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悪役令嬢、モンスターと戦う

 控え室を出てフロアを抜けると、スタジアムはかなりの盛り上りをみせていた。


 2回戦全てが終わり、準決勝のメンバーが決定した。リンドウ国のメンバーは、ケリー先生の予想通り、私達とスミレ&ロジーチームしか残っていなかった。


 私とアラン皇子はステージの端で、スタジアム全体を眺める。

 トロフィーは、アナウンスと解説を行うメインテーブルの横に置いてあり、奪おうとしたらすぐに奪える位置にある。けれど。


「あんなに簡単に盗れる場所にあるなんて、おかしいですわ、よね?」

「トロフィーは例年、あの位置に置いてあるから、なんとも言えないな」

「罠の可能性も」

「どうかな。とりあえず回収だ」

「仕方ないですわね。ケ・セラ・セラ、ですわ」

「なんだ?その言葉は」

「ふふ、魔法の言葉です」


 笑って真っ直ぐメインテーブルの方に進むと、警備員にすぐに止められた。

「貴様ら、一体何を」

 その男をアラン皇子が瞬時にひっくり返す。

 一回転して背中を打ち付けた男に、アラン皇子は剣を突き付け、威圧的な声を落とした。

「誰に向かってその言葉を吐く」

 倒れた男の仲間が、ざっと駆け寄るが、アラン皇子の姿を見て萎縮した。

「誰とは、、、はっ貴方様はまさか」

「アラン殿下」

「いや、しかし殿下とはいえここは侵入禁止と皇帝より仰せつかっております」

 それぞれが言いながらアラン皇子を止めようとするが、アラン皇子は気にせず突き進んだ。屈強そうな男達だったが、まだ16歳のアラン皇子に力負けして押し返される。


 王族は能力が他より特別抜きん出ているというのは、本当なんだと実感してしまう。


 周りが私達の騒ぎに気付き、ざわつき始めていた。

 各国の要人達も、チラチラとこちらを見ている。

 ただの確認のための回収だけならどうにかなるだろうが、揉め事は今後の国交に傷をつけるかもしれない。


「アラン殿下、早く行きましょう」

 声をかけて、私達はトロフィーまでの距離を縮める。


 すると、見知らぬ男がトロフィーと私達の間に滑り込むようにして、トロフィーに背を向けた。

 顔は可哀想になるくらい真っ青だ。


「な、な、なんで来るんだよ。まだ、まだその時じゃないだろうが。お、お、お、オレ、まだ。ーーーまだ」


 トロフィーを守ろうとしているのはわかる。

 だが、何を言っているのか全くわからなかった。


「そこをどけ。邪魔するとろくなことにならんぞ」

 アラン皇子の言葉に、男は真っ青を越えて真っ白になっていた。


 よくみると、その男の服はボロボロだった。汚れても洗えず、ずっと同じ服だけを着ているような。


「お、お、お、おれ。まだ、まだ、まだ死にたくなんて、ああぁーーーーーっっ!!!」


 気が狂ったようにして、男は急に、トロフィーの方を向き直り、手のひらサイズの小さいナイフを取り出して、そのトロフィーの中央にナイフを突き立てた。


 すると、トロフィーの中から、青黒い光が溢れでてくる。


その光が、アラン皇子の方に伸びていくのに気付き、私は思わず、アラン皇子を突き飛ばした。

「アラン殿下っ!!!!」


 瞬間。


 ドン、と地響きが聞こえた。

 近くにいた人達が一斉に悲鳴をあげる。

 

