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悪役令嬢、ミレイン地方に行く

 そこは暗い場所だった。


 聞こえるのは、波打ち際に寄せる波の音だけ。

 一歩先に足を出せば、もしかしたら崖から海にダイブしてしまうかもしれない。

 海辺なだけに潮風も強く、白鎧を着けていても身体がベタついて気持ちが悪かった。

「ちょっとマイリントア。本当にここでいいわけ。こんなに暗くっちゃ、何も見えないわ」

 マイリントアを肩に乗せ、夜目が利くマイリントアに案内してもらっているが、細かいところは教えてくれず、よく足を躓かせてしまう。


「たわけ。そなたがバレない方がいいって言ったんじゃろが」

「ーーーそうだけども」

 こんなところに来るとも、夜に来るとも、夜がこんなに見えないとも聞かなかった。こんな時に生活魔法でライトが使えたらどんなにいいかと思う。


 相変わらず私は魔法は殆ど使えず、マイリントアも口から出る衝撃波はかなり強力だが、最低でも半径数メートルは全てが塵と化してしまうので、使い道は殆どない。マイリントアの他の魔法は未知数だ。基本はマイリントアが触れている人の魔力を使うが、魔力のない私では力になれそうになかった。


 ことの発端は、マイリントアが『行きたい場所がある』と言ったことだった。

 秋も深まり、紅葉も見頃になった時期。

 空気は冷たく、温かい格好へと衣替えも終わった。

 学園の文化祭もあっという間に終わって、次のクリスマスに似た教会の祭りまで何もイベントはない。

 スミレがいないから学園祭も、特にトラブルもなく終わってしまった。

 本来なら、悪役令嬢であるリーネが、主役である聖女の劇の舞台を壊すはずなのだけど、聖女のスミレがそもそもいないのでトラブルが起こるはずもなかった。

 後夜祭では形式上、婚約者と始めに踊るようになっており、アラン皇子が私をダンスに誘ってきたけど、一曲だけ踊ってから解散した。アラン皇子と踊りたい女性がそのあと殺到したからだ。

 本当は、今年卒業のジルお兄様と踊りたかったのに、ジルお兄様も学園での人気は半端ない。トラブル回避のためにジルお兄様は後夜祭にでなかったので、ゲームにあったはずのイベントは、本当に何もなく終了したのだった。

 

 そして冬の足音が近づいていた。


 竜神であるリュージュは、『竜は寒さに弱いから家から離れられない』と言い出し、公爵邸の一番大きい暖炉の前を一匹で陣取っている。

 たまにジルお兄様がその部屋にきて、暖炉の前にある大きなソファーでくつろぐから、ジルお兄様の横で丸まっている姿を見ることが増えた。


 世間では、反帝国派の活動が活発になっているようだった。特にレジスタンス『ピュアカルマ』は、破竹の勢いで、名を広めている。

 『ピュアカルマ』は義軍であり、税を着服したり、領民に酷い行いをする貴族に対して粛清を行っているとし、『ピュアカルマ』を庇う国民も増えてきたという。


 多少不正をした貴族は限りなくいて、その貴族達は躍起になって『ピュアカルマ』の取り締まりを行っている。もうすぐ冬だというのに、王都は少しも落ち着きそうになかった。


 そのため外は危険だからと学園以外はまた監禁状態となり、私は暇をもて余していた。


 そんな中でのマイリントアの「行きたい場所がある」だったから、私が「目立たない時間帯ならいいんじゃない」と言ったばかりに、こんなことになった。


 断崖絶壁の海辺。

 こんな場所にくるとは、全く想像もしていなかった。


「、、、ちょっと、マイリントア。やっぱり今日は帰ろうよ。こんな暗くちゃ何も見えないし、もう海は冷たいじゃない。落ちたら風邪引くし、そもそも鎧着けているから、落ちたら多分、沈んで死んでしまうと思うのよね。ほら、マイリントアは私がテイムした形になってるんでしょ?私が死んだら、マイリントアも死んだりするんじゃないの?」

