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ずっと一緒に。異世界ライフ  作者: 江野喜けんと
第1章 やってきたのは裏世界?
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各々の思惑と新年度


 「はぁ〜.…今日も良い天気だねぇ。」


 綾はそう言って、のほほんと春の日差しを浴びながらお茶をすすっている。


 「どこに来ても春の長閑(のどか)さは変わらないもんだなぁ〜…。」


 俺は綾の隣に腰掛け、商店街で買った桜餅を頬張る。


 「美月ちゃんと透子ちゃんが入学した時浦学園(ときうらがくえん)ってすっごく有名な所らしいねぇ。全国から入学志願者があつまるんだってぇ。」


 「この間通りかかって見たが、ありゃ学園というより街だな。ビルとかめっちゃ立ってたし。」


 キャドーの研究施設と併用のマンモス校。双葉さんも教師として勤務している。特に今年は、学園の有名人見たさに入学者が多いらしい。

 

           ◇ ◇ ◇


 「双葉さん。前に少し耳にした、()()()()7()ってどんな人たちなんですか?」


  少し前に聞いたことがあった。


 「まぁ、特に何らかの組織や称号ってわけでもないんだけどね。時浦学園に在籍するとある7人の生徒を指す。ある偉業…というか神業を起こしたとされている。」


 「神業…なんか凄そうですね。どんなことを?」


 「ニグラムの中で、最も危険とされる力を持つ「接触禁忌種」。4体確認されているが、そのうちの1体を討滅したのが、その7人とされている。」


 接触禁忌種の4体のニグラムは活動すらしていないと透子も言っていたな。


 「俺にはよく分かりませんが、接触禁忌種とやらはそんなに強いんですか?」


 「過去に国が交戦した接触禁忌種は1体だけだが、まぁそうだな。国の全軍事力を持ってして五分の勝率といったところか。」


 「は…?」


 国を上げても勝てないかもしれない奴にいくらキャドーが強いからって俺と歳の変わらない人たちがたった7人で?


 「驚くのも無理ない。研究センターでも未だに信じていない人はいる。彼らのキャドーを研究しても、それほどの力があるとは思えないという研究者がほとんどだ。」


 グランド7の一角である黒金神無さんは、映像で見る限りとても強いのはわかるが、国家戦力を上回るという表現は大袈裟に思える。


 「何か秘密があるんですかね。」


 「さぁね。国は研究を強行はできないよ。接触禁忌種を倒すような戦力だ。彼らは今のところ研究センターに協力的だが、万一怒らせるようなことがあれば国の戦力は一瞬で壊滅という可能性もある。」


 「…俺らと同じくらいの人たちですよね。ヤバそうな雰囲気だったりするんですか?」


 「いや、遠目で見たことがあるが、ごく普通の生徒だよ。友達も多く人気も高いらしい。一人一人に厨二チックな二つ名まであるよ。」


 「どんな二つ名ですか?」


 「え〜っと〜……星姫(せいき)理将(りしょう)白煌(はくおう)黒箱(くろはこ)瞬花(しゅか)祭源(さいげん)豪壊(ごうかい)だね。」


 厨二というかどんな奴らなのか想像しにくい異名だ…。


 「黒金神無さんは…白煌?」


 「そのとおり。グランド7のキャドーはそこまで認知されていないからね。彼らを側から見てなんとなく付いた異名なんだろう。」


 色々あるものなんだなぁ…。


         ◇ ◇ ◇


 「いやいやいや! アンタらは老後の夫婦かよ!」


 双葉さんとのやりとりを思い返していると美奈にツッコまれる。


 「どうした美奈ぁ。そんなに騒がしくして。」


 「そうだよ美奈ちゃん〜。せっかくいい天気なんだし、こっちに来て日向ぼっこしよ〜。」


 綾ものんびりとした様子で美奈に言う。


 「2人とも腑抜けすぎっしょっ。 アタシたちは異世界に来てるってのに、何でこんなふうにのほほんとしてるんすかっ。帰る手段を探すとかしないんすかっ。」


 鼻息荒めに言う美奈。


 「でもよぉ、帰る手段は冬のキャドースピリッツまで待たないとだし、双葉さんから何か帰る手段が見つかったって報告もないし。」


 「だとしても〜それに向けてアタシたちのキャドーのことについて研究するとか〜使い方を練習するとかっ。」


 「そう言えば私たちって、ここ数日の間にキャドーが2つになったけど、結局何がきっかけなのか分かってないよねぇ。でも、覚醒したあとだと調べようがないよぉ。」


 「なんかしましょうよひまひまひま〜!

