悪役令嬢、ケリー先生と山登りをする
カナタイドから戻ってすぐ、ダイナ1から出ることができるようになったドワーフ達は、スタジアムの建設に着手した。
アラン皇子は、ドワーフのザンドウと共にスタジアムに掛かりっきりとなって忙しそうだ。
残り2ヶ月と少し。スタジアムの建設となるとかなり厳しい日数になるが、ドワーフ達の体力、技術は目を見張るものがある。彼らが全員でとりかかっているのだ。これ以上最短で建てれる方法はないと信じている。あとは祈るばかり。
カナタイド辺境伯は、あれからダイナ1をどうしたかというと。
『ダイナ1は今のまでどおり。出入りは申請制とする』
とした。
実質、ダイナ1の亜人達は自由の身となった。処刑のために配置されていた見張り達は、数を減らしてただの見張りとなり、残りの人は出入りの申請をするための事務員になった。カナタイドの出入りが検問制なので、カナタイドのような形になっていくのだろうと予想される。
ただ、やはり何百年と外の世界に出ていない亜人達には、あの門からでるということが不安のようで、ダイナ1を出ないという選択をする者も多いようだ。
それは亜人達がそれぞれで選べばいいと思う。
カナタイドを裏切り、敵に魔法を使える許可を出して侵入させた男も捕らえられた。どうやら他の国から入った間者だったらしい。カナタイドは、内部管理が今後の課題かもしれない。
私はというと、アラン皇子達が戻ってきてからレイラと別れの挨拶をし、アラン皇子に転移の魔道具を貰って公爵邸に帰ってきた。
アラン皇子が辺境伯を連れていなくなり、帰ってくるまでにも色々あったが、訳のわからない怒涛の勢いで事が起きていったので、何が起こったのかあんまり把握できていない。
とりあえず侵攻してきた敵が、カナタイドの勢いに負けて逃げた。その事実だけがわかれば良いと思う。
実質3日不在にしていたけれど、ジルお兄様には、しばらく部屋に閉じ込もると言っておいたので今のところ何も動きはない。外出の理由を話しておいたカリナが、うまいこと誤魔化していてくれたに違いない。
アラン皇子に、今回の件のご褒美をもらうつもりではあるけど、スタジアムの期限が迫る今はそんな雰囲気ではないので、落ち着いてから褒美を貰おうと思っている。
ーーー私は普通の生活を取り戻した。
学園に行き、公爵邸に帰る。それだけの生活。
もう、夏も終わり。
今から秋がきて、あっという間に冬が来るのだろう。
私は学園の教室の窓から外を眺め、思いを馳せた。
現在、魔法学園1年生の夏の終わり。大魔王がくるのが2年生の冬だったはずだ。
ゲームの中で覚えているイベントは、1年生秋の文化祭と冬のクリスマス。2年生になると、それぞれの恋愛対象者との内容が多くなって、あんまりイベントらしいイベントはピックアップされていなかった。
物語としては、それぞれの恋愛対象者の闇の部分の根源を、聖女とともに赴き解決していく。彼らの故郷に行ったり、記憶の場所に戻ってみたり。
そしてはじめの頃のさわやかデートから、少し深い、大人のデートに足を踏み入れてみたり、、、。
考えて。
小さく呟いた。
「ーーーー私には全く関係ないわねぇ」
彼らの故郷も過去もデートも。
そもそも恋愛対象者すら、私には関係ないことだ。
別に私がこのゲームの物語の主役なわけではないから当たり前なのだけど、こうも暇になってしまったら、今、私ができることは何なのかと考えてしまう。
