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ベックサイド~回復の泉での出会い~

 この前から、なんか調子がおかしいと思っていたんだ。いつもならしない失敗をするし、空回りすることが最近多い。


 俺の名前はベック。


 生まれも親の顔も知らない。

 気がついたら孤児院にいて、少し大きくなってからはスラム街で、働けるものなら何でも手をだしてきた。汚いことも、危険なことも、人道から外れることも色々してきた。

 そして20を越えてからは、傭兵として働く事が多かった。その経験を生かしてギルドに登録して、今は冒険者として生きている。


 ギルドの仲間がいて、傭兵時代の戦友がいて、孤児院の家族のような人達がいる。

 俺の世界はそれだけ。それだけで充分だった。

 たまに仲間の愚痴を聞きながら酒を飲む。

 笑っていたら、どんなことでもなんとかなるものだ。親友のフーイはそんな俺を呆れつつ怒りながらも、ちゃんと支えて補ってくれる。その代わり、俺もフーイが困っていたら力を貸す。あんまり頭が良い方ではない俺は力仕事が殆どだ。もちろんフーイも同じ土俵に立ってその力を発揮してる。

 ただフーイは頭はキレるが、力はいまいちなんだ。俺がパワータイプなら、フーイは素早さタイプとでも言おうか。


 貴族様でもない限り、魔法が使えてもモンスターを倒せるほどの威力はない。よくて補助魔法が使える程度。

 俺は剣、フーイはナイフと弓。多少いびつだが、悪い相性ではない。基本、二人で行動している。

 たまに目的が同じだったり依頼を受けることで人数が増えることもあるが。


 そして今回もそうだった。

 とある貴族様がホワイトベアーの角と肝を依頼に出してきた。詳しくは知らないが、それが薬になるらしい。

 依頼を受けたのは、俺達だけでなく、もう1組、『イカズチ』というチームが名乗り上げたから、協力することになった。

 ホワイトベアーだけなら2人でもなんとかなるが、ダンジョンの地下8階まで行くとなると人数は多い方が良い。公爵領のダンジョンは、とにかく広いことでも有名だからだ。

 階を1つ降りるだけでかなりの時間と体力を持っていかれる。それが8階の、滅多に出ないというホワイトベアーだ。

 手分けして探した方が効率が良い。


 、、、と思っていたんだが。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。もう足が」

「水が欲しい。温かいお湯が、、、寒すぎる」

「そろそろ休憩にしないか。空腹はいざというときに力がでない」


 なにが『イカズチ』だ。

 雷ならもっとしゃしゃっと動きやがれってんだ。

 口ばかり達者で、全く働く様子がない。俺達はお荷物を連れてきただけみたいだ。

「おいおい。期限は迫ってるんだ。ようやく8階まで来れて、あとはホワイトベアーを見つけるだけだろう」

「そんな事を言ったって、8階に着いてもう2日探し回っているのに、気配さえ見つからないじゃないか」

「本当にこの階にいるかどうかも怪しいぜ」

 俺がはっぱかけても、イカズチの連中は弱音ばかりだ。

 俺だけさっと動けたら、どんなに楽だろうと思うが。


 それを察したのか、グレーの短髪、好青年という印象のフーイが、イカズチの傍に座って、火をつける準備を始めた。


「フーイ」

 俺が怪訝そうにすると、フーイは苦笑する。

「みんな疲れてるんだ。まずは休もう。俺がここで寝床と夕飯の準備をするから、お前は少し辺りを回ってきてくれないか」

 フーイは俺にだけわかるように目配せしてくる。

 さすが俺の心の友。

 俺が何を望んでいるのか、すぐに理解してくれる。

 俺はニッと笑って、

「了解」

とそこから1人、離れていった。


 8階は、別名『冬のはじまり』と言われている。

 雪は降るが常に降っているのではなく、地面も雪に覆われていないところも多い。かと思えば、ある部分を境目に一面銀世界ということもある。


 雪はとにかく体力を奪っていく。

