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スミレサイド~物語の始まり~

 私の名前は、坂口菫(すみれ)


 普通に高校に通っていたら、急に異世界にきて、気づけば有名な物語『世界の中心で魔法を叫ぶ』の主役の子になっていた。


 5歳という年齢の聖女の姿になった私は、貧しい家に引き取られ、それからは召し使いのような仕事ばかりさせられた。

 これが、あの有名な物語の主役の子なのだと気づいてなかったら、あまりの辛い環境に、心がどうかなっていたかもしれない。


 6歳でお忍びできたアラン皇子に会い、確信した。世界は物語通りに進んでる。


 それから毎年1人ずつ、それぞれの攻略者に出会えた。毎日の作業も、家の人の虐めのような態度も辛かったけど、未来の事を想うと耐えることができた。


 そして、15歳で私が聖女ということがわかり、特待生としての学園入学が決定した。


 学園は家から遠いため、学園近くの寮に住むことになる。ようやく、本当に辛かったあの家ともおさらばして、私は自由になった。


 あとは、私は幸せになるだけ。

 

 むこうの世界では、大好きな物語だった。

 アラン皇子も大好きだし、ジル様は超かっこいいし、ノクトも可愛いし、ケリー先生も大人の魅力いっぱいだし、ロジーは暗殺者なのに可愛いって、設定やばいし。


 この世界にきてからもう10年。

 正直、どんな話だったか細かいところは忘れてしまったけど、私が幸せになることだけは間違いない。

 素敵な人をしっかり選んで、今までの苦労の分、幸せにならなきゃと心から思う。


 そういうわけで、意気込んだ入学式。


 攻略者のみんなを確認する。その格好良さはあまりに眼福で、それだけで幸せになれそうだった。

 特にアラン皇子はイケメンすぎて鼻血がでるかと思った。


 記憶を辿って予定どおり、庭に出て迷子になった。するとアラン皇子がタイミングよく出てきてくれた。やっぱり、物語ってこうやってタイミングも合わせてくれるものなんだなぁって感心する。


 ただ、ちょっと予定と違ったのが、アラン皇子が私と会った時に、頬を染めてなかったこと。

 庭で会った私に一目惚れする内容だったはず。森の妖精と思ったと、中盤になって告白してくれるシーンが大好きだった。

 なのに、アラン皇子ったら私と会っても、驚くほどにスンとしてて、拍子抜けしてしまったくらい。


 でも、物語では間違いなくアラン皇子は私に一目惚れしてくれるわけだし、ちょっと、わかりにくかっただけよね。

 ゲームと映画ではアラン皇子の雰囲気が違うこともあったし、頬の染まり方も、そういうものなのかもしれない。


 それにしても、リーネよ。あの悪役令嬢。

 

 悪目立ちばかりして、綺麗だという描写はどこにもなかったはずなのに、なんであんなに美人なの?

 あまりに綺麗すぎて、はじめてリーネを見上げた時、泣くかと思ってしまった。心が震えたというか。

 よくわからないけど、胸がいっぱいになってしまった。すぐに落ち着いたけど。


 しかも悪役令嬢のはずなのに、私が転んだら優しく手を差しのべてくるし。いやいや、悪役令嬢が優しかったら、誰が悪者になるっていうの。話が進まないじゃない。

 悪役がいてこそ盛り上がる恋もあるわけだし。ほんと、そういうイレギュラーな行動、やめて欲しいわよね。


 あれはどう解釈したらいいのかしら。


 優しいふりした悪魔?

 今までにないテイストで攻めたかったのかしら。こういうのって、総監督が決めるのかな。

 私は原作に忠実な物語が好きだから、そういうアレンジ、嫌なんだけど。

 

 リーネの後に会ったノクトは、それこそ、原作通りで可愛かった。賢いのにほんわかしてるのがいいのよね。好みはアラン皇子だけど。


 ていうか、そろそろジル様に会うはずなのに、なんで会わないのかしら。

 夕日の中で出会うシーンが有名だから、夕日の中で会わないといけないのに、もう夕日も落ちかけている。ジル様に会わないと続きの二人とも会わないって、そんなことないわよね?


 ゲームと違って、この世界にやり直しが効くと思わないし、正直、私はアラン皇子一択な気もするけど、ハーレムルートってのも捨てがたいのよね。

 誰とも恋愛にならないけど、ずっと皆が周りにいてくれるんでしょ?皆に愛されて、末長く幸せって、それもいいなと思ったり。


 幸せな悩みが尽きない。でも焦ることもない。のんびりと誰にするか考えよう。ゲームと実際は好みも違ったりするかもしれないしね。



 あぁほんと。

 私、主役の子になれて良かったなぁ。




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