 私が肩の上のマイリントアに訴えると、マイリントアはホッホッと笑った。

「心配せんでも大丈夫じゃよ。前も言ったが、テイムはあくまで主人が生きている時限定のもので、主人が死んだら解放される。まぁ、テイムされている間は主人を危害を加えることはできんから、ワレがリーネを殺すことはないがの」

 

 ーーー別にマイリントアを心配してたわけじゃないけどね。


「ふぅん。じゃあ、私が死んだらマイリントアはどうするの?またダンジョンに戻る?」

「さぁて。どうじゃろの。元の身体に戻れば身体が大きすぎて人間界を楽しむことはできんから、人間界から離れるじゃろうが、もしこのままの身体なら、全世界を放浪するってのも面白いかもしれんのぉ」

「あれ?もしかしてマイリントア、その小さい身体を気に入っちゃった?前はあんなに文句言って戻りたがってたのに」

 私がマイリントアにニヤニヤしながら言うと、マイリントアは少し拗ねて、プイと横を向いた。

「ーーーワレは環境適応能力がありすぎるからのぅ。この弱すぎる身体は今でも断じて許せんが、大きさ自体は別にどちらでも構わんわい。ーーーじゃが、この弱すぎる身体は断じて許せんからなっ!」

 

 大事な事なので2回言いましたね、今。


「はいはい。早く私の魔力を増やせっていうことでしょ。吸収の魔法が出せる頻度は高くなってきたんだけど、なかなか威力はあがらないのよね」

「まぁ魔法は使っておけばレベルが上がりやすい。これからも精進して邁進せいよ」


 練習したくても、黒い玉はそこら一帯を吸収してしまうので、使える場所が限定させる。練習したくてもできないというのも理由の1つにある。

「はいはい」

と、とりあえず口だけは素直に答えておく。

「返事は『はい』じゃろ!」

「…はぁーい」


 ザザァンと波の音だけが響いていた。

 マイリントアが引き返すつもりはなさそうだったので足元に注意しながらゆっくり進んでいく。

「ーーー海があるってことは、西のミレイン地方ってことでしょ。リンドウ帝国に海はそこしかないものね。こんなところ、何しにきたの?」

 マイリントアは、おや、と呟く。

「言ってなかったかの?殺人があったんじゃよ。この付近で、数ヶ月前に殺人があったんじゃ」

「ーーー殺人!?」

 今度こそ足が止まる。

 こんな時間に殺人があった場所に行って、何をするというのか。


「ノクトに調べてもらったところ、死んだのはこの近くに住む村長だったらしい。人の良い村長だったようで、村人達は皆、泣いて悲しんだらしくてなぁ」

「ーーーそれは確かに残念だけど…それが一体、どうしたと言うの」

 ちらりとマイリントアは私を睨む。

「思ったより冷たいやつじゃのぉ。そんな村長を失くした村人の悲しみも理解してやらんとは」

 マイリントアは私の肩の上で泣き真似をしてみせる。

 私は手探りでマイリントアの髭を引っ張った。

「いたたたた」

「ーーーで?どうしたの」

「冷たい上に暴力的とは鬼じゃの。ーーーそれでな、その村長の死を不審に思った村人の1人が、アラン皇子に真相解明の手紙を送ったようじゃ」

「なんでアラン皇子に」

「こっちの権力者に訴えても、相手してもらえんかったんじゃろの。だから神に祈るように、皇太子に願いを込めたんじゃろうて」


 なるほど。しかしアラン皇子も、そんな手紙まで確認していたら、それこそ仕事量が増えてきりがないだろうに。根が真面目なのよね。

 

