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ノクトサイド~マイリントアとともに

「スタジアムの様子を見に行くから不在にする。祭りに強制参加させられるリーネのことをお願いしていいか」

とアラン皇子に言われたのは、昨日の事だった。

 急なことで驚いて、僕はすぐに否定した。

 僕もあの時、スタジアムにはいたのだ。

 ジル生徒会長と、副会長の僕。そして他の生徒会役員が騎士達に混じって各国の要人達を警護していた。


 地響きがしてモンスターが現れて。

 パニックになった中で、リーネは異次元にいるかのように、華麗にモンスター達を斬り倒していった。


 そしてあのマイリントア。

 最悪で最強の化物。

 僕は数日経った今でも、毎日マイリントアの夢をみている。それほど脳裏に恐怖を植え付けられてしまっていた。


 一瞬のビームでスタジアムを半壊させ、変形してからはスタジアムの外をキロ単位の広さで焼け野原に変えた。あんなの、半日野放しにするだけで国が滅びそうだった。


 スタジアムは大きかったが、マイリントアの身体はそのスタジアムの半分以上を占め、距離感がおかしくなるほど巨大で。

 遠近の調整が効かず、すぐ目の前にマイリントアがいるようで、各国の要人達を守りながら、僕は密かに死を覚悟していた。


 こんなところで死んでいいのかという思いと、でも強力な防御魔法のかかっていないスタジアムの外にいたら、あの変形した時の攻撃で間違いなく死ぬから、まだスタジアムにいる方が安全なのではという思いと。


 しかし、やはりもう無理だろうと思った。

 完全魔法防御なのに、あの強固な棘を攻略するには時間がかかりすぎる。棘を折っている間に全滅するのは明らかだった。


 マイリントアがビームを出す雰囲気を出した時に、もう、観客席の僕達側は絶望にのまれ、危険な状態になりだしていた。恐怖に心をやられ、精神的に狂いだした人が何人かいた頃、リーネ嬢が何かよくわからない黒い玉を出した。その黒い玉がマイリントアを吸収した。

 魔法とは思うけど、見たことも聞いたこともない魔法だった。

 

 そこにいた全ての人が、しばらく沈黙した。


 どう反応していいのかわからなかった。


 命を救われた安堵と、見知らぬ魔法に対する不安と。そして、身体を突き抜けるような興奮と。


 異常な沈黙のあと、アラン皇子が、魅力減退の魔法を解いた。


 正直、見知らぬ魔法に恐怖しつつも、リーネの剣技には皆、魅了されていたのだ。魔法によって軽減されているとはいえ、その類い希なる美貌にも。


 そして、アラン皇子によって解放された魅力に、会場の人達がバタバタと倒れ出した。

 それはそれで大問題で。

 結局、力を使い果たしたのか、リーネ嬢まで倒れて終了した。

 アラン皇子が倒れたリーネ嬢に一番に駆け寄って、リーネを抱えていったのが、僕的には一番驚いたけど。


 それから4日後。


 倒れたリーネ嬢が目を覚ましたという噂が流れてから、お祭りの準備は急ピッチで行われた。


 そして今。


 僕は人生最大かもしれないピンチに襲われている。


 ここは祭のステージ上。

 結局、アラン皇子に頼まれたことを断りきれず、リーネ嬢の世話と見張りをしている。アラン皇子がスタジアムの様子を見に行っているせいで、頭を打って倒れたらしいケリー先生が、アラン皇子の代わりにリーネ嬢の魅力減退の魔法をかけてくれている。それでもリーネ嬢の美貌は飛び抜けていた。さらに水色の華やかなドレスに生花を沢山つけて、夢でもみているかのように美しい、、、が。


 リーネ嬢は、本当は祭りを歩いて楽しみたかったようで、不機嫌そうにステージの上から祭りを見下ろしていた。僕が夜会が続けてある話をしたら、苦虫を噛み潰したような顔をしてみせた。せっかくの美人が台無しだった。


 僕は、リーネ嬢がせめて人達の喜びや光になってくれればと、話をしたつもりだったのに。

 ーーー機嫌を損ねてしまったらしい。


「この猫ちゃんと散歩。行ってくださるかしら」

 そういってリーネ嬢がケースから出してきたのは、紫と黄色の小さな動物だった。手のひらサイズの虎のような。毛並みは短いがフワフワで可愛らしい。明らかに猫ではないが、猫の服を着せられている。


