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ケリーサイド~悪魔の少女~

 私の名前は、ケリー・アテーノ・タランテノ。


 魔術師の塔の責任者であり、今はリンドウ国騎士団第二団長を勤めている。


 年齢は26歳。その若さで塔の責任者が勤まるのか、名誉ある騎士団長を任せるのかと、散々言われてきたが、それを全て実力で証明してきた。


 元々、私は子爵の家に生まれた。子爵という爵位は、貴族とはいえ貴族の中でも下の方の位置だ。貴族という称号にすがり付く者もいるが、私はあまり貴族であることでの優越感はなかったし、平民だとか貴族だとかは気にしなかった。むしろ平民と呼ばれる人達と一緒に平地で過ごし、一緒に学んできた。


 それよりも私は勉強が好きだった。この世の中の理解できないことが、学ぶと理解できる。自分のこの身体も、その知識欲に応えてくれて、子爵の血とは思えないほど膨大な魔力を持てるようになった。


 5歳の頃には神童と呼ばれ、10歳で家から離れて魔術師の塔で暮らすように手配された。


 12歳で騎士団から魔術の指導を任されるようになり、成人する16歳で最年少の騎士団長になった。


 勉強と騎士団での訓練で日々は過ぎ、女性と関わる時間よりも魔術の研究がしたかったので、ただひたすらに魔術と向き合っていた。


 22歳の頃、前任の魔術師の塔の責任者が退任することになり、その人が次の責任者は私しかいないといわれた。魔術師の先輩達が激しくもめたが、結局、私より高い能力者がいなかったから魔術師の塔の管理者も勤めることになった。


 そのついでにと、剣術魔術ともに天才と言われる公爵子息が学園に入るので、1週間に1日だけ特別クラスに教鞭をとってくれないかという話がきた。


 騎士団長と魔術師の塔の管理だけで日々忙しい生活をしていたのではじめは断ったのだが、たまたま王族のパーティーで公爵子息のジルさんに会って話をした時に、久しぶりに楽しかった。


 話のレベルが合う人間との話は世界が膨らみ、自分を高めてくれる。昔の、小さい頃の知識欲が駆り立てられた気がした。

 この少年にもっと知識を与えたら、さらに面白い話ができるのではないかと思うようになって、学園の1日講師を引き受けた。


 翌年にはアラン皇子や有能なノクトさんも入ってきて、学園生活は更に楽しくなった。


 私は学園の講師が日々の中で一番楽しい時間に感じ始め、講師を引き受けて良かったなと思っていた。

 そんな中で、今年はまた面白い子達が学園に入ってきた。

 

 まずは以前から噂になっていた、国の宝である『聖女』スミレさんだ。まだ訓練が足りず能力的には低いが、持っている器の大きさは計り知れない。

 いかに育てるか。将来が楽しみだ。

 

 そして、思わぬ逸材、ロジーさん。

 彼は多分、別の世界で生きている人間なのだろう。私は騎士団ももっているからわかるが、彼の魔術、彼の剣術は一般のそれとはまるで違う。朝から晩まで、常に命のやりとりをするような、緊迫した状態を強いられなければ、あぁはならないだろう。

 そら恐ろしいが、とりあえず彼の目的が私ではなさそうなので、特別グラスの編入を許した。

 彼の投入で、また特別クラスが面白くなった。


 そして最後に。

 私の好奇心を注ぐ公爵子息のジルさんの妹。

 リーネさん。


 彼女は、別格だった。


 昔から彼女の評判は、あまりに悪すぎた。あのジルさんの妹のはずなのに、耳を塞ぎたくなるような噂ばかりで、正直、お近づきにはなりたくなかった。悪魔の化身のようだと思っていた。


 だがジルさんは彼女をべた褒めするし、最近ではアラン皇子が気が触れたのかと思うほど必死になって、ある魔術を教えて欲しいと言ってきた。その女の子のためだけに、だ。しかもその内容が『魅力を最大限に下げる魔術』だから、笑った。


 私の知る限り、そんな魔術はない。

 魅力を上げる方法はあるので、その反対にすればいいだけだろうと安請け合いしたら、意外とそうはならず、しかしアラン皇子が時間がないというのでどうにかその魔法を手探りで作ってはみたが、個人には使用できず、広範囲魔法でしかその威力を発揮できなかった。

 しかも普通の魔術よりも魔力消費が著しい。


 アラン皇子は、誕生祭で私にその魔法をかけて欲しかったようだが、学園で使うには毎日学園に通う必要があるのでアラン皇子に覚えるように勧めた。アラン皇子の魔力は、彼が王族なだけに無尽蔵だからだ。

