私の野望と聖女様
チェックしても、いつの間にかそこに雑草のように生えてる誤字脱字(汗)
いつも除草にご協力ありがとうございます。
シャンデリアに照らされた女性たちのアクセサリーや手に持ったグラスがキラキラと眩しく光っている。色とりどりなドレスの花園は綺麗だけど香水の匂いで息苦しいくらいなのに、皆さん平気なのかしら?
私がこんな所にいるのは場違いだから今直ぐに立ち去りたいのが本音だけど、もう二度と来れないだろうし、良く眺めておかなくちゃね。
今夜は特別な夜なの。異世界から招かれた聖女様が無事に役目を終えたお祝いなんですよ。そして私の長年の願いが叶う日でもある。
私がお仕えした聖女瑠美奈様は、神殿を出て普通の娘に戻るので今夜でお別れです。そして公爵家の養女になって王族と婚姻するのだそうですよ。予定ではね。
ほら、あんなに嬉しそうにしているわ。
主役の瑠美奈様は神官の衣の代わりに金糸銀糸で薔薇の刺繍が散りばめられた真っ赤なドレスを着ている。お似合いだけど胸と背中が開き過ぎじゃないかな?
お隣の男性が目のやり場に困っているみたい。
ドレスの色もそうだけど身に着けたアクセサリーも大粒の宝石で、華やかなものが好きなんですね。神殿じゃ無理だもの、これからは好きに楽しんで下さいませ。
沢山の崇拝者に囲まれコロコロと楽しげに笑って、まるでどこかの王女様みたいですよ。
こちらに来たばかりの頃は、こう言っては何だけど黒髪黒目の地味な色合いもあって、野暮ったく見栄えのしない小太りの少女でしたね。
でも三年の月日と地方への遠征や神殿での規則正しい生活、私たち側付きの者が磨きましたからね。今じゃ絶世の美女とまではいかなくても姿形だけは淑女に仕上がりましたよ。
私たち、いい仕事をしたわよね。
残りの教養は公爵家の皆さんにお任せして、お手並み拝見といきたかったけれど、それは無理なのよ。
宴もたけなわになり瑠美奈様が第二王子のブライタ殿下に手を引かれ教主様と共に壇上に上がった。
瑠美奈様は三人いる王子たちの中でブライタ殿下と一番親しくしているから、あの方に嫁ぐと思われているけど本命が別の人なのを私は知っているの。内緒だけど。
教主が瑠美奈様を長々と称えて、最後に乾杯の発声と共に持ってた立派な錫杖で床をトンと突いた。
するとその場を中心に眩しく光り、皆の眩んだ目が元に戻った時には壇上にいた三人はいなくなっていた。そこには教主の持っていた錫杖とグラスが三つ転がっているだけだった。
そして、いつまでも戻らずに行方不明のままの三人は、聖女様が役目を終えて二人を伴って元の世界に帰ったのだ、という事になった。
随分簡単に片づけちゃったけど、それでいいのかしらね。まあ、私は都合が良いから助かるけど。
だってアレは私たちが計画したんですもの。
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遥か昔のこと、この世界を創った私たちが神と呼ぶお方は創造を終えると去って行った。
暫くすると、増えすぎた人間の吐き出す負のエネルギーによって魔物が生まれ、人を襲うようになった。
神は立ち去った後も見守っていたので、それをご覧になって一人の人間に啓示を下ろされた。
教えられた通りに人間は正エネルギーの宿った要石で結界を張ることで自分達の住む場所を確保した。
更に祈ることによって正エネルギーを要石に補充できると分かり、啓示を受けた者を教主としたアリオン教が生まれ、人々は神に祈るようになった。
時が流れ国ができ結界の範囲も広がって、要石の補充が間に合わなくなりそうな頃、再び教主に啓示があった。
授けられた方法で異世界から救世主を召喚したら本当に少女が現れた。その少女は全ての要石に補充しても有り余る程、正のエネルギーに満ち溢れていた。
教主は少女を聖女と定め神殿に保護した。後に王妃となったその方が初めの聖女様なのです。
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これがアリオン教で最初に教わる神話です。私も神官ですから暗唱できますよ、もちろん。
で、今現在も聖女が亡くなると、その時の教主によって次の聖女様が召喚されているってわけ。教主が召喚できるのは一生に一度、聖女は一人のみとか制約はあるらしいよ。
でもね、人間が住んでいるのは此処だけじゃないと思うから、他にもいるのじゃないかしら拉致被害者さん。
そう、こんな神官らしくない事を言うのは私も当事者だったから。前世は三代前の元聖女ですの、おほほほ。