 でもどこかで見たことあるような、と思った時、頭より先に身体が反応していた。


 全身が鳥肌になっていたのだ。


 そういえば、この動物。あれに似てないか。あのスタジアムを半壊にした、あの伝説級のモンスター。

「ーーー猫、ですか?これ」

「猫です。虎によく似た猫。ね、マイリ、、、マイリン」

 誤魔化すリーネ嬢だが、全然誤魔化せていない。


 絶対マイリントアだろ。

 

「マイリン。にゃーは?言ってみて」

「、、、にゃー」


 棒読み。めっちゃ嫌々言ってるじゃないか。

「ね。猫でしょ」

 にっこりと笑うリーネ嬢だが、小さいとはいえマイリントアの姿のまんまで、本気で猫に誤魔化そうと考えれていたのだろうか。それが不思議で仕方ない。


 マイリントアの恐怖と死にかけた絶望を感じたのは、つい数日前だ。嫌でも忘れられない。


「猫ちゃんの望むところに連れていってあげて」

「、、、いや、望むところと言われても」


 マイリントアと二人きりとか、冗談じゃない。

「大丈夫ですわ。この子、とても賢い子ですのよ。そしてこの前、とある魔術師に、お話できる魔法をかけてもらいましたの。だから、少しお話もできますのよ」


 このことは秘密ですけどね、と付け加えるリーネ嬢。

 危険なモンスターでなければ隠す必要もなかろうに。


 リーネ嬢は、マイリントアを膝に乗せて、よしよしと撫でた。全身が棘でなければ、確かに危険なモンスターには見えない。だけど僕は知っている。

 口からビームも出すし、変形して変な流体のものも飛ばすことを。


「うむ。喋れるぞ。よろしくな、ノクトとやら」


 うわー。モンスターが喋った。

 喋るモンスターは、高位モンスターのみと決まっている。ちなみに言葉を真似する動物はいても、意思を人間の言葉で喋る猫は聞いたことなかった。


「、、、この猫、本当に大丈夫なんですか?」

「大丈夫ですわ」

「大丈夫なのじゃ」

 二人は満面の笑みを浮かべる。


 ものすごく不安しか感じないんだけど。

 

「ーーーわかりました」

 結局、僕は了解した。

 僕に選択肢なんかないのはわかっているんだから。


 マイリントアは、リーネの腕から渡ってきて、僕の肩に乗ってきた。やっぱり見た目どおりフワフワだった。


 いま、ここでビームだされたら僕の命は終了だな、と思いながら、僕はステージから降りて歩いていく。


 本当はリーネ嬢から離れたらいけないんだろうけど、接待相手のリーネがペットの散歩を依頼してきたのだから仕方がない。


 僕が街道を歩くと、肩に乗ったマイリントアは、目を輝かせながらソワソワとしていた。


「お。ノクト。あれはなんじゃ」

「そこの綿菓子というものを食ってみたい」

「な、なんじゃこの甘さは。美味いぞ」

「はははは。顔が沢山並んでおる。お面とは面白いのぉ」

「焼き鳥?串に刺さっておる」

「おほー。美味いな、焼き鳥」


 モンスターとは思えない感情表現の豊かさで、くるくると表情が変わる。

 はじめは恐々と接していた僕も、いつの間にかマイリントアに慣れてしまっていたらしい。


 子猫に餌をやるように、ついマイリントアが欲しがるものを与えてしまっていた。

 与えるとモグモグと美味しそうに食べるマイリントアを見ているうちに、自分まで幸せになってくるような。


「ノクトさん。沼にハマってはいけませんよ」


 いきなり言われて、ヒュ、と喉が鳴った。


 思ってもいないことを言われて、気管によくわからないものが入ったらしい。

 ひとしきりむせて、僕は声のした方を見た。


 そこには、淡い紫の長い髪をした大人の人が立っていた。黒くて長いローブを羽織っている。

「ケリー先生」

 僕が名前を呼ぶと、ケリー先生は優しく微笑んだ。


「ノクトさん。お疲れ様です」

「ケリー先生こそ。リーネ嬢にずっと魔法をかけていたのでしょう?」

「そうですね。アラン皇子に教えた魔法は、あまりに広範囲で、魔力消費も激しいですし。改良できないかかなり悩んだ結果、魔法範囲を狭めることはできました。魔力消費は相変わらずですが」

