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ずっと一緒に。異世界ライフ  作者: 江野喜けんと
第1章 やってきたのは裏世界?
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火蔵村の姿


 扉を開けた少年は、おそらく俺たちの半分くらいの歳と思われる姿、小学生くらいの見た目だった。


 「何のようだね。配達の手配はされてないと思うんだが?」


 少年はその外見に似つかない、やや尊大な口調で腕を組んで俺たちに言う。


 「あんだこのガキぃ? 口の利き方ってもんを教えてやったほうが良いっすねぇ。」


 美奈は不良の下っ端みたいな口調で指をポキポキ鳴らそうとしたが鳴らなかった。


 綾がしゃがみ込んで少年に言う。


 「ごめんね? 私は結城綾。私たち、玉城さんっていう人に会いたいんだけど、知らないかな?」


 「玉城は私だが?」


 少年が綾の問いに即答する。俺たちは一瞬固まる?


 「あ、あぁ、玉城さんのお子さんかな? その、キャドーの研究に詳しいっていう。読んできてもらっても」


 「だから私がその玉城だと言っている。」


 少年、玉城さんはそう言って不機嫌そうに綾を見上げる。


 「えぇ〜! このガキが研究センターに勤めてたっていう玉城先生なのかよ!?」


 美奈が素っ頓狂な声をあげる。そりゃそうだ。まさかこんな小さい子が研究者として働いていたなんて想像できるはずもない。


 「誰がガキか、君らのほうがよっぽどガキじゃないか。私はもう40半ばになるんだぞ。」


 …マジかよ。どう見ても小学生、よくて中学生にしか見えない…。


 「まさか合法ロリならぬ合法ショタ…これは一部マニア垂涎ですね…。」


 直がよく分からないことを言っているが無視する。


 「その、失礼ですが、昔からその姿何ですか?」


 俺は恐る恐る玉城さんに聞く。


 「その前に質問だが、村のバリアのブレーカーを落としたのは君たちか? 急に6エリアの障壁がシャットアウトされたんで様子を見にきたんだが。」


 「あ、はいっ、すみません。知らなくて…。」


 俺はブレーカーの件を玉城さんに話して、頭を下げる。


 俺たちよりだいぶ歳上とのことだが、どう見ても子供にしか見えないので、頭を下げるのは変な気分だ。


 「全く、今月の鍵当番は誰だったかな…。後で文句言っておかねば…。」


 玉城さんは頭をポリポリとかきながら言う。


 「それより、この村の人たちはどこに住んでいるんですか? 村を見る限り、人が住んでいるようには見えないんですが。」


 直が玉城さんに聞く。


 「あぁ、そうそう。君たちの質問に答える前に、私に何の用があってこんな山の天辺まで訪ねてきたんだ?」


 玉城さんは俺たちの顔を見回しながら言う。


 「はい、その…俺たちのキャドーについて調べてもらいたくて。」


 俺の返答を聞いて、玉城さんはため息を吐く。


 「またか…街で暮らしていた時も沢山そう言ってくる人がいた。私はキャドー鑑定士じゃないぞ。悪いが、キャドー研究センターにでも当たってくれ。」


 玉城さんはそう言って俺たちを通り抜けて、変電所の鍵を掛けに歩いていく。


 俺たちは慌ててその後を追う。


 「待ってください! 私たち、どうしてもキャドースピリッツに優勝したくて、自分たちのキャドーを詳しく知る必要があるんです!」


 綾が玉城さんに言う。


 「キャドースピリッツに優勝したい奴なんて星の数ほどいるわ。自分で調べて見つけなさい。」


 変電所に着いて、玉城さんは鍵を掛けた。


 「頼むよ〜。元の世界に帰るために必要なんだ〜。」


 「元の世界? なんだねそれは?」


 美奈の言葉に,玉城さんは足を止める。


 「はい…実は俺たち、この世界とは違うもう一つの世界から来たんです。」


 「まさか裏世界のことか? まだ未知な事が多い上に、一般の人間が知らないはずのそのことを何故君たちが知っている。」


 玉城さんも、元研究センターの職員だけあって、二つの世界のことを知っているようだ。