一緒に遊んでくれるロジーもいないし、このゲームの物語の要であるスミレもいないし。
ダンジョンに行って暇潰しでもしようかとか、レイラに会いに行って遊ぼうかとか、色々考えるけど、全部転移の魔道具が必要になる。
結局、金がないと何もできないのだ。
金と自由にできる立場と。
公爵家は金だけなら腐るほどあるが、お父様もお兄様も私に自由をくれない。
私は結局、誰かが私をどこかに連れていってくれないと、どこにもいけない人なんだわ、、、、。
「ーーーロジー、、、帰ってきて」
、、、、呟いてもロジーの姿は見えず。
私は諦めて、立ち上がった。
散歩でもしようと思う。
図書館、中庭、音楽室。学園には色々あるけど。
しばらく学園内を彷徨いて、すぐに飽きた。
ギルドにでも行って、冒険したりランクアップのノルマをこなした方がまだ楽しそうだ。
公爵領のギルドまでなら、なんとか走っていけなくもない。学園にいるふりをして、ギルドまで行ってみようかな、などと思っていると、職員室の前でケリー先生に会った。
「ケリー先生」
「おや、リーネさん。お散歩ですか?」
紫の長い髪を、下の方でゆるりと括っている。
背が高く肩幅があるので男性だとわかるが、髪や顔、穏やかな性格はやや女性寄りだ。
これで騎士団長でもあるのだから、信じられない。
特に最近みたカナタイド辺境伯が、『ザ・漢!』っていう人だったから、特に信じがたかった。
「ケリー先生、今日は特別講師の日ではないのでは。どうかなさったのですか?」
「あぁ、最近は毎日来てたのですよ、アラン皇子に頼まれて魅力減退の魔、、、ぐふふんっ」
いきなりケリー先生は咳払いをし出す。
風邪だろうか。
「大丈夫ですか?お仕事の無理をしすぎなのでは、、、」
「いや、大丈夫。大丈夫です。ーーとりあえず、用事があったので、毎日学園にきてここで仕事をしていたのですけどね。ようやく新しい魔法が開発できました。今度はもう個人限定。魔力消費量も前の1/3量でよく、しかも1回使用したら1週間持続!これで私が毎日こなくても大丈夫ということです。これを開発するにあたっては、、、、、、、、」
すごい熱く語ってくるけど、すみません、よくわかりません。
とりあえず微笑んでみる。
「ーーー素晴らしい魔法を開発されたということですわね。おめでとうございます」
「ありがとうございます」
ケリー先生は素直に頭を下げる。
「そういうわけで、しばらく学園に滞在するつもりだったので騎士団と魔術師の塔は副官にお願いしたのですが、どうも問題なく業務が行えているようなのです。そしてこの魔法が開発できたことで、数年なかった私の休みが取れそうで」
何事もないように穏やかに言うケリー先生だが、数年休みがないとは、どんなブラックだろうか。
「これを機に、ずっと調べたいことがあったので調べに行くつもりです」
ケリー先生は肩掛けカバンに荷物を入れているものを持ち上げてみせた。
「、、、ケリー先生も、どこか、行ってしまうんですか、、、?」
私が眉を寄せてケリー先生を見上げると、ケリー先生は笑って私の腕をポンポンと叩いた。
「来週の私の講義までには戻って来ますから、安心してください」
「、、、そう、ですか」
もう知っている人がいなくなるのは嫌だ。
ケリー先生がずっといなくなるわけではないということなので、私はほっと息を吐いた。
「ーーー今日はマイリン様はご一緒ではないのですか?」
マイリン様?