「ーーーで。マイリントアは、その犯人を探したいの?」

「ホッホッ。そんなわけあるまい。誰が死のうがワレには関係ないぞよ」

 私は唖然とする。

「関係ないって。さっきまで私を冷たいだ鬼だ言ってたくせに、、、っ」

「ホッホッホッホッ。ほれ、これを見よ」

 マイリントアは何かを私に差し出す。ーーー全く見えない。

「これを見よって、ここじゃ見えないわ」

「仕方ないのぉ」

 マイリントアが手を出すと、ぼんやりマイリントアの手が光って、辺りが見えるようになった。

 私は盛大に驚く。

「生活魔法『ライト』じゃないっ!マイリントア、使えたの?」

「そなたがのんびり学園に行ってる間、ワレは毎日修行しておるのよ。いつまでも昔のワレと思ってもらったら困るのぉ」

「絶対、あちこち渡り歩いて食っちゃ寝してるだけでしょ。でもライト使えるなら、何で今まで使ってくれなかったの?そしたらこんな辛い思いしなくて済んだのに」


 私が言うと、マイリントアは少し黙って、ぼそりと呟いた。

「ーーー落ちたら面白かったのにのぅ、、、」

 テイムされた魔物は主人を殺せないが、事故などで主人が死んだ場合は別らしく、その際は魔物はテイムから解放される。

 私はマイリントアの頬を強くつねった。

「私が落ちたら死んでもあの世に道連れにしてやるからね」

「冗談じゃろ。ワレの主人は怖いのぉ」


 マイリントアの手によって見えるようになったものは、1枚の写真だった。

「ーーー写真、、、?でもこの世界に写真なんて、、、」

「写真とは何じゃ?これは念写じゃよ。思い浮かべて、紙にその映像を移す魔法の一種じゃ」

「念写。ーーそうか、ーーそうよね」

 この世界にカメラがあるはずがない。


 念写による写真は、教会と、その横に畑が広がっているだけだった。

「ーーーで?これが何なの」

「せっかちじゃのぉ。ーーほれ、これは念写じゃと言うたじゃろ。念写には色々種類があっての。その場の映像をただそのまま映すタイプと、魔法によって改造が利くタイプと、ーーーあとは、知らずのうちに色んな情報が入ってしまうタイプじゃ」

「これは、、、何もないから、そのまま映像として映すタイプよね」

 私はその写真を透かせてみる。透かしても何も出てこなかった。

 マイリントアはくつくつと笑う。

「そんなことをしても出てこんよ。これは魔法じゃからな。そうではなく、とある魔法を解除するんじゃ」

 マイリントアが写真の上に手をかざす。

 すると、何もなかった畑の上に1人の老人が倒れている映像が浮かび上がった。


「あっ!」

「これが村長じゃな。この念写をした人物は、その村長が殺された状況をそのままアラン皇子に送ったら、途中でこの手紙を奪われて隠されるのを恐れたのじゃろ。この解除の魔法を使える人は少ない。ーーーそれこそ、王家直属の魔術師か、魔術師の塔の人間か。ーーアラン皇子がこの写真に違和感をもってもらうことを期待しておったのじゃろ」

「なるほどね。じゃあこれは、そのままの写真を念写したと見せかけた、改造の念写というわけね」


 ふ、とマイリントアは怪しく笑った。


「ーーーと思うじゃろ?実はこれは、そうでもなくてな。多分、この念写した人間は、自分の本来の能力を理解しておらんな。この改造した念写の写真を更に『調律』という魔法で調整するーーーするとな」

 マイリントアが、写真の上にもう一度手をかざした。すると、今度は写真の映像が歪むようにして動き始めた。沢山の虫が這うようで気持ちが悪い。


 少しすると、映像が落ち着いた。

 見ると、畑の上に倒れた人間が、村長1人だけだったはずなのに、今の写真には山のように人が倒れている。

倒れた人の顔色やその肢体を見るに、全員、死んでいるようだった。

 私はあまりの衝撃映像に、自分の口を隠した。

「ーーーなんてこと、、、、、」


「これは、念写した人間も、実際は見えてなかったじゃろう。しかしこの死体達が、隠されてその場の畑に倒れていたのか、それとも過去にあったものか、あるいは未来の映像か。そればかりはこの念写からはわからん。だからこそ気になってのぉ」