 あまり口外しない方が良いのだろうが。彼の協力を得るためには話した方が良いだろう。


 俺たちは、自分たちがもう一つの世界から来たことなどを玉城さんに話した。


 「…なるほど、嘘とも思えないし、まさか裏世界から来た人間がいるとはな。」


 玉城さんは、研究者の目で興味深そうに俺たちを見つめる。


 「良いだろう。君たちが私の質問に答えてくれるなら、代わりに君たちのキャドーを分析してやろう。」


 「ぜひ、お願いします。」


 俺たちはそうして、玉城さんに案内されて、彼の家に入る。


 家の中は、予想してはいたが、家具などは何一つなく、ここで生活していないことは明白だった。


 玉城さんは、部屋の端まで歩くと、服からリモコンのようなものを取り出して、床に向けて操作する。


 すると、床の一部が沈み、中から階段が現れた。


 「こっちだ。着いてきてくれ。」


 玉城さんは階段を降りていく。


 ヨルド鉱山の時といい、この世界の人たち地下に隠し部屋作るの大好きか?


 階段を降りた先は、まるでキャドー研究センターの双葉さんの研究室のような部屋だった。


 俺たちの見た事がない良いな機器の数々。そして、他の部屋にはキッチンや、私物など、生活感が感じられる場所だった。


 俺たちは玉城さんに促されて、ソファに腰掛ける。


 玉城さんはお茶を入れて、俺たちの前に置く。


 「っ! 先輩、窓の外!」


 直に言われて、俺は部屋にある窓の外を見る。そこには、鉄筋で作られた巨大な通路、そこには店なども並び、辺りには人、人、人、こんなにこの村には人がいたのか…!


 「驚いたかい? 火蔵村の地上は寂れた寒村と見せかけるためのハリボテのようなもの。この地下こそが、火蔵村の真の姿なんだ。」


 「すっげぇ…! こんなでかい街が村の地下にあったのかよ!」


 美奈は興奮したように窓に顔を張り付けてみる。


 「生活に必要なものは大体この地下で完結する。外に出るとすれば、村の結界のメンテナンスとか、宅配便の応対くらいだね。」


 巨大な通路には扉がいくつもあり、それがこの村の人たちの家なのだろう。


 そして、外に出る時は上に上り、地上のボロい家から出てくると。


 「さて、早速聞かせてもらおうか。もう一つの世界の話を。」


 それから小一時間、俺たちは玉城さんに質問攻めにされた。


 俺たちの話を聞くたびに、玉城さんは、なるほど、興味深い、などと言っていた。


 「なるほど、では約束通り、君たちの聞きたいことに答えるとしよう。」


 俺たちへの質問に満足したのか、玉城さんは俺たちに言った。

 

 正直、自分たちのキャドーより、玉城さん自身のこととか、この火蔵村の正体とか、そっちの方が気になる。


 「じゃぁ、その」


 「玉城さんって何でそんなショタな外見なんですか〜?」


 美奈が遠慮なしに突っ込んだ質問をする。


 「あぁ、街に住んでいた頃、研究でやらかしてねぇ。いろいろあって身体だけ若返ったんだ。」


 「何の研究をしていたんですか?」


 「私のキャドーが人の記憶を遡って知る事ができると言うものでね。それを発展させて、過去へ行けるようにならないかと思って研究していたら、失敗して身体だけ過去のものになってしまったんだ。おかげで当時は街を歩くたびに保護されたり苦労したよ。」


  

 玉城さんはやれやれといった感じで言った。

 

 「どうして研究センターを辞めたんですか?」


 直が玉城さんに聞く。


 「まぁ、研究センターの規制が厳しくて自由に研究できないというのもあったが、一番の理由はこの体になったことだよ。」


 玉城さん曰く、白衣を着て、ズルズルと裾を引きづりながら歩いている姿を他の研究者に馬鹿にされたのがいちばんの原因らしい。


 「何でここに来ようと思ったんですか? というか、こね火蔵村って一体何なんですか?」


 「まぁ、そうだね。キャドーを自由に研究したい人が集まる所というのも間違いではないが、他にも何か事情があって、世間に顔を出しづらい人が住んでいたりもする。まぁ、はぐれ者が集まる場所がしっくりくるか。」


