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ずっと一緒に。異世界ライフ  作者: 江野喜けんと
第1章 やってきたのは裏世界?
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VS桜の少女①

 「ちょって待てぇいっ! 一階はさっきのダイナマイト野郎のせいで瓦礫に埋められてるじゃないかぁ!」


 崩れゆくマンションから脱出する中、美奈が騒いで思い出す。


 俺と綾は顔を見合わせる。


 「…飛ぶかっ。」「だねっ。」


 「うわああぁんっ、やっぱりだぁっ!」


 俺は綾の背中に掴まった。


 「よし綾、飛んでくれっ!」


 「久来は自分で飛んでよっ。私に70kgの肉体背負わせる気っ!?」


 振り落とされた。


 「後輩捨てて自分だけ助かろうとする最低不良先輩。」


 「ぺっ。」


 直と美奈に侮蔑と唾を吐かれる。


 「ぐぅ、どうして俺だけボケるのが許されないんだ。」


 愚痴りながら2階にたどり着く。


 「私は美奈ちゃんと飛び降りるよっ。」


 「わ〜い、姉貴だいちゅき〜。」


 美奈は綾にお姫様抱っこされる。


 「直、俺たちは下の車のボンネットだ。飛び降りたら先の茂みにダッシュっ。」


 「了解、トランザム。」


 俺と直は2階のベランダに足をかける。


 「ところで兄貴、さっき後ろから触った姉貴の胸の感触はいかがだったすか?」


 「あぁ、感触も何も肋骨と胸部の境い目すら分からな」


 ドガッ!


 後ろから蹴られて空中に飛び出す。


 「ちょっ、やばいっ、バランスがとれ…うわああぁぁ!」


 「先輩っ!」


 ほぼ同時に飛び降りた直に腕を掴まれ、なんとか体勢を立て直す。


 そしてボンネットに着地。綾も美奈を抱えて着地した。


 「走れぇ!」


 俺たちはそのまま一直線に茂みに飛び込んだ。


 同時にマンションが轟音と砂塵を巻き上げて倒壊した。


 「ふぅ…間一髪…。」


 「しっ、誰か来るよ。」


 綾が美奈の口を塞ぐ。


 すると、空を飛んで黒髪の少女がやってきた。


 「あら、随分な破壊力ね。私も混ぜてもらおうと思ったけど、遅かったかしら。」


 そう言って少女は索敵する様にマンションの周りを飛び回っている。


 「さっきダイナマイトを落としてきた奴ですかね。」


 直が声を忍ばせて言う。


 「いや…口ぶりから察するに多分違うんじゃないか…?」



 「あいつ一人だし〆る? 〆ちゅう?」


 美奈が横で観察する綾に言う。


 「…やめた方がいいよ。向こうは空飛んでるし。それにあの子もすっごく強いよ。」


 また強いのか…。


 「ん〜誰もいないみたいね。まったく、とんだ無駄足だったわ。」


 少女はそう言って手を空にかざす。


 すると、巨大な雷を纏った隕石が上空に出現した。


 「? 何やってんだあいつ。」


 美奈が呆けた顔で言う。


 「念の為この辺り吹き飛ばしときましょ。」


  「「「「!!??」」」」




 多分すっごく強い黒髪少女: ????  学生?




