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閑話 10年前のハーバリウム

 「うっ……ぐす……」

 「どうして泣いているの?」

 公園の隅でうずくまる女の子に、男の子は声をかけた。後ろから急に声をかけられた女の子は、小刻みに震えていた肩を大きく動かした。

 「痛いの? どこか怪我したの?」

 女の子の困惑をよそに、男の子は矢継ぎ早に話しかけた。

 「……お母さんが死んじゃって、お父さんはおかしくなっちゃった。もうすぐこの街を出て新しいところへ行くの。……でも私行きたくない。お母さんの思い出のあるこの街にいたいの。知らない場所へ行くのは怖い……」

 肩で息をしながら、女の子は振り絞るように声を発した。声が漏れるたびにその瞳には涙が溜まり、溢れて頬をつたってはまた溜まっていった。

 「……そっか、こころが痛くて泣いていたんだね」

 そういうと男の子は、手に持っていた小さなボトルを女の子に差し出した。中にはかすみ草、タイム、アネモネなどの紅い花が詰まっており、その美しさに女の子は涙を止め、その潤んだ瞳で必死にボトルを見つめていた。

 「……きれい」

 女の子が呟くと、男の子はニコッと笑ってボトルを女の子の胸元に押しつけた。

 「これ、あげる。勇気の出る魔法入りだよ」

 「……いいの?」

 「うん! だからもう泣かないで」

 「……ありがとう!」

 そう言うと女の子は笑顔を見せた。その瞬間、花が咲き誇るような感覚に陥り、男の子は自分の目を擦った。

 「どうしたの?」

 「ううん、なんでもない。それより──」

 「ちょっと! もう帰るわよ!」

 男の子が何かを言いかけたとき、公園の入り口付近から女性の叫び声が聞こえてきた。

 「あ、ママが呼んでる。僕行くね」

 「待って!」

 引き止められると思っていなかったのか、大声を出した女の子に驚いたのか、男の子は目を丸くして女の子を見つめた。

 「あなたは一体……誰?」

 「僕の名前は──」


 「あっ! あんたさっきの瓶はどうしたの!」

 男の子の手を引いて帰路についていた女性は、彼の腕に収まっていたボトルがないことに気づいた。

 「さっきあげちゃった」

 「あげたぁ⁉︎ あんたが欲しい欲しいって散々駄々こねるから買ってあげたのに……」

 「うん。でも、あの子の方が必要そうだったから」

 そのあっけらかんとした態度に、女性は大きく溜息をついた。

 「……もう買ってあげないからね」

 「大丈夫。今度僕の方が必要になったら、その時は返してもらうよ!」

 そう言うと、男の子は女性に向かって屈託のない笑顔を向けた。そして、先程会った弱くて少し不思議な女の子に想いを馳せた。


 

 花が咲くように笑う、とても魅力的な笑顔の女の子に。













ピンクのかすみ草…「切なる願い」

タイム…「勇気」

アネモネ…「君を愛す」

続きじゃなくて申し訳ございません!

本日10月21日はひまりの誕生日となっているため、特別話を書かせていただきました。

今後ともひまりと悠里をよろしくお願いします!

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