 地響き、だと思った。

 それは、モンスターの足音だった。


 2階建ての家よりも大きい、ゴリラに似ている深緑の毛色をしたモンスターと、電波塔かと思う大きさの、真っ黒の鳥のモンスター。


 突き飛ばす前のアラン皇子が居た場所は、ゴリラ似の魔物の足の圧によって、10センチ近く窪んでいた。人間が下敷きになっていたら、ひとたまりもないだろう。


「ーーーっ、あっぶねぇ、、、」


 あまりに驚いたのだろう、尻餅をついて目を見開くアラン皇子の口調が砕けていて、こんな時なのに、少し可笑しかった。


「大丈夫ですか?」

「ーーー助かった」

 私が伸ばした手をアラン皇子は掴み、私はアラン皇子を引き上げた。


「、、、こいつら、トロフィーから出てきたな」

「トロフィーから出てきましたわね」


 お互い確認して、トロフィーを見る。

 トロフィーに穴を開けた男は、逃げることもできず、モンスターに押し潰されていた。

 死にたくないと言っていたのに。

「どういうことだ。トロフィーにモンスターを隠せるのか」

「でも最終的に作ったのはケリー先生ですわ。これだけ大きなモンスターを隠し入れていたら、さすがに気付くのでは」

「じゃあ一体なぜ」


 今度は電波塔のような鳥が口を開き、火炎放射器顔負けの炎を口から吐き出していた。

 あまりの威力で、鳥の周りに火の大きい半円ができる。

 キャンプファイヤーでこの大きさの火は見たことがあった。風が吹いて炎が高く舞い上がる。


「ーー今は何故かという議論をしている場合ではないかもしれませんわね」

「そうだな」


 私とアラン皇子は、2人とも剣を抜いて構える。


 1体で中央ステージの半分くらい占める大きさをしており、ゴリラが地を叩くと地面が割れ、鳥は数分で全てを焼き尽くす勢いだった。


 闘技会といえど、観客の方が何十倍、何百倍と多いこの会場で、巨大なモンスターと戦える人間は何人いるだろうか。

 

「俺達がやるしかない」

 アラン皇子が、片方だけ口の端をあげて、そう呟いた。

「わかりました」

と私は答える。その途端、私はゴリラに殴られた。

 瞬時に避けたが、左腕だけ逃げきれなかった。

 腕が折れて、だらりと腕がちからなく垂れ下がる。

「ああぁっっっ!!!」

「リーネ!!!」

 アラン皇子が私に駆け寄ろうとしたけど、私はそれを制した。私に構う余裕などない。


 アラン皇子に貰った鎧。

 変なプライドなど気にせず着てくればよかったとつくづく思う。あれならきっと、今の攻撃も防げただろう。


「気にしないで。こんなの、かすり傷です」

「明らかに折れてるだろうが」

「気のせいです!!!」

 言いきって、私は右手で剣を構えた。


 すごく痛い。

 すごく痛いけど、ここで痛がってたら、きっともっとすごい痛みが伴う攻撃をされるだろう。


 私は倒れたテーブル近くに落ちていた、テーブルクロスを破って折れた腕に巻いた。それを更に首にも巻いて固定する、折れた腕がブラブラしたいたら、動きの邪魔になるからだ。


 私は叫び逃げ惑う人達をくぐり抜け、飛び回る巨大鳥の胸に剣を突き刺した。振り払い、そのまま鳥の片方の羽を叩き斬る。

 巨大鳥が悲鳴をあげると、おお、と周りの人達が歓声をあげた。

 巨大鳥がバランスを崩したのを見て、そのまま反対の羽も切り離す。

 両方の羽の付け根から、大量の血が流れていく。


 巨大な鳥が濁った叫び声を上げて身を捩る。

 苦しみで首を振って少し頭をもたげた時に、スパンとその首を切り落とした。


 どぉんと地を揺らして巨大鳥が倒れた。

 首を斬られたため、鳥は痙攣を起こしながらじわりと息絶えていった。


 わぁっと歓声があがる。


 私はすぐにもう一体のゴリラを視界にいれた。

 少し離れた場所にいるのに、ゴリラは大きすぎてすぐ近くにいるように感じる。

「アラン皇子は」


 アラン皇子を探すと、ゴリラ似の魔物を倒すために集まった兵士達の前方で、ケリーと並んで戦っていた。


 ゴリラは1000年級の丸太のような腕を激しく振り回して、誰もゴリラに近づけない。どうにか攻撃しても、身体が硬すぎて傷つけることができないようだ。


 ケリーは数えきれないほどの火の玉をゴリラに投げつけるが、ゴリラはびくともしていなかった。


「ケリー先生っ!」


 私が近づくと、ケリー先生は私の腕を見て驚いた顔をする。

「リーネさん、その腕は」

 テーブルクロスで巻いているから怪我したことだけで、状態まではわからないだろう。

「こんなのかすり傷です」

 にっ、と笑うと、更にケリー先生は悲しそうな顔をした。ケリー先生にはわかるのだろうか?

