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ノクトサイド~闘技会にむけて~

「闘技会?」


 学園の、アラン皇子専用の部屋で、僕は耳を疑った。 

 アラン皇子が笑顔もなく僕に言った。

「毎年のことだろう。各国の精鋭が勝負する」

「それはそうだけど、今年はしないんじゃなかったんですか?各国の情勢が不安定って」

「だが、すると言うならするんだろう。上が決めた事だ、俺に決定権などない」


 この国の皇子が『上』というからには、相手は1人しかいない。アラン皇子が凡庸と称する、皇帝陛下だ。


 僕は皇帝を凡庸とまでは思わないけれど、最近の皇帝は、少し危ういと思う。

 好戦的であり、人の意見を聞かない。

 父である宰相も、最近の下がり調子の国営について何度か提言したようだが、全て却下されたと嘆いていた。


 整備がしっかりしている王都はともかく、整備されていない村などは衰退が著しいと聞く。すぐに兵士を派遣して、問題を解決しないといけないのに、それもせず、中止とされていた不必要な闘技会は無理をしてでも開く。闘技会を開くのに、どれだけの費用と人材が必要になるか、皇帝が知らないはずもなかろうに。


「しかもトロフィー作りは今までは、我が国の魔術師達が長い時間をかけて作ってきたのに、今回は急な話で時間が足りないらしくてな。かのケリー先生が、今回の闘技会はトロフィーができないから流してもらおうとしたのに、『コアを入れてどうにかしたら良い』と言ったらしい」


「コアって、あのコアですか?」

「モンスターを狩って手に入る、あのコアだ」

「トロフィーを作るプラチナを短時間で形成して安定させるのに、どれだけ大きなコアがいると。その金額はどこからでるんですか」

「魔術師の塔にあるコアを使えばいいと言ったそうだ」

「まさかそんな。あれは魔術師の、、、」

「そのまさかだ、あれがなくなれば多くの国民が苦しむ。限りある資源だからな」

「皇帝は何をお考えで、、、」


 しん、と部屋が静まり返った。

 皇帝の不満は、今では息子であっても懲罰に値する。息子でなければ尚更、だ。


 はぁ、とアラン皇子が大きくため息をついた。

「ケリー先生も気苦労が多かろう。心中察するな」

「ーーーそういえば」

と僕は、ケリー先生で思い出して、手をポンと鳴らした。

「ケリー先生が、リーネ嬢とロジーっていう少年を、特別クラスに編入させたそうですね」

「あぁ」

とアラン皇子は頷いた。

「聞いている。ケリー先生の魔術にかからず、才能の可能性を示したとか」

「リーネ嬢は話題が豊富ですね」

「トラブルメーカーだな」

 つん、とするアラン皇子だけど、どこか表情が嬉しそうでもある。

「またまた。アラン皇子、リーネ嬢が認められて、少し嬉しいんじゃないですか?」

「そんなわけないだろう、あの女のために、どれだけ俺が毎日苦労しているか」

「そういって。あの魔法も長距離走くらいのものなんじゃなかったですか?」

「、、、」

 アラン皇子は言葉に詰まる。


「一緒に編入した、ロジーっていう少年と気があっているようですね。最近一緒にいるところをよく見かけます。剣術もかなりの腕前のようで、指南並の技術を持ったリーネ嬢と対等に練習していますよ。彼はそれでもまだ加減しているというか」

「あれは闇の人間、だろうな」

 アラン皇子が口を挟んできた。


「戦い方が独特だ。もちろん多くの技は存在するが、その中でも殺す技術に特化しているように感じる」

「リーネ嬢が狙われていますか?」

「いや、学園の結界に引っ掛かっていないところから、悪意を持って近づいたわけではないだろう」

「じゃあ、ただ仲がいいってだけなんでしょうね」


 僕が笑うと、ぴくり、とアラン皇子の指先が揺れた。

「…ただ、都合上、一緒にいるだけだろう。お互い友達がいなさそうだからな。別に、それ以上でもそれ以下でも」

「リーネ嬢が、よく笑っているところを見かけますよ。魅力減退魔法がかかっていても、さすがあのリーネ嬢の笑顔の破壊力は威力がハンパないですね」

「ーーーリーネが笑顔、、、だと?」

 アラン皇子が目を見開く。


「最近では、リーネ嬢から近寄っていることも多いですよ。彼、上手にわがまま猫をなつかせましたね。この調子では、闘技会が開催された時には、ロジーという少年とペアを組むんじゃないですか。ロジーって子も、美形というほどではないけど雰囲気イケメンというか、自然と目を惹く子なので、闘技会では人気がでそうですね」


 はははと僕が笑うと、アラン皇子は、改めて、闘技会のポスターの下書きをまじまじと見つめた。


「ペアで出場、か」


「本当は個人でも良いんでしょうけどね。男だけだとむさ苦しいからでしょうかねぇ、華やかさ担当というか。毎年男女ペアでの参加なので、今年もそうするんでしょう」

「我が学園は、貴族出の人間が多いよな」

 いきなり何を。


「そうですね、どうしても貴族の方が魔力を多く持ちやすいので、学園は貴族が優位になってしまって」

「貴族だと、親の決めた婚約者がいる人も多かろう。これで他の女性と組むようなことがあれば、確実にもめるな。もめるのが目に見えているのに、対処しないわけにはいかないだろう」


 アラン皇子は、太いマジックを取り出し、広告の下の部分にキュキュっと付け足した。


『婚約者がいる人は、婚約者と出場すること』


「え?なにこれ」

 広告を確認し、アラン皇子を振り返るが、アラン皇子は疲れたように机にうつ伏せになって、目を閉じていた。

「ーーーそれはあくまで一般的な意見だ。色んなことで頭痛いのに、これ以上のトラブルは勘弁して欲しいからな」

 

 いいわけがましいことこの上ない。


「ーーーもしかして、嫉妬ですか?」


 聞いてみたけど、案の定、返事はなかった。

 つまらないことを言うな、という暗黙の返事なのだろうけど。


 ーーーもしかしなくても。

 嫉妬ですよね?


 僕の心の声に、やはり返事はなかった。

 


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