悪役令嬢、牢屋に捕えられる
残酷な描写があります。苦手な方はご注意ください。
あれからどれだけの時間が経っただろうか。
何時間のようでもあり、もう何十日も経過したようにも思える時間を私はここで過ごした。
ここは暗く、冷たく、寂しい。
同じ牢屋という名前なのに、ドワーフの洞窟とは全然違って、温かみが全く感じられなかった。地面に土がないせいだろうか。あるいは、あちらは鉄格子とはいえ、奥の様子が見えていたからだろうか。
ーーー私はあれから、牢屋に連れていかされた。
即死させられると思ったが、執行猶予を与えられた状態になった。しかし、結果は変わらないと思う。
そういう場所で、それだけのことをしたのだ。
カナタイドの機密を盗み聞きするなど拷問にあってもおかしくない。それでもレイラの願いが反映したのか、拷問は一切されていない。
いざとなったら帰るための転移の魔道具が使えないと聞いた段階から、この潜入計画は破綻していたのだ。それなのに、私はなぜ潜入調査を続けてしまったのだろう。
こうなるとわかっていて、なぜマイリントアの言葉につられて守護の塔に行ってしまったんだろう。
ーーー私にもよくわからなかった。
ただ、あと1年後の婚約破棄からの処刑が、早まっだけなのかもしれないと考えると少し諦めがつくし、あの時、必死に私を庇ってくれたレイラを思うと、心が温かくなった。
自信満々に『困った時は助けてやる』と豪語したマイリントアが、カナタイド辺境伯の手の中で、何もしてくれなかったことが悔やまれるくらいで。
窓もなく、四方を壁に囲まれた部屋だった。中には全く何もない。
人が1人入る程度の扉と、その下には食事や水を提供する小穴が空いているが、その扉から人が入ってくることもなく、小穴から水や食事を提供させることもない。
ーーー孤独だった。
転移魔道具が使えず、転移どころか魔法さえ使えないこの土地では、助けも期待できないだろう。
はぁ、、、とため息を漏らした。
「ーーーお腹空いたぁ、、、喉乾いた、、、」
人は3日水分を取らないと死ぬという。特にこういう死に直面した環境下ではその消耗は著しいと。それでも生きているということは、まだそこまで時間が経過していないということなのだろうか。
外の音も、ここは一切聞こえない。
ーーーーただただ、寂しかった。
※※※※※※※※※※※※※※
あれからまた時間が経過した。
私はずっと床に横になっている。
足枷と手錠をされていて、うまく身動きもできない。
そんな時、ここにきて初めて、何か音のようなものを聞いた気がした。
私は閉じていた目を開けると、やはり人の気配を感じる。一目散に私のいる部屋まで駆けてくる音。
この走り方、つい最近、聞いた気がする。
「ーーーレイラ?」
「っリネっ!!!」
がちゃがちゃと鍵を開ける音が聞こえて、扉が勢い良く開いた。開くと同時に、レイラが顔を真っ赤にして泣いていた。
私はレイラの涙ばかり見ている気がする。
「ごめんなさい。遅くなってしまって、、、、って、リネ、どうしたの?その髪ーーーー」
言われて私も気がついた。
「あぁ、これ、、、、、、」
時間が経つと落ちる染料を使っていたのだったか、私の髪は茶色から元の白銀に戻っていた。肌を浅黒くしていた化粧も落ち、分厚いレンズの眼鏡もなくなっている。
もう、レイラの侍女をしていた頃の面影もないだろう。
盗み聞きどころか、変装して騙していた私をレイラは蔑むだろうか。
「ーーー綺麗ね」
ちょこんと、レイラは、床に転がって手足を繋がれている私の横に座り込んで、私に手を伸ばす。
「レイラ」
「ーーー実は私、気づいていたの。リネが、本当は私の侍女じゃないってこと」
「、、、え?」
レイラは泣きながら、私の髪を優しく触った。
「馬車の中では、リネに優しくされて、うちの侍女になるって聞いて、本当に嬉しかったのよ。仲良くなれると思って。ーーーでも一緒にいて、すぐわかったわ。貴女の仕草が、とても平民のものであるはずがなかった。洗練された仕草。物腰。これは侍女ではなく、理由があってどこかの貴族が我が家に入ってきただけなんだって」
