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ずっと一緒に。異世界ライフ  作者: 江野喜けんと
第1章 やってきたのは裏世界?
17/432

総括

 


 「ぅああぁぁにきぃぃぃ美奈キィィィィッック!!」


 戻って開幕、俺を迎えるのは美奈のダッシュキック。


 「どわっ!? いてぇっ、何してんだ美奈っ。」


 「何してんだはこっちのセリフだるるるおおぅ? 何美月にナンパするだけしてあっさりチューされて負けてんすか? 阿呆なんすか?」


 「ナ…ナンパじゃねぇよっ。ただの軽いコイバ…世間話というかっ…。」


 「うわ、何どもってんすか兄貴…本当に気色悪いっすよ…。」


 会話のチョイスがアレだからって俺なりに情報収集してたのに何故ここまでボロカスに…。


 「なんにしても、これでキャドースピリッツは敗退。俺たちは元の世界にもどれないということですね。」


 直はやれやれと言った様子で首を振り、美奈の後ろ襟を捕まえた。


 「それもこれも兄貴がアタシにダメージを与えまくったせい〜!! ぶぅ〜!!」


 「それを言うなら美奈だって中盤以降は脱落して活躍なしだったじゃないかぁ〜!」


 「だから兄貴がアタシをぶっ叩くから早々に脱落したって話をしてるんすよ〜!!」


 「ぐおおぉぉぉ反論できないいぃぃ!!」


 コチン!


 「いでっ!」


 美奈の頭を軽くチョップして綾が現れた。


 「ダメだよ美奈ちゃん久来を責めちゃ。ルールもよく分からないゲームをみんなで全力で取り組んで負けちゃったなら仕方ないんだよ。ね?」


 美奈は宥めすかされてしょんぼりとした。


 「綾っ! 大丈夫なんだなっ!? どこも怪我とかしてないよな? 身体の調子も平気かっ?」


 俺は綾の姿を認めると、周りの目を忘れてその小さな両肩を掴んで言う。


 「も〜大丈夫だってぇ。久来だって私と同じようにやられちゃったけど無事なんだから分かるでしょ?」


 頭では分かっていたが、この目で確認するまでは不安で仕方がなかった。本当に良かった。もし彼女に何かあった日には、俺はどうにかなってしまうかも知れない。


 「直、見たかね。かわいい後輩のアタシがやられた時とのこのリアクションの差よ。どう思うよ。アタシなんて半分兄貴にやられたもんだぜ?」


 「先輩は綾先輩のことになると周りが見えなくなるからな。まぁ、こんなわけわからないゲームの仕様上じゃ不安にもなるだろ。許してやれよ。」


 美奈と直が何か言っていたが、よく聞こえなかった。


 「君は大人だな直くん。その通り、色々不安なこともある中でよく頑張ったさ皆んな。」


 双葉さんがこちらにやってきた。…少しの罪悪感が湧き上がるが、そこは顔に出さないようにしておく。


 「あれ双葉さん。さっきまで隣にいたボケッとしたメガネっ娘は?」


 「何だ美奈? 他にも誰かいたのか?」


 「私の弟子がさっきまで一緒にね。君たちと同い年だし、色々会う機会もあるだろうから紹介したかったのだが…キャドースピリッツが終わるなりさっさと帰ってしまってね。また別の機会にしよう。」


 俺たちと同い年で研究者の弟子か…。この双葉さんの門下生なんて、いったいどんな人なのだろう。


 「何はともあれ、みんなお疲れ様。実のところを言えば、君たちが優勝できるとは考えていなかった。キャドーというものを理解する上で、この大会に参加することが何より効果的と思ったんだ。」


 色々と話したいことがあるからと、俺たちは双葉さんの車に乗って早々に会場を後にした。そして家に帰った俺たちを待っていたのは…




 「さて、では今回の君たちの戦いを説教方式で総括していくことにしよう。厳しいことを言うかもしれないが、君たちには必要な知識だ。愛の鞭と思って受けてくれたまえ。」


 ホワイトボードを双葉さんがカンカンする。俺たちは体育座りで4人雁首並べている。説教もとい反省もとい戦犯探しだ。


 「まず久来くん。美奈くんがいくら阿呆だからと言って、攻撃してはいけない。双葉先生コーナーで説明した通り、キャドースピリッツ中の耐久値は脆く、ゲーム終了まで特殊な手段を用いない限り回復もしない。フレンドリーファイヤーはNGだ。」


