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ずっと一緒に。異世界ライフ  作者: 江野喜けんと
第1章 やってきたのは裏世界?
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掃討戦と企み


 「つ…疲れましたぁ…やっとゲートが開いてくれましたぁ〜…」


 美月は変身を解除すると、その場にへたり込んで、研究センターの特務課が突入する様子を上から眺める。


 「アタシたちの粘りの完全勝利だなっ! …ていうか、ニグラムたちが大量に外に出てったけど大丈夫なのかよ?」


 直が地下へ移動していったため、ニグラムの大群を美月、美奈、神無の3人で相手取ることになった。


 そのため、ニグラムの討ちもらしはけっこうあった。


 「後は研究センターの仕事だから、私たちがすることではないわ。」


 「神無はあれだけのニグラムを相手にして汗ひとつかいてないなんてスゲェな…アタシはもうドバッドバよ…」


 「ちょっ、近づかないでよ美奈っ!」


 抱き着こうとする美奈を美月はシッシと手で払う。


 「美奈の歌のおかげよ。聞いてると体に力が湧いてくるからいくらでも動けたわ。」


 「そのマイクで美奈のキャドーが強化されるのも驚きだけど、美奈の歌声って本当に綺麗だよねぇ。もっと人前で歌えばいいのに。」


 「えへへ、まぁ気が向いたらそのうちな。…あっ、直と透子が上がってきたぞっ!」


 美奈が指差す方に、階段から2人の姿が見えた。美奈たちは2人に駆け寄る。


 「大丈夫だったのかよ2人ともっ、聖王とザクロヴァイスまでいたんだろ?」


 「ザクロヴァイスは久来さんたちに任せておいたわ。聖王は、その、私が」


 「俺が勢い余って殺しちまった。向こうはニグラムと同化して本気でこっちを殺しに来たから…やむを得なかった。」


 透子が言おうとしたことを遮って直が言った。


 「…そ、そうですか…仕方ないですよっ、気にすることないですっ、大人しくしてれば透子たちが危なかったんですからっ!」


 「話し合いが通用しない極悪人はどうしてもいるものよ。自分を責めることはないわ。」


 美月と神無が直と透子を元気付けていた。透子の申し訳なさそうな表情を見て、美奈は大体の察しがついた。


 直と目があって、その瞳の奥が少し揺れたような気がした。美奈はそれにウィンクして返した。


 「じゃあ2人は大丈夫として、あとは兄貴たちだな。ザクロヴァイス相手に4人だからな…」


 「瑠衣さんは封鎖システムを解除しに行ってたから3人ね…みんな強いけど、大丈夫かしら?」


 透子はそう言って疲れたように壁に寄りかかる。おそらく透子は透子で命懸けの戦いだったのだろうと美奈は思った。


 「透子、疲れたなら座って休んだらどうだ?」


 美奈は透子の横に寄り添って小さい声で言った。


 「…私だけが座り込んで休めるわけないでしょ…」


 透子の言葉を聞いて、自分の代わりに動いてくれた直の手前自分が直より先に休むわけにはいかない…と彼女が思っていることは美奈にはすぐ分かった。


 「直のこと、お願いね。」


 「おっけぇおっけぇ、透子は良い女だな。」


 美奈はくすりと笑って透子のほっぺをすりすりした。


 「なにふぅのよぉ、やめなひゃいっ。」


 「悪い悪い、なんとなくスリスリしたくなっただけ。…あっ、兄貴たちが来たぞっ!」


 美奈が透子とじゃれていると、担架に乗せられて運ばれてきた久来、綾、明梨の姿が見える。


 「先輩っ、大丈夫ですかっ!?」


 美月は担架に乗せられている久来の手をとって言った。


 「あぁ、疲れてるだけで大怪我はしてないよ。一応念のため病院に連れて行かれるみたいだけどな。」


 久来は元気そうに言った。確かに、目立った怪我をしている様子はなかった。


 「綾も大丈夫だった? 相手は脅威種級ニグラムだったんでしょ?」


 神無は綾の顔を覗き込むと心配そうに言った。


 「うん。そう言えばザクロヴァイスと戦ったのって、神無ちゃんに出会う少し前だったんだよね。とにかく私たちの大勝利だよ。…といっても、2人に比べたら私の力はさほど活躍しなかったかもだけど。」


 「そんなことはないわ。あのレベルのニグラムを相手に無傷で戦える立ち回りに、学園でもトップレベルの氷系キャドー、あなたの貢献は大きかったわ。この佐藤明梨が言うのだから間違いないわ。」


