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悪役令嬢、街に行く

ハチに乗って、街までやってきた。


さすがに街の中に乗馬したままでは入れないから、手綱を引いて、街の門を潜る。

 私はメイドの格好をして、頭にニット帽、首にはマフラーを巻いて顔をわからないようにしていた。一見、怪しく見えるかもしれず、門には警備員もいたが、私がグランドロス公爵家の紋章を見せると、あっさり入れてくれた。


街は活気に溢れていた。

行き交う人々の顔はみんな、笑顔だ。

並ぶ屋台からは、あちこち元気な声が飛び交い、買い物をする人達とも楽しそうに話をしている。


そうそうーーーこれよこれーーー。


心の中で歓喜している私は、自分がこういう賑わいを求めていたのだと痛感した。

公爵邸で閉じこもって道化師を見てる場合ではない。こうやって色んな人を見て、混じって、好きなものを買って。好きなものを食べる。それがしたかったのだ。


 ウキウキしながら、私はポケットに手を入れる。

 お金は持っていなかった。1人で外出することがないから、お金も必要ないと、もらえていないのだ。

 だから、まずは換金する必要がある。


私は自分の持つ宝石の中でも地味な方のものをいくつか持ってきており、それを懐から出した。


換金所の場所を聞いて、そこに足を踏み入れる。

街に入ってからまた暴れて嫌がるハチは、換金所の前の馬小屋に入れてもらった。


西部劇に出てくるバーみたいなところで、ちょっと廃れた感のある建物に、すぐに壊れそうなテーブルがいくつか並んでいるだけの場所。

あとはむさ苦しい男どもがチラホラと点在していた。


どうも、ギルドというところと併設しているらしい。


換金所のカウンターにいくと、厳つい顔の、もじゃもじゃした髭面のおじさんが私に声をかけてきた。

「今日はどうしたんだい」

 私は予行練習してきた台詞をそのまま読んだ。

「お嬢様から換金を頼まれてきたの、これをお金に替えてほしい」

ジャラ、と宝石を出すと、厳ついおじさんが目を見開く。それを手に取って、光を透かせてみせた。

 そして困ったように眉を下げる。

「、、、まいったな、本物じゃねぇか」

それだけで、周りがざわりと揺れた。

「まじかよ」

「あの大きさで本物?」

 ーーーー嫌な予感がした。


 髭面のおじさんは、テーブルに肘をつき、私に向かって身を乗り出してきた。

「お嬢さん、あんたどうも身なりが良いようだが、1人で来たのかい?そりゃあ不用心ってもんだ」


「身なりが良い?はは、そんな馬鹿な。こんなボロボロのメイドの格好してるのに。私は本当にお嬢様に頼まれただけで」


ふむ、とおじさんは顎髭を触る。

「まず、姿勢が平民の俺達と違うなぁ。貴族様と平民はなぁ、身体の成り立ちから違うんだよ」


あれ、貴族様って言ってるけど。


「あとな、靴が失敗したな。服はメイドのを借りたんだろうが、靴まで気が回らなかったんだろ?普通のメイドは、そんな特注品の革靴なんて履かないんだよなぁ」


ーーーこんな靴ってどこにでもあるんじゃないの?前の世界では、どこにでも普通にある靴のような気がするんだけど。


「グランドロス公爵家の紋章持って、高価な靴を履いた、宝石の価値さえ知らないような貴族のお嬢様。そして、その隠れてるようで隠されてない瞳。俺の知る限りそんな人はただ1人ーーーー」


厳つい髭面のおじさんにじとりと見られて、私は何やらおかしな汗をかきだしていた。

周りの雰囲気もおかしい。

平穏な感じでないのは肌で感じ取れる。


「あ、あっれぇーーー。困ったなぁー。お嬢様に言われてた宝石と間違ったかなぁーー。ははは。これは戻って、お嬢様と相談しないとーーーー」


大きめの声で言ってみたけど、そこにいる誰も、笑ってくれなかった。

みんな、都合の良い獲物を狙う目をしている。


ここって公爵領じゃないの?

公爵領で公爵のお嬢様がお忍びしてたら、絶対誘拐されるの?何で?


「おいーーーー」

カウンターの髭面おじさんが私に手を伸ばしてきて、私がぎゅっと目を閉じて身構えた時、そこ横から、すっと影が動いた。


「リーネ様。探しましたよ」


ゾッとするほど良い声をした青年が、私を守るように前にでてきた。男を見上げると、まだ僅かに幼さの残る顔立ちではあるが、控えめにいって、女性の100人中94人は惚れて、5人はストーカーになるほどの美貌の持ち主だった。ショートカットの透き通る金髪に紫の瞳。


騎士ともまた違う格好をしているが、どこかの貴族の人間であることはわかった。


この人は私の名前を知っている、、、。


「そ、そう。じゃあ仕方ないわね。帰りましょう」


カウンターの男は、目の前にいる人間が誰なのか知っているようで、唖然としている。しかし他の男らは、自分の獲物を邪魔されたとばかりに、おいおいと言いながら柄が悪そうに私達の周りに集まった。


「俺達はそのお嬢様に用があんだよ」

「俺達には用はない」

言って、美貌の主はスラリと剣を抜いた。

それを見て、一気に男達に殺気が走る。

「おう、兄ちゃん、やるってのか」

「ちょ、ちょっとちょっと、ここは抜剣は禁止されてますよ。ここは抑えて」

後ろから、黒寄りのグレーの髪の優男が間を割って入ってくる。髪を長くしている割に、真面目そうな顔立ちだ。

顔は金髪の青年よりは劣るが、そこらの男の10倍は整った顔をしている。ただ私の兄であるジルよりも下ではある。絶世の美青年といわれる兄と比べる方が悪いか。


「ちょっともうー。ほんと、止めてくださいよ。何かあったら責任取るの私でしょうーーー」

「そんなの知ったことか。それより、ここのご令嬢が誘拐させそうになってるんだぞ。放っておけるか」

ようやく私の存在に気づいたらしいその人は、私の顔をみてすぐに、

「リーネ様?」

と言った。


 なんか私、すごくよくバレる。


ーーー変装してるはずなんだけどなぁ。


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