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ロジーサイド~ボクの太陽~

 僕はロジー、と呼ばれている。


 ロジー・サンジェルスという名前はあるけど、とりあえずつけられたもので、僕は本当はただのロジーでしかない。


 小さい頃、捨て子だった僕は暗殺ファミリーに拾われて、運動神経が飛び抜けて良かったから、そのまま育てられた。


 一緒に拾われた子供が、使い物にならなくて次々に施設からいなくなるのがとにかく怖かったけど、6歳になる頃にはそれも麻痺して、気にならなくなった。


 人の命を実践で初めて奪ったのは、7歳の時。

仲間同士で剣を持たされた。

 その時のナイフの感触は、今でも思い出せる。


 それから本格的な訓練が始まって、もう8年の月日が流れる。

 訓練は想像以上に過酷で、死んだ方がマシだと思うことは数えきれないほどあった。それでも身体は生きたいようで、僕の命は残り続ける。

 奪った命の数は、もう数えることさえしていない。今となっては無意味な作業だ。


 暗殺の訓練は、15歳で終わりを迎える。

 訓練修了し、初めてのボスの命令が、コレだった。


『聖女の命を密やかに奪え。邪魔するものがいたら、その命も奪って良い』


 ただの平民である聖女の命を奪うなんて、蟻を潰すより簡単だ。

 でも『密やかに奪え』というのが厄介だった。

 闇雲に、隠れて殺すのとはわけが違う。


 聖女は国の宝だ。

 王族、教会、各国の要人まで、様々なところから狙われている。

 聖女はそれほどに使い勝手が良い。


 それと同じくらい、聖女を邪魔だと思う人がいるというわけだ。


 だが、滅多に出現しない聖女。

 その聖女を必要とする輩は、もしその命を奪おうものなら、躍起になって黒幕を暴くだろう。


 失敗は許されない。

 そして、決して、依頼者が誰かと知られてはいけないのだ。


 僕は、そういうわけで、魔法学園に入学することにした。聖女の傍にいき、聖女の周囲を知ることで、その隙を見つけることができるだろうと。


 そもそも聖女は学園の寮に入っている。

 学園は、危険人物は入れない魔法にかかっている。どういう仕組みか知らないが、危険思想があればその段階で弾き飛ばすらしい。つまり学生か学園の講師しか聖女に近づくことができない。

 学園の仕組みも外には極秘事項とされており、外から判るのは、入学の試験内容と、合格ラインだけ。


 僕は一旦、聖女暗殺のことを忘れるように自分自身をマインドコントロールして、学園の試験を受けた。聖女暗殺ではなく、聖女に近づくだけを目的とすることに、思考をチェンジする。


 聖女暗殺のタイミングが来たらまた思考を変更できるように念じる。それで、僕は学園の防御魔法内に入れるようになった。


 それでも僕の正体を知られてはいけないので魔法試験合格ギリギリの点数を取ったら、剣術優位タイプの学級に入れられてしまった。

 聖女はガチガチの魔法タイプの特待生なので、僕のクラスとは真逆だった。


 しまったな、、、と、どう近づくべきか悩んでいたところで、同じクラスの公爵令嬢が、不可解な動きをしていた。僕をチラチラと見てくる。

 僕の事を気付かれたとはさすがに思わないけど、意識して見られると、染み付けられた体質上、相手を不審者と判断して殺したくなる。


 だが授業中だ。


 しかも魔術師の権威、騎士団団長のケリーが、特別講師としてクラスにやってきていた。黒板に何か小難しい魔方陣を描き始めたと思ったら、途中からクラスメイトの様子がおかしくなっていった。

 ぼんやりとして、周りが見えなくなっているらしい。

 精神操作魔法か。


 僕はそういう類いのものは絶対にかからないように訓練されたから全然平気なんだけど、ケリーは黙々と、その強力な精神魔法を更に強固にするため、黒板に魔方陣を次々追加していく。


 さすが魔術師の頂点にいる男。


 これでは普通の人間どころか、多少訓練した人でさえ、ひとたまりもないだろう。


 しかし。


 問題は、それを全く気付いても意識もしていないで術にかかることなく、僕をチラチラ見続ける公爵令嬢だ。


 僕を見るということは、僕がまだ見えているんだろう。なぜ僕を見るのかは別として、僕が殺気を出す度にビクッとなる。なのにまた見てくる。少し可笑しくて、変な娘だと思った。


 結局、精神操作魔法はケリーが、ギルドでこっそりと登録して世界最短記録でDランクに登ったリーネへの試験だったわけで、ついでに僕も、強力な幻影魔法にかからなかったということで試験を合格させてもらって、運良く特別クラスに編入させてもらえることになった。

 聖女と同じ、特別クラスに。


 あとは、特別クラスで普通らしい学園生活を過ごし、少しずつ聖女の周辺を探ればいいだけだった。


 そして、思わぬところで知り合いになった公爵令嬢は、噂とは違い、普通の女の子だった。


 悪魔のような性格と聞いていたのに、特に問題行動を起こすわけでもなく、この世のものとは思えないほどの美貌で、屈託なく笑う。

 表情が豊かで、些細なことで怒ったり泣いたり目まぐるしい。見ていると、すでに失ったはずの感情がくすぐられた。


 僕は初めて『人間らしい』と思える人に出会った気がした。


 リーネの傍は居心地が良く、聖女のことがなければ、このまま学園生活を過ごすのも悪くないな、と思うほどには。


 そして、闘技会の話が出た。


 リーネは、超のつく金持ちのくせに、よくわからないけど食べたいのに食べれないものがあるらしい。


 食べたいものをケータリングしてくれるという景品を欲しがっていたから協力してやりたかったんだけど、ケリーから呼び出された時、アラン皇子からリーネとペアになることを阻止された。