「ーーー確かにね。この写真は放置したらダメなやつだわ。過去の話だったとしても、この死体の数は異常すぎる」

「ワレが思うに過去ではないな。現在、幻覚魔法で隠されたものか、近々未来に起こるものじゃろう。今の『調律』での映像の動き方が、過去を映しただけにしては、複雑な動きをしておった。術者と違う他者の隠蔽という魔法が入ったからか、未来という予知的なものを含むからこそ、動きが複雑化したのじゃろ」


「未来のことなら特に、早く行かなきゃじゃない。ほら、のんびりしてないで、さっさと行くよ、マイリントア」

 私が促すと、マイリントアは呆れたように呟いた。

「ーーーほんと、せっかちじゃのぅ。困った主じゃ」


 波の音は鳴り続いていた。


※※※※※※※※※※※※※※※※


 教会は、海から少し離れたところにあった。

 潮が近いからか、教会の壁は随分と腐食しており、教会の敷地内には雑草が至るところに生えていた。

 教会を囲む柵もところどころ折れていて、まるで廃墟のようだ。

 しかし、教会の玄関には小さな灯りがついているから、まだ教会としては成り立っているのだろう。

 耳を澄ますと讃美歌が聞こえる。

 もう夜も更けたというのに、まだ歌っているのかと少し意外に思った。


 私は教会の隣の畑に視線を移した。


 私はどうやら隠蔽の魔法は効かない体質らしい。

 この前のリュージュの場合は、伝説級のマイリントアと同等の魔力を持つ竜神が張った結界だったからこそ、私だけでなく魔術師の権威であるケリー先生さえも結界に気づかなかったが、普通の隠蔽魔法程度なら、隠されていることさえ気付かないようだ。ちなみにさっきの写真が視れなかったのは、そもそも私の魔力が少なく、間接的だからこそ視れなかったのだという。


 つまり、直接的には隠してもそれに気付いてしまうということ。もし大量の死体が隠されていた場合、私は直接、コノ目でその死体の山を見てしまうのだ。


 私は恐る恐る、畑を見た。


 ーーーー死体は、ーーーどこにも見えなかった。


 私は確認のためにマイリントアに聞いた。

「マイリントア。ないよね?死体、どこにも、ないよね?」

 私の声に、マイリントアはふぅむと唸る。

「確かにないのぉ。ということは、未来で起こることということかの。しかし、そうなってくると少し困るな。今日から毎日ここにくるわけにもいかんしのぉ」

「じゃあ、お父様に頼んで、警備を雇ってここに置いてもらえばいいんじゃない?」


 私の言葉に、マイリントアは「甘いのぅ」と言う。

「他の領主の手がついた監視を、ここのミレイン地方の領主、、、カナドル伯爵じゃったかの。そのカナドルという男が許すとは思えんがの」

「ーーーそうかなぁ」

 ホッホッとマイリントアが笑う。

「グランドロス公爵は表も広いが裏の顔も広い。もし敵に回したら生きていけんからな。余計な詮索はさせんじゃろ。まぁ本気で公爵が乗り込んだ場合は別じゃろうが、そうなるにはリーネ本人がここに来たことを話すしかなくなるからのぉ」


 お父様に私がここに来たことを話す?

 ーーーとんでもない。

 娘の安全を優先して、娘の青春さえも潰す勢いで家に監禁させた父親だ。こんな夜遅くに外出なんてバレようものなら、家で手錠をつけられてもおかしくない。

「ーーーやめておくわ」

「ホッホッ。それが賢明じゃろな。さて、違う道を探すか」

 マイリントアは、私に違う場所へ行くように促す。

「他に何か方法があるの?」

「まぁーーーー、、、たまたまーーーな」

 何かマイリントアにしては歯切れの悪い返事だった。

「たまたま?ーーーどういうこと?」

 マイリントアは私の肩から地面に飛び降り、てててと走っていく。

「ーーーとりあえずワレについてこい。急がんと、暗くなって迷子になるぞ」

 マイリントアが走るから明かりがなくなり、すでに私の足元は真っ暗になっていた。

「ちょっと待って。ーーーマイリントア!もう、待ってってばーーっ」

 私は慌ててマイリントアを追いかけた。


 海辺の教会から数キロ先。

 

