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ノクトサイド~ケリー先生との休息

「いやぁ、参りましたよ。まさかお茶に睡眠薬を入れられるとは」

 ケリー先生は参った参ったと、全く参ってなさそうに繰り返す。


 誰もいない生徒会室。

 僕は用がなくてもここに来る習慣ができていて、少し前から来て勉強をしていたら、そこにケリー先生が入ってきて、僕は何も言っていないのに勝手にテーブルの席にに座って話し始めた。

 

「、、、僕もまさか、ケリー先生がイチゴ飴を12個全部食べるとは、思いもしませんでしたよ」


 あの時、ケリー先生はいちご飴をマイリントアに言われるまま12個買って、渡そうとしたらマイリントアがケリーにというので受け取っていた。


 全部食べられるはずもないから、あとで誰かに配るのだろうと思っていたら、考え事をしながら全部1人で食べてしまったらしい。

 いちご飴12個。想像するだけで口の中が甘ったらしくなる。


 いちご飴を食べてから祭りのステージに戻ってきて、甘くなった口の中をスッキリさせたくて濃いお茶を頼んだら、その中に睡眠薬を入れられていたのだという。


 夜会のためにステージからパーティ会場に移動したのに、パーティが始まる頃に薬が効きだして控え室で眠ってしまったケリー先生。

 そんな無防備で、本当にこの人は騎士団長なんてやれているのだろうか。

 

「それで?結局、マイリントアの言ってたヒントは何なのか、わかったんですか?」

「それがですね」

 ケリー先生は、パン、と手を合わせて打ち鳴らす。

「ーーーー全く、なんですよ」


 じゃあなぜタメた。


「そこで、有能な生徒会長や副生徒会長のご意見を伺おうと思いましてね」

 この前から、この人、ただの一般生徒に、重要事項の相談をしすぎじゃないか?剣技会のトロフィーをゲットしろというのも結構な注文なのに。今回だって王都のエネルギー確保という大きな事業だ。

 そういうことは、学生じゃなくてもっとそれなりの人に相談するものじゃないのかな。同じ騎士団の人とか。学園の他の指導者とか。


「生徒会長は、最近忙しいようで、あまり、ここには来られていないですよ」

「そうなんですか」

 僕は朝摘みの茶葉を使用したお茶を入れてケリー先生の座るテーブルに差し出した。ケリー先生は疑いもせずにそのお茶に口をつける。


 学習能力がないぞ、この先生。


「このお茶、美味しいですね、ノクトさん」

「生徒会長一押しのお茶ですからね。わざわざ生徒会長がこの生徒会室に差し入れしてくれるので助かっています」

「なるほどジルさんがね。さすが公爵子息の一押しは品物の質が違うな」

 ふんふん、と言いながら、ケリー先生はもう一度お茶に口をつける。

「ノクトさん。このお茶、あと10度低い温度で入れるともっと風味が活きますよ」

「ーーーアドバイス、ありがとうございます」

 言いたいことは沢山あるが、とりあえず僕はお礼を言う。


 それで、とケリー先生は続ける。

「そのあと、パーティ会場は大変だったんですって?」

「そうですね。アラン皇子が言うには、ザキラの国王が狙われていることを生徒会長が教えてくれたから、標的がわかってだいぶ楽に敵を捕らえられたらしいですけどね」

「またジルさんか。あの子は本当に万能型ですよね」

 公爵家嫡男であり生徒会長のジル様をあの子呼ばわりできる人は、ケリー先生くらいだろう。


「アラン殿下も、とても悔しそうに話していました。1つ年上とはいえ、生徒会長は完璧すぎますからね。完璧なふりをしているだけのアラン殿下とは違うというか、おっと」

 僕は自分の口を塞いで、ちょっと誤魔化した。

 ケリー先生はそれをはははと楽しそうに笑ってくれる。ケリー先生もそう思うのだろう。


 アラン皇子も他の人に比べたらだいぶ完璧寄りだろうけど、ジル様と比較すると見劣りしてしまうのは確かだ。アラン皇子は人遣いが荒いのに比べ、ジル様は自分が動くタイプだ。ただ、そういう人は苦労性というか、全て自分で背負い込むから、僕としてはどちらが正解かはわからない。 

 そこそこ動いてそこそこ人に頼る僕くらいが、一番丁度いいと思うんだけども。


「首謀者は誰だったのですか?」

 ケリー先生は訪ねる。

「わからなくなった、というのが正しいのですけど、皇帝か皇后が怪しいですね。捕まった人達が、全員、口を割る前に牢屋の中で死亡しました」

 暗殺者にはよくあることだが。

「それならなぜ皇帝や皇后と目星をつけるんですか?」

 ケリー先生は興味深そうに聞いてくる。

 僕は、楽しい話じゃないんですけどね、と付け加えて、ケリー先生に口を開いた。


「アラン殿下に罪を擦り付けようとする品物がでてきたんですよ。ザキラの国王が、アラン皇子に呼ばれたという手紙を持っていました。そこに行くと仕掛けが発動することになっていまして。フロアにいた暗躍の者は、それが失敗した時に動けるように待機していたものと思われます」

