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悪役令嬢、闘技会でアラン皇子と語る

 闘技会は、各国4組ずつ選抜して出場する。

 そして4つの国が集まるため、計16組がトーナメント戦で争うことになっている。


 アラン皇子&私のチームと、スミレ&ロジーチームはあっさりと2回勝ち上がり、準決勝までたどり着いた。

 

「なんだ。他の国はたいしたことないな」

 準決勝までいくと、それぞれのチームに控え室が与えられる。その中で、アラン皇子は簡易的な椅子に座り、出された冷たいハーブティーを上品に啜る。


「アラン殿下。個室とはいえ、どこに他国の諜報部員がいるかわからないのですから、そういう言葉は控えた方が」

 皇子の横に座るわけにもいかず、アラン皇子の傍で立っている私が言うと、アラン皇子は目を細めて笑う。

「俺の婚約者は常識がないと有名だったが、それを言ったやつらの方が常識がなかったのかもしれないな」

「、、、いえ、わたくしの考え方が変わっただけですので、その方々の言っていたことは正しいかと」


 私が少し俯いてそういうと、アラン皇子は、すっと笑顔を消す。

「ーーー模範的すぎて、面白くないな」

「は?」

 私は首を傾げる。

「ーーー笑わないのか?」

 アラン皇子は真面目な顔をしてそう口に出す。

 わけがわからない。

「何か面白いことがあるわけでもないのに、笑うはずがないでしょう」


 私が眉間に皺を寄せると、アラン皇子は少し何か考えて、明らかにブスッとしてみせた。


 何が言いたいのか、全くわからないし、理解に苦しむ。早く次の戦いの時間にならないかな、と思っていると、アラン皇子はまた口を開いた。


「贈った鎧はどうした、今日は着てこなかったのか?」

「あれは特別仕様ですから。他のどの鎧より頑丈ですし、防御魔法もこれでもかとばかりにつきまくっています。あの鎧を着るのは反則かと思い、置いてきました」

「みんなそれぞれ何か工夫してきている。気にすることもないだろう」

「国宝級でしょう、気にします」

 私もアラン皇子を真似するようにブスッとしてみせると、アランはようやく表情を緩めた。

「そうか。そんなに固い頭だと、これから相当苦労するだろうな」

 優しい顔のアラン皇子。

 それだけで卑怯だと思う。格好よすぎて。

「余計なお世話ですわ」

 ぷい、と怒ったふりして顔を背ける。


「そういえば、リーネ嬢。お前はあのトロフィーについてどう思う?ケリー先生は、自分がいない間に魔術師のコアを混入されたと言っているが。そもそも魔術師の塔に入れる人間が限られているのに、そんなことがあるだろうか」

 アラン皇子は椅子から身体を捩るようにして私の方に顔を向けている。

 そうですわね、、、と呟いて私は考える。


 正直、魔術師の塔に行ったことがないから、その出入りについて聞かれても全くわからない。

 問題は、コアを混入させた、ということにあるだろう。コアを混入させることで、何か効果があるんだろうか。

 それがないなら、ただ誰かがうっかりコアを入れてしまったのかなと思うんだけど。


「そもそも、コアを混入させて、何か起こるものなのでしょうか?あれですわよね、ダンジョンでモンスターを倒したら手に入る、あのコア。それが混入したくらいで、そんなに大袈裟にしなくてもいいのではとしか」

 ふむ、とアラン皇子は自分の顎を撫でる。どう説明しようかと考えて、少し上を向いた。


「魔術師の塔のコアは、また別物だからな。、、、公爵領のダンジョンがあるだろう?今はまだ、12階までしか攻略されていないはずだが」


 私もそう聞いた。


「その12階のモンスターが3階あたりで出るダンジョンのーーーつまり、ダンジョン自体のレベルが高い場所の、最下層で出たモンスターのコアが、魔術師の塔の保管するコアなんだ」

 

 なるほど。

 ものすごいコア、ということでいいかな。


「そのコアを魔術師が管理して、パワーを制御する。そして皇国下の龍脈を通していくことで、皇国の全体に魔力を流す仕組みを作っているんだ。ケリーがいてこそできる仕組みではあるが、それによって国が潤っていると言っていい。その事を充分理解しているケリーが犯人であるはずもないし、それだけの大事なコアだ。誰かがうっかり混入するということもないだろう」