ーーーバレバレかぁ、、、、。
レイラは、私の顔を覗き込んだ。
「でも、貴女の瞳がとても澄んで綺麗だったから。貴女の事が好きだったから、私の傍にいて欲しくて、私も黙っていたの。だから、私もリネと同罪なのよ」
にこりとレイラは、いつもの優しい笑顔を作ってみせた。
「ーーーレイラ」
私がレイラの名前を口にすると、レイラははっと思い出したように、慌てて私の手錠と足枷を外し始めた。
「そうだったわ。急がなきゃ。いずれここも襲われる」
「襲われる、、、?」
物騒な響きが聞こえた。
「お父様は私がすぐに貴女を解放しに行くと思ったのか、私を部屋に閉じ込めるように命令したの。そのあとすぐ、お父様は北西から更なる襲撃を受けて、戦に旅立った。それから2日よ。執事が私に屋敷から逃げるように言ってきた。北西だけでなく、北東からも攻撃を受けて、国内へ侵入されてしまったって。いずれここも襲われるって」
「ーーーえ?」
手錠と足枷を外されて身軽になった私は、ゆっくりと身体を起こした。
「だって、辺境伯はとても強いって、、、」
「強いわ。お父様は誰よりも。ーーーでも、あっちは窮鼠だったの。皇帝が侵攻している国の人達が、団結して攻め入ってきたみたい。これは一国と一国の争いじゃないわ、多数の小国と一領地の争いなんて、結果は明らかよ」
聞くだけなら、そういうことになるだろうが。
「ーーーで、でもこの領土は、コアに守られているんでしょう?許可された人しか魔法が使えなくて、使えばコアに攻撃されるはず」
「そうなの、でもそうならなかった。多分、我が軍に裏切り者がいたのよ。その人達の侵入を許可した誰かが。魔法の許可ができる人間は限られている。リネ、部外者の貴女じゃ無理なの。だから貴女は関係ない。関係ない人を巻き込むわけにはいかないわ。ーーー貴女だけでも逃げて」
懇願するように、レイラは私に言った。心からそう思ってくれているのだろう。
「レイラ。でもレイラはどうするの?」
「ーーー私はここの人間よ。そして、魔法を使うことを許可されている一般人では数少ない人間。父は私に逃げるように言ったようだけど、私もここで戦う。大好きな土地だもの」
「、、、、レイラ、、、、」
カナタイド辺境伯領土が侵略される。
それはすぐに電報で伝えられ、援軍が各地より来るだろう。だが、カナタイドは遠い。そしてコアに守られていることが仇となるだろう。転移魔法が使えず、領土内で魔法も使えない。
絶望的だ。
私は唇をぎゅっと噛んだ。
こんなにも身を呈して私を助け出しにきてくれた人を放って、1人で帰れるはずがない。
「レイラ。私も戦うわーーー貴女と一緒に」
その時、扉の向こうからテケテケと小動物が入ってきた。
「ーーー良い覚悟じゃな。その言葉が聞きたかったのじゃよ。ではワレも協力するとしようか」
私はその声の主を睨み付ける。
「マイリントア!あなた、、、っ」
マイリントアは、さすがに悪びれた様子で頭を悄気させている。
「仕方なかろう。ここでは魔法を使ったら、同じ魔力で攻撃になって跳ね返ってくるのじゃ。ワレには何もできんかった」
マイリントアは少し悲しそうだった。
まぁ、それもそうか。
「でも魔法しか使えないマイリントアが、どうやって協力するっていうの」
私が聞くと、マイリントアは、今度こそ元通りの尊大な態度で口を開いた。
「ふ。そなたはほんと、勘が鈍いのぉ。ーーーコアじゃよ。ワレがあのコアに刻み込まれた情報を操作してみようかと思っての。代々の辺境伯は、頭がガチガチじゃったようじゃの。随分細かい設定がされていそうじゃから時間はかかるかもしれんが、、、やるだけやってみよう」
コアの情報操作。
レイラは呆然としてみせる。
「ーーーそんなこと、、、できるの?」
マイリントアは、ホッホッと笑う。
「本来は、所有者しかできんがの。つまり代々の辺境伯じゃ。一昨日、レイラ。そなたにも所有権が共有された。じゃから、そなたでも変更させられるぞ?やってみるか?」