「マイリンは、私が学園で学んでいる時は、大抵どこか散歩に行っているんです。あちこち出歩いたり、餌付けしてくる人がいるみたいで」
「そうですか、それは残念です。少し伺いたいことがあったのですが、、、。そういえば聞いたところによると、辺境伯領地にあった巨大なコアを、マイリン様が操作して、自由に設定できるようにしたとか。それは本当ですか?」
確かにマイリントアは、本来、所有者しか操作できないというコアに干渉して、マイリントアも操作できるようにした。しかも、所有者でさえできないことまで操ったようだ。
コアを身体に持つ『魔物』だからだろうか。
ケリー先生はどこからその情報を得たのだろうか。この件を知り得る人は限られる。情報源は十中八九、魔術師の塔に行き来しているノクトだろうが。
というか、マイリンがマイリントアであることをケリー先生は気付いているようだ。
そこまでバレたのなら、と、私は素直に頷いた。
「ーーー本当ですわ。辺境伯領地の魔法制限を解除しただけでなく、新しくどの位置にどの魔法の効果をもたせるかなどの細かい設定もできるようで、、、ケリー先生?」
「、、、、、、ということは、新しくダンジョンでコアを探さずとも、既存しているコアでも可能ということですか、、、。そうなるとまた話は変わってきますね。それにしても場所の固定から効果の設定までできるなんて、それはまさに『マスター』の域。マイリン様だからできることなのか、それとも何か方法があってそれさえすれば人間でも可能なのか、、、、、」
ブツブツとケリー先生は自分の世界に入り込んでしまった。研究者という存在は、これだから困る。
「ケリー先生はコアの研究もしてらっしゃるのですね」
はっとケリーは我に返って、誤魔化すように笑った。
「、、、これは失礼しました。私はどうも考え込むと周りが見えなくなるようで。それでよく副官からも怒られていまして。ーーーあぁ、コアの件でしたね。そうですねぇ、魔術師の塔で管理していたコアがなくなりましたので、代わりのものを探しています。以前、マイリン様からヒントをいただいたのですが、それが何なのかまだはっきりとした確証がなく、、、。それを検証しにいきたいのです」
マイリントアのコアを活用していた魔術師の塔。
だがマイリントアが現世に出てきてしまったから、コアの効力がなくなったらしい。
「今はまだ現在帝国にある他のコアを集めることで代用していますが、いずれエネルギーが足りなくなる。あのコアは特別だったのです。魔法の使えない王都の民は、エネルギーがないと不便でしょうからね。エネルギーがなくなる前に対策を練らないと」
ケリー先生は色々と兼任して大変だろうに、その上、王都の民の生活のことまで。
本当に頭が下がる。
「素晴らしいお考えですわ。民のためにそこまで。わたくしにも何かできることが御座いましたら、遠慮なくおっしゃって下さいませ」
では、と去ろうとしたら、ケリー先生が嬉しそうに言った。
「本当ですか?それはありがたい申し出です。今から東のテテテト山脈地帯に行くつもりだったのですが、少しばかり凶暴な動物や魔物がでることで有名でしてね。かといって私の抜けた騎士団に、もう1人個人的な理由で抜けさせてくれとは言えず、魔術師の塔も同じ理由で、同行者を確保できなかったんです。リーネさんが同行していただけるなら、とても心強いですね」
目をかなり輝かせている。
「テ、テテテト山脈、、、、」
王都より遠く東側を連なるテテテト山脈。
初夏の新緑、秋の紅葉の素晴らしさは国内随一で、山脈近くの町ではその時期の観光客で収入を得ているとか。
ただ、ケリー先生の情報と認識が違うのは、山脈内部には『かなり』凶暴な動物や魔物がでるということで有名だ、ということだ。
皇后になる教育の1つに、国内の各地の特産、特徴を知るというものがある。その記憶の引き出しを開ける。
『テテテト山脈』。
ーーー観光客による収入。火山地帯であることによる温泉地。温泉卵も作られており、温泉卵を乗せた炭火焼きが一時期ブームになって、、、。
私はケリー先生を見上げた。
『ケリー・アテーノ・タランテノ』。
王宮騎士団団長。魔術師の塔の管理者であり、学園の特別講師をしている。
コトノ伯爵家の分家に当たる父によって、すでに子爵を相続しているが、それを表に出すことは殆どない。
王宮騎士団団長、魔術師の塔の管理者であることですでに子爵以上の地位を持っており、唯一無二の存在として皇帝からも覚えが良くーーーーつまり。お金持ち。
ちゃんと自分で稼いだお金で買い物ができ、かつ優しいジェントルマン。
ケリー先生と私は、教師と生徒であり、ケリー先生の依頼を引き受ける形でのボランティア。
ーーーこれは間違いなく。
温泉と温泉卵つき焼鳥を奢ってもらえるやつ!!