私ね、高校に入学したばかりだったの。その頃とても悲しいことがあってどん底の気分だったのに、異世界に呼ばれちゃったのよ。もう、責任者出て来い!て叫んじゃったわ。うら若き乙女なのに……。
でも事情や、帰れない事を聞いて、だんだん諦めてこっちの暮らしに馴染んでいったの。神殿の人達は親切にしてくれたよ。なんたって聖女様だもの。
普通は代替わりしたら、聖女が不在の間に消費した正エネルギーを要石に補充に回って、それが終われば好きに暮らすんだとか。
衣食住は生涯補償よ。誘拐犯なんだからそれくらいは償ってもらわなきゃね。
過去の聖女たちは王族とかに嫁いだ人が多いけど、私は死ぬまで独り身で神殿に居座っていました。住めば都って言うじゃないの。そのおかげで神殿は水浴びじゃなくてお風呂があるのよ。感謝してね皆さん。
実は私向こうに好きな人がいたんだ。だから、いつか帰りたいと思って方法を神殿で調べていたのよね。それで方法は見つけたんだけど条件がそろわなくて悩んでいるうちに寿命が来ちゃったの。もうちょっとだったのに惜しかったわ。
魂は向こうに戻れると思っていたら、そのままこっちの輪廻の輪に入って、また生まれて来ちゃったの。 つまり前世記憶持ち転生ね。なんでだろ、乙女のまま死んじゃったから覚えてるのかな。
それで、自分みたいに誘拐される被害者を失くすために神官になったの。
前の時調べたんだけど、召喚に使う布に書いた図みたいなものがあるのよ。それを如何にかすればいいのよ。帰るにはそれを一部変更した物を使えばいいの。ちゃんと研究したんだから。
ただね、それに触れられるのは教主だけなの。だから前回も物を見せてもらっただけなのよね。
まあ、そんな野望は心に秘めて真面目にお仕事してました。
そしたら私、なんと同僚に恋しちゃいました。
彼、マキシマは奇しくも私の曾祖母が仕えた聖女様のお孫さんでした。ご本人から向こうの話を聞いたこともあるらしく、恋人になってから私の野望を打ち明けたら協力してくれることになったの。いい男でしょ?
彼も祖母の境遇には思うところがあったみたい。
マキシマは出自がアレだからどんどん出世して、とうとう次期教主まで上り詰めたの。私の野望の達成に近づいてるって、二人で喜んだの。
それなのに当代の聖女様が急逝しちゃって、代替わりの召喚よ。
また不幸な人を増やしてしまったと落ち込んでいたら、彼が慰めてくれた。
「大丈夫だよフレンディ。彼女を帰してあげればいいのだから」
なるほどと気を取り直し、聖女の側付きになって機会をうかがう事にしたの。
当初の計画では、もっと早く帰せると思ったのだけど問題が多くて上手くいきませんでした。
問題の一つ目、要石のエネルギー不足が深刻で聖女に補充してもらわなきゃ、間に合わなかった事。
「不運な女性を呼ばなくても、皆が真面目に祈っていれば要石への補充は足りるはずだ。不足するのは結界を広げすぎなんだよ」
そうなのよ。マキシマの言う通り、今の王様は随分と結界を広げてるのよ。
どうやって維持するの?聖女任せかしら?禄でもない話よね。
それで取りあえず一旦全部の石に補充してもらったの。何せ量が多いし取り寄せたりなんかで時間がかかったのよね。
二つ目、瑠美奈様の性格が私が思ってたのと違ったというか、なんかねぇ。
来たときはあまり目立たない、前世で言えば根暗、ネガティブていうの?
「私なんて……」て言うのが口癖の娘だったのよ。
それがぽっちゃり体系がスリムになって、髪やお肌の手入れもして、周りが優しく接しているうちに変な自信を付けちゃったのよ。
段々、遠慮が無くなるどころか横柄になってきて
「私は聖女なんだから……」なんて言うようになったから、これはダメだと思ったの。帰りたいとか言わなくなったしね。
本人がここで楽しく暮らしているなら無理に帰す必要はないでしょう。だから帰還ではなく召喚陣を破棄する方向に計画を戻したの。
三つ目は二つ目の続きみたいなものだけど、瑠美奈様がね何がどうしたんだか、男漁り始めちゃったの。まぁね、聖女だから男たちも寄って来るしチヤホヤされるから、調子に乗るのも仕方がないね。
それにこっちは貞操観念が低いの。死亡率が高いから産めよ増やせよの風潮で、夫の同意があれば結婚していても、他所の旦那さんの子供も平気で産んじゃうのよ。
それで子供は男親に引き取られる仕組みだから、不倫?それ卵を使ったスイーツ?美味しいの?ってな感じよ。私も最初驚いたわ。
だけど瑠美奈様、あなたは向こうの出、それも日本人でしょう?