聞いてレイラは首を振る。
「やり方が全くわからないわ」
「そうじゃろのぉ。一緒に教えてやってもいいがーーー今は一刻を争う必要があるからな」
そうマイリントアが言った時。バン、と扉が大きく開いた。
高齢の執事が、元々白い髪を更に白くして、牢屋の中に駆け込んできた。
「レイラ様。すぐそこに敵がっ!」
レイラは見てわかるほど顔を青くする。
私はそれを横目で見ながら、立ち上がった。
「ーーーレイラ。貴女は私が守る」
「リネ?」
私は執事に目を合わす。
「ーーー執事さん。剣はあるかしら」
言われて執事はびくりと身体を強張らせた。
「は、は、はい、、、?こ、こちらのお方は何処のお嬢様で、、、」
混乱している執事に、私はもう一度、強く言った。
「剣は何処?時間がないの、早く言いなさいっ!」
「奥の武器庫にっ!!!」
弾くように返事が返ってきて、私は目を細める。
「ありがとう。ご苦労様」
瞬間、執事の顔が赤くなった気がした。
レイラは変わらず青い顔で私を見上げている。
私はレイラに手を伸ばした。
「立って。行きましょう。そのためにここまで来てくれたんでしょう?」
レイラは、ゆっくりと私の手を握った。
牢屋の個室から出ると、一気に音が溢れてきた。
剣で打ち合う音、叫び声。何かが崩れる音。
とても騒がしい。
さっきまでいた部屋は、感覚を与えないことで神経を失わせていく、一種の拷問部屋に近い部屋なのかもしれなかった。
「ーーー賑やかね」
こんな状況なのに、笑いが込み上げる。
死を覚悟していたのに、こうやって外に出られた。戦闘でやはり死ぬかもしれないが、あんな孤独な部屋で死ぬより何倍もマシだった。
武器庫の鍵を開けて貰うと、様々な武器が揃っていた。さすが国境近くに位置する領土の武器庫。
公爵と肩を並べる辺境伯の牢屋だ。
強そうな武器は沢山あるが、それでも私は普段と同じタイプの剣を選んだ。
「このタイプの剣が、一番私に合ってる」
「リネっ!来たわっ」
見張りをしてもらっていたレイラが叫ぶ。途端、牢屋入り口の扉が開いて、中に敵が押し入ってきた。
レイラは悲鳴をあげる。
私は乾いた唇を嘗めた。
「ーーー任せてっ」
私は駆ける。その勢いで剣を横に一振りした。
スパンとレイラに襲いかかろうとした人が斬れる。
アラン皇子から貰った剣ほどではないけど、なかなか悪くない剣だった。
近くにいたレイラは、その男の血しぶきを受ける。
しかしそれさえ気づかないほど目を丸くして、私を凝視していた。口がぽかんと開いている。
レイラは戦闘に慣れていないのだろう。
人が死ぬのを初めて見たのかもしれない。
ーーー実は私も人を斬るのは初めてだ。
だけど。記憶には残っている。
『リーネ』が、少なくない数の人を殺してきた記憶。勿論この手でそれを行った。『リーネ』はそれを、とても楽しそうに笑っていた。
牢屋の建物の中に、次々に人が入り込んでくる。それを片っ端から斬り倒していった。
モンスターと違う。これは対『人』だ。
楽しいはずがない。
ーーーなのに。
胸の高鳴りが、尋常ではなかった。
「さぁ来なさい。次は誰?死にたい人から相手してあげるわ」
私が剣を掲げると、大の男達が自然と後退りした。距離を開けないように、私がその分、前に出る。
私に勝てないと思ったのか、逃げ出した男達を追いかけて牢屋の建物から外に出ると、すでにそこは戦場となっていた。
燃え上がる火の海。倒れた人。傷ついて足を引きずる兵士。泣き叫ぶ声。
埃っぽくて、ひどく臭い。人を焼いた独特の臭いだ。
「、、、酷い、、、、」
私について出てきたレイラも、顔を覆って呟いた。
つい数日前まで、あまりに平和だった辺境伯領地が、まさかこんなことになるなんて。
くらりと眩暈がした。
流石に2日飲まず食わずで暴れると、身体への負担が半端ないのだろう。
しかしそれでも、外に出ると新たな敵が襲いかかってくる。女子供容赦なく、剣を振り上げて斬りかかってくる。まるで私達を人間と思っていないかのように。
ーーーでは私も、この人達を人間とは思うまい。