にっこりと私は微笑んだ。
「ーーーぜひ、同行させていただきますわ。王都の民が苦しむ姿を想像するだけで、胸が痛みますもの」
「、、、リーネさん」
感動したようにケリー先生は私の手を握る。
「ではよろしくお願いいたします。もちろん、生徒の同行ですので、グランドロス公爵邸に赴き、公爵の許可をはいただきますので」
あ。それはいけない。
あの超親バカお父様が、獰猛な魔物がいるというテテテト山脈に行くなんて許すはずがない。
「ケリー先生。お父様ではダメですわ。あの方は忙しくて最近、家にも帰っておりませんの。どうしても許可が必要というのならば、ジルお兄様などいかがでしょうか?ジルお兄様なら、ケリー先生のこともよくご存知ですし、わたくしの成長を温かく見守ってくれておりますので、許可していただけるのではないかと」
「そうですね。ではそのように致しましょう」
その後、ジルお兄様のところに向かったケリー先生が、お兄様から相当の反対を食らった上に、リーネをどうしても連れていくなら自分も行くと全ての仕事を置き去りにして立ち上がったジルお兄様を、周りの秘書達が泣きながら止めた、という話を後から聞いた。
結局、絶対にリーネを無事に帰らせるようにと重々念を押されて、ケリー先生はジルお兄様のもとを離れたらしい。
ぐったりした顔で戻ってきたケリー先生は、私に向かって、少し同情するように微笑んだ。
「リーネさん。貴女も苦労しますね、、、、」
は
苦労人ケリー先生には言われたくない言葉だった。
※※※※※※※※※※※※※※※※
私がいつものように、白鎧を装備していこうとしていたら、マイリントアから止められた。
「あそこは熱いからのぉ。鎧など着ていったら、鎧の中が蒸し風呂になるぞ。死にたくなければ普通の装備で行け」
「あれ?マイリントア、テテテト山脈行ったことあるの?ダンジョンの中しか知らないと思ってたのに」
マイリントアはムッとする。
「たわけ。いつの頃の話をしとるのじゃ。ここら辺もだいぶ散策したから、最近は範囲を広げて色々と回っておるのじゃよ」
「最近、そんなところまで行ってるの?自由すぎるんじゃないの」
「ワレの知識欲は無尽蔵じゃからなぁ。ホホホ」
結局、動きやすい服に胸当てや、すね当てなどの防具をつけた。髪が邪魔にならないようにポニーテールにする。はじめはお団子にしようとしたけど、髪が長くてうまく1つに纏まらず、結局ポニーテールで落ち着いた。
待ち合わせの場所でマイリントアとケリー先生を待ち、待ち合わせ時間より少し遅れてケリー先生が到着した。
「遅れて申し訳ありません。魔術師の塔で思わぬアクシデントがありまして」
「いえ、大丈夫ですよ。私達もさっき来たばかりですし」
まるでデートの待ち合わせのやり取りのようだ。
ケリー先生は私の肩に乗ったマイリントアに気付き、深々と頭を下げる。
「これはマイリン様。ご多忙の中、お越しいただきましてまことに感謝の気持ちが絶えず、、、」
マイリントアは、少し眉をあげて、パタパタと手を振った。
「相変わらず固い挨拶じゃのぉ。よいよい、楽にせぃ。ワレも温泉は好きじゃし、そなたが探す『もの』にも興味があるだけじゃ。そなたのためなどという気持ちは米粒もないから、そんなへりくだらんでもよい」
ぱっとケリー先生の顔が紅潮する。
「マイリン様は温泉がお好きなのですね!では帰りに最高級品質の温泉を知っていますので、そこを予約しておきましょう。そこは料理も素晴らしく、テテテト周辺の特産品を多く取り揃えておりますので、満足していただけるかと」
「ーーーほぅ、それは良さそうじゃのぉ」
ケリー先生に興味のなさそうだったマイリントアが、少し目に力を戻してケリー先生を横目に見る。
「なんじゃおぬし、つまらぬ男かと思っておったが、意外とわかっておるのぉ。よいよい。褒めてつかわす」
「ありがたき幸せ」
嬉しそうに頭を下げたケリー先生を、私は、まるでお代官様と越後屋のやり取りのようだと、冷たい視線で見ながら思った。
テテテト山脈には、ケリー先生の持ってきた転移の魔道具を使って、その中腹部まで飛んだ。