 玉城さんは、火蔵村の正体は口外しないようにと念を押した。


 「さて、本題に入ろうか。君たちのキャドーについてだったね。君たちも、自分のキャドーの基本スペックは知っているよね?」


 俺たちは頷く。


 「世間では、キャドーの成長、開花は人によって千差万別と言っているらしいが、私からすればその考えはもう古いよ。」


 玉城さんはホワイトボードに図を書いた。


 「キャドーの覚醒方法は3通りだ。これは恐らく例外はない。」


 俺たちのキャドーの覚醒もそこに盛り込まれるのだろうか。


 「1つ目は、所有者の感情が一定数まで高まった時、それはある人を守りたい、助けたい、もしくは自分が成長したい。そんな人により異なる感情が昂るとキャドーが呼応して覚醒する。これは1番多いパターンだ。キャドーはその人の本質を具現化するとされているからね。感情がトリガになる可能性は非常に高い。」


 玉城さんは続けて書く。


 「2つ目は、感情が高まった状態で尚且つ自分の既存のキャドーを発動した時。これは、新たに覚醒するキャドーが、今所有しているキャドーが進化したものである場合、これに該当する可能性が高い。」


 そして、3つ目を玉城さんが書く。


 「3つ目に、これが1番面倒なのだが、キャドーの覚醒方法がキャドーの成長の条件と同じである場合。これは簡単に見えて、キャドーの成長の条件が分かっていないと一生キャドーが覚醒しないから面倒だ。しかも、覚醒は成長より遥かに面倒な場合が多い。」


 玉城さんはペンを置く。


「私はこの3つのパターンを軸とし、人々のキャドーが開花をした時の記憶を見て、この3つのパターンのどれに当てはまるかを見極める。」


 玉城さんは、背伸びして、俺の額に手を置く。


 君たちのキャドーの覚醒方法を調べるために、過去をさぐらせてもらうよ。


 そして玉城さんは、順番に額に手を置いて調べて行った。


 「ふむ。分かったよ。」


 玉城さんは、俺を指差した。


 「君がパターン2、それ以外の3人がパターン1だ。別世界から来たから特殊だと思ったが、どうやら平凡なキャドーカードのようだね。」


 玉城さんはそう言って椅子に座る。


 「君は自身のカード、特に「食料変換」のキャドーがトリガになっているようだね。そのキャドーは積極的に使用すると良い。」


 「なるほど…。」


 「そして君たち、」


 玉城さんは綾たち3人を見回す。


 「君たちは自身の精神状態がキャドーの成長に影響している。まぁ、平たく言えばマンガでよくあるピンチになったら覚醒パターンか。まぁ頑張ってくれたまえ。…ところで…。」


 玉城さんは美奈を見る。


 「君のキャドーカードを見せてもらっても良いかな。」


 「? いいけど。」


 美奈からカードを受け取り、スキャナーに通す。


 「なるほど、記憶で見た通り、本当にソウルがerrorになっている…。こんな前例は見たことないな。」


 「ソウルがerrorだとどうなるんですか?」


 直が玉城さんに尋ねる。


 「ソウルとは、そのキャドーの所有者の軸となるものだ。君たちのキャドーはどれも、食料系、氷系、解析系と特徴があるだろう? しかし、君のキャドーはソウルがerrorな為か全く一貫性がない。加えて使い道もよくわからない。覚醒方法がパターン1なのは間違い無いと思うが、夜波神社のキャドーの覚醒は、まるでその時に必要なキャドーが都合よく開花したような気がするのだよ。興味深いね。」


 そして、美奈のキャドーの成長方法は不明、綾と直は、キャドーの使用回数が成長の鍵だと教えてくれた。


 「もう夕方だし。泊まって明日帰るといい。珍しいなら外を見学してもいいぞ。」


 「あの、俺たちの他に女の子が来ませんでしたか?俺たちと同年代の。」


 「いや、私は知らないな。連れかい?」


 「まぁ、同行しただけですが、他にやる事があるらしいのですが。」


 「そうか。一応他の家に聞いておくよ。」


 玉城さんは、しばらく俺たちから得た情報を研究したいからと奥の部屋に行った。


 「どうする?」


 綾が聞いてくる。


 「とりあえず、この村を見学しながら、瑠衣さんを探そう。」


 そして俺たちは玉城さんの家から、火蔵村の通路に出た。


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