 イカズチの奴らが弱音を吐くのも理解はできるんだが。


「はやくこの依頼を終わらせねぇとな」

 このダンジョンに入って、もう1週間になる。8階に来て2日。イカズチは体力はともかく、精神的にもう限界が近いだろう。何人か目がうつろになってきている。

 このダンジョンは広い。そのため、下の階に行く人間が少ないのだ。

 人がいないとダンジョンはさらに広く感じる。

 ホワイトベアーは滅多にでてこないと聞いていたから、他の階でのモンスターには全く手を出さず、まっすぐに8階までやってきたのだが。

 やっぱりホワイトベアーは見つからず、足場の悪い地面を延々と探すことになった。

 他には誰もおらず、目的のモンスターも出ず、もし見つかってもまた地上まで歩かなければならない。それを考えると更に疲労感が増す。


「あぁいう目をしだしたら、ろくなことを考えなくなるからなぁ」


 そういえば、と思う。

 この近くにこの階のボスの部屋があったことを思い出した。この近くと言っても数キロ先ではあるが。

 

 回復の泉の水をイカズチの連中に差し入れしたら、多少は元気になるだろう。それを飲ませてから、一緒に回復の泉に来てしばらく休んだら、体力も回復して気力も戻るかもしれない。


 地図は頭に入っている。

 雪の降る草原を越えて、ボスの部屋へと向かった。

 ボスの部屋の扉は、草原を抜けた先の林の斜面にある。わかりにくい場所にあるため、8階のボスの部屋の扉の発見にはかなりの時間が必要だったと聞いた。


 ボスの部屋の扉の前に立ち、それを不思議に思う。確かにわかりにくい位置にはあるが、4メートルはあろう大きな扉がなぜ見つけられなかったのか、とても不思議だ。

 ホワイトベアーが全く見つからないことといい、もしかしたら8階には何かの幻覚作用が働いているのかもしれない。


 大きな扉を軋ませ開けると、そこは暗い洞窟の中となる。天井からは大きな針のような岩が連なり、いつ落ちてきて頭に刺さってもおかしくない様子だ。

 冷たい空気が喉を乾かす。

 地面にはいくつもの大きい水溜まりがあり、その穴毎に色が変わっている。


 その中の1つに回復の泉はあり、触るだけで浄化と回復の効果をもたらす。飲むと解毒の効果もあるという。


 回復の泉の特徴はもう1つ。

 水が虹色であること。


 他のものと違って光輝いているのでわかりやすい。


 ぐるりと部屋を目で回って、光っている泉を見つけた。あったあったと駆け寄ろうとすると、誰か泉の中に人がいるのを見つけた。


 回復の泉は、皆が使うものだ。

 飲んだりすることもあるため、回復の泉の中に入ろうとする人はいない。


 常識知らずもいいところだ。


 注意すべきか迷いながら近づくと、その姿がはっきりと見えた。


 白銀の長い髪の美少女が、レースのような白い布を薄く身に纏って、虹色に輝く水で戯れている。

 気持ち良さそうに、ほんのり頬を紅潮させて。

 微笑んだ唇は薔薇の蕾のよう。

 水を眩しそうに眺める瞳は、晴天の空のように澄んだ色をしていた。

 腰より下の水位に立つ彼女の肢体は白く細く、とても儚げで、美しかった。


 俺は、しばらく気を失っていたのかもしれない。


 それが女神なのだと気づくまで時間がかかり、かつ恥ずかしながら、その間は我を忘れていた。

 数分のようでもあり、一瞬のようでもあった。 


 見てはいけない、触れてはいけないもの、そう気づいて、俺はその姿が見えないように後ろを向こうとした。

 その時、つい靴が砂を噛んでジャリっと音を立てる。しまった、と女神の方を伺った時には、もう女神は姿を隠されていた。


 ーーーなんてものを見てしまったんだ。


 罪悪感とともに、震えるような興奮があった。

 女神の湯浴みを見てしまうとは。


 罰が当たっても文句は言えない。しかしなんて貴重な体験をしたのだろう。


 俺の住んでいた孤児院は、教会が管理していて、たまにシスターが女神について話をしてくれていた。

 神や女神、天使など、勝手に人間が作った偶像だと思っていたのに。

「、、、ホントにいたとはな、、、、」

 