 横の担架に寝ていた明梨がくちをはさんでいった。


 「よぉよぉ明梨さんよぉ、ずいぶんな格好の凱旋じゃあ↑ありませんかぁ。」


 美奈がニヤニヤと笑いながら明梨の顔を覗き込むが、すぐに顔色を変える。


 「あ、明梨っ、そのおでこの所、怪我してるじゃないかよっ!?」


 「え? …あぁ、これはあのニグラムの攻撃を受けた時にダメージを殺しきれなくてね。別に大した怪我じゃないわ。」


 「アタシ、さっき言ったこと撤回するよ。ごめんな、明梨。」


 美奈は申し訳なさそうに言った。


 「な、なによ。ずいぶんしおらしい態度じゃない。普段からそうならこっちも楽だけど…調子狂うわね…」


 明梨は少し困惑したように言った。


 「俺からも謝罪させてくれ。本来なら男の俺が矢面に立たなきゃいけない場面で怪我をさせてしまって本当にすまない。」


 「私と久来が無傷で戻ってこれたのは明梨ちゃんが私たちを守ってくれたからなんだよ。ありがとね、明梨ちゃん。」


 久来と綾が、明梨に続けて言った。


 「と、当然でしょ? 私は最強のグランド7で生徒会副会長なんだから、生徒の安全を守ることは当たり前よっ。」


 明梨は照れて顔をそっぽ向けながら言った。


 「明梨さん、先輩達を守ってくれてありがとうございました。」


 「私も、副会長って変人っぽいイメージがあったから見直しましたっ!」


 「佐藤明梨さん、確かにあなたは学園の誇りね。あなたの名前を覚えておくわ。」


 直に神無、美月が口々に言った。


 「うぅ〜あぁもうっ! 早く運んで下さいなっ!」


 明梨は耐えられなくなったのか、ジタバタ暴れる。


 しかし、そこへ意識不明の瑠衣が運ばれてきて、場が静まり返る。


 「…瑠衣さん、大丈夫なんですか?」


 久来が聞くと、双葉さんが入れ違いで入ってきた。


 「瑠衣は研究棟地下の奥で1人で倒れていたらしい。近くには聖王の亡骸だけ。外傷はないし、すぐ目が覚めると思うが、念のため検査をしておくよ。」


 双葉さんがそう言うと、瑠衣さんは救急車に運ばれていった。


 「瑠衣ちゃんは1人で行動してたけど、いったいどうして…まさか、ほかに敵がいたのかな…?」


 「分からない…が、双葉さんが大丈夫だと言ってるんだから今はそれを信じよう。」


 久来がそう言った時、研究センターの特務課の部下らしき人が、中にいる上司のような人の元へ駆け込んできた。


 「たっ、大変ですっ! 外に漏れ出した強敵種級ニグラムの一部が包囲網を突破っ、校舎の方へ侵入していますっ!」


 「何だとっ、何という失態だっ! すぐに追わせろっ! もし生徒の身に何かあったらっ」

 

 ニグラムが漏れ出した…? 大変じゃないか!


 久来がそう思った時、明梨さんがどこかへ携帯で連絡していることに気づいた。


 「もしもし、私…今そっちに…そう、気付いてるなら良いわ。私はそっちにいけないからよろしく。絶対に怪我人を出してはだめよ。…えぇ、じゃ、頼むわよ。」


 明梨さんはそう言って携帯をしまった。


 「明梨さん、誰に連絡したんだ?」


 「決まってるでしょ。校舎に侵入したとあってはもうこちらの管轄下、学園最強の生徒会が迎撃させてもらうわ。」


          ◇◇◇


 ー時浦学園中庭ー


 ギィシュルルル……


 校舎の中庭には、強力なニグラムが4体も入り込んでいた。本来なら軍隊に鎮圧を任せるレベルだが、中庭には4人の生徒が悠然と待ち構えていた。


 「おっ、きたみたいよ〜。明梨が言ってたニグラムってアイツらっしょ? ぎゃんゴツい奴らばっかじゃん。」


 「今日は一日中ひなたぼっこの予定だったのに…アイツらのせいで台無しだよぉ…むにゃむにゃ」


 「生徒会として、学園の害となる異物は即時排除させていただきます。」


 「はいみんな、あんまり派手にやりすぎないようにね。私たちが校舎を壊しちゃったらダメよ?」


 そして、4体のニグラムの中から、巨大な岩石の巨人のようなニグラムが先陣を切って突撃してくる。


 「じゃ、アイツはあたしの獲物ってことで。」


 奈留はそう言うと、一瞬でニグラムの眼前に移動する。


 「ふんっ!」


 そのまま蹴りを入れると、ニグラムは片腕でそれを受ける…が、あまりの威力に腕は粉々に砕け散ってしまう。


 「ゴツゴツなくせに案外脆いんだね〜。んじゃこれで終わりっしょっ!」


 奈留は右手に最大限のパワーを込める。


 「喰らいなっ、ミストナックインパクトっ!」


 明梨の拳が叩き込まれると、岩石でできた体は呆気なくバラバラに崩れ、ただの石の山になって消滅した。



 シャァァァァァ!


