱の中に入っているものだ。その人がボックスに入るとプレゼントの箱を1人1つとって、プレゼントボックスの外に出てから開ける。

 箱にも入っていない、赤いコアのようなものが飛び出すなんてことは、聞いたことがなかった。

 これは儀式を経過しなかったからなのか、2人以上で入ってしまったからなのかはわからない。

 ただ通常のことではないことは、間違いなかった。


 俺の嫌な勘は当たる。

 その俺の勘が、絶対に『それ』から目を離すなと言っていた。 

 赤いものは、ようやく動きを止めた。

 そしてその形は、透明な球体になっていた。

 浮いていたはずのそれは、『ゴトッ』と音を立てて地面に落ちる。割れそうな音だったが割れてはいなかった。


 リーネが俺に視線を送ってきた。

 どうするべきかと聞いているようだ。

 リーネのことだ、放っておけば、自分からその球体のところに行って調べるだろう。

 危険が伴うかもしれないのだから、行くならリーネではなく俺だと思った。俺はリーネの手を離し、俺1人でボックスの中に入っていく。

「アラン殿下っ」

 リーネが俺を止める声が聞こえた。俺はしかし足を止めず、球体に近寄った。


 球体の中が、ぼんやりと渦を巻くように動き出した。その動きは映像となり、球体の中に1人の男が見えた。

 

 暗いが、質素な部屋の雰囲気は見覚えがあった。

 ベッドの頭もとに置いた燭台は、黄金で造られていて、わが代々リンドウ帝国王室に置かれているものだ。


 俺のよく知る顔の男は長い顎髭を生やしており、髪とともにその色は金。平凡な顔立ちだが、母親似の俺とも共通するものがないわけではなかった。 

 男は自分の手を眺めながら、不安げに顔を歪めている。

「、、、ここは一体、どこだ。これは誰ーー。なぜ俺がこんなところに、、、」

 男は部屋で暴れだした。その王室の貴重な品物が何かも気にせず。父がーーー皇帝が大切にしていた物でさえ、我知らぬ顔で足蹴にした。


 ーーーーーあぁ。


 ようやく理解した。

 

 俺の立皇太子を祝ってくれていた父親が、突然変わってしまった理由。

 あまりに性格が変わりすぎて、人が入れ替わったのではないかと揶揄していたが。

  

 ーーーまさか本当に入れ替わっていたとは。


 とても信じられないことだが、これは偽りではないことはわかった。

 すとんと胸に何かが落ちて、しっくりときたのだ。

 何かの魔法だろうか。

 あるいはーーー呪いだろうか。

「ーーー父上ーーー」

 俺は呟き、その声は消えていった。


 ーーー今、本当の父親はどこにいるのだろうか。

 


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