一気に目的地まで行くのかと思ったら、テテテト山脈全体が目的地なのでテテテト山脈内であればどこでも良かったらしい。
「テテテト山脈全体が目的って、どういうことですの?」
秋めいてきたとはいえ、まだ日差しは優しくない。
高い山の中のため空気は冷たく風は吹くが、しばらく歩くと汗が滴り出した。私は腕でぐいっと汗を拭う。
「少し説明した通り、私は魔術師の塔のコアの代わりになるものを探していまして。いくつか大きなエネルギーを国内各地で感じていたのですが、テテテト山脈はダンジョン以外では現国内で一番エネルギーを放っている場所なのです。テテテト山脈は火山ですので、膨大なエネルギーがマグマなどのものである可能性は高いのですが、もしコアでであれば相当のものではないかと思い、以前から気になっていたのです」
ケリー先生は私と違い、涼しげな顔をしていた。もし体力増強や疲労消費軽減の魔法をかけていたとしたら、ケリー先生ならきっと、私にも同じ魔法をかけてくれているはずだ。
騎士団で鍛えて、基礎体力の段階で私とは違うのかもしれない。
こんな優男っぽいのに不思議だわ、と私はケリー先生の横顔を見ながら思う。
「では、コアがあるかどうかを探していく作業になるということですわね」
「その通りです」
ケリー先生は口端を優しく上げた。
そして私の肩に乗るマイリントアに視線を向ける。
「ーーー祭りの時にマイリン様からいただいた、12個のいちご飴。それをずっと考えておりました」
「、、、ほぅ」
「『12』という数字に意味があるのか、それとも、素直に12個程度の巨大なコアを探せば、魔術師の塔にあったものの代わりとできるのかなど、、、、、」
ケリー先生は歩きながら、コアの可能性について述べ続ける。
「しかしコアは溶かして混ぜて増やしても、大きな1つとしての力は抽出できません。では12という数字に着目して、12の数字とコアについて関係がないか文献で調べましたが、全く手がかりさえ見つけられない」
ケリー先生は黙る。
それに対して、マイリントアも目は笑いながらも口は開かなかった。
2人の沈黙が続き、我慢できずケリー先生がマイリントアに悲しそうな顔をしてみせた。
「、、、マイリン様。せめて。っせめて、、、12という数とコアに関係があるのかどうなのか、それだけでも教えていただければ、、、っ」
ケリー先生の必死な表情。
よっっっぽど気になっているのだろう。
「ーーーケリーよ」
マイリントアが口を開いた。
「はっはいっ」
「、、、、ワレは腹が減ったぞ。肉マンが食べたい。熱々の、ホカホカジューシーのやつじゃ」
何を言い出すのか。マイリントアは急にワガママを言い出した。私は顔をしかめるが、ケリー先生は、慌ててバッグの中に手を突っ込み、何故あるのかわからない肉マンを取り出した。
その肉マンに難しい顔で魔法を唱える。唱え終わると肉マンがほんのり光り出し、湯気が出始めた。その湯気は肉マンを包む少し大きな膜のようなもので止められて、それ以上は外に逃げていかない。魔法のラップのようなものか。
「ーーーはい。どうぞ、肉マンです。最高のホカホカのジューシーであるかと、、、」
「ふむふむどれどれ」
マイリントアはケリー先生から肉マンを受け取り、一口でパクリと肉マンを食べた。
「ーーーっほぅほぅ。これはっ。ーーー確かに」
マイリントアは嬉しそうに目を細める。
「なんじゃおぬし、やるではないか。褒めてつかわす」
「ありがたき幸せ」
ーーーそのやりとり、さっき見たんだけど。
ケリー先生の大魔法。ケリー先生から魔法を使ってもらうだけで泣き出す人がいるほどありがたい魔法だというのに、、、まさか肉マンを温めるためだけに、ケリー先生が厳しい顔をして繊細な微調整の魔法を使うとか。
絶対、その魔法の使い方、間違ってると思う。
マイリントアは、私の心の声が聞こえているはずなのに気にもせず、ケリー先生にもう1つ肉マンを頼んだ。
言われるまま、ケリー先生は肉マンを用意する。
出された肉マンがいくつ目か忘れた頃、ようやくマイリントアがケリー先生に言った。
