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アランサイド~奇妙な出会い

俺の名前は、アラン・ジータ・リンドウ。

この国の第一皇子だ。


我リンドウ国の皇族には、周囲の人間に皇族の力を示すことができるギルドに16歳で登録しにいく慣わしがある。


本来は15歳から登録ができるのだが、小さい頃は死亡率も高くなるらしく、1年時期をずらして登録をすることになっている。

死亡率を気にするくらいなら、そもそもギルドなんて入らなければいいのにと思うが、そこは撤廃できないらしい。

皇族特有のプライドというやつだろう。


しかし16歳は成人の歳であり、誕生祭も大々的にとりおこなう。時期が重なると面倒なので、祖父の時代から成人の1ヶ月前の登録になった。


そういうわけでギルドに登録にきた俺は、街に入って早々、不思議なものを見る。


ニット帽を深くかぶり、ネックウォーマーをつけて、その姿に似合わぬメイドの格好をした女が馬を引いている。


そもそも女は馬には滅多に乗らない。乗っても男性と一緒か、余程のヤンチャか、だ。

身長からしてまだ大人になりきれていない少女。メイドの格好をしているだけでも違和感がある。

しかも、連れている馬が、かなり嫌そうな顔をしている。あんな顔をした馬は初めて見るというくらい苦い顔をしていて、多分、少女と気が合わないのだろう。なんであんなのを連れてきたんだ。


少女は嫌がる馬を引きずるように手綱を引きつつ、街道を歩いていく。


少女は街に来るのは初めてなのか、屋台を見た途端、不審なほどにキョロキョロしだした。

主に食べ物に視線が集中しているので、怪しい人物と思うのは早い段階で否定されたが、それにしても異様なほど興奮しているのが見てとれた。


あれほど物を欲しそうにしているのに、なぜ買わないのかと不思議に思っていると、少女は優しそうな婦人に声をかけ、その婦人が指をさしたのが換金所だった。


なるほど、お金を持っていないのか。


馬を無理やり引きずっているところをみて、もしかしたらその馬をお金に替える気かとも思ったが、換金所に入る前に馬小屋に馬を入れていたため、そうではないらしい。


馬は信頼関係あってはじめて乗馬が成り立つ。

あんなに息の合わない馬を連れて何がしたいのだろう。


換金所はギルドと併設していて、俺も同じ場所に入ることになっていたので、少女のあとをつける形になった。

決して、少女の奇行が気になって追いかけたわけではない。


しかし、引きずっていた馬を手放すと、少女の歩行の姿勢はやけに綺麗だった。歩き出してすぐに、これは平民ではないなと理解する。


よく見ると長めのメイド服の下から見える靴は、最高級の革を使ったものであり、あのデザインは今流行りの靴職人、タタトゥーのものだ。

独特の靴のラインが特徴で、見た目も良いがとにかく履き心地が他の靴と段違いだ。

軽くて走りやすくもあり、機能性まで備えている。魔法を付加しているという噂もあるくらいだ。


そんなタタトゥーの靴。

唯一の欠点は、価格が異常なほど高い。

俺も2つタタトゥーの靴を保持しているが、正直、汚れるような場所では使いたくないくらいだ。

少女はメイドの服をきて貴族であることを隠しているようだが、靴を履き替えてきていないということは、もしかしてあの靴の価値を理解していないのかもしれない。価値もわからない子供にタタトゥーの靴を履かせるなんて、とんだ親バカだ。

ポンとそんな靴を子供に渡すなんて、よっぽどの家の出だろう。それこそ候爵以上か、悪どい商売をしている男爵あたりか。


俺がそんなことを考えているうちに、少女は換金所の中にズカズカと1人で入っていく。


俺は目を疑った。


換金所前で誰かと待ち合わせをしているかと思っていたのだ。貴族でなくとも、少女1人で換金所に入るだけで、誘拐してくださいと言っているようなものだ。


換金所とギルド。

なぜ一緒になっているかというと、その2箇所には正当でない人間も沢山来るからだ。


むしろ、大半がそうであると言っていい。


換金したものをすぐに盗むもの、ギルドに商品を持ってくる前に盗むもの。

ハイエナだらけの男達が、二手に分かれて悪事をすると警備も半分にされるため、どうせ危険な場所なら一緒にして、同時に警備すればいいということで一緒の場所に設置されることになった。


だから女は基本、1人で換金所には入らない。これは換金所を利用する人が早い段階で習う、暗黙のルールだ。


そんなことも知らず、なぜここにきた。


俺は早足で少女に近寄ろうとしたが、それより早く、少女が換金所のカウンターに行き、テーブルに、いくつかの宝石を置いた。


「お嬢様に頼まれて。これをお金に替えて欲しいの」


っっっバッカものーーー。


今度こそ俺は呆れ果てた。


何を思ったか、あんなデカい宝石がゴロゴロついたアクセサリー。

あれだけでタタトゥーの靴がいくつ買える?