 「もうじわげありまぜぇん…。」


 平伏せし俺。


 「ところで、久来君がまさかプロスポーツマンだったとは…その肉体美にも納得だよ。」


 双葉さんが興味深そうに俺を見る。


 「プロではないですよ。スカウトも承諾したわけではないので。」


 俺にとって野球はあくまで気分転換と身体を鍛えるための手段だった。有難いことに俺には才能があったらしく、直と共に一夏の夢を達成させてもらった。プロになる気はない。


 「兄貴って握力90kgくらいあったよな。」


 「いや、それだいぶ前の話じゃなかったか?」


 美奈と直の言う通り、結構前の話だ。しばらく計測はしていない。


 「90って……ゴリラか君は?」


 「双葉さん、ゴリラはひどいですよ。こっちの世界にも同い年で俺より上の人もいたし、年齢国問わなければいくらでも上はいますよ。あと、ゴリラの握力は400以上です。」


 「細かいことはどうでもいいさ。久来くんは身体能力は申し分なし。状況判断もボケが入らなければ悪くはない。食料変換のキャドー無駄撃ちと仲間殺しに注意して行動するように。」


 「はい……。」


 「次に綾君は…まず聞きたいんだが、君は我々と同じ人間なんだよね? あの剣で風を巻き起こしたり、蹴り上げた地面が衝撃で打ち上がったりしたやつ…。」


 双葉さんは若干顔を引き攣らせて綾に聞く。


 「はい。どれも人間技ですよぉ。原理については門外秘なのであしからず。」


 綾はにっこりと言った。


 「そ…そうか。綾くんのキャドーは氷を主としたものだ。おそらく、ただ氷塊を作るだけでなく、複数、または形状を色々変化させることもできるだろう。君の剣技に応用できるなら、戦略の幅もかなり広がるはずだ。次に参加の機会があるなら、君が主力になるだろうね。」


 「ありがとうございます。これからも精進しますね。」


 綾は笑顔を崩さずに言う。


 「君に懸念点があるとすれば、どんな時も心中穏やか…頭は冷静でいることだ。キャドーは使用者の精神状態に大きく左右される。綾君のキャドーは周囲に攻撃性のある冷気や氷塊を放つものだから、本人の制御から外れて暴走でもしたらと思うと空恐ろしい。焦っている時、不安な時はキャドーを使用しないことだ。」


 「……なるほど、心に留めておきます。」


綾が少し真面目な表情で言う。頭の回転が速い彼女がこの一瞬にどんな思考を巡らせているのか、俺でも全てを察することはできない。


 「で、次に美奈くんだが…すまなかった。君の耳があそこまで良いとは思わなかった。あの戦争地帯みたいな場所に放り込まれて平気だったか?」


 美奈はてっきりボロクソ言われると思っていたのか、双葉さんの心配にきょとんとする。が、すぐに笑って、


 「大丈夫っすよ。耳は良いっすけど、意識しすぎなければなんとかなるっす。心の方はそこまで繊細じゃないからな。…双葉さん分かったんすね。アタシが絶対音感なの。」


 「ああ、君たちの戦いを見ていればね。常人では聞き取れそうもない音を聴く場面が散見されたし、久来君たちも索敵の際に君を頼りにしている節があったからね。」


 双葉さん、よく見ているな。今まで美奈に会ってきた人たちは、大半が聞き耳立てすぎだの、大袈裟だのと言ってきた。美奈のことを正しく理解してくれる人がいることを素直に嬉しく思う。


 「美奈くん、君は色々な意味でのJOKERカードだ。キャドーのソウルが不明…ということは、これから先どんなキャドーが発現するかも、どのように成長するかも分からない。だが、私は君の力がみんなの力になると信じているよ。」


 双葉さんは優しく美奈の肩を叩いた。



 「双葉さん…………実は不治の病でもうすぐお別れだったりするんすか?」


 「いや、そんなことないが…?」


 「だってあまりにも優しいから何かあるのかと思っちゃったんすよ〜。」


 美奈はふざけた雰囲気を醸し出しながら言う。


 「…私は今、人の気遣いを曲解する性根が捻くれた君に説教をしたくなってきたよ…。」


 双葉さんは頭を抱えながら言った。美奈の一言で、少しだけしんみりとした真面目な空気が霧散していった。


 「最後に直くん。どうかな、キャドーの使い方が少しは掴めたかい?」


 「はい。おかげさまで。不思議な力ですよ。情報や真理みたいなものが、視界と脳内に飛び込んでくるんです。」


 直は目に手を当てながら言う。直には、双葉さんが別の特訓メニューを用意していた。俺たちとは毛色の違うキャドーだかららしい。とはいえ、キャドーは千差万別なのでどこが特別なのかは分からないが。