「ーーー関係あるぞ。『コア』と『12』の数は、な」
「え、、、?」
予想していた答えと、期待していた答えは違う。
調べて調べて見つけきれなかったケリー先生は、きっと、その2つに関係があるのだろうと思いながらも、関係がないかもしれないことを期待していた。
期待が外れて、では12とは何なのだという疑問に直面しなければならなくなったケリー先生は、それからしばらく、額にずっと手を添えたまま、渋い顔で山を登り続けた。
素直に全部教えてやればいいのに。
可哀想なケリー先生。
マイリントアは私の肩の上で、楽しそうにくつくつと笑っていた。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※
「それで、ケリー先生。本当にここなんですか?一番エネルギーが強そうなところって」
獰猛な動物や魔物がいるということだったのに、これまでの道のりで殆ど会わなかった。元々魔物はダンジョンでなければそんなに出現しない。しかし動物さえ会わないのは異常な気がしていた。
私達は、ケリー先生のエネルギーを感じる感覚を頼りに、山を歩き続けた。途中、マグマ溜まりの洞窟を見つけたがそこではないと言い、山と山に囲まれた、巨大なコアが沈んでいてもおかしくなさそうな湖にも、違うといった。
段々訝しく思いながらもケリー先生についていき、たどり着いた場所は、テテテト山脈、最深部の山の頂上だった。
標高6000メートル超。
周りの山も高くそびえているが、この山が一番高い。
もう周りには木らしい木も生えておらず、岩の上に苔のような短い草がほんのりある程度だった。
空は限りなく近く、山頂から覗く地上は豆粒のように小さい。
風は肌寒いというレベルでなく冷たかった。あんなにマグマのところで大量に汗を流したから、本当に鎧でなくて良かったと思ったのに、今となっては白鎧を装備すれば良かったとさえ思う。
「このようなところに何があるというのですか」
急に強い風が吹いて、私はマイリントアを支える。
標高が高すぎて、本当に何もない。見晴らしが良いのですぐに『何もない』と判断できた。
山頂の地面にコアでも埋まっているのかとも考えたが、ケリーはそれも違うと言った。
「ーーーまだ上から感じるのです」
「上ですって?」
2人で空を見上げる。
雲はむしろ足元に広がっており、上は綺麗な空だった。いや、かなり遠くーーーずっとずっと上にうっすらと雲は見えるが、ただそれだけ。
それ以外はただのどこまでも広がる青い空。
「ーーーこれ以上、上に何があると言うのですか。言っては何ですがケリー先生、そのエネルギーを測る能力、ちょっと狂ってるのでは、、、」
「そんなはずは」
また強い風が吹いた。私の肩に乗せたマイリントアの足が僅かに浮く。
「ーーー久しいなぁ」
マイリントアは呟いた。
マイリントアの口が、魔物らしく歪んで笑う。
「前はそなたがワレに挨拶に来たが、今度は逆じゃな」
更に強い風が吹いたが返事はない。
「マ、マイリントア。誰と話してるの、、、?」
マイリントアの頭がおかしくなったのかと、少し思ったりもして。
「誰の頭がおかしいか。見えないソナタ達の目が節穴なだけじゃ」
ちっ、とマイリントアは舌打ちをする。
「魔力なしのリーネでは埒が明かんな。ケリー、ちょいと魔力を貸せ」
「は、はいーーー、、、?」
マイリントアは、ぴょこんとケリー先生の肩に乗り移り、その身体に触れた。
魔術師の塔の管理者。最強の魔術師として騎士団の団長にもなるその魔力は、間違いなくこの国最強。
そのケリー先生の魔力が一気に持っていかれた。
鍛えているはずのケリー先生が、その場で膝をつく。
「ケリー先生っ!」
私がケリー先生の名を呼んでケリー先生を見ると、ケリー先生の身体が暗かった。いや、ケリー先生の身体だけでなく、その場一帯。その山1つと言ってもいいほどにーーー暗い。
太陽がなくなってしまったのかと私は不安に天を見上げる。
そこにはーーーーー天を覆うほどの巨大な魔物が、こちらを見ていた。