むしろ平民の一つ家が買えそうな金額になる代物だ。


そんなこともわからないのは、ぬくぬく甘やかされて育ったお嬢様だけだ。


1人で換金所に入ってきた少女を揶揄していたゴロツキ達も、その宝石を見てさすがに驚愕したらしい。


換金所の髭面の親父は、その宝石を手にとって光を透かし、呟いた。


「、、、まいったな。本物じゃねぇか、、、」


誘拐はリスクが高い。

警備員に捕まったらそれこそ罰金どころではすまないし、誘拐の刑罰で殺されては意味もない。


だがしかし。


少女は1人。

かつ貴族のようだ。

しかも大層な宝石を持っている。


周りのゴロツキ達の視線が、誘拐するかどうかでなく、いかに誘拐するかの算段に変わったのを感じた。


カモがネギを背負ってきたのとわけが違う。

金塊に宝石が括りつけてあるのだ。


命をかける価値は充分にある。


周りの視線は悪意で渦巻きだしていた。


しかし換金所の髭面の親父は、換金所のカウンターに雇われるだけあって、厳つい顔ながら良心を持ち合わせているらしく、回りくどい言い方をしながら、少女に危険を察知してもらおうとしてくれている。


このまま換金所の親父に任せてもいいのかもしれない、と他人任せなことを思い出した時、


ようやく事態を理解して慌てだした少女の瞳が、ニット帽の奥から俺にも見えた。わずかに白銀の髪も垂れてきている。


白銀の美しい髪。

澄んだ空一面を集めたようなスカイブルーの瞳。

タタトゥーの靴。質の良い宝石。

世間知らずな深窓の令嬢。


それを指し示す人物は1人しかいない。


リンドウ国の宝石と謳われる、この国唯一の公爵令嬢。リーネ。

ーーーー俺の婚約者ーーーー。


驚愕とともに、俺はがっくりと肩が落ちる思いだった。

これはまずい。


換金所の親父でさえもわかったように、リーネの顔を知る人は少ないだろうが、存在は知っている。もうこれは金塊に宝石がついているのではない。

 ーーー国宝級の宝に金塊と宝石がついているんだ。


公爵令嬢が公爵邸からでると必ず誘拐されるからと、そのことが貴族の間でも周知されて、公爵令嬢は外出禁止が当然のようになっている。


婚約者といえど、まだ幼い少女に皇子である俺がわざわざ会いに行く必要もなく、リーネの顔は写真でしか見たことがなかったが、、、。


これは酷い。


皇后候補であるため、最高級の教育をしていると聞いていたのに、こんな世間一般の常識も知らず、何が最高級。


ここで俺が換金所の親父に任せてこの場を離れ、万が一誘拐でもされようならば、だ。


俺が今日、ギルドに登録に行くことは大々的に知られている。ついでに周りには俺の護衛がわんさかいる。


ここで公爵令嬢を助けずに帰ったら、誘拐された時、俺の名声も地に落ちるだろう。


下手くそな言い訳をしている公爵令嬢に、はぁーーーとため息をつきたい気持ちをぐっと堪えて、俺は一歩、踏み出した。


「リーネ様。探しましたよ」


有難い助け舟だ。感謝して乗っかりな。


リーネも俺の思惑に気づいて、かなり下手くそにしらばっくれる。


「そ、そう。仕方ないわね。帰りましょう」



「おいおいおいおい。俺達はそのお嬢様に用があんだよぉ」

案の定、突っかかってきたか。

「俺達には用はない」


スラリと剣を抜いた見せる。

ギルドに入ってダンジョンに行くために、命を守るためにこれまで鍛えてきた。ただ1人の命ではない。皇族の命だ。

教える方も命懸けで教えてくる。

そのため、俺の腕は技術だけならAランク程度にはなっている。

そこらのゴロツキには負けるはずもない。


「おう、兄ちゃん、やるってのか?」

ゴロツキが威嚇してくる。

「ちょ、ちょっとちょっと。ここは抜剣禁止ですよ。ここは抑えて」


慌てて割り込んできたのは、俺の友人かつ従者である、ノクト。

現宰相である侯爵家長男の、将来有望株。

優しいところと真面目すぎるところがたまにキズだが、良いやつだ。

「ちょっともぅー。ほんとやめてくださいよ。何かあったら責任取るの、私でしょうーーー」


前言撤回。

自分のことを先に考えるダメ従者だ。


「そんなの知ったことか。これより、ここのご令嬢が誘拐されそうになっているんだぞ。放っておけるか」