 少女から無情な言葉が聞こえてきた。

 やばいっ、今声を出したらあの隕石が確実に俺たちの頭上に降ってくることになる。


 俺たちは身を屈めて避難訓練よろしくその場から撤退した。


 同時に、轟音と地響きが俺たちの背後から迫ってきた。

 さっきの隕石が落下したのだろう。


 「あかん…ほんまにあかんよ…。」


 「ほんとにあかんだよぉ。美奈ちゃんが関西弁になってるほどあかんだよぉ。」


 綾は息も絶え絶えの美奈をさすって言う。


 俺たちは人通りのない公園への道に出ていた。


 「あんなのがゴロゴロいるなら尚のこと潰し合いを期待したいですね。」


 直は疲れた表情で言う。


 「まぁなぁ…それより忘れそうだったが、マンションから飛び降りようとした時に後ろから蹴った奴は誰だ。アホ美奈か。」


 俺は美奈を睨む。


 「いやぁあれはアタシじゃ……あ〜いやアタシっすね。さーせん調子こいじゃって。」


 美奈は笑いながら頭を掻く。隣で綾がニコニコしてる。


 「もうっ。飛び降りようとしてる時に後ろから蹴ったら危ないでしょ。めっ、だよっ。」


 「…………………うす。」


 一瞬間があって、美奈は頷いた。


 「まぁ過ぎたことはいいか。」


 「そうですよ。とりあえず移動しましょう。立ち止まって的になるのも嫌ですし。」


 直はそう言って公園内部へ歩き出す。俺たちも誰にも会うことなく入った。

 

 街の中は先程のような激しい戦いによるものなのか、あちこちに破壊の形跡があったのだが、この公園は綺麗なままだった。


 「こんな公園が私たちの世界にあったら、お花見にはもってこいだねぇ。」


綾の言う通り、先程来たときには、湖の円周に沿うように、大量の木々が生い茂っていたが、今はそれらが全て、満開の桜の木となって公園を彩っている。


 見渡す限り桜色の美しい公園。俺たちの世界でも,中々見られるものではない。


 「へぇ、花見ってしたことなかったんですけど、中々馬鹿にしたもんじゃないですね。」


「直はいつもゲームして引きこもってばっかだからな。アタシなんかいつも乱痴気騒ぎよ。」


 美奈が桜の木の下まで走って行き、くるりと回転しながら言った。


 「お前はどうせいつも周りの見物客に酒ねだって迷惑かけてるんだろうが。」


 「ねだってないわ! 未成年じゃ! ねだるのは食い物だけ〜。」


 直と美奈が軽口を叩き合っている。


 「はは、乞食かよ。」


 「「………。」」


 気軽に突っ込んだだけなのに、直と美奈は二人して無言で俺を見つめる。


 それから湖に沿って、公園を歩いていく。


 「みんな、止まって。」


 公園を半周ほどした桜並木のところで、綾が手で制す。


 そこには舞い落ちる桜の花びらと、桜並木に溶け込むかのように、桜色の髪の、白いワンピースを着た少女が目を瞑って佇んでいた。


 その姿は非常に絵になる。今にも桜の中に消えてしまいそうなほどに儚い姿だった。


 「不意打ちしかけるか?」


綾に耳打ちする。


 「…うぅん、私たちには気付いてる。」


 俺は全く意識を感じないが、綾が言うのならそうなのだろう。正面から行くしかないか。


 俺たちは彼女へ歩みを進める。


 「綺麗でしょう。この桜たちは。」


 俺たちが彼女に近付くと、彼女は振り向いて、目を開いて言った。


 …なんて、深い桜色の瞳。


 「女神イリスは春のキャドースピリッツを彩るものとして、必ず桜を選ぶの。桜とは、心の美の象徴だから。精神を戦わせるこの祭りにぴったりだと思わない?」


 …変な意味ではなく、すごく美しい少女だと思った。幻想的な雰囲気に、その落ち着いた口調と可憐な外見は、さらに彼女を非現実的な存在へと昇華していた。


 「ところであなたたち…。」


 少女が再び口を開く。


 



 「桜の花弁ってスベスベよね?そうスベスベ赤ちゃんみたいな肌触り。加えて桜の幹の捩れ方。クネっとしてるの。エロいわ〜。エロくない?人間で言う艶かしい腰つきの様。さっきのスベスベ肌とエロい腰つきを合わせるとそうっポールダンサーっ。桜は植物界のポールダンサーなのよっ。はぁ〜桜エロいわね〜匂いも最高だしっ。もう結婚して桜たん。す〜は〜す〜は〜。」


