目覚める力「キャドー」
窓の外から差し込む太陽の光で目が覚める。
「……く……かあぁぁ…。……? あぁ…ここ俺ん家じゃないんだっけ…。」
こうしてみると日もきちんとのぼってくるし、自分が違う世界に来てしまったなんて嘘のようだ。
だが事実、俺の家はなくなっており、こうして他人の部屋を借りて朝を迎えている。
布団から起きて着替え…はないのでそのままの格好で隣の神宮さんの部屋に向かう。
「あぁ、起きたようだね。よく眠れたかい。」
神宮さんは昨日のジャージ姿と違い、何かの研究者のような白衣を着て朝食をとっていた。
「はい、おはようございます。あの、その服は?」
「これは私の仕事の制服だよ。とりあえず座りな。朝飯もまだだろう。」
神宮さんはそう言って自分の向かいにあるトーストと目玉焼きが置いてある席を指差す。
「はい。ありがとうございます。」
俺は椅子に座り、朝食に手をつけ始める。
「それで、食べながら聞いてほしいんだが、今日、私の仕事場に………もう食ったのか?」
「……え…食ったっけ?」
「食ったよ口元汚れてるよ。なんか怖いな君。…話を戻すが、今日は私の仕事場ついてきて欲しい。自分の状況とか、色々聞きたいことはあると思うけど、そこで諸々の説明をしよう。」
「はい…。冷蔵庫にもう何もないですか?」
「勝手に漁るんじゃない。まったく、昨日途方に暮れてた人間とは思えない図々しさだな。後でにしてくれ。」
呆れる神宮さんに車に押し込まれ、街へと繰り出した。
車の中から外を眺めてみるが街並みはやはり俺が元いた場所と全く変わらないように見える。
だが、神宮さんはここは俺が元いた世界とは違う世界だと言う。確か、「裏世界」とか。
疑問は尽きないが、神宮さんの仕事場に行けば分かる事だろう。
…うん。窓の外の景色はやはり変わったところはない。走り回る子供、空飛ぶ婆さん、道を突っ走る休日出勤のサラリーマン、木を蹴り倒す男。いつも見る光景だ。
…………ん?
「いやいやいや待てっ、ちょっと待てっ。やっぱり普通じゃないっぽい! 俺目がおかしくなったかっ!?」
「君ねぇ、確かに目つきは悪いが、親から授かったものを悪く言うものじゃないよ。」
ハンドルを握る神宮さんが車窓にへばりつく俺を一瞥して言う。
「そういう問題じゃ………じゃなくて、あんたの方が俺の目を悪く言ったよ今っ。って、それは今は良くてっ! なんですかあれっ! 人が空飛んでるっ! 足で小突いて大木倒してるっ!」
「ん、あぁそうか。君にはあれが異常な光景に見えるか。言われてみれば当然だ。キャドーがない世界なんだろうからね。」
慌てる俺に、神宮さんは面白がる様に言う。
「キャドー…?」
神宮さんはクスクス笑って応えなかった。着けば分かることなのだろう。
…すると、見覚えのある景色の中に見覚えのないものが見えた。
「何ですか…?あれ。」
そこは俺が元いた世界では、地方でも有数の大きさのショッピングモールがある場所だったのだが、そこには巨大な黒鉄のビルが建っていた。
ビルというより要塞。よくみると、窓が一つもなく、建物の敷地内への入り口に巨大なゲートがあり、物々しさを感じさせる。
「入って説明するよ。目的地はここだからね。」
神宮さんは、敷地内にある駐車場に車を止めると、俺を連れて裏口にある小さなゲートと、警備員の詰め所がある入り口に俺を連れて行った。
「神宮先生、お疲れ様です。」
入り口の警備員が神宮さんに挨拶する。
…先生? 神宮さんっていったい何をしている人なのだろうか。
「この子は私の客だ。入場許可証を発行してくれ。」
「かしこまりました。」
神宮さんは警備員にそう伝えると、入り口にあるスキャナーのようなものに昨日、俺が拾ったカードと同じようなカードを取り出し、スキャンする。
すると入り口のドアが開いた。
「君はそこでもらった入場許可証をスキャンして中に入ってきてくれ。」
神宮さんはそう言って建物に入る。
俺も入場許可証をスキャンすると、扉が開いた。
「こっちだ。はぐれるなよ。生きてここを出たければ。」
神宮さんはしれっと恐ろしいことを言って歩き出す。後について長い廊下を歩く。無数の部屋があり、まるで巨大なホテルやラボのようだ。
神宮さんは、神宮双葉と書かれたネームプレートが貼られた部屋の前で止まると、部屋の前にある、入り口のものと同じものらしいスキャナーにカードをスキャンし、扉を開けた。