 しぶしぶ了解してくれて助かった。

 私もできなくはないけど、正直、疲れたくなかった。他の研究の魔術で疲れるのはむしろ大歓迎だが、他にまだ魔力を使わなければならないことが沢山ある中で、なぜ知りもしない少女のために使わなければならないというのか。


 そう思っていた。


 だが、ここ数ヶ月で、リーネという少女の悪い噂は聞かなくなり、陰でこっそり情報交換している、公爵領のギルド長から、公爵令嬢がギルドに登録にきて世界最短でCランクになったということを聞いた。


 ほんの少しだけ興味がでていた。


 知識欲、というのだろうか。知らないことがあると知りたくなる。1時間だけ、公爵令嬢のいるクラスの特別講師になってみた。


 まずは試してみようかな、と、幻影の魔術の魔法陣を黒板に書いてみた。クラスの大半はあっという間にその魔法にかかって、他の人が見えなくなり自分だけしかいないという意識を植え付けられた。

 だがロジーという少年には、全く効いていなかった。魔法陣を追加してみたが嘲笑うかのように平然としている。私はちょっとむきになって、次々に魔法陣を強化していった。

 その時、リーネさんが教室に入ってきた。


 アラン皇子の誕生祭のパーティーでも見たが、噂の公爵令嬢は、確かに絶世の美少女だった。

 白銀の髪にスカイブルーの瞳。薔薇色の唇。

 アラン皇子が魔法で魅力を大幅に下げているにも関わらず、溢れんばかりの魅力を振り撒いていた。


 なるほど、魅力を下げてこれなら、確かに魔法がなければトラブルが起こっていたかもしれないなと思う。


 しかし、それよりも私の魔法陣がリーネさんにも全く効いていないことの方が問題だった。これだけ強化しているのに。ロジーさんは私が魔法陣で魔法にかけようとしていることに初めから気づいていたが、リーネさんは全くそんなことに気づいておらず、それでも魔法にかからなかったのだ。無意識に遮断している。


 温和といわれて、自分でも自制心には自信がある私も、魔術というプライドの部分だったからか、少し苛立ってしまった。


 嫌がらせのようにいちゃもんつけて、化けの皮を剥いでやろうと私はリーネさんを指名した。


 魔法陣が何かわかっていなさそうだったから、その問題をとかせ、授業態度を理由に、退室を命令した。


 噂の公爵令嬢なら、すぐに暴れまわって、授業をめちゃくちゃにしただろう。


 だが、そうはならなかった。

「申し訳御座いません。授業に集中致しますので、今回ばかりはご容赦お願い致します」


 綺麗な顔を苦痛に歪めながらも、淑女らしく、丁寧に謝罪し頭を下げた。

 まだ15歳の少女だ。普通でもなかなかできることではない。

 私はついその反応が面白くてーーー、調子に乗ってしまったらしい。ロジーさんが間に入ってくれたおかげで丸く収まったけど、下手したら、公爵令嬢とものすごい確執が生まれてしまうところだった。

