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罪深き偽りの月  作者: 路明(ロア)
Età della luna 14 領主の甥
43/50

Un'altra figlia scomparsa. もうひとりの消えた娘

 数本の蝋燭(ろうそく)で照らされた食堂広間。

 静かに手を組んだマリアーノ副助祭に従い、アベーレも手を組む。

 ここ暫く賑やかだった長テーブルは、アベーレとヨランダ、マリアーノ副助祭と高齢女性二人だけの一気に寂しいものになった。

「父よ私達の罪をお許し下さい。私達を誘惑に陥らせ得ず悪からお救い下さい」

 アーメン、とマリアーノが唱える。同席した者達は沈黙し目を伏せた。

 数日ぶりにヨランダが一人で作ったミネストローネがトマトの香りを漂わせている。

 昼間、厨房でヨランダにプロポーズし、食堂広間に戻って来たときには村人達は全員がいなくなっていた。

 マリアーノだけは教会に戻ったのだろうと見当を付けたが、あとの者は夜の今の時間帯になっても行き先は分からない。

 夕刻にマリアーノがそれぞれの自宅を訪ねたが、留守とのことだった。

「随分と寂しくなった」

 ミネストローネを口にしながらマリアーノが言う。

「グレタ殿とイルマ殿までいなくなっていた時には慌てたが……」

 見つけた時の光景を思い浮かべ、アベーレはつい困惑した表情になった。

 二人の高齢女性は、片方が女神像の陰で横になって熟睡し、もう片方は屋敷の二階で迷子になって見つかった。

「今なら伯父上たちもこちらでお食事できそうだが……」

「それは私への意地悪の仕返しですか、閣下」

 マリアーノが不機嫌そうにパンを千切る。

「そんなことは」

 アベーレは鼻白んだ。

 品良く塩なしパンを食むマリアーノを見やる。

 やはり貴族家の出身だったかと改めて思う。出逢った際にも、以前まで仕えてくれていた従者を思い出す仕草だと思った。

「故意に意地悪をしている副助祭殿も何なのだ」

「あなた個人がどうという訳ではありません。私にとってコルシーニ家は、無責任な跡継ぎの肩を持った御家ですから」

 成程とアベーレは思った。

 単なる御家全体に対する毛嫌いであったか。

「それでもコルシーニのためにわざわざフィレンツェから来てくださったのは感謝するが」

「懐柔ですか?」

 塩なしパンを口にしながらマリアーノが言う。

「中々姑息なことを」

「いや……」

 アベーレは顔を(しか)めた。

 不意にヨランダが扉の方を振り向く。何かあったのかと視線の方向を見たアベーレの耳に、忙しなく玄関扉を叩く音が届いた。

「誰か来たようだ」

 そうアベーレは言い、長テーブルに着いた面々を見回した。

 ここ数日間、進んで来客の対応をしてくれていたルイーザも行き先不明だ。残るは使用人扱いするには気が引ける者ばかりか。

 仕方ないかと自身が立ち上がる。同時にマリアーノが席を立った。

 お互い何となく無言で目を合わせ玄関口に向かう。

 食堂広間を出た途端、ドンドンドンと雑に扉を叩く音が大きく聞こえた。

「リーザいねえのか! 聞こえねえのかな、もう!」

 扉の外から聞こえていたのは、低めの中年女性の声だ。

「ルイーザ?」

 同行したマリアーノがそう呟く。

「ああ、ルイーザ殿の声か」

 アベーレは言った。離れていても声は聞こえるが、個別の聞き分けはあまりしていなかった。

 マリアーノが先につかつかと歩み寄り鍵を開ける。

 扉を開けてやると、ルイーザは「あれ? 副助祭様」と声を上げた。

「リーザは? お二人に開けさして何(なま)けでんだ」

 ルイーザがホール内を見回す。

「昼間から行き先不明だ」

 アベーレが言うと、ルイーザは怪訝そうな顔で外を見た。

「あんなお肉無さそうな娘、人狼が食うかな……」

「いや……」

 突然のその見解は何なのだとアベーレは顔を(しか)めた。

「どこに行っていました、ルイーザ」

 食堂広間に促しつつマリアーノがそう尋ねる。

 ややポカンとした表情でルイーザは二人を見た。自身が行方不明と見られていたなど想像もしていなかった様子だ。

「預かった子供ら家に返しに行ってだんだ。親がリヴォルノの出稼ぎがらいったん帰ってたがら」

「もうか。数ヵ月は行っているのかと思っていたが」

 食堂広間に入室しつつアベーレはそう答える。

「海の方の地方でペスト流行ってんだと。リヴォルノにペスト患者の隔離所できたんで、危ねってさっさと帰って来だんだって」

「隔離所は港から離れた島に設置していますし、渡し場も通常の港とは別の場所と聞いているので、概ね大丈夫ではと思いますが」

 マリアーノが言う。

「でもペストとか怖くね? 副助祭様」

 そう言いルイーザは食堂広間を見回した。ミネストローネのトマトの匂いに気づいたようだ。

「てことはヨランダ様お一人で作られたんか。申し訳ないことしだな」

「いえアベーレに」

 微笑してヨランダはそう口にした。鍋が沸騰したら知らせるというお手伝いをしたことをわざわざ言ってくださるとは。アベーレは目元を僅かに綻ばせた。

 さりげなく刃物は触らせていただけなかったのだが。

「うちの人とリーザには言って出だのにな」

 ルイーザが軽く溜め息を吐く。

「それでルカ殿はどうした」

「あとで畑の野菜取って街さ売りに行ぐって言ってだからな。そろそろ帰んじゃねえかな」

 アベーレは、副助祭と目を合わせた。

 とりあえず二人は行き先が確認できたかと思う。





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