言ったぞ。周りも聞いている。これでとりあえずの体裁は整うだろう。


俺の言葉に、ノクトもこの少女がリーネ嬢だと気づいたらしい。


俺はゴロツキは護衛達に任せて、とりあえず自分の婚約者にも体裁を整えようと思った。なんたって婚約者との初めての挨拶だ。なめられてはいけない。


この一連の流れから、この公爵令嬢が思ったよりずっと素っ頓狂な性格というのはわかったが、だからといってこの少女を軽んじては、後々公爵家と問題になりかねない。


リーネ嬢も、自分が第一皇子だということに気づいたようで、そこまでバカでもないのかと、少し考えを改める。どうも自分は彼女をよっぽどの阿呆令嬢と思い込んでいるらしい。

俺の名前を言えるだけで評価があがるなんて、どうかしている。


なぜ自分がギルドの登録をしにきたかをリーネ嬢に説明すると、リーネは少し小首を傾げて、

「でも確か、アラン様の誕生日は3月24日でしたわよね?誕生日はまだ1ヶ月も先、、、はっ!!!」

と、リーネは自分の言ったことを後悔するように自分自身の口を押さえた。


なんだその反応は。


リーネ嬢に対する不信感が一気に増した。


確かに自分の誕生日は1ヶ月先だ。

しかしリーネ嬢から誕生日プレゼントを貰ったことなど1度もない。そもそも、まだ小さいリーネ嬢が、人の誕生日なんて気にするとは思えなかった。

傲慢で自分勝手だと有名な少女が、だ。


そしてそれを口にする事の何が悪いものか。


もしかしてこのリーネという女、阿呆のふりして相当したたかなのかもしれない。


理由は全くわからないが、何か計画があって家に籠り、あえて俺にずっと会わず、時期をみて接触する予定だったとか。


まさか、今日も、俺がギルドに来るのを知っててわざと単身ギルドに乗り込んで、俺の様子を試したということも有り得るということか?


疑い出すと制限なく疑惑が湧いてくる。


笑えなくなってきた。


とにかく、年下の婚約者に舐められまいと、表情は笑顔を作って、来月の誕生パーティに誘ってみる。


今までどれだけ誘っても、俺の誕生祭には参加しなかったんだ。これで引き受けたら、俺の挑戦状を受け取ったと考えてもいいんだろう?


リーネは考えて、

「ーーーそうですわね」

と言った。

「最近は体調もだいぶ回復しましたので、参加できるかと。ぜひお祝いさせていただきたく」


俺の挑戦状を受け取りやがった。

俺の心臓が強く脈打ち出した。


間違いない。

これは絶対、何か裏があるはずだ。


公爵家。

王族の血を引く家系。


王族の血が絶えたら、王として立つこともできる血筋だ。婚約者として、今後皇后にでもなれば子供は王になることができるが、、、まさか公爵自身が謀反、、、なんてことは考え過ぎか?


でも疑うに越したことはない。


良い王になるには、何事も「だろう」ではなく「かもしれない」で対応しろと口を酸っぱく教育されたのだから。


しかしいつリーネが仕掛けてくるかと思うと、今日は心の準備が足りず、早々に別れを告げてリーネと離れた。俺もまだまだ至らない。


本来は自分がリーネを王家の馬車で家まで送るべきだろうが、リーネの思うツボになりたくない気持ちが強く、ノクトに新しい馬車を用意して、家まで送るようにと命令した。


少し嫌そうだったノクトは、しぶしぶ了解したが、その後しばらくして、耳を疑うことを俺に報告してきた。


リーネ嬢を馬車で家まで送ろうとしたら、急に閃光弾を仕掛けられて逃げられたと。


まじか。

やっぱりあいつ、絶対ヤバいやつだ。

普通の公爵令嬢が閃光弾なんか持つはずないだろ。


「ノクト。追え!!!絶対逃がすな!!!絶っ対逃がすなよ!!!!」


「ええええーーーー」

「ええーじゃない。行け!お前の名誉にかけて」

「ええーーーーーーっ?」

心底嫌そうなノクトの気持ちは、痛いほど理解出来た。俺も本当はかかわりたくない。

君子危うきに近寄らず、だからなぁーーー。


泣きそうになりながらリーネ嬢を追いかけるノルンの後ろ姿をみながら、内心、ノクトに謝りつつ。


俺は、自分から言い出したのだが、来月の誕生パーティにリーネが来ることを思うと、つい、ため息が漏れるのだった。


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