マリッサのお茶会はやっぱり熱い
連載はまだちょっとハードルが高くて…
ごきげんよう!
伯爵令嬢のマリッサですの。
いつものように屋敷の廊下をスキップしながら歌っておりましたら、母さまにみつかってコッテリ絞られましたの。
私が小さな頃はおっとりしたお人柄でしたが、いつのまにか目からビーム、口から炎を吹く猛者に…。
一体何が母さまのキャラを変えたのでしょうか。
まあそれはともかく、母さまに12歳にしてはアホっぽいと言われましたので、中身は大人なのを表に出していこうと思いますの!
今日はスネイル侯爵夫人のお茶会によばれておりますの。
母さまも一緒だから背筋ピーンですわ。
なんでも先日の巻き毛様誘拐事件のマリッサの活躍を耳にして、どんなものか品定めしたい(母さま談)らしいのです。
同い年の子息がいるんですって。
「まあまあ、あなたが噂のお嬢さんざますね。魔法のお勉強が大好きなんですってね。でもうちのエスカーちゃんの方がナンチャラカンチャラ、オホホーざます!」
ざますざます、そうざますー。
息子ちゃんの名前は「スネチャマ」で決定ざます。
このスネチャマがまた感じ悪いざます。
「ふん。ちょっと魔法が使えるくらいで調子にのるなよ?」
「そうざますね。」
「どうせ子供のお遊戯程度でたいしたことないんだろ?」
「そうざますね。」
いちいちつっかかってきて苛つくけれど、大人なマリッサは華麗にスルーざます!
それなのに―――――
「おまえ!バカにするのもいい加減にしろよ!?」
スネチャマ突然きれたざますー!
え?ちょっ、魔力暴走!?
巻き込まれたざますー!!!
暴風にもまれ、身を守るのに必死になっているうちに、どこか遠くに飛ばされてしまったようだった。
わ、ここ、魔獣わんさか森(マリッサ命名)だよ!?
あ、しかもスネチャマったら魔獣の群れのどまんなか!
やーめーてーーー
さすがのマリッサもこの状況で大人の余裕はかませないよ?
突然乱入してきた柔らかくて美味しそうな餌に、魔獣達がじりじりと近づいてくる。
攻撃魔法を撃とうとするスネチャマを、この距離では自爆になると押し止める。備えのない状態で近距離・広範囲の攻撃魔法はちょっと無理!
「スネチャマ、転移できる?」
「!?こ、ここがどこだかわからないから無理だっ」
「うっ、理論派ね。マリッサと一緒だね。
ここはうちの屋敷の庭方面にある魔獣わんさか森なんだけど…」
「そんな名前の森ないぞ!?あとおまえ絶対理論派じゃないから!それとスネチャマって誰だよ!?」
「まだ自分と同じ質量くらいしか一緒に転移できないの。スネチャマ、マリッサより少し大きいから、腕の一本くらい欠けてもいい?死ぬよりいいよね?」
スネチャマは顔面蒼白で首を横にプルプルとふる。
ちょっと待ってと言うけれど、マリッサは待っても魔獣は待ってくれないよ?
ここはやっぱり…こんな時のうさぎちゃんポシェット!
じゃじゃーん!
「とりあえず、これでも喰らえー!」
ポシェットから取り出した魔獣よけ爆弾を四方に投げつける。
魔獣達の嫌いな匂いを5重がけにした嫌がらせMAX版だよ。
兄さまにおねだりして作ってもらったの。
この隙に振り切らないと!
スネチャマの腕を掴んで走り出す。
慣れないヒールでダッシュは厳しいざますーーー!
うん。無理だった。
ヒールで森ダッシュ。
短距離なら問題ないということで、転移を繰り返しなんとか群れから距離をとり、父さまにおねだりして作ってもらった結界石を起動する。
これでこの森の魔獣くらいなら十分避けられるはず!
喉がカラカラなので水筒をとりだしゴクゴク飲む。
スネチャマにも渡す。
って、え?なんか泣いてるーー!?
「俺…俺…ひどい態度で…しかも魔力暴走に巻き込んで、命の危険にさらしてしまって…ごめん…本当にごめん…。
父上みたいな立派な宮廷魔術師になりたくて…魔法の勉強は楽しかったけど、どんどん母上からの期待が重くなって…追い詰められて…そんな時に母上が優秀な女の子がいるらしいって…バカみたいに一人で焦って八つ当たりをしてしまったんだ…」
ありゃま。
「私は大丈夫だよ。お茶会には胸熱な冒険がつきものだしね!ストレス発散に魔獣でも大虐殺しとく?」
親切で言ったのに「それはちょっと…」ってドン引きされた。
そうか、淑女としてダメなやつだったか、そう呟くと…。
「淑女以前に人として問題が…」
真顔で言われた。
鼻水垂らして泣きべそかいてたくせに!