 「まずはキャドーになれることから始めると良い。特異な方法で多大な情報を取り込むということは、思っているよりも負担の大きいことだ。使用する頻度もキャドースピリッツの時くらいで丁度良い。」


 直は黙って頷く。


 「全体へのアドバイスなら…そうだな…キャドーを使う時に、そのキャドーに名前を付けて唱えてやると良い。」


 「厨二かな?」


 双葉さんの言葉に美奈はノータイムで返す。


 「まぁ聞いてくれ。キャドーには精神状態が影響すると言った。つまり心持ちで精度が変わるんだ。キャドー発動時に名前を言うことで、これからその技を使うぞっ、と言う精神状態を調える。一種のルーティンだ。自分のキャドーを隠したい場合は別として、やっている人は多い。」


 「でも恥ずかしいなぁ…。」


 綾がぼやくと美奈が、


 「姉貴の真似、『真剣・土竜弾板!』ドグシャァ!! 『真剣・網錚!』ザシュザシュザシュ!! ごへっ!?」


 美奈に綾が強烈な肘打ち。俺も思ったことだけどそこを弄っちゃいかんだろ。良い度胸してるよ美奈。


 「とにかく、今日は疲れただろう。ゆっくり休むと良い。明日、また話があるからその時に。」



 …双葉さんがそう言って、その日は夜も更けて行った。



 「っ…っ…っ…。」


 深夜、俺はいつもの日課をこなしていた。初めてこの世界に来た日は色々疲れて寝てしまったが、翌日以降は毎日こなしている。


 懸垂、腕立て、走り込み。身体は常に鍛えておく必要がある。こんな状況だからこそ、なおさらだ。


 「お疲れ久来。次は私の番だよ。」


 綾がやってきた。俺の横に缶コーヒーを置いてくれる。

 

 「悪いな綾。……………。」


 「これからのこと? それとも、今日別れた美月ちゃんが心配?」


 綾の声は優しげだった。大概俺の考えていることは筒抜けだ。


 「どっちもだな。まぁ、今は自分たちのことが優先だが。」


 美月さんが教えてくれた。この世界には、希少なサンプルである俺たちに悪意を持った接触をする輩が存在する。気を緩めるわけにはいかない。守るものがあるから、なおさら。隣の綾と、部屋にいる後輩2人を思いながら拳を握りしめる。


 「大丈夫、私がついてるから。絶対、みんなを死なせたりしないよ。」


 綾が静かに言った。


 死…そう、死だ。この世界は、紛れもなく俺たちにとって異界。どれだけ平穏に見えても、俺たちの命が保証されていることなどないのだ。何かの拍子に、全てが終わってしまうかもしれないのだから…。


 「あぁ、頼りにしているよ。」



          ◇ ◇ ◇


 〜どこかの星の海〜


 フィリアスティはキャドースピリッツの終わりを見届け、主催者であるイリスのもとに向かった。


 イリスは目を閉じ、足を組んで黙して椅子に腰掛けていた。フィリアスティには、イリスが不機嫌であることが察せられた。


 「珍しいね。キャドースピリッツは面白くなかった?」


 フィリアスティが言うと、イリスは片目だけ開けて彼女を見る。そして目を逸らした。


 「キャドースピリッツ自体は面白かったが、別のことで面白くないことがあった。」


 イリスは若干憮然として言う。本当に珍しいとフィリアスティは思う。だが理由を聞こうとは思わない。どうせ教えてはくれないし、元よりこのイリスのことを、フィリアスティはほとんど知らない。隠し事が多いのだ。


 「まぁいいや。源氏迷と黒金神無はどっちが勝ったの?」


 「源氏迷だよ。まぁ予想通りだね。」


 フィリアスティとしては安堵したが、イリスはやはりつまらなそうだ。もしかしてそこが面白くないのだろうか。


 「そう、次の開催は半年後…私たちはしばらくお役御免だよね。」


 「あぁ、君も『下』に戻って構わないよ。あともう一つ…。」


 イリスはそう言うと、さっきまでと一転して愉しげな表情を浮かべる。


 「例の反逆者だが、見つかったよ。」


 「っ! …わかった。」


 フィリアスティはイリスのその報告を胸に刻む。


 「言っておくが、私は手を貸さないよ。」


 「…分かってる。そう言う約束。」


 フィリアスティは、足早にその場を去った。


 