こんな奔放な娘に育てた覚えはないんですけど! お姉さんは悲しい。がっかりですよ。
前世目線で素行不良だけなら、まだ見ない振りしてたけど親友の恋人が狙われるのは放って置けないわ。マキシマにもベタベタするし。
彼女は一番仲良くしているブライタ殿下じゃなくて私の親友が結婚する相手、王弟の息子が本命だなんていうのよ。理由を聞いてみたの。
「王子の奥さんはなんか面倒そうでしょう?その点王子の従弟くらいなら身分もあるし、いいかなと思って。
あの人凄く優しい目で恋人を見るんだけど、それが素敵なのよねぇ。
それにライバルがいた方が燃えるじゃない?略奪愛って大人の恋って気がして憧れるのよね」
なんて言うのよ。あちらの世界の罵詈雑言が嵐になって私の頭の中に吹き荒れました。ピーピー音が鳴るから、とても口には出せないので内容はご想像にお任せします。
それで、こんな小娘サッサと帰してしまえ!ということで、また計画変更になったのよ。
ついでに、神殿で横領やら何やら好き勝手やっている教主と、結界拡張推進派で女好きのオレ様王子もセットで片づけてしまえという話になったの。
教主はどちらにしても交代か追放しないといけなかったし、ブライタ殿下は暴力ふるう男らしくて泣いてる女の子が多いのよ。最低!
そしてあの夜、計画が実行されたの。もちろんマキシマが召喚陣も破棄しました。ついに私の野望は叶ったの。
彼女はちゃんと元の場所に帰したわよ。聞いた通りなら多分高校の体育館の入り口ね。朝の全校集会に遅れて来て、扉を開けた時に召喚されたらしいから。
ちゃんと年齢も元に戻っているはずだし、記憶までは調節できなかったけれど、それは本人が黙っていれば分からない事だし問題ないよね。
あっ、忘れてた。着ている物はそのままだわ。あらら、あのドレス露出が多いから学校じゃチョット目立つかもしれないけど……。ほら、装飾品は売って慰謝料にしてもいいし、ソレで制服も新調できるんじゃないかな。うん、無駄にはならないだろうから……。
ええっと、なんか御免ね。悪気はなかったのよ。ホントだから。
その後
私は教主になったマキシマと結婚した。神官は辞めることになったけど一信者として毎日祈ってますよ。
聖女召喚は前教主が引き継ぎせずに消えてしまったので、方法が分からないから出来ないとマキシマが白を切って拒否しました。
そう言われてしまえば王家もどうにも出来ないよね。結界も拡張計画は見直され、むしろ縮小する方向に進んでいます。いい感じよね。
時々彼女はどうしているかと思い出す。年齢を戻したから外見もアノ地味な姿に戻ってしまったはずなんだけど大丈夫だったかしら。性格はそのままなので案外、強気のままやっていけてるのかも。でもね、男遊びは辞めた方が身のためですよ。
それから私、今更なんだけど考えている事があるの。
もしかすると元いた世界とこちらはエネルギーの質が違うんじゃないかな。
だって、あのネガティヴの塊みたいだった彼女が、正エネルギーで満ち溢れていたのよ。負じゃなくて正エネルギーなのよ。変だと思わない?
人間の負の感情や、人に搾取された他の動植物たちの恨み辛みが生み出すのが負のエネルギーなら、彼女も同じものを持っているはずだもの。
私の推測だけど、こっちと向こうの世界は正負が逆転しているのかもね。そうであれば納得できるのよ。
私がこちらに呼ばれた時も、両親が事故で亡くなって、遺産相続がどうとかで見知らぬ親戚が増えて争って、もう全部投げ出したい気分だったのよ。
そんな私が正のエネルギーを満たす聖女になったのだもの。普通に考えてあり得ないわ。
他の聖女たちも同じような人達だったのかしらね。だったら召喚も悪行と断定はできないかもしれない。少なくとも私も彼女も、閉じこもった暗い場所から抜け出して変われたもの。
彼女は逆方向に行きすぎだと思うけどね。
同意なしの誘拐は良くないけれど、帰還方法があるのなら、こちらの人間と聖女は互いに有益な関係になれたかな。召喚陣を破棄したのをちょっと残念に思ったわ。
そんな話をしたら
「召喚陣も帰還の陣も、もしかの時に再現できるようにしてあるから大丈夫だよ」
サラリと言う私の旦那様は、なんて頼りになる方なの!
私をこれ以上好きにさせてどうするのよ!
どこかのおバカな男とは種類が違うのですね、きっと。旦那様にメロメロの私です。
そういえば元教主とブライタ王子はどこに行ったんですかね。
帰還の陣に設定した向こうの世界の元いた場所は、彼らには存在しないので全くの行方不明です。こちらの世界のどこかにいるのでしょうか。あまり興味はないけど。
私は二度目の人生で手に入れた愛する人との暮らしを心行くまで楽しむだけです。
書き終えてみたら思っていたのと違うお話ができました。何を言っているのかとお思いでしょうね
でも、なんというか、チョコバーを食べたつもりが、かりんとうだった。そんな違和感なんです。
変ですよね。
読んで下さって感謝します。