「そもそも魔法使ってなくね?魔法得意じゃなかったのか?」
「なに言ってるの?魔法だけに頼ってたら死んでたでしょ?
魔法も楽しいけど魔道具も魔法薬も楽しいじゃない!
こんなこともあろうかと備えたものが役に立つのは胸熱だよ!」
なんでびっくりした顔してるの?
さて、お迎えを待ちつつ、念のため野営の準備をしますか。
「いやいやいや、おまえのマジックバッグの中身おかしくね?」
救難信号を打ち上げ、敷物と軽食を用意する。
何を言ってるのかな?淑女の嗜みだよね。
「その淑女像はどんな野人…」
失礼な。
~~~~~
その頃、スネイル侯爵家では…
「宅の息子が!エスカーちゃんがいないざます!エスカーちゃんはどこ!?」
魔力暴走でめちゃくちゃに荒れてしまった庭で、侯爵夫人が半狂乱になっていた。
マリッサの母は魔道具のコンパクトを出し、マリッサの位置情報を確認する。プロの所作である。少し影のさした横顔には百戦錬磨の貫禄すらあった。
「南の国境沿いの森まで飛ばされてしまったようですわ。魔獣の多い地域ですので急がないとかなり危険です。」
「ま、魔獣…」
うーん、パタリとスネイル侯爵夫人は気絶してしまった。
「マリッサが侯爵子息の魔力暴走で子息と二人で南の国境沿いの森に飛ばされました。至急回収お願いします。」
マリッサ母は即座に通信の魔道具で夫に連絡を取り、子供達の回収を依頼する。
『了解。ただちに向かう。』
まるで軍属のような無駄のないやり取りであった。
~~~~~
自宅で仕事の魔道具研究をしていた私は、妻からの連絡で即座に動く。
位置情報の魔道具でマリッサの現在地を確認して転移する。
周囲を見渡すと救難信号が見えたので、すぐに二人を発見できた。
「マリッサ!無事でよかった!怪我はないかい?」
「父さま!お迎えありがとうございます!お茶でもいかが?」
娘は魔獣の闊歩する森で、敷物を敷いておやつタイムだった。
ちょっと父さま目からハイライトが消えちゃうよ。
でも、
「父さまの結界石のおかげで安心して過ごせました!」
とか言われると、途端にデレデレになってしまう口元をなんとか押さえる。
いやしかし、マリッサがよく言ってる言葉「備えあれば憂いなし」は本当だな。マリッサにねだられて小型の結界石を開発しておいてよかった。前から薄々思っていたが、うちの子は天才かもしれない。
それからマリッサを魔力暴走に巻き込んで危ない目にあわせた侯爵家のボンボンをチラリと見る。気まずそうにしてるので反省はしてるのかな?
「マリッサの父です。ご無事で何よりです。侯爵夫人も心配しておられるので、すぐに侯爵邸に戻りましょう。」
ちょっと棒読みになったのは仕方ないよね。
私がボンボンを連れて、マリッサは自分で侯爵家に転移した。
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目を覚ました侯爵夫人は涙を流して喜んだ。
「宅の息子が娘さんを危険な目にあわせてしまって申し訳なかったざます。でもなぜすぐ居場所がわかったざます?」
「お恥ずかしながら、娘は大変なお転婆でして…。心配なもので、夫が開発した位置情報の魔道具を携帯させているのでございます。」
え?位置情報の魔道具ってなに?え?どこ?
びっくりして母さまを見ると、にっこり微笑まれた。
もちろん眼は笑ってない。怖い。
世の中には知らない方がいいこともあるようだ。
マリッサは少し大人になったよ。
侯爵家からの謝罪を受け入れ、とりあえず今日は帰ることになったよ。後日、また正式な謝罪をするそう。
帰り際にスネチャマが近づいてきた。
「巻き込んでごめん。あと助けてくれてありがとう。
俺、すごく視野が狭かった。
もっと色々学んで、おまえを見返すから!」
宣戦布告だね!負けないよ!
異世界のお茶会って、最後までやりきるのがハードなイベントだよね。魔法の練習もその他の備えももっとして、次のお茶会は最後までやりきりたいな!
マリッサは気づいた。
うさぎちゃんのポシェットがもう子供っぽいことに。
マリッサ「そうだ。デコろう。」