 ロジーさんに感謝だ。

 ロジーさんからパワハラだと嫌味を言われた時は、素直にショックだったけど。


 そういうわけで、リーネさんとロジーさんは特別クラスに編入することになった。

 今年も面白いクラスができあがったなと、嬉しく思っていたのだが。


 その矢先に、問題が発生した。


 魔術師の塔が管理するコアが、作成中のトロフィーに混入したというのだ。


 誰がやったのか全くわからず、監視している魔道具にも、その姿は映っていなかった。


 かなり悪質だが、若年にして魔術師の塔の管理者になった私への嫌がらせだろうと思っていた。管理者に就任して以降、日々、何かの嫌がらせが行われていたからだ。

 幸い、私は魔術以外のことに興味があまりなく、それらの嫌がらせは全く問題ないことばかりだったから良かったが、今回はそうはいかない。


 王都には様々な人が住んでいる。

 魔力がある人も、ない人も一緒に、だ。

 それらの人が平等に生活するには、安定したエネルギーが必要になる。

 エネルギーを得るにはコアが必要だ。


 そのうちの1つ。

 最強のモンスターといわれるマイリントアを退治した時に出現したコアは、膨大なエネルギーを秘めていた。


 昔からそのコアを使って王都の貴族の屋敷にエネルギーを送っていたが、私がそれを改良して、王都の平民にもエネルギーが行き渡るようにした。


 他のコアがあればしばらくはエネルギーは持つだろうが、あと何年先ものエネルギーを確保するには、マイリントアのコアが不可欠なのだ。


 こんな嫌がらせをするなんて、信じられない。


 王都を混乱させるつもりか。

 嫌がらせにしては度が過ぎている。

 しかし、トロフィーを作り直す時間はない。しかしコアを他国に奪われるわけにもいかない。


 私は剣技会に出場するアラン皇子とスミレさんとロジーさんとリーネさんを呼び、優勝してトロフィーを必ず我が国に持ち帰ってもらうように依頼した。


 スミレさんはまだ発展途上だからあまり期待できないが、残りの3人がいたら、間違いなく優勝できるだろうと思った。


 なのに。


 剣技会当日。

 各国の要人達の護衛として、生徒会長のジルくん、副会長のノクトさんと共に、騎士団長である私もその要人達の傍についていた時のこと。


 ドン、と地響きがして、巨大なモンスターが現れた。


 モンスターを近くで見ていたアラン皇子とリーネさんによると、トロフィーの割れ目からモンスターが出現したというのだ。


 わけがわからなかった。


 なぜトロフィーから。

 どうやって。

 

 考えを巡らす。

 

 まさかーーーーマイリントアのコア。

 もしかしたら、あれは私への嫌がらせではなかったのかもしれない、と思い至った。


 不安定な情勢の中で剣技会は中止になっていたはずなのに、急な剣技会の開催の発表。時間がなくてトロフィーが作れないと言うと、皇帝は『魔術師の塔のコアでも使えばいい』と、、、確かに言った。

 そしてトロフィーに勝手に混入されたコア。


 その上で、トロフィーからモンスターが出現する。

 各国の要人達がいる中で。


 これらが意味することは何だ。

 各国の要人達を殺したい?

 いや、国の要人とはいえ、すべての王族がきているわけでもない。

 他国と戦争を起こしたいのか?

 今のこの国の不安定な情勢で?

 

 全く理解できない。

 

 私はジルさんを見ると、ジルさんも可愛い妹のピンチに駆け出したそうだったが、自分の公爵子息という立場と、私と自分の魔力の違いを瞬時に考えて、苦痛の表情で私に言った。

「ーーーここは私が。向こうはケリー先生にお任せする。どうか、リーネをよろしくお願いします」


 私は深く頷き、要人達はジルさんに任せて、モンスターの方に急いだ。


 たどり着くとリーネさんはすでに腕を骨折していて、それでも大きな鳥のモンスターを討伐しようとしていた。すごく痛いだろうに、それを表に出さない。

 戦う姿もとても綺麗だったが、私はその心の強さが美しいと思った。そしてリーネさんは、片手で鳥のモンスターにとどめをさす。


 私はそれを見届けて、ゴリラに似たラバンという深緑の毛色の2階建ての家のような大きさのモンスターの方に足を向けた。そのモンスターと戦うアラン皇子に加勢する。


 ラバンは牛の胴体のように太い腕を振り回し続け、近寄ることができないでいた。そのため氷属性のラバンに火の魔法で攻撃するが、全く効果がなさそうだった。


 かけつけたリーネの助言で、別の属性の魔法を使い、ラバンを無事に倒すことができた。

 ラバンには、このどうしようもなく溜まったストレス発散にさせてもらった気がしなくもないけれど。


 しかし、そこで終結しなかった。

 トロフィーから、また別のモンスターが出現しだしたのだ。


 2頭の恐竜と。

 そして、伝説級のモンスター、マイリントア。


 図鑑でしかみたことがなかったそれは、スタジアム半分を占める大きさと、虎のような顔をしながらその身体をびっしりと覆う1本2メートルはあろう長さの棘から、すぐにマイリントアだとわかった。


