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巨大騎士


 如何にもなにかありそうな大扉を開くと、その先には仄暗い空間が広がっていた。

 恐る恐る足を踏み入れると数歩先でお約束のように大扉が音を立てて閉まる。

 同時にこの空間に配置された数え切れないほどの燭台に火が灯り、周囲を明るく照らしだした。


「でっか」

「巨人?」


 闇が払われて現れるのは、広い広い大広間。

 天井はその模様が正確に見えないほど高く、野球が十分に出来るほど広い。

 そんな中でも目を引くのは、壁に沿って螺旋状に連なる燭台ではなく、真正面の巨大な玉座に鎮座する一体の騎士だった。

 座った体勢でも顔を持ち上げなければ全景を把握できないほど大きい。


「ここには、これしかなさそうだな」

「そうだね。この騎士の役割は……仏像と同じかな」

「似たようなもんだろうな。これに毎日祈ってたのかも」

「……まさかとは思うけど、動かないよね? これ」

「まさかまさかそんな……」


 金属音が鳴り響く。

 とてつもなく大きな物どうしが、凄い力で擦れ合うような、思わず耳を覆いたくなる歪んだ音。

 それがこの空間中に鳴り響き、埃や塵、金属の粉をまき散らしながら、目の前の巨大騎士が玉座から立ち上がる。


「おいおいおい、冗談だろ」

「悪い予感が当たっちゃった」


 緩慢な動きで立て掛けていた剣を取り、巨大騎士はそれを振り上げる。


「不味い、不味い! 避けろ!」


 勢いよく大剣が振り下ろされ、咄嗟に回避行動を出る。

 加速して大剣の間合いから脱し、同じく早坂も安全圏に転移した。

 その直後、標的を失った大剣が叩き付けられ、念入りに磨かれた床を粉々に打ち砕く。

 衝撃波凄まじく、砂埃が煙のように押し寄せてきた。


「馬鹿力がッ、地面が割れたぞ!」


 足場を崩されたらスピードも落ちる。

 あの馬鹿でかい大剣を振り下ろさせないようにしないと。


「だったら、こうだ!」


 加速して砂埃から脱出すると、そのままの勢いで壁へと向かい、駆け上る。

 燭台が並ぶ螺旋に沿って高速移動し、巨大騎士の注意を引く。

 こちらの誘いに乗った巨大騎士は、こちらを仕留めようと大剣を突き出した。

 けれど、そんなのろまな攻撃が俺に当たるはずもない。

 的を外した剣先が勢いよく壁に埋もれ、突き刺さる。

 引き抜くにはすこし時を要するだろう。

 そのまま壁の外周を回って戻り、大剣の上に足を付ける。

 刃の上を駆け、鍔を越えて手甲に足を掛けた。

 瞬間、青い光に身を包まれ、危機を感じて背後へと跳ぶ。


「そりゃ、持ってるよな。当然」


 再び刃の上に乗り、顔を持ち上げると手甲――いや、巨大騎士が青い魔法障壁に包まれていた。しかもほかの騎士と違い、こちらは常時展開されたままだ。


「突っ込むんだったな」


 そうしていれば今頃、魔法障壁の内側だ。

 あれだけ図体がデカいと、魔法障壁との間にも十分な空間が出来る。

 腕の一本、持って行けたのに。


「鳥獣戯画」


 墨の鳥が舞い、その背に早坂を見る。

 その左手には墨の炎が灯っており、それが放たれると何倍にも膨れ上がって巨大騎士を覆った。

 しかし、魔法障壁は破れず、巨大騎士も平気そうにしていた。


「火は駄目みたい」

「みたいだな」


 いい加減、大剣を引き抜こうと、巨大な両手が柄に添えられる。


「見たところ部位ごとに魔法障壁が張られてる。ダルマ落としだ」

「いいね、乗った」


 大剣が完全に引き抜かれる前に刃の上を駆け、螺旋状に壁を駆け下りる。

 地面に付くと、いくつかの墨の鳥を経由した早坂が隣りに転移してきた。


「準備は?」

「オッケー!」

「なら、ダルマ落としだ!」


 加速して巨大騎士の足下に迫り、五枚の円盤を回転させて放つ。

 五つの属性円盤が魔法障壁の表面を駆け、そのうちの一つ。

 砂塵を纏う土の円盤が魔法障壁を断って穴を空ける。


