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第二話 隅っこのお茶会

 第二資料室のドアを開くと、不機嫌そうな顔が僕を出迎えた。

 「……何しにきたの?」

 まさか二度も来ると思わなかったのか、ひまりは資料から目を離して声をかけてきた。

 「こないだアメあげたけど、ひまりは甘いもの大丈夫かなって思ったんだ」

 「……甘いものが好き。ありがとね」

 ぽつりと言うひまりの顔が少し綻んだ。そんな様子を見て、僕は手に持った袋を目の前に掲げた。

 「実は、あの後マフィンを作ったんだ。よかったら食べない?」

 「え、いいの?! ありがとう!」

 その瞬間、文字通り花が咲くようにひまりは(わら)った。初めて見た彼女の笑顔に、僕を釘づけになった。

 「……はい、どうぞ」

 くすぐったいような気分になりほのかに変わった顔色を悟られたくなくて、少しそっけなく袋を突きだした。

 「せっかくだから、お茶淹れよ。ミルクと砂糖使う?」

 声を弾ませながらお茶の支度をしているひまりの背中に、当たり障りのない会話を投げかける。

 「……なんで資料室にティーセットなんてあるの?」

 「ここはほぼ私しか使わないから、勝手に持ち込んだの。でもお菓子みたいな生ものはめったに食べられないから嬉しい!」

 そこまで言ってこちらを振り向いた瞬間、ひまりの顔がみるみる赤くなっていく。

 「……ごめんなさい。いつもはこんなにはしゃがないんだけど、その、甘いものなんて最近チョコかキャンディーぐらいだったから……」

 怒られた小さな子供のようにしゅんとしてしまった姿を見て、僕は思わず吹き出した。

 「……なっ、笑うことないじゃない!」

 そう言いながら、真っ赤な顔のまま「ぷんすか」という言葉がぴったりの態度でひまりは怒った。

 「ごめんごめん、そんなこと気にしてると思わなくて。むしろ喜んでもらえて嬉しいよ。ほら、お茶にしよう」

 半ば強制的にひまりを座らせ、持ってきてくれたお皿にマフィンを盛る。

 「今日はりんごジャムのマフィンを作ったんだ。りんごは平気?」

 「……大好き」

 今田少しむくれた顔をしながら、ひまりはポットの紅茶を注いでくれた。

 「はい、ユーリの分」

 渡されたカップからは上記が立ち昇り、茶葉の爽やかな匂いがふわりと香る。深紅の液体を口に流し込むと、さっぱりとした後味を残してすっと喉をとった。

 「……美味しい」

 その紅茶は、冗談抜きに今まで飲んだ中で1番おいしい紅茶だった。普段は渋みが苦手でひと口飲むとすぐ砂糖をポトポト入れていたが、この紅茶はストレートでも充分飲み干せそうだった。

 「あ、お砂糖要らなかった? 一応二つつけたけど」

 そういえば結局さっきの質問には答えていなかったなと僕はふと思い出した。

 「いや、いつも結構砂糖入れちゃうけど、これはストレートでも美味しくて。何か良いものだったりするの?」

 「うん、普通に売ってるアールグレイだよ。単に茶葉の相性じゃない?」

 「いや、うちお母さんが紅茶とかお菓子とか好きで僕もよく紅茶を飲んでいたんだ。そのどれも苦手だったから……淹れ方かな」

 「お母さんが……ね」

 「え、何か言った?」

 「あ、うん、何でもない! じゃあ蒸らし時間とかかもね。ていうかユーリのお菓子もすごくおいしいよ!」

 一瞬、とても暗い顔でひまりが何かを呟いた気がしたが、それは彼女自身の言葉と楽しいひとときによってかき消されてしまった。

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