「無駄に魅力を減らされる人が減っただけでも良かったですね!」


 結婚適齢期の人など、リーネ嬢のいるパーティーでは魅力を発揮できないなんて可哀想すぎる。


 リーネは公爵令嬢。

 今までは家にとじ込もっていたけど、今後は、そこそこ大きいパーティーには必ず参加しなければならなくなるだろう。出会いを求める人達にとっては大打撃のはずだった。


「早く個人に限定した魔法を開発しないといけませんね」

 ケリー先生も同じ気持ちだったようだ。


「それより」

とケリー先生は僕を見る。

 いや、僕ではない。実際は僕の肩に乗って焼き鳥を食べている生き物を見ていた。


「その生き物ですが」

「あぁ、、、」

 僕は察する。


 元々、マイリントアの情報を教えてくれたのは、ケリー先生だった。昔の歴史の本にしかマイリントアの事は載っておらず、マイリントアの記載された書物は限りなく少ない。

 

 ケリー先生も、この小さい生き物がマイリントアであることに気づいたのだろう。

 そしてそのことにマイリントア自身も気づいた。

 頬を紅潮させて楽しそうだったマイリントアの顔が、一気に引き締まる。

「ーーーなんじゃ、お主ら。ワレに楯突く気か?」

 買った焼き鳥を全部食べて終わって、モンスターらしく、マイリントアは自分の口の周りをベロリと舐めた。


「ーーーいえ、気高き魔物よ。そういうわけではありません」

とケリー先生はマイリントアに簡単な敬礼をしてみせる。

「ただ、少しお聞かせ願いたい」

 ケリー先生の言葉を、マイリントアは目で促す。

 話を続けていいらしい。


「あなた様は、封印されたあと人間に討伐されたはず。どうやって復活されたのですか。そしてなぜ、倒されたはずの人間に従うのです」


 しん、と沈黙が流れた。

 周りは祭りで賑わっていて、それだけに沈黙が長く感じた。


「ーーーそのようなこと」

 マイリントアが口を開いた時には、マイリントアの視線をずっと受け止めていたケリー先生の顔は真っ青になっていた。それをマイリントアは楽しそうに瞳を歪める。

「ワレの知ったことか。気づけば蘇っていた。それだけじゃ」

 リーネに従う理由は言わない。

「興醒めじゃ。ノクト、気分転換にあっちの屋台に進むがよい」

 マイリントアがケリー先生のいる反対側を指差して促した。もうケリー先生と話すことはないという合図だろう。


「お待ちください。もう1つ。もう1つだけ」

 ケリー先生の言葉に、マイリントアは振り返らないが、拒絶もしない。

 ケリー先生は続けた。

「あなた様がコアから蘇ったために、コアが機能しなくなりました。このままでは、国民にエネルギーが行き渡りません。どうしたら、、、」


 マイリントア本人にまたコアに戻れ、とも言えない。

 できることなら退治してコアに戻したいが、マイリントアを倒せる人は、もうただ一人しかいない。

 その人がマイリントアを連れている以上、マイリントアをコアに戻せる方法は皆無だろう。


 せめて。何かエネルギーを抽出する方法でもないか、藁にもすがるつもりで聞いたのだろう。


 マイリントアは、ふっと笑った。

「ーーー実に愚かよのぉ」

 くっくっと笑い、視線だけケリー先生に流した。その瞳は嘲笑。

「コアからのエネルギーなどに頼るからそのようなことになるのじゃ」 

 正論をつかれて、ケリー先生は黙る。

「ノクト。それじゃ、そのりんご飴というものを」

 マイリントアは、目の前にある屋台を指差し、僕は複雑な思いでそのりんご飴を買った。そのあと、マイリントアは同じ場所に売っているいちご飴を12個欲しがった。

 こんなときに食べ過ぎだろ。


「太りますよ」

というと、マイリントアは「違う」と言った。

 ケリー先生が、神妙な顔で僕の代わりに12個いちご飴を買う。袋にいれてもらい、マイリントアに渡そうとすると、マイリントアはそれを受け取らなかった。


「これは愚かな人間へのプレゼントじゃ。この大きいのはワレのじゃからな」

 りんご飴を食べながら、くっくっとマイリントアは笑う。それ以上は口を開くつもりはないらしい。

 それでも、ケリー先生は、マイリントアに「ありがとうございました」と、何か考えながらお礼を言っていた。

 

 ケリー先生から少し離れてから、マイリントアは僕に目を細める。

「ーーーワレは優しいかろう?」

 

 意味が、ーーー全くわからなかった。



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