「レイラ。私達も守護の塔に行くわよ。すでにマイリントアは守護の塔に向かっているわ」
私はレイラと執事の前に立ち、目の前にいる敵を1人残らず、斬りつけていった。
公爵領のダンジョンでは、ずっとしていたことだ。何千というモンスターが私を襲い、それを斬ってきた。モンスターが人という魔物に変わっただけだ。
悪霊退治では、死んでいるとはいえ、やはり人間の形をしたものを沢山斬った。それが、死んでいなかっただけの違いだ。
激しく斬り続ける私の後ろで、レイラはもう、声も出さない。
横にいる執事が、呆気にとられながらもポツリと呟いた。
「ーーーー戦いの女神、、、、、」
※※※※※※※※※※※※※※※※
守護の塔付近も、敵が溢れていた。
辺境伯側はどうなったのだろう。もう戦死されたのだろうか。辺境伯に何かあれば、レイラは悲しむ。
レイラを泣かせたくないのだけれど。
私は私に向かう剣を折り、飛んでくる矢を叩き落とし、目の前に見える全ての敵を斬っていく。
脱水と拘束されたことでの疲弊は、思った以上に身体を蝕んでいた。
まだ数時間も戦っていないというのに、目が掠れ、手足がしびれ出している。剣がやけに重い。それでも私は剣を振り続けた。
守護の塔の周りに敵の死体の人垣ができだした頃、辺境伯側の兵士が増え始めた。
辺境伯側の兵士は、最初は私の姿を警戒していたが、後ろにレイラがいることで徐々に態度を変え、私の周りに集まりだした。
「レイラ様をお守りするぞ」
「カナタイドに勝利を!」
「カナタイドに祝福を!!」
「女神のご加護を」
誰ともなく声をあげ始める。
辺境伯側の勢いが増してきた時、遠くに民族衣装を着た軍団が見えた。15人ほどいる。彼らは集まり、何かをずっと唱えている。
急に。
空に大きな赤いエネルギーの玉が浮かび上がった。
魔法だ。あんな大きな。
あの民族衣装の人達は魔術師の集まりだった。
誰かがあんな人達にまで許可したのだ。この土地で魔法を使う許可を。一体誰が。
魔法は、魔法でしか相殺できない。
でも私に魔力は殆どないのにーーー。
そこで、私はレイラの存在を思い出した。マイリントアが、レイラは大きな魔力を持っていると言っていた。もしかしたら。
私がレイラの方を向くと、レイラと視線が合う。すぐにレイラは私の言いたいことを理解したのか、レイラは涙目になって大きく首を振った。
「無理よ。私はまだ修行始めたばかりだもの」
魔法を使える人は少ない。平民なら特にそうだろう。
この領地にいる魔法を使える人は、多分、今は辺境伯と共に前線に行っている。
マイリントアも、守護の塔の上でコアを操作しようとしていてすぐには降りてこれないだろう。
ここであの大きな魔法を止められる人は、もう。
空に浮かぶ赤いエネルギーの玉が更に大きくなり、民族衣装の魔術師達が両手を振り上げて落とそうとしたその瞬間。
ーーーーー閃光が走った。
鉄砲を撃つように。赤いエネルギーに向かって走り抜ける。そして赤いエネルギーとぶつかり大きく弾けた。
空には花火かと思うほどの火花が舞い、激しい風圧が私達を襲った。立っていられないほどの風に、私は身を縮める。他の人達の中には、堪えきれず風と共に飛んで他の人を巻き添えに倒れていく人もいた。
「間に合ったようだな」
聞いたことがある声だった。
心臓に悪いから困ると思っていた声だったのに。
今はただ、ひたすら嬉しい。
「ーーーアラン殿下ーーー」
あの閃光は、アラン皇子が放ったものだったのだ。
確かに15人ほどの魔術師が集まって唱えた魔法に1人で対抗できる魔力を持つ人など数えるほどしかいない。
アラン皇子は一緒に現れた黒鎧達に向けて言った。
「ここを掌握しろ。辺境伯側には手を出すな」
「はっ!」
黒鎧達が一斉に走り出す。
アラン皇子は私の方を向き直し、更に近づいてきた。
「ーーーなぜアラン殿下がここに。魔法もここでは使えないはずじゃーーーあっ」
マイリントア。コアの操作に成功したのか。
アラン皇子は私の血塗れの姿をみて、苦笑いをする。