 あれ絶対、リーネのこと意識してるよね、と思うけど、アラン皇子本人もリーネも、そのことに気付いてなさそうなのが不思議だった。

 

 あと、どうも闘技会にキナ臭いものを感じていた。


 短時間でトロフィーを作らなければならなかったケリーの不在時に、皇帝が言っていた『魔術師の塔のコア』がトロフィーに混入され、トロフィーが出来上がってしまったのだという。


 トロフィーができてしまったら闘技会は開催しなければならず、しかし魔術師の塔のコアは他国に奪われるわけにはいかない。

 

 何を目的として、誰が動いているのか。


 闘技会を開催して、リンドウ国が優勝するのが本来の目的であるなら平和に解決するだろうけど、そういうことはないだろう。

 誰かが、何かを起こそうとしていることは、間違いなかった。


 そして、ペアになる人を選ぶ時。

 僕は、聖女と近づく機会を得た。

 

 僕は聖女に聞いた。

 アラン皇子とどちらがいいか。


 聖女の同意が必要だったから。

 そしてどちらでもいい、という『同意』を得た。


 僕のリミットが外れた瞬間だった。


 でもまだだ。

 まだ思考は変えない。学園内は、危険人物は排除される。聖女が隙をみせたその時に。


 僕は、あらゆる『手』を使うだろう。


 せっかくリーネと仲良くなったけど。


「ごめんね」

と、僕はリーネに言った。自分が思うより弱々しい声が出て、僕自身が驚いたくらいだ。

 リーネはそのごめんねの意味を、別のものと勘違いしていたみたいだけど。


 そして、闘技会が始まった。


 青空の下。僕は、かなり手加減をして試合に臨む。

 本気を出したら、人が死んでしまうから。


 聖女であるスミレは、そんな僕に、回復魔法と防御魔法をかけ続ける。


「ロジー。気合い入りすぎてるんじゃない?大丈夫?」

 心配してくる聖女に、僕はにっこりと笑い、全然、と手を振る。

「全く問題なし。ってほんと強いよね!スミレもボクとペアになって正解だと思うよ。このままボク、決勝にいけると思うんだ。スミレもそう思うでしょ?」

「ーーーそうね!ロジーくん、たよりにしてるからね」

 そう笑う、ふわふわのピンクの髪が揺れる。


 スミレも、可愛い子だとは思う。

 でも、僕はリーネの傍がいいな。

 今の空みたいに、真っ青ですごく綺麗なブルーの瞳が、この真っ暗な僕を優しく包んでくれるから。


 リーネが笑うと、その透明な空が柔らかく消えて、代わりに口元の深紅の太陽が、僕のためだけに輝くんだ。


 でも、それを見れるのもあと少しだけ。

 仕方ないけど。


 そんなことを考えながら戦っていると、リーネの声が聞こえた気がして、ちらり、と目を動かした時、ドン、と大きな地震のような振動がスタジアム全体を覆った。


 悲鳴が響き、スタジアムにいた人達が一心不乱に逃げ始めた。

 阿鼻叫喚。

 一体何が、と悲鳴の先端を見ると、スタジアムの中に、巨大なモンスターが数体出現している。


 僕は思考が一旦停止する。


 なぜモンスターがここに。


「どういうこと?あれって、、、魔物?このスタジアムには、危険な存在が入れないんじゃないの?」


 横にいたスミレも、混乱してすぐに動けていない。


「ーーーちがう。『危険な人間』が入れないだけなんだ」

 僕は、知っている知識をスミレに伝える。


「モンスターは人じゃない。だから『モンスターを出現させる何か』があれば、ここにモンスターを出すことは不可能じゃない」


 けど、モンスターは、基本、ダンジョンにいるものだ。地上に出るモンスターもいるけど、人のいるところには出ない。

 少人数ならモンスターが勝つが、人間が多数になると負ける可能性があるからだろう。だから、モンスターは人の集まる場所にはこない。それが常識だった。


「誰かが、ここにモンスターを連れてきたんだ。そして、逃げ出さないところを見て、このモンスターは『多数の人間がいても、負けない自信があるモンスター』ということだね」

 

「そんな。こんなところで強大な魔法も使えない。大多数の人に被害がでちゃう」

 スミレの単純な優しさに、僕は小さく笑う。

「それが狙いなんだろうけど。放っておいても甚大な被害がでてしまうから」

 どちらにしろ、混乱は避けられない。


 困ったな、と僕は思う。


 モンスターを倒す流れなんだろうけど、僕が受けた訓練は対人間のものであって、巨大なモンスターへのものではない。


 それでも他の一般人よりは動けるだろう。

 スミレとともにモンスターに向かうというのも、学園の生徒としてはありなんだけど。


 ボクはモンスターに向けて走り出すスミレの背中を眺める。


 このままパニックに便乗して、目的を果たす、というのも悪くないーーーー。

  

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