神宮さんは…ここの研究員か…。だけど、国営だとしてもこんな馬鹿でかい設備の研究所なんてあるのか…? 小さな町くらいありそうだ…。
「君はそこにかけてくれ。さぁてどこにしまったかなぁ〜…。」
神宮さんは自身の研究用デスクの椅子に座り、ガサゴソと物色して謎の機械をとりだす。
「では私の自己紹介も兼ねて、君の疑問に応えるとしようか。」
神宮さんは俺を見て不敵に笑う。白衣が様になっているのか、ここの人間だからか、家でとは雰囲気がまるで違う。
「私は神宮双葉、このキャドー研究センター第二支部で研究員をしている。」
陰のある優秀研究員お姉さん: 神宮双葉 研究者
「はぁ…?」
訳がわからず取り敢えずうなずいた。分かったことはやはり神宮さんは何かの研究者だったということだ。
「ふふっ、何がなんだかって顔をしているね。ちゃんと順を追って説明するから安心したまえ。」
神宮さんはリモコンを操作すると、プロジェクターに映像が浮かび上がる。
ーーー◇猿でも分かる、世界とキャドー◇ーーー
今更だけど、俺、この人に心底馬鹿にされているのではなかろうか?
「いきなりだが、縁くん、君は神様を信じているかい。」
神様って、神社とかに祀られてるやつ…? それともゼウスとかのギリシャ神話的な?
「はぁ…いえ、あまり信じてないですね。」
「だろうね。君たちからすれば、神とは空想上の存在だろう。しかしね、この世界には、神が存在している…正確には、神と呼ばれる者…だね。実際に神の力を垣間見ることができるんだ。」
「神の力が見れる?」
神宮さんがモニターを切り替える。
「神」………名前イリス。人々にキャドーを与える存在。キャドースピリッツの時に下界に降臨する。
キャドーだのキャドースピリッツだの知らない単語がちらほらある。
「神の名はイリス。見目麗しい女神でね、私たち人間にキャドーという力を授けたんだ。」
モニターが切り替わる。
「キャドー」……イリスが人々に授ける異能。カードの形をしている。1人1枚所持している。
そして、神宮さんはポケットから何度か見たカードを取り出した。
「これがそのキャドーだ。君からしてみれば最大の異物。実際に見てくれた方が早いだろう。」
神宮さんは立ち上がり、カードを持ったまま、部屋の隅に立て掛けてある巨大な石板に手をかざす。
すると神宮さんの手に光のようなものが集約する。
「えっ?」
そして……
ボシュッ!
「どわぁっ!?」
神宮さんの手の光がレーザーのように放たれ、石板に大きな穴を開けた。
「……は? え…? 魔法? 超能力…? なんかの特撮?」
「ふふ、驚いたかい。これがキャドー…正確には『私の』キャドーだ。キャドーの力は、人それぞれ違うからね。」
神宮さんはそう言って石板をコンコン叩く。完全に熱で大穴が空いている。
「と言うことは、ここに来る途中に見た、異常な光景も…?」
「うむ。空を飛ぶ。大木を倒す怪力。どれもキャドーの力によるものだ。」
そう言って神宮さんは、自分のカードを俺に渡してくる。カードには文字が浮かび上がっている。
『超光熱線 高熱の光をレーザー状に放つ。』
先ほど目の前で起きた現象がそのまま書かれていた。
「キャドーはご丁寧に説明まで付いている。そして、こんな力がこの世界では誰もが行使できる。実感できたかな縁くん。ここが紛れもなく、君のいた世界と異なる場所ということが。」
再確認されるまでもなく、信じざるを得ない。人間離れした奴なら俺の身近にいなくもないが、こんな魔法じみたものがあるわけがない。
「住む世界すら違う君がここに来てしまったのも、キャドーのカードを拾ってしまったからだろう。君、どこでそれを手に入れたんだ?」
双葉さんは真剣な目で俺を見る。
「拾ったんです。俺の世界…って言い方でいいのかな…。玄関の前に落ちてたんです。」
「ふむ。となると偶然なのかな…。なんにしても、君が拾ったカードを調べてみる必要がある。」
「俺にもあるんですか…? そのキャドーっていう力が…。」
神宮さんが見せたキャドーと呼ばれる力はまさに人間が持つには異質な力。異能と呼ぶにふさわしいものだった。
「当然だ。君のカードそのものはどこにでもあるキャドーカードだ。なんらかのキャドーを秘めているはず。」