 少し離れただけなのに、小屋の数が急に増え出した。

 漁師の集い場だろうか。

 網や大きな浮きなどが地面に散らばっている。

 テントのような簡易的な屋根付きの小屋が並び、その中に空のケースが積み重なって置いてあった。


 夜だからか、その中には誰もいない。


 マイリントアは、小屋の下に走っていった。

「ーーちょっと、もう、マイリントア。こんなところに行ったら危ないじゃない」

【しぃ。静かに。リーネ、こっちじゃ】

 ひょこっと空のケースの後ろから顔を出したマイリントアを見つけて、私はそっちにゆっくり近寄った。

【ーーーどうしたの?】

 マイリントアに言われるまま、私も小声で話す。

【まぁ見てろ。何か起こるぞ】

【?】

 ケースの後ろに隠れて、私はしばらく待つ。


 パタパタ、と小さな足音が聞こえ出した。

「おら、こっちだ」

 柄の悪い男の声が小屋に響く。

「ーーーんだってんだよ。俺が何したっていうんだ」

「うるせぇ。何したかなんて、お前自身が一番わかってるだろうが」

「はぁ?全然わかんねぇよ。人間違えでこんなことして、旦那が知ったらお前ら、ただじゃ済まねぇからな」

「ーーーはっ。どうただじゃ済まねぇのか、教えてもらいてぇな。いいから、こっちに来いっつってんだよ」

 ガツッと何かを打ち付ける事が響く。

 同時に男の叫び声が聞こえた。

「って、てめぇ、、、っ。こ、こんなことして、、、」

「てめぇなんて死んでも誰も悲しまねぇよ。むしろ喜ぶ人が沢山いるんじゃねぇか?」

 ガツッ。

 もう一度鈍い音が聞こえた。

 私は聞いていて顔をしかめる。


 ーーー止めた方がいいだろうか。

 いや、でも聞く限りどっちも同じタイプに感じる。どちらかを助けたら、反対にもう1人が同じ行動を取りかねない。


「いいから、さっさと白状しろってんだよ。アレをどこに隠した?」

「、、、アレって何だよ。俺には全くわからねぇな」

 笑った男が、嘘をついていることだけは私にもわかった。

 瞬間、もう一度、ガツッと音が鈍く響いた。

「、、、おい、もう止めろよ。そいつ死んでしまうぞ」

 他の男の声が聞こえた。

「いいんだよ。こんなやつ、死んでしまった方が」

「そういうわけにもいかんだろ。少し落ち着け」

「ーーー落ち着いてられっかよ。アレを持っていかれたんだぞ。アレがないと」

 男達が揉めている。

 私が出るか出ないか迷っていると、私の後ろから、ガサリと音がした。


 しまった。


「ここに誰かいるぞ」

 黒い服を着た男から、ぐいっと腕を引かれた。

 男は力が強く、少し抵抗したくらいでは振りほどけない。

 私はそれを無理やり振りほどこうとして、身体をぐるんと回した。するとその男の身体ごと回って、そこらの小屋が全部倒れた。

 ガッシャシャン、、、ッ。

 静かな場所に、轟音が響く。

「あっ」 

 私はその場から逃げ出した。


 捕まったらなにをさせるかわかったものではなかった。私は足の速さにそこそこ自信があったが、追いかけてくる男も速い。


「おいっ」

 また腕を捕まれる。私は渾身の力を込めて、その男の顔面に拳を突き立てた。

「ぐふぉっ」

 殴ってから気付く。


 ーーー今のは聞いたことのある声だった気がした。

 そろりと私は殴って横に倒れている男を上から眺める。

「、、、、リネ、、、、」

 顔を押さえて鼻から血を流している男は。

「、、、ベック」

 

 熊のような男。ベックだった。

 

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