「無茶はしないんじゃなかったのか」
「、、、、無茶などしておりません」
「そんな血にまみれた姿の令嬢がどこにいる。あとほら。これ、絶対失くしていると思ったからな。スペアを作ってきてやったぞ」
そういってアラン皇子は私の顔に手を伸ばした。
アラン皇子の形の良い手が近づいて、何かと思ったら私の目元に眼鏡がつけられた。分厚いレンズの伊達メガネ。
「今から汚れた身体を綺麗にしてやる。代わりにこれをつけておけ」
アラン皇子は生活魔法の『保清』を使って、私を戦う前の、汚れていない姿に変えた。
メガネの必要性がよくわからないけど。
「辺境伯から王家にも伝達が届いたんだ。『小国多数から攻撃を受けた。応援を要請する。各地はそれぞれ徒歩でカナタイドまで来られたし』とな。その報を聞いて肝が冷えたぞ。お前がいるとわかっているのに」
はぁ、とアラン皇子はため息をつく。
「カナタイドが魔法も魔道具も使えないとわかって計画を止めようとした時には、すでにどこかのお転婆姫は馬車も使わずカナタイドに向かったようだったしな」
皮肉を言われて、私は口を歪める。
馬車より走った方が速いんだもん。仕方ないじゃない。
不服そうにした私の頬を、アラン皇子は軽く摘まんだ。
「ーーー無事で良かった」
とても優しい声。
アラン皇子の顔は、私が使っていた伊達メガネのレンズが前のよりも分厚いせいで、よく見えなかった。私が少し眼鏡をずらしてみたら、私の横にいたレイラが真っ赤な顔をしてアラン皇子を見ていた。
そしてはっとして、顔を引き締める。レイラは、私の前にいる人物が誰であるか、急に理解したらしい。
「ま、まさか、、、アラン殿下でございますか?」
レイラの言葉に、アラン皇子はレイラに目を向ける。
「そうだが、、、あぁ、あなたは確か、カナタイド辺境伯の御息女レイラ様だったか。久しいな。数年前にパーティーで会った」
余所行きの爽やか笑顔でアラン皇子は笑った。
うわっ。すごい外面。
そういえばアラン皇子って、すっかり忘れてたけど、世間では完璧皇子って呼ばれる外面だけは滅茶苦茶良い人だった。
「は、はい。殿下におかれましては、ご健勝のこととお慶び申し上げます」
レイラは真っ赤な顔で定番の挨拶を述べる。
「はは、堅いな。もっと気楽で良い。それはそうと、なぜ辺境伯令嬢の貴女がこんなところに?」
レイラは緊張で次の句が述べられない。
私は少し口を歪めながら、レイラの代わりに言った。
「、、、レイラ様は、捕えられたわたくしを、その命をかけて助けて下さったのですわ。命の恩人ですの」
弾かれるように、レイラが私を振り返る。
「ーーーリネ?ーーー貴女ーーー、、、」
「そうか。それは俺からも礼を言おう。我が婚約者の命を救ってくれたのなら、俺にとっても貴女は恩人だ」
にっこりとアラン皇子はレイラに微笑み、レイラは私とアラン皇子を交互に見比べた。
「ーーー婚約者って、、、どういうこと?リネ、貴女は一体、、、」
混乱してきているレイラ。
私はふぅとため息をついて、改めてレイラに向き合った。姿勢を正し、余計な伊達メガネを外してレイラに握手の手を伸ばす。
「ーーー申し遅れました。わたくし、グランドロス公爵の娘、リーネ・アネット・グランドロスと申します。この度は、わたくしを窮地からお救い下さり、本当にありがとうございました。貴女の勇気を讃えます」
アラン皇子に倣って、私が余所行きの笑顔でにこりと笑うと、レイラは今度こそパニックになった顔で顔色を赤くしたり青くしたり忙しくなった。
「え?え?リネがまさかあの、グランドロス公爵の、、、?そんな、、、なんで、、、」
あまりに狼狽えて、足元をふらつかせたので、私が危ないとレイラの腰を支える。
「レイラ様。危ないですわよ」
私がレイラに近距離まで近づいた時。
私の瞳を覗き見たレイラ嬢は、疲労がピークに達したのか、急に気を失って倒れた。
「ーーーレイラ様?っレイラ様??」
私がレイラを揺するが起きそうにない。
ただ私の横で、アラン皇子が不憫そうにレイラを見ていた。