「なるほど。なのにアラン殿下自身がザキラ国王に問い詰めて手紙が出てきて事が発覚したので、アラン殿下は罪人の疑いを外されたということなんですね。そしてアラン殿下に害が出ると得する人間と考えると、皇后達が浮かび上がるというわけか。牢獄の中で手を下せる人間にも限りがありますし」

 うんうんと僕は頷く。

「そうなんですよ。本当はアラン殿下は生徒会長にもっと感謝しないといけないと思うんですけどね。彼、すぐひねくれるから」

「アラン皇子はそういうところ、確かにありますね」

 はははと2人で笑う。


「あ。お茶菓子ありますよ。差し入れのクッキー。アラン殿下が1年の女学生に貰ったらしく。心がどんなにこもっていても手作りは絶対に食べないからって、僕に渡されて」

「これはこれは。可愛らしいクッキーですね。だいぶ凝っていて時間がかかってそうだ」

 ケリー先生は皿に盛ったクッキーを1枚摘まむ。


「ちゃんと毒味もしてあるし、鑑定までしてあるんですよ。毒が入っていないことは間違いないのに」

「あ。美味しいですよ、これ」

 ケリー先生の口からサクサクと軽やかな音が聞こえてくる。

「でしょ」

 僕も1枚、口に咥える。


「生徒会長なら、女の子の手作りとかもし毒が入っていたとしても食べそうですよね。女の子の心を無駄にできないとか言って」

「ジルさんはそういうところがあります。優しすぎるというか」

「いやいや、毒が入っているのを知っていて食べるなんて、むしろ男気じゃないですか。格好いいんですよねぇ、生徒会長」

 僕は神を仰ぐように生徒会長を想う。ほう、とため息を漏らした。できることならあんな男になりたかった。

 ケリー先生はもう1枚、と手を伸ばしたところでその手を止めた。

「おやノクトさん。ジルさん派でしたか。てっきりアラン殿下派かと」

「え?僕がですか?いやいや、アラン殿下とは腐れ縁なだけで、別に憧れる対象とかじゃないですよ」

 やだなぁ、と僕は顔の前で手を振った。


「だってほら、このお菓子だって、食べないにしろ自分で勝手に処理すればいいじゃないですか。僕に渡すなんて、いかにも『女の子からお菓子もらえるけど、そんなの当たり前のことで俺には気にすることでもない』自慢のような」

「あぁー。考え方次第では、そうもとれますね」

「アラン殿下、顔は間違いなく美形だけど、性格がほんと歪んでるというか」

 はははは。

 2人で笑ったところで。


 生徒会室の奥に置いてある、普段使っていないソファーから、1つの影がもそりと動いた。


「、、、、それは悪かったな」

 低いのによく通る、聞き馴染みのある声にドキリとする。


 声のする方を見ると、寝起きらしい、絶世の美青年が不機嫌な顔してソファーから起き上がって覗いていた。


「、、、アラン殿下、、、」


 ケリー先生と僕は、一気に血の気がひいてしまっていた。

 まさか、生徒会と全く関係のないアラン皇子が、生徒会室の奥のソファーで寝ていようとは、誰が想像しただろうか。


「スタジアムの件で、お前に相談しようと思ってここにきたけど、まだノクトがいなかったから昼寝して待ってたんだ。まさか俺の悪口で目が覚めようとはな」


 アラン皇子は、はぁ、と大きくため息をついた。

「俺はノクトを心から信頼していたんだが、本当に残念だ」 

 絶対に残念と思っていないその声に、僕は頬をひきつらせるしかない。

「、、、とりあえず、ジルさんは不在のようですし、ノクトさんも忙しそうなので、私はこの辺で退室しますね」

と、ケリー先生は張り付いた笑顔のまま、ずうっと部屋から出ていった。

 ケリー先生の魔術なら、アラン皇子の記憶を消すなり、混乱させるなり、方法は色々あっただろうに、魔法を1つも使うことなく出ていった。

 ケリー先生もだいぶ動揺していたのだろう。


 そして僕は思う。

 僕を置いて逃げるなんて大人って汚いなぁ、、、と。


 じわじわと僕に近づいてにっこりと不敵に笑うアラン皇子に、僕は苦笑いを浮かべることしかできなかった。

 

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