「つまり、、、?」

「つまり、誰かがわざと、トロフィーにコアを混入させて、何かを起こそうとしているんだろう。コアには色んな力が備わっている。実際、今コアで色んな事に使っているが、その能力はまだ5%しか解析されていないと言われている。残り95%で何ができるのか、、、未知の範疇で、全く予想がつかない」


「なるほど。では、もしそのトロフィーにコアを混入させた人がいるかもしれないとして」

「いるんだ」

 口を挟むアラン皇子。

 いちいち五月蝿いな。

「っもうっ。混入した人がいて!」

「それで?」

「その人は、少なくともコアの5%以上の能力を把握している、ということですわね」


 私が言うと、アラン皇子は、少し黙って、

「ーーーそういうことになるな、、、」

と呟いた。


「魔術師の権威ケリー先生でも知らないコアの秘密。ーーーそんなの、研究者とか、本当に限られた人にしか。ケリー先生より上の人なんて、いるのかしら」


「ケリーよりも上、か」

「でももしいるなら、ケリー先生もすぐに気付きそうですけどね。そうならないということは、ケリー先生以上にコアに詳しい人なんて」

 は、とアラン皇子が目を見開いた。


「ケリーの師匠がいる」

「?」

「もうだいぶ高齢で、隠居生活をしているらしいが」

「そんな人がさすがに塔には」

「皇帝が、俺の父が、そういえば数週間前、その人のいる土地の方面に急に訪問したことがあった。お忍び扱いで、特に公にはされていなかった」


「皇帝が?なぜ」

「いや、今回、父が言ったようなんだ。トロフィーがすぐにできないなら、金属にコアを入れて作ればいいって。コアを入れると金属が安定しやすくなるからそう言ったと思っていたんだが」


 考えて。

 アラン皇子は立ち上がり、控え室から出ていこうとする。

「アラン殿下。どちらへ。準決勝はもうすぐ始まります」

「それよりもトロフィーだ。嫌な予感がする。今、このスタジアムには、各国の要人が集まっている。取り返しのつかないことになる前に、トロフィーを回収する」

「お待ちください、アラン殿下」


 トロフィーの回収。それができないから、ケリー先生がせめて優勝するように、私達に頼んできたんでしょうに。


 そう言おうとするが、きっとそのことはアラン皇子も理解している。それでも、きっと、決勝を待たずにトロフィーを回収しなければならない何かがあると思っているのだろう。


「そうだ」

と、アラン皇子は、私を振り返った。

「リーネはここに残るといい。俺は1国の皇子だが、お前はそうではない。何かの罪に陥れられたら、お前は助からないかもしれないぞ」


 私はアラン皇子を追う足を止める。


 なんでこんな時に、そんな優しい言葉をかけてくるんだろう。

 普段はわがままで憎たらしいくせに。


 ーーー私は、破滅するのが嫌で。

 死にたくないからずっと努力してきたわけで。


 ここでアラン皇子の言うとおり、待っていたら、無事に物語を終えることができるかしら。

 無事に終えたら、私は幸せになれる?


 ーーーーーー否。


 弱気になっていた自分の考えを否定する。

 私。

 この『リーネ』が。

 悪役令嬢の私が。

 守られた子猫のように、未来に怯えて、1人、部屋でじっとしている、ですって?


 ーーーーそんなこと、あるはずないでしょう。


 私は早歩きでアラン皇子の傍にいき、その姿を追い抜いた。置いていったはずの私に追い抜かれて、アラン皇子はポカンとする。

「ーーーおい」


 追い抜いたアラン皇子の真似をして、踵を返す。

「、、、アラン殿下。先はど、何とおっしゃって?」


「?」

「アラン殿下の婚約者は常識がないとか。そうでしたわよね」

 私は目に、力を込める。アラン皇子は、わずかにたじろいだ。

「、、、確かに言ったが」

 私は、口元をきゅっと吊り上げた。


「その通りなのです。わたくし、常識がございませんので、アラン殿下の助言も無視しますし、闘技会で必需品のトロフィーも欲しくなったので遠慮なくいただこうかと思いますの。もちろん、わたくしが欲しいだけですもの。誰の許可も必要ありませんわ」

 に、と笑うと、アラン皇子は、目をまんまるとさせたあと。


「ーーーこれは、予想以上にぶっとんだ令嬢だな」

と、アラン皇子は楽しそうに笑った。



 

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