 私は誤魔化すように、ケリー先生に尋ねた。

「それより。魔法攻撃も効かないんですか?」

「あのモンスターは、ラバンといって、氷属性の魔物なんです。物理防御能力が強すぎるから、炎属性で対応するのが普通なんですが、全く効かない」


 ゴリラじゃなかったのか。


「似てて違う種類とか。突然変異とかでは?」

 私が言うと、ケリー先生は火炎系の攻撃を続けながらも、考えているようだった。

「、、、なるほど、確かに。よく見ると、毛色がラバンより緑がかっているように感じます。ラバンは青緑なので」


 目の前のゴリラ風ラバンは、深緑をしている。


「では、突然変異と信じて、他の属性も試してみましょうか。魔物と同じ属性で攻撃したら、下手すると吸収して回復されてしまいますが」

「今の火炎系で攻撃を続けるよりはマシなのでは」


 ふふ、とケリーは笑う。

「確かに。では行きましょう。まずは雷」


 ドン、と晴天の空から雷がラバンに落ちる。


「ぐわぁぁ」

 火炎系よりは効いたようだが、まだすぐに立ち直る。


「次は氷」

 ラバンの身体が氷に覆われる。

 パリン、とすぐに壊された。


「水」

 ざばっと何もないところから水が押し寄せてきてラバンに勢いよく当たる。

 何やらラバンは気持ち良さそうだった。


「ケリー先生。四属性全て使えるなんて、さすがですね」

「光属性は使えませんけどね」

「なかでは一番、雷が効いていたように思います」

「私もそう感じました。では雷でいきましょう」


 ケリー先生がブツブツと呪文を唱える。

 晴天だった空が、一気に曇天になっていった。

 その雲の中で、黒い部分からバチバチとした音と共にあちこちで光って見える。


 見上げたアラン皇子とともに、私も冷汗をかきはじめる。

「ーーーおい、あれ、もしかしてかなりやばいやつなんじゃないか」

「アラン殿下もそう思われますか?私も何か、うすら寒いものが」


 まだブツブツ言っているケリー先生の身体も、だんだん光っていっている。空気が震えているのを感じた。

 次第に黒い空とケリー先生の身体から発する光が一本で繋がる。


「雷究極魔法『グランドサンダーボルト』っ!」


「やばい。リーネ!逃げるぞっ」

 アラン皇子が私の手を引き、後ろに下がろうとしたが間に合わず、アラン皇子が私に覆い被さる形で地面に沈んだ。


 刹那。


 空一面の黒い闇から無数の雷がラバンにむけて落ち続ける。その様子はまるで夏の花火のようだった。


 何分経っただろうか。

 

 ようやく光が収まった頃、黒焦げになったラバンが、目を白くして、その場で倒れこんだ。


 私もアラン皇子も、苦笑するしかない。

「ケリー先生も、顔に似合わず容赦ないな」

「溜まったストレス発散にも見えましたわね」

「ーーートロフィーの件でだいぶストレス溜まっていただろうからなぁ」


 ラバンが動かなくなったのを確認して、私達は立ち上がり、ケリー先生に近づく。


「ケリー先生」

 私達が傍に寄ると、ケリー先生はいつものように、優しく微笑んで口を開いた。

「アラン殿下。リーネさん。無事でしたか」


「無事では済まないかと思ったけどな」

「ラバンは倒せたんですの?」

「そう思いますが、、、あ、段々コアになっていきます」


 倒せたのだ。

 良かった、と、息をつこうとしたその時、遠くから、ロジーの声が響き渡った。


「リーネ!先生!まだだ!!トロフィーがっ」


 倒れたテーブルの下。転がったトロフィーの、ナイフで開けられた穴から、また青黒い光のようなものが溢れでていく。


「まだ終わらないのか???」

「あぁっ!!!」

 何もいなかったはずのスペースに、2階建てくらいの大きさの恐竜が2頭出現している。


 でてきてすぐに、近くにいた兵士の2人が頭から齧られた。

「うわぁあぁぁ!!!」


 また辺りに悲鳴が響き渡る。

 食べられた兵士の仲間は泣きじゃくりながら、恐竜に剣を振り回していた。


「あのトロフィーからモンスターが出続けるのか」

 アラン皇子が言う。

「このままじゃずっと」

 私が言うと、アラン皇子はトロフィーを指差した。

「トロフィーを壊せ」

「でもそしたら魔術師の塔のコアが」

「構いません」

 ケリーが大きな声を出した。

「先生」

「コアはトロフィーに混入しているんです。壊してもトロフィーが有る限り、コアを抽出できます」


「では」

「早くトロフィーを」


 私達がトロフィーに近づこうとした時、トロフィーが震え、今までで一番大きな青黒い光が一面に広がった。


「しまった!またっ」


 また家くらいの大きさのモンスターが出る。

 そう思ったのだが。


 トロフィーからの青黒い光が消えた時。


 ーーー目の前に出現したのは、スタジアム全体を覆うほどの、山のような大きさのモンスターだった。


 姿はライオンに近い。


 だが、その毛は全て鋭い刺になっていて、口元に伸びるクレーン車のように巨大な牙は、誰をも寄せ付けない風格を醸し出していた。

 今までのモンスターとはまるで比較にならないほどの圧を、このモンスターからは感じる。


「あれはまさか、、、そんなバカな、、、」

 ケリーの手が震える。

「伝説級のモンスター。マイリントア」


 意外と可愛い名前。


「魔術師の塔で管理しているコアの、倒す前の本来のモンスターです」

 ケリー先生が、倒れそうなほど真っ青な顔で、呟いた。

「、、、あのモンスターを倒すためには、一万の兵士と一千の魔術師の命が必要なのに、、、」


 なるほど。

 私はマイリントアを見上げる。


 ものっすごくピンチだということだけは、私も理解できた。




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