「土っ!」


 結界刀の鍔にも魔法陣を描き、砂塵が纏う刀身で穴を大きく開く。

 そこから内側へと潜入し、無防備な鎧を高速で切り刻む。

 あれほどの巨体であり、鎧の塊だ。

 自重を支えるために足にかなりの負担が行っているはず。

 だから、切断などしなくてもある程度傷つけてやるだけで、自重に耐えきれずに崩壊する。

 たった今、潰れるように右脚が砕け、巨大騎士が膝をつく。

 それと時を同じくして左足も同じように崩壊し、自在に歩けなくなる。


「一段目完了!」

「次は二段目!」


 ダルマ落とし二段目は膝から先の太もも部分。

 機動力を失った巨大騎士は、これ以上攻め込ませまいと大剣を高く振り上げる。

 けれど、その緩慢な動きでは大剣を振り上げるまでの準備に時を要する。

 それだけあれば魔法障壁を破ることは簡単だ。

 燃え盛る火炎によって魔法障壁は燃え尽き、太ももの鎧を滅多切りにすることで破壊。

 二段目も難なく飛ばして巨大騎士から下半身がなくなった。


「この調子で――」


 三段目に取りかかろうと結界刀を構えると、不意に魔法障壁が膨張する。

 風船のように膨らんだかと思えば、そのまま俺たちを押し出すように弾き飛ばす。

 強制的に距離を取らされ、直後に魔法障壁が萎む。


「あんなのありかよ」

「来るよ」


 両手に持った大剣が横薙ぎに振るわれ、割れた床の瓦礫がこちらに飛ばされる。

 急いで体勢を立て直し、回避に掛かるがふと気付く。

 背後に大扉がある。

 このまま躱すと瓦礫で出入り口が塞がるかも知れない。


「ええい、面倒な!」


 結界バリアクラフトで防壁を構築。それを三枚重ねにして耐久力を上げ、瓦礫の雨を受け止める。大きな瓦礫が防壁を二枚突き破り、三枚目にめり込んで勢いが止まる。


「平気?」

「あぁ、なんとかな」


 しかし、また同じことをされると面倒だな。

 早急にダルマ落としを再開しないと。


「ん? あぁ、そうか」


 べつに足下から崩さなくてもいいのか。


「早坂、あいつを攪乱しといてくれ」


 巨大騎士がまた大剣を振りかぶる。


「え? わ、わかった!」


 加速して螺旋状に壁を駆け上り、巨大騎士の頭上を取った。

 眼下では早坂が転移を繰り返して注意を引いてくれている。

 大剣を振るい兼ねている様子を俯瞰視点から眺めつつ、壁を蹴って仕掛ける。

 右脚の靴を結界でコーティングし、靴底に魔法陣を刻んで発火。

 燃え盛る火炎のキックを巨大騎士が被る兜の魔法障壁に見舞う。


「外れっ」


 火炎では破れなかった。

 蹴ったその足で跳ね、火以外の属性の円盤を構築。

 四枚を同時に放って魔法障壁の表面をなぞらせ、雷の円盤が内側へと抜けた。


「正解はそいつだな」


 結界刀の鍔に雷の魔法陣を刻み、魔法障壁を引き裂く。

 空いた大穴を通って内側に侵入し、兜の正面に立って目と目を合わせる。


「ダルマもらった」


 兜を幾度となく切り裂いて、鎧の中へと続く入り口を切り開く。

 鎧の中は空洞で、中に人などいたりはしない。

 けれど、どれだけ巨大だろうがゴーレムはゴーレム。

 空っぽな体を動かしている動力源がある。

 それは血管のように張り巡らされたコードの終着駅。

 目玉のようなコア。


「見付けた」


 切り開いた入り口から飛び降りてコアへと降り立ち、結界刀のきっさきを真下に向ける。


「これで終わりだ」


 刀身をコアに突き刺して捻る。

 瞬間、稲妻が駆け巡り火花が散る。

 コアが損傷したことで十分な動力を得られなくなった巨大騎士が大剣を落としたのか、鎧の内側まで響いてくるような大きな震動がした。

 そうして完全にコアが故障したのか、鎧の繋ぎ目から腕が落ちて燭台の光が内部に差す。

 そして胴鎧も仰向けに倒れ伏した。


「ふぅ、上手く行った」

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