 ポリポリと頭を掻きながら、まだ教会に飾られた絵画のような映像が頭から消えていかない。

 いや、絵画など、比べ物にもならない。

 あれを正に神々しいというべきなのだろう。

 

 しかし、女神の浸かった泉の水を、持ち出して仲間にやったりしてもいいのだろうか。

 

 いやでも、イカズチ達は疲れているし。


 イカズチ達がいる、泉とは反対側の方を眺めながら葛藤をしていると、泉の方で何かの気配がした。


 また女神か?と振り返ると、白い鎧を着た人間が1人、立っていた。女神に気を取られて全く気がつかなかった。


 白い鎧で性別はわからない。背は低いが、俺と比べると殆どの人が低いから、あんまり身長は当てにならない。むしろ、目の前の鎧はフル装備だ。女の体では重すぎて動けまい。多分、男だろう。


 ふと、この白い鎧の男に聞きたくなった。


 俺よりも泉の近くにいたのだ。

 あの女神は幻ではなかったのかと。

 この8階には何らかの幻覚作用が働いてるのではという噂を思い出す。もしかしたら、あの女神が幻覚の可能性も、なくはない。

 でも、否定されたくない気持ちも強く、少しためらいつつ、白い鎧の男に聞いてみた。


「なぁ、さっき、回復の泉に女神様がいたの、見たか?」


 途端、白い鎧の男が、兜の上からでも冷めた瞳でこちらを見ているのを感じて、少し恥ずかしくなった。


 やっぱり幻覚だったのかもしれない。


 男が見ていないと首を振るのを見て、

「やっぱり俺の気のせいか」

と呟いてみた。

 落胆する気持ちは大きかったが、あれだけ近くにいた男が見ていないとなると、幻覚と考えるべきなんだろう。


 そして白い鎧の男は、何やら不安げに俺を見ていた。俺が頭のおかしいやつかもと心配になっているのだろうか。


 そういえば男は1人だ。他に近くに仲間がいる気配はどこにもなかった。

「お前、ここまで1人で来たのか?」


 聞いてみると、白い鎧の男は1人でこの場所まで来たらしい。しかも男は口が使えないようだ。身振り手振りで会話をする。

 

 8階まで来れるのだから腕は立つのだろうが、ダンジョンで迷子になったという男は、身体の大きさ、細さからしてまだ少年だろう。

 本当は心細いに違いない。

 俺はできるだけ明るく努め、白い鎧の少年を地上に連れていってやると約束した。


 そこでふと思い出す。

 ホワイトベアーを探さないと帰れねぇなぁ、と。


 現実問題に突き当たって頭を抱えた。

 期限が近いとはいえ、まだあと数日は猶予がある。

 白い鎧の少年をそれまで待たせるのも悪い気がする。

 いやしかし、ここまで1人で来れたのだから、もしかしたらイカズチの奴らより優秀な可能性もある。


 試しにホワイトベアーの討伐を誘ってみると、快諾してくれた。手伝ってくれるからには、ちゃんと報酬は山分けだ。ホワイトベアーの報酬は高いから、少年入れても余るほどになるだろう。ーーー見つけれたら、の話だが。