こんな天気の良い日に老人の真似事何かしてないで!」


 「「いやぁ〜もうちょっとゆっくりしてから〜。」」


 俺と綾は声を揃えていった。


 「も〜やだこの人たち〜! 何でアタシがツッコミしなくちゃならないんだよ〜! ヤダヤダヤダ〜みんなでどっか遊びに行くの〜!」


 美奈が床に寝転んでジタバタ暴れる。


 「うるさいぞ、ゲームの邪魔だからすっこんでろ。」


 直がテレビ画面から目を離さずに美奈に言う。


 「直〜お前からも言ってやってくれよ〜。あの2人もう熟年の老夫婦みたいになってんだよ〜。」


 美奈は顔の背中に縋り付いて言う。


 「暇だ暇だ言っているが、春に裏世界の学校に編入するかって話が出た時にお前だって面倒くさいって反対したじゃないか。」


 「学校行く暇ないくらい忙しいと思ったのにこんなにやる事ないとは思わなかったんだよ〜。」


 俺たちはヨルド鉱山の一件以降、何事もなく平穏な日々を過ごしていた。


 世間は学校などが始まったのだが、俺たちは特にすることがない。


 「お前もゲームすりゃ良いだろ。それがもっとも有意義な時間だ。」


 「ゲームも良いけどさぁ〜。なんかしようぜ〜。暇でしょうがねぇんだよ〜。何かないのかよ〜。」


 「はぁ〜.…ったくしょうがねぇなぁ…。」


 直は渋々とゲームの電源を落とす。


 「無駄な時間を過ごすのもあれだしな。意味がありそうなことを考えるか。」


 「意味がありそうなこと?」


 「お前がさっき言ってただろ。俺たちのキャドーについてだよ。今思えば、俺たちは自分のキャドーについてほとんど理解してないからな。このまま冬を迎えてキャドースピリッツで惨敗したら世話ないぞ。いつまでもこの世界にいるわけにもいかないしな。」


 直はそう言って、俺と綾の襟を引っ張って、暖簾から家の中に引き摺り込む。


 「ほら先輩方、そう言うことだから考えましょう。」


 「「はぁ〜い。」」


 俺たちも席に着いた。


 「わからないことは双葉さんに助言を後でもらいましょう。」


 直はそう言って、自分のキャドーカードを机の上に置く。


 俺たちもそれに倣って机の上に自身のカードを置いた。









 ーキャドー研究センター双葉の研究室ー


 「先生、今月の神授の儀で生まれたキャドーカードのデータが届きました。いずれも、従来のキャドーカードのようです。」


 瑠衣が報告書とキャドーカードのデータをまとめた書類を双葉に渡す。


 「ありがとう。…やはりあの特殊なカードはイリスより授かるものではないか。」


 双葉は書類を確認しながら言う。


 双葉はヨルド鉱山の事件以来、上代が持っていた異質なキャドーカードが、他に所持者がいないか調べていた。


 上代は、犯行は認めたものの、あのキャドーカードについては一切口を割らないという。


 ひょっとしてイリスが授けるカードの中に、上代のキャドーカードのようなカードが混じっていないか、瑠衣にも協力してもらい調べたのだが、やはりあのカードのようなものは出てこなかった。


 「キャドーが発動する原理はイリスより授かる物と似たようなものですが、構築物質が違いますね。おそらく人工的なものでしょう?」


 「仮に材料が揃っといるとしても、そんなものを作る資金、場所、人員…個人では到底不可能…どこのどいつなのか…」


 双葉は瑠衣の言葉にそう返す。そしてコーヒーを注いで、瑠衣の前に置いた。


 「ありがとうございます。」


 瑠衣は砂糖とミルクを大量に入れると、コーヒーを飲む。


 「そんなに甘くしたら味が分からなくならないのかい?」


 「いえ、私はこれで良いんです。」


 瑠衣がすまし顔でコーヒーを飲む姿に、双葉は少し笑った。


 同年代に比べると大人びている瑠衣だが、意外に子どもっぽいところもあるものだ。


 「いずれにしても、カードの解析はともかく、作った組織探しは我々の管轄外ですね。」


 「そうだね。解明したい気もするが、久来くんたちの案件も抱えていて私も暇ではない。それより、高校は良いのかい?」


 「今日は入学式ですから。私たちは休みです。」


 瑠衣はご馳走様と言ってコーヒーカップを洗う。


 「ふふ、新入生の晴れ姿に微塵も興味を示さない淡白さはさすがだよ。で、君の研究の調子は?」


 そんな瑠衣の背中にむかって双葉は言う。


 「えぇ…まぁ、今度少しその件で遠出しますので、2、3日こちらの助手の仕事はお休みをください。」


 「ふむ。どこへ行くんだい?」


 「カフス山です。その山頂の住人に聞きたいことがあるので。」












 ーどこかの星の海ー


 「この度の勝者は花の娘…。私としては、燃える対戦カードだったわりに肝心の戦いが今一つで盛り上がらなかったが。」


 イリスが苦虫を噛み潰したような顔で星屑の上に腰掛ける。


 「あなたが望む展開にはした。結果は私の知ったことじゃない。」


 「彼女を揺さぶる最上級の因子だったのだが、黒金神無…そう簡単に本性は出さないか。」


 「下手にそれを引き出せば、()()()()?」


 「ふふ、それが何か問題でも?」


 イリスは怪しげに微笑む。


 「………それより、()()が湧いた。」


 フィリアスティは下界の泉を覗いて言う。


 「はは、ゴミとは随分な言いようだな。彼らは死に物狂いだというのに。」


 「あれらは…どうしてくれようかしら。」



 「潰すなら協力はしないよ。闘争の火種は多い方がいい。ま、そこら辺は任せるよ。せいぜい君も愉しむといい。フィリア。」


  イリスはそう言って去っていった。


 「………愉しいわけがない。だけど……。」


 フィリアスティはヨルド鉱山の、久来たちと上代たちの戦いを映す。


 「こちらを噛んだら、全てが無意味であることを、教えてあげる。」



 

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