 少女はそう言って桜の木に頬擦りし始めた。


 「ねぇ、なんでアタシらって変な奴にしかあわねぇの?」


 「お前、自分も変な奴のくせにとやかく言うなよ。」


 とりあえず脳内の彼女のイメージを修正する時間を稼ぐため、美奈に辛辣なツッコミ。


 「どうします綾先輩、トリップしてる間に倒します?」


 直は引き気味に綾に言う。


 「難しいかな。あの子もすっごく強いから。」


 「みんなすっごく強いのかよっ!」


 美奈がパシィンとツッコミをしる。ぶっかって俺はタタラを踏む。


 「ダメよ、あなた。」


 少女が俺の足元を見て言った。見ると、気が付かなかったが白い花を踏んでいた。


 「苦痛の声が聴こえるの。痛い痛いって。可哀想に、私が聞いてあげるわ。あなたの声…クローバーの花言葉は、ふ・く・しゅ・うってね。」


 「っっ……!?」


 その時、全身から血の気がひくような感覚に陥る。一瞬呼吸を忘れるほどの形容し難い危機感。


 先ほどの雰囲気とは一転、綾の言葉を裏付けるとんでもない殺気が辺りを支配する。


 身体に熱が戻ると今更のように手が震え出す。


 その時、少女のまわりの桜の花びらが不自然に浮かび上がっていることに気付いた。  




 「殺花罪で極刑。さようなら、どこの誰とも知らない人たち。」


 少女はにっこり笑って言った。


 「散れえぇみんなあぁっ!」


 本能で叫んでいた。


 俺が言うまでもなかったのか、全員一目散に距離を取る。


 次の瞬間、俺たちがいた場所を暴風に近い花びらのつむじ風が包み込んだ。

 

 「くっ!?」


俺は体を捻ってかわす。しかし、振り向いた時、先程かわしたはずの桜のつむじ風は、俺のすぐ背後にあった。


 今度はかわす暇もなく、花びら1枚1枚がまるで鋭利な刃物の様に、俺の体を斬り裂く。


 「ぐぁぁあ!」


耐久値51


 いっきに耐久値を削り取られる。


 「花弁が武器にっ…まずいぞっ!」


 彼女のキャドーはよく分からないが、おそらく花びらがあるここが危険なことに間違いはない。花弁が武器なら、この桜並木は彼女にとって武器庫も同然。


 「ふふふっ」


彼女は俺たちに向かって手をかざす。


 すると、辺りの花びらが巻き上がり、巨大なつむじ風になって俺たちと彼女を包み込む。


 「しまった。囲まれたか!」


 俺たちは全方位をつむじ風に包囲される。


 「さぁ、貴方たちも,この美しき桜の(にえ)となりなさい。」


 少女はそう言って、再び花びらでつむじ風を作り出し、綾目掛けて飛ばす。


 「っ!」


 綾は軽やかな動きで縦横無尽に動き回り、襲いくるつむじ風を難なくかわしていく。


 「少しは腕に覚えがありそうね。でも、あなただけ避けていても意味がないのよ?」


  少女が綾に言うと、


「うわぁぁぁ!」


 直が、背後から突如発生したつむじ風に斬り刻まれる。


 耐久値30


 「っ…!」


 綾は歯痒そうにしている。そう、綾が徒手空拳でなければなんとかなるかもしれないのだが…。


 「何とか…逃げられる隙だけでもっ!」



 つむじ風が直を斬り刻んでいる隙に、俺は彼女に一気に距離を詰め、拳を振るった。


 すると、彼女の体は花びらになり消える。


 それと同時に俺たちを囲んでいた巨大なつむじ風が消える。


 「っ、植物を操るキャドーですか…。その気になればもっと大規模な攻撃もできるんでしょうが、完全に遊ばれていますね…。」


 直は唇を噛んで言った。攻撃された隙に解析したようだ。


 「防御にも使える…ここは逃げるしかないかな…。」


 綾が尻餅をついている美奈の手をとって立ち上がらせる。

 同感だ。倒すのは厳しい。


 …あの少女はどこへ消えたんだ?