 白い鎧の少年ーーー段々面倒くさくなってきたから省略して、心の中では『白いの』と呼ぼうーーーを、俺は扉の前まで連れていった。


 扉の取手を握って、それでも、と思う。


 いくら8階まで来れたとはいえ、少年は少年。

 ギルドに登録できるのが15歳からなのだから、経験も少なかろう。


 少年だから身軽で、逃げて逃げてここまできた、とも考えられるが、全身用の鎧をつけて素早く動けるとも思えない。


 多分。白いのは運が良かったんだろう。逃げた方向がたまたま良かっただけか。

ーーいやいや、やはり運だけでは8階まではとても。実は 物凄く強いのかも。


 考えながら扉を軋ませながら開く。


  刹那。


  鋭い爪が、白いのに向かって伸びるのが見えた。

まるで元から狙っていたかのように。


「危ない!!!」

  俺が叫ぶのと同時に、鋭い爪と垂直の方向に閃光が走った。


  ーーー何が起こったのか、しばらくわからなかった。


 白いのにモンスターが襲いかかった、と思ったのに、気づくとその腕が明後日の方向に飛んでいく。


  俺の前で寸止めされた剣は、モンスターの血を受けてもスルリと血を落とした。普通は血糊で切りにくくなるものなんだが。なんだその剣。


  洞窟の外に出てよく見ると、剣だけでなく鎧も、そこらへんのものと比較するのが烏滸がましい程、高価なものであるのがわかる。


  こいつ、貴族か?


 それにしても、なんという腕前。

 剣術だけなら俺よりもずっと上ーーー。

「一刀両断か」


 呆然として白いのを見る俺の前で、白いのはあっさりとホワイトベアーにとどめを刺した。


 容赦もないその仕草に、俺が驚きを隠せていないでいると、白いのは、剣でホワイトベアーを示し、素材を取るように促す。


  そうだった、と俺は慌てて角と肝を手早く抜き取った。時間が経つとモンスターはコアになってしまうからな。そして肝を取ったあとすぐに、ホワイトベアーは拳大の赤いコアに変わった。


  赤いコアも勿論、報酬対象になる。

  1人で討伐したのだから、白いのには多めに分け前をやらないとな、、、と、屈んで赤いコアを握りしめた時、目の前の大きな木の裏で何かが蠢くのが見えた。


  苦笑いするしかない。


  あれだけ。

  数時間どころではない。何人もの人数で何日もかかって、全く見つからなかったのに。


「あんなに探しても出てこなかったのに、こんなにあっさり見つかるとはなぁ」


 そう言った途端、丘の奥からホワイトベアーが、まさかの4体、勢いよく走って現れた。

「ってか、出てきすぎだろ!!!」

 1体倒したのだ。依頼はあと 2体だけでいいのに、ホワイトベアーは景気良く出現してきた。

  そしてその全てが白いのを見ている。その目は、怒りに身を任せたように真っ赤に染まっていた。


  白いのが何かをしたとしか思えなかった。


  俺は背中に担いだ愛剣の柄を握りしめて、そのまま構える。この大剣、重さ80キロ。

  こんなの担いでダンジョンにくるなんて頭がどうかしてると散々言われたが。


「ーーーあいつに比べると、まだまだ平凡だったな」


  ぼそりと言った言葉は、白いのには聞こえてなさそうだった。


 それにしてもーーー面白いやつだ。


 じわじわと笑いが込み上げてくる。

  こんなに興味深いと思うやつは初めてだろう。

  次の白いのの行動が楽しみで仕方ない。


「おい、白いの。俺が2体倒す!お前も2体な」


  あ、つい本人に白いのと呼んでしまった。

  白いのも不本意だったようで、兜の下からでもわかる不機嫌さを顕にしてみせた。


 文句を言われるかと思ったが、白いのは喋れないから、そのまま怒りをホワイトベアーにぶつけるように、ジャンプしてホワイトベアーを蹴飛ばした。


  小さい少年が、その何倍も大きいモンスターを蹴飛ばして、モンスターの方がぐらつく。


「あいつ、ほんととんでもねぇな」


 ずっと見物していたい気持ちになりながらも、2体倒すことを自分で言った以上、まずは依頼のモンスターを倒すべきだろう。


 俺は白いのに向かうホワイトベアーの1体の足に剣を振り落とし、その足の骨を砕いて動けなくさせた。そしてもう一度剣を振り上げて、ホワイトベアーの頭にその剣の重さを乗せて叩き落とす。