神宮さんは飲んだ缶コーヒーをゴミ箱に放ると、さきほど取り出した機械をいじり始める。
「…と、その前にだ。」
作業の手を止め、神宮さんは俺に向き直る。
「色々説明やら話を進める前に、君の意思の確認が先だったよ。この世界が、君の立場で言うならいわゆる異世界であること。君の常識外の力が跋扈していることは話した通りだ。それを踏まえた上で…縁久来君、君はこれからどうしたい?」
ここが異世界だという情報だけで、迷い人である俺に求めている答えは二通りしかないだろう。
「俺は、元の世界に戻りたいです。」
正直、未知の世界に来たことへのワクワク感がないわけではない。
元の世界では変わりばえしない日常を送っていたが、それは俺にとってかけがえのないものであることに違いはない。元の世界にいるであろう新しい家族や親友、そして血を分けた誰よりも大切な人の顔を思い浮かべていた。
神宮さんがどう受け取ったのかは分からないが、概ね満足そうに俺の答えに頷いた。
「では、ここからが本題だ。私は君が元の世界に帰るための協力をする。そのかわりに君は、この世界にいる間、私の研究の手伝いをしてもらいたい。」
「手伝いと言っても何をすれば良いんですか? 俺、この世界の事、よく分かりませんし。」
「なに、そう難しい事を頼もうっててんじゃない。ただ、一君に起こったことを私に報告すること。私が呼んだときに私の研究室に来て欲しい事。この二つだ。」
「それだけでいいんですか。」
「あぁ、君という存在自体がそもそも我々にとって未知数だからね。基本的に自由に過ごしてもらって構わない。それにあたって当面の間、我々が衣食住を保証しよう。」
確かに、俺に断る理由はなかった。
「そこまでしてもらうのは悪い様な…」
「なぁに…ふっ、こんなレアケースな実験と引き換えなら安いものさ。これで他のクソッタレ研究員どもに差をつけて…」
…ぶつぶつ言っている。
神宮さんに何か別の目的があったりするのかは不明だが、この人は自身の利害とは別に、見知らぬ俺の世話を焼き、第一に俺の意思を確認してくれた。
悪い人ではないのだろう。
どの道、右も左も分からぬ俺には断る意味はない。
「分かりました。俺もそれで構いません。」
「ありがとう。助かるよ。では早速君が元の世界に帰るにあたって確認しておかなければならないことがある。君の能力についてだ。君のカードを出してくれ。」
神宮さんは俺からカードを受け取ると部屋にいある大きなプリンターにそのカードを差し込んだ。
しばらくするとカードがプリンターから出てきた。
「ありがとう」
神宮さんはカードを俺に返すと、プリンターと連動しているらしいモニターを俺に見せた。
縁久来 ソウル「餓鬼」
能力 食料変換
モニターにそう映し出された。俺にはイマイチよくわからない。
「さて、ではこれからキャドーについての説明をしよう。」
神宮さんはスティックを取り出し、モニターを指す。
「名前については説明はいらないね。番号については、君がこの世界の住民ではわけだからあまり気にしなくていい。本題はこのソウルと能力についてだ。」
神宮さんは教師よろしくモニターをスティックでカンカン叩く。
「君のキャドーは食料変換だ。詳細については君のカードに記載されている。」
俺はカードを見てみる。
食料変換 自身の体重の10分の1以内の質量であ
る無生物を触れることにより食料に
変換する。
この能力は一日三回まで使用可能
毎日午前0時に回数をリセットする
「ほう。なるほどね。早速試してみよう。」
神宮さんは消しゴムを取り出し机に置く。
「縁君、カードに意識を集中して、消しゴムに触れてみてくれ。」
「はい。」
俺は消しゴムに触れた。
すると消しゴムが、飴玉に変化した。
「うわ! ほんとに食い物に!」
「面白いキャドーだね。私も初めて見るタイプだ。」
神宮さんの表情はそう言いつつ真剣そのものだった。
「なるほど。ところで、この能力ってすごいんですか?」
「利便性は中々高そうだ。無生物であれば、どんな物体であろうとも食料に変換される…捉えようによっては恐ろしい力な気がするよ。戦闘でも相手の意表をつけるだろう。」
「えっ? 戦闘?」
「そう、戦闘。君が元の世界へ帰還する手段の一つ。一縷の望みにかけて参加してみようか。「キャドースピリッツ」に。」
「キャドースピリッツ?」