〜双葉先生の居残り部屋〜


双葉「やあ、みんな大好き双葉先生だ。今日は新コーナーの居残り部屋だよ。」


美奈「おい。」


双葉「今日のゲストは鳴海美奈くんだ。」


美奈「おいっ!」


双葉「なぁんだね美奈くん。開始早々声を荒げて。」


美奈「荒げるわっ。色々言いたいことあんだよっ!」


双葉「ほう。ただのプチコーナーに呼ばれただけでなんの不満が?」


美奈「それだよっ! 双葉先生コーナーは、兄貴、姉貴、直の順で呼ばれてたよな?普通に考えて次アタシだよな?双葉さんもそれ分かってて次のゲストはあの人かな?とか言うフリで終わらせたよな?で、何で第4回目は兄貴なの?双葉さん気付いてたよな?兄貴が来た時無言の間があったもんなっ?あれ、おかしいなって絶対思ったよなっ?そしてその上でスルーしたよなっ!? ……ぜぇ…ぜぇ…。」


双葉「美奈くんすごい肺活量だな。驚いたよ。まぁあの時は悪かった。私の管理ミスだね。だから今回こうして呼んだじゃないか。」


美奈「そこもだよっ! 順番飛ばされて腹たったけど、次は何故か居残り部屋とかいうコーナーだからじゃあいいや、って思ってたら何で今回に限ってアタシを呼ぶの?アタシだけ補習させられんの?嫌だよおかしいだろ、本来兄貴→姉貴→直→アタシ→兄貴で兄貴が居残り部屋の予定だったんじゃんっ。今回のキャドースピリッツ振り返れば戦犯度大&主要視点者なんだから代表して補習受ければそれが妥当だっただろっ。それを何で双葉さんの管理ミスでアタシが………ぜぇ…ぜぇ…。」


双葉「美奈くんってボケ一辺倒かと思っていたが意外とツッコミもこなすんだな。感心。」


美奈「アタシのはツッコミ待ちのボケ。アタシの周りはボケをボケと思ってなくて素の言動がボケてるやべー奴ら。誰かが突っ込まないとただの狂人集団になるだろ。」


双葉「しっかりしているね。では、居残り部屋に入ろうか。戦闘があった際にその後の反省点を述べたり、詰問したりしていく。」


美奈「詰問っ!?」


双葉「まずはキャドースピリッツの結果からだ。」



 最終結果 1位 源氏迷   640pt (64人抜き)

      2位 佐藤明梨  600pt

      3位 モブ    240pt

4位 モブ    190pt

5位 来栖美月  160pt



 久来チーム 全員で50pt(笑)



美奈「笑うなっ!」


双葉「さて、今回の参加者は約700人。上位5人と、脱落した黒金神無くんだけで3割の参加者を倒している。」


美奈「やばすぎ…。てかモブってなんだよ。」


双葉「美奈くんたちの知らない人間で、今後も知る必要ない人だ。」


美奈「佐藤明梨も知らないんだけど…。」


双葉「美奈君たちに隕石落としてきた彼女だね。別名グランド7『星姫』。」


美奈「強い人系か。てか美月16人抜き!? アタシらと組んでから1人も倒してないわけだから…全く実力を見せてなかったってことっ?」


双葉「そのようだ。また会う機会があれば、本気の戦いを申し込んでみるのもアリだね。…さて、反省点だ。今回脱落した4人のダメージの割合はこうだ。」



 縁久来 10%神崎透子戦

     55%源氏迷戦

     10%爆弾魔戦

     25%来栖美月戦


 結城綾 10%源氏迷戦

     90%偽久来&綾戦


 鳴海美奈 10%神崎透子戦

      10%マンション戦

      30%源氏迷戦

      30%縁久来によるFF

20%商店街狙撃手戦    


 小此木直 15%神崎透子戦

      10%マンション戦

      75%源氏迷戦


美奈「はい兄貴戦犯ー!!」


双葉「まぁまぁ、こうして見てみると、源氏迷くんの強敵具合がわかるね。最初の透明人間も中々だよ。」


美奈「姉貴は本当に不意打ちでやられてなけりゃ勝ち残れたかもなぁ。」


双葉「ダメージ割合を見ることで、自分たちの苦手な相手を把握できたりもする。君たち4人はバランスが良いからね。FFをなくして連携を重視していこう。では、閉室だ。」


美奈「あれ? 詰問されなかった。」

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