 私は愕然とする。


 マイリントアを倒すには、兵士1万人と魔術師千人の命が必要だと、その本には書いてあった。魔術師千人で、封印の箱を作るために黒い精霊を呼び出す必要がある。

 いま、この国には魔術師が足りないのに。


 自分が魔術師300人分の魔力を出すとしても、残り700人。

 魔術師は、魔法が使える人とはまるで違う。

『確実に魔物を倒せる魔法を使える人』でなければならない。


 実際、国中のギルドを回って魔術師を探したとしても、500人集まるかどうか。

 しかも命を差し出せという条件だ。


 すぐに決断できる人は皆無だろう。


 マイリントアが暴れまわって大切な人を失いかけて。

 それでようやく決断に至る。


 しかしその決断までに、どれだけの被害が出るというのだろう。

 兵士1万人の数どころではない。

 当時、兵士1万人の命を集めるまでに、30万の命が奪われたという。


 30万。


 今のこのリンドウ国30万の命が失われたら、間違いなく隣国にその隙をねらわれるだろう。

 リンドウ国は終わりだ。


 絶望的な状況。


「んーあ」


 マイリントアの呑気な欠伸とともに声が聞こえたと思ったら、口からビームが出て、スタジアムの半分を崩壊させた。


 たまたま各国の要人達は反対側にいたが、万が一、要人達の方にビームがいっていたらと思うとゾッとする。


 そもそも、このスタジアムには、私が強固な防御魔法をかけている。爆弾が飛んできても壊れないほどの強さになっているはずなのに、1回のビームでこれだ。


 ーーー考えている時間はない。

 急がなければ。


 本来は、私はその場所から離れるべきではなかった。

 騎士団長として。魔術師の長として。その場で戦うことが使命だったはずだ。


 だけど、マイリントアを倒すには、1秒でも早く魔術師を集める必要があった。


 あとでどんな処罰も受けよう。

 どちらにしろ、私は黒い精霊を呼び出すために命を失うのだ。処罰など、何も怖くなかった。


 あるとすれば、未練、だろうか。


 もう少し魔術を研究したかった。

 なぜトロフィーからモンスターが出たのかも調べたかった。

 あと、欲をいえば、家族というものを持ってみたかった。愛する妻と、可愛い子供達と幸せに暮らす。そんなささやかな夢。


 ーーーもう、無理、だろうな。

 自嘲して、私は笑う。

 今まで女性とは殆ど関わっていない。自分の魔術への熱意の方が、女性への興味よりも上だった。

 今更、愛する妻だ家族だという夢をみたとしても、どうしようもない。


 私は、ジルさんのところに戻り、魔術師の塔に転移させてもらうようにお願いした。

 魔術師の塔には、魔術師が一番揃っているし、転移の魔道具がいくつもある。

 魔道具で各ギルドに飛んで、魔術師を説得する。


 命を失うという事実を隠し、嘘をついてでも魔術師を集めようか、と考えて、いや、と首を振った。

 そんなことしたら、過去に自ら命を捧げた人達への冒涜になりそうだ。やはりちゃんと誠意をもって説得していこう。

 ーーー残された時間は短いけれど。


 ※※※※※※※※※※


 結局、魔術師や兵士は集めようと奔走している間に、その必要がなくなってしまった。


 討伐されたという。

 あの、リーネという公爵令嬢によって。


 なぜ。と私は何度も自問自答する。


 なぜあの時、私はもう少しあの場所に残らなかったのだろう。

 どうやってあのマイリントアを退治したのか。

 完全魔法防御をもっているマイリントアを、魔法で倒したと聞いた。

 黒い魔法という未知の魔法。

 それを目の前で見れなかったことが、心から悔しい。


 魔術師千人。その力をもってしても『黒い精霊』を呼び出す力しかないのに。命を捧げてなお、その力しかないのに。


 リーネさんは、握り拳大の黒い小さな玉を1つ出しただけだったらしい。それだけで全てが終わった。

 リーネさんは命さえ奪われていない。


 なぜ。

 なぜ。

 なぜ。

 それを繰り返すばかりだ。


 黒い精霊。黒い玉。

 リーネ嬢は、、、黒い悪魔か。


 あれから私は、魔術師の塔の研究室にこもって、トロフィーの研究を始めた。

 壊れたとはいえ、トロフィーを探れば、トロフィーから魔物が出た理由も、退治されたはずのマイリントアが復活した理由もわかるのではないかと。


 しかし、なぜかトロフィーに混入したコアからは殆どの力が失われていた。マイリントアが出たからだろうか。

 ほんの少しだけ残っているエネルギーから、何かを導けないか、ただただ探るしかなかった。


 昨日、4日眠り続けた公爵令嬢がようやく目を覚ましたと連絡があった。しかしそのあとすぐ、ジルさんの目の前でリーネさんが消えたらしい。


 ジルさんから、狂いそうな様子でリーネ嬢を探して欲しいと依頼があったが、世界中から1人の人間を探すなんて無理な話だ。

 善処する、とだけ伝えた。


 探せるものなら探したかった。

 彼女は、私の命の恩人ということになる。

 彼女がいなければ、マイリントアを封印するために私は命を捧げなければならなかった。

 彼女に救われた。

 