 「くっそぉ〜、おいこら出てこい花女ぁっ! 植物姦趣味変態女っ!」


 「美奈、無駄に騒ぐな…ひとまず撤退…」


 その時、直の背中で花びらが舞っているのに誰も気が付かなかった。


 「しまっ…!」


 綾が駆け出すがすでに遅し…


 「変態じゃないわよ。私、源氏迷(げんじまよい)って言うの。よろしく、あと、ばいばぁい。」


「がっ…!? な…に…っ!」


直の背後にいた源氏は、花びらのサーベルで直の体を貫いた。

 

 「もう…やられちまうなんて…せめて…これだけでも…」



直は地面に倒れ伏し、手を伸ばしたかと思うと光に包まれて消滅した。


 「さぁ、次はあなたたちね。」





 植物変態女× 幻想可憐な桜少女◯: 源氏迷  学生?




 小此木直 耐久値0 脱落

 



〜コレナニ双葉先生〜


双葉「第3回、今日のゲストは第一敗退者直くんだ。」


直「なんでここに来てまでいじられなきゃいけないんだ…。」


双葉「さて、今回のお題はこれだ。」




◇耐久値◇




直「ずっと気になってたんですよね。どういう物なんですかこれは。」


双葉「うむ。キャドーと言う力が与えられたのと同時に備わっていた防衛機能だ。キャドーという強大な力が跋扈するこの世界で、人々がそう簡単に傷つかないのはこれのおかげだ。」


直「双葉さんたち研究センターが開発した仕組みじゃないんですか?」


双葉「元々はイリスが初めからキャドーに備えていた機能何だが、研究センター第一支部の創始者が開発して日常生活に流用したんだ。」


直「最初は耐久値というものは日常的に存在していなかったと?」


双葉「うむ。キャドースピリッツの開催時にのみ備わる機能だった。それを模倣したんだが、少々性能がオリジナルと異なっていてね。耐久値には、キャドースピリッツの時に利用されるイリス産のものと、日常生活に利用される人工のものの2種類がある。」



「キャドースピリッツの時の耐久値」


初期値は基本100。人体への物理的ダメージを肩代わりする。0になると、キャドースピリッツ敗退となる。



「日常生活の時の耐久値」


初期値は基本100。人体への物理的ダメージを肩代わりする。0になると人体にダイレクトにダメージが入るようになる。

数値はすぐに自然回復し、満タンに戻る。



直「なるほど、ダメージを肩代わりし、すぐに数値も回復するのか。でも耐久値がなくなると普通に人体は傷つく…防弾チョッキ程度のセキュリティですかね。」


双葉「いや、もっと安全だ。今見せてあげよう。」



 ブロロロロ……



直「あの…何でバイク乗ってんですか?」


双葉「ひゃっはああぁ!!」




 ブロロロロン!! ドガッ!!



直「ぎゃあああぁ!!」


双葉「直くん、耐久値をみてみたまえ。」


直「いきなりなにする……98? バイクに轢かれたのに2しか減ってない。」


双葉「そう。耐久値なんて、そう簡単には減らせないのさ。」


直「確かにそれなら安全…あれ、でもキャドースピリッツで美奈が先輩に引っ叩かれただけで3減りましたよ?」


双葉「そこも性能の違いの一つさ。キャドースピリッツの方の耐久値は簡単に減少する。そうしないと勝負がつかないからね。」


直「なるほど。日常生活での安全性が保たれている1番の要因はこれでしたか。…ところで双葉さん、さっきの高そうなバイクはどこから?」


双葉「私の愛車だ。」


直「金持ちだなぁ。」


双葉「ではまた次回、次のゲストはあの人かな。閉講」

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