 白いのと違って、ホワイトベアーはすぐには倒れず、1体に対して何度か剣を斬り付ける必要があった。


  ようやく1体倒した時には、白いのはすでに2体とも倒しているようだった。白いのの足元に転がっているホワイトベアーは、ピクリとも動いていない。


あれは今から駆けつけても、もう素材はとれないな。


となると、目の前にいる2体から素材を確実に取らないと、またホワイトベアー探しの地獄に陥ることになる。


  俺はカバンから素早く太めの縄を取り出して、もう1体のホワイトベアーに巻き付け、近くの木に括りつけた。


 これは時間が経つと消えてしまうモンスターから素材を取るための、基本的な知識だ。


  1体ずつ素材を取る。


 樹齢100年は超えていそうな木が、ホワイトベアーが暴れることでユサユサと揺れ動いているが、木が折れる前に1体目の素材を取ることができた。


  ようやく2体目に剣を振り上げて、それを打ち下ろす。

すでに捕まえているから、1体目より簡単に討伐できた。そしてすぐに素材を取る。


  依頼された3体の素材を確保できた。こんなにも簡単に。


「おい!お前のおかげで、、、」

  お礼を言おうと白いのを振り返ると、白いのの姿はどこにも見当たらなかった。


「ーーーえ?」


 雪がちらつく8階の。

  積もった雪に混じったかのように。


  白い鎧の姿は、消えてしまっていた。


「そんなばかな」

  白いのがいたはずの場所に駆け寄ると、そこには拳大の赤いコアが2つ落ちていた。


  姿はもう見えないが、確かにそこに居たという形跡はある。


「ーーー幻覚では、ない」


  赤いコアを拾い上げて、ギュッと握りしめる。

  幻覚作用によって、隠されていたかもしれないホワイトベアー。

  幻覚だったかもしれない回復の泉の女神。


  でも、白い鎧の少年は確かにココに居たのだ。


「おぉーい。ベック!」

  遠くから、フーイの声が聞こえた。

  駆け寄って近づくフーイを、俺は横目で見る。


「あんまり帰りが遅いから、何かあったのかと思ったぞ。いったい何を」

「ーーー女神に会った」

「は?」

「あと、白い鎧の少年にも」

  ぼんやりとした声で俺が言うと、フーイは珍しく心配げに俺を覗き込んだ。

「どうした、お前、おかしいぞ?いや、おかしいのはいつものことだが、、、」

「依頼は達成した。一斉に5体も襲ってきやがったからな」

「はぁ?ホワイトベアーは群れないはずだろ。だから探すのが大変で、、、」

「なのに、襲ってきたんだ」


  あいつ、絶対、普通じゃない。

 モンスターは間違いなく、あいつを襲いにやってきていたんだ。モンスターに特定して狙われるやつなんて、聞いたことがない。


  フーイは、理解できないながらも、俺の言っていることが真実とわかっているようで、

「ーーーそうか」

とだけ言って、頷いてくれた。

  本当にフーイは良いやつだ。


「ーーー最近、なんか俺、おかしいことばかりでな」

「今度こそいきなりなんだ?」

「普段しない失敗はするし、空回りはするし、なんか調子がおかしいなぁってな」


  考えて、フーイは、あぁ、と呟いた。

「ヤナンデデルの件か」

「それもだな」

  ふ、とフーイは笑う。

「確かに」

 素直に認められて、俺はちょっと渋い顔をしてみせる。自分で言ってて何だが、あれは決して俺のせいだけではないはずだ。


「言うけどな。アクセサリー屋の前に立ち、『この石を買うのか』と聞いて『いや、焼き鳥を』というのが合言葉で、まさか本当に焼き鳥を買いたいのにアクセサリー見てるやつがいるなんて思わないだろ。あれは偶然という名の失敗だ。あれこそ本当に、普段しない失敗というか、、、、ん?」


  当時の事を思い出して、脳裏に蘇った映像。


 あの『焼き鳥を』と答えた人間。

  そういえば、あれも、白い鎧をつけていなかったか。

  声は少女のようだったが、、、。


「どうした?」

 不思議そうにするフーイの声に、

「いや」

と首を振る。

  白いのは、喋れなかった。もし本当は喋れたとしても、全身用の鎧をつけて、ホワイトベアーが体勢を崩すほど高くジャンプして蹴り飛ばすことができる少女なんて、いるはずない。

 俺が嫉妬するほど剣が達者で。

ーーーそれがまさか少女だなんて。


  それこそーーー、可笑しい話だ。



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