 ただ、黒い玉の魔法といい、転移魔法をもっているわけでもないのにいきなり消える行動といい、もう、私の理解の範疇を越えている。

 彼女に会ったら、私のただの知識欲だけで、彼女をどこかに閉じ込めてでも研究してしまうのではないかという不安さえあった。


 私は研究室でコーヒーを飲みながら、リーネさんについても時々考えていた。


 リーネという公爵令嬢。


 兄であるジルと、皇子であるアランが、理由はどうであれ、かなり重きを置いている。

 まだ15歳というのに異常なほどの剣の技術を持ち、しかもマイリントアを退治する魔力も持つ。

 極上の美貌を持ち、しかも公爵の娘という地位もある。

 未来が明るすぎる少女。


「、、、出来すぎじゃないか」

 

 自分が魔力を持ちすぎたばかりに、騎士団長と魔術師の塔の管理と学生指導という3足のわらじを履くことになったように、彼女も何らかのものを課せられるかもしれないけれど。

 持たない人に比べて、なんという力。

「可哀想に」

と思うのは、やはり自分と重ねているからか。


 自分もできることなら、何も考えず好きなだけ魔術の研究をしたいのだけど。

 そういうわけにはいくまい。


 せめて。

 せめて命の恩人である彼女には、自由に、彼女のように生きて欲しい。


 そのためならーーー。


 そう思った時、壊れたトロフィーの中から、青黒い煙が漏れ始めた。臭いを嗅いで、私はすぐに手で鼻と口を覆う。

 毒だった。それも強力な。一般の人なら即死してもおかしくないほどの。


 なぜ急にそんなものが。


 私はすぐに、自分に強力な解毒と毒防御の魔法をかけて、もう一度、トロフィーの欠片を見つめた。


 青黒い煙はまだ出続けている。これは一体。


 すると、何やら声が聞こえ出した。

 声はボソボソと小さく、何を言っているかわからない。2人の声が聞こえ、どうも喧嘩をしているようだった。

 トロフィーから喧嘩する2人の声が聞こえる状況というのは、どういうことだろう。

 それにしても、1人の声はどこかで聞いたような、と思った時に、ピンときた。

「リーネさんの声ですか?」

「んーーー!ここを開く!!」

 声が重なった時、何かが繋がった気がした。

 そしてごっそりと私の魔力が持っていかれた。


 すると、青黒い光の中から、急にリーネさんが飛び出してきたのだ。

 私に向かって飛び出したので、私はその姿を支えるようにして、後ろに倒れた。

「きゃあ」

 どさり、と床に転がって、私は床で頭を打った。

 ーーー痛い。


「ケリー先生?」


 私の上に被さる形で声を出した少女は、私の存在にかなりびっくりした様子だった。

 私がリーネさんの様子を確認しようと頭だけ浮かせると、リーネさんは、ほぼ裸に近い服を着て、私の腰の上に座っていた。


 ◯✕△✕◯△✕??????


 こんなに頭がショートしたのは、生まれて初めてのことだった。


 なぜリーネさんが、破れまくった下着のような服を着て私の上に乗っかっているのだ???


 自称、女性に興味がないという私は、別に優先順位で魔術が上なだけで、本当に女性に興味がないわけではないのだ。


 少女とはいえ、こんな裸同然で接近されたら、いくらなんでも困る、、、と思いながら、リーネさんの身体から目を反らすために、うっかりリーネの顔を凝視してしまった。


 困ったように上目遣いで私を見てくるスカイブルーの瞳。はらりと私の胸に流れる白銀の瞳。

 眩暈がするほどに溢れた魅力。心の大切なものを吸い込まれそうだった。


 ぶわっと私の中の何かが限界を超えた。

 やばい。意識が飛びそうだ。


 この状態になって初めて、アラン皇子が死に物狂いで魔法を覚えていた理由を理解した。


 これか。リーネの異常な魅力。

 リーネさんの魅力を甘くみていた罰だ。


 急激に魔力を奪われて魔力も残り少なかったが、すぐに私はアラン皇子の願いで開発して教えた魅力減退の魔法を自分のために唱えた。


 生徒の前で倒れるわけにもいかず、正常であるふりをして、リーネさんに私が着ていた白衣を渡して立ち上がった。


 魅力を1/10以下にしてもリーネさんは眩しかった。もっと遅く魔法をかけていたら、今頃私はこの床で意識を消失していたことだろう。なんて恐ろしい。


 私は、リーネさんに、心配している公爵家の人達に連絡することを伝えて、くらくらする頭を押さえながら部屋を出ようとした。


 リーネさんの眩しさに紛れて気がつかなかったが、よく見ると、リーネさんの横に、ハリネズミのようで虎の顔をした小さい生き物がいることに気づいた。


 どこかでみたことがある気がする。

 ドアを開けて、考えながら、ドアをゆっくり閉めた時、思い出した。


 あの姿。

「マイリントア!!!」


 ーーー私は、結局、その場で意識を失った。

 


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