 虎のニグラムは、凄まじいスピードで美々を囲むように走っている。


 「はぁ…シャァシャァうるさいなぁ…私の背後をとって噛み付くつもりぃ?」


 そう言った次の瞬間、ニグラムが美々の真後ろから飛びかかって大口を開ける。


 「えいっ!」


 美々はそれを振り向きもせずに、裏拳で弾き飛ばす。


 シャァァァァァ!


 ニグラムは吹き飛ばされるが、諦めずにまた美々の周りを高速で旋回し始める。


 「はぁ…これは私を食い殺すまで諦めないやつだよね…めんどくさいなぁ…」


 美々はそう言って、再びニグラムが飛びかかった時、手に持っているぬいぐるみを空へと放り投げた。


 「寛ぎの刹那(リラックスコンマ)。」


 その瞬間、美々以外の全ての動きがスローモーションになる。空に舞うぬいぐるみも、ニグラムも。


 美々は振り返って、自分に襲いかかるニグラムに触れた。


 「…消えちゃえ。」


 美々がそう言った瞬間、ニグラムの体が霧散して消滅してしまった。


 そして、ぬいぐるみをキャッチして再びその胸に抱く。


 「今日の仕事終わり…ふあぁぁ…」


 美々は初めから脅威などなにもなかったかのように欠伸をした。


 


 ゴルルルルゥ…!


 羽刈の前に立ちはだかる巨大な竜のニグラムは、大地を揺らすほどの雄叫びをあげる。


 「学園内での秩序なき騒音は校則で禁じられています。…といっても、ニグラムにわかるはずもありませんね。」


 羽刈は眼鏡を整えると、怜悧な目付きでニグラムを見据える。


 ゴァァアアァァ!


 ニグラムが鋭い爪で羽刈を引っ掻く…が、その攻撃は羽刈の直前で外れてしまう。


 ゴァァアアァァ!


 ニグラムは何度も攻撃をくりかえすが、全て羽刈の目の前で攻撃が終わってしまい、一切羽刈に届かない。


 「どうしました? 私の目の前の地面ばかり攻撃して。ニグラムはもはや相手との距離を測ることすらできないのですか?」


 羽刈はそう言って小さな銃を取り出した。


 「半減半減(ハーフ&ハーフ)。」


 羽刈の銃でニグラムが狙撃されるが、ニグラムにダメージはなく、ひたすら羽刈を攻撃し続けるが、一切当たらない。


 「そろそろ頃合いでしょう。手品を解除するとしますか。」


 羽刈がそう言うと、ついにニグラムの強大な腕が羽刈を殴りつけた。


 しかし、羽刈は微動だにしない。


 「おや、この巨腕で私の細身の体を吹き飛ばすことができないようですね。では失礼して。」


 羽刈はニグラムの腹に小さくデコピンした。


 ゴグゥシャァァァ!?


 ニグラムはまるで自分以上の巨大な存在に殴り飛ばされたかのように、派手に吹き飛んで消滅した。


 「大袈裟ですね。ただのデコピンじゃないですか。」


 羽刈はそう言って眼鏡を再び整える。


 


 ゥゥァァァァ〜…


 「あらあら、人型のニグラムもいるのね。珍しい、私初めて見たわ。」


 ゾンビ型のニグラムに、深雪はたいそう驚いてみせた。


 アァァァァ!


 そしてそのまま深雪に飛びかかってくる。


 「本来ならじっくり相手してあげたいんだけど、今日はみんな生徒会の仕事で疲れてるの。だから一瞬で終わらせるわね?」


 深雪が何もない空間から両手を広げると、突如そこに真っ黒な空間が出現した。


 そしてニグラムはそれに構わず突撃してくる。


 「はいっ、パクッと。」


 深雪が両手を広げると、真っ黒な空間が広がり、ニグラムを飲み込んでしまった。


 「はいっ、チャックっと。」

 

 深雪が手をパンっと叩くと、空間は消滅し、飲み込まれたニグラムも消滅した。まるで初めから何もなかったかのように。


 


 「さぁみんな、仕事はこれで終わりよ。帰りましょうか。」


 「う〜っす。はぁ…マジ生徒会の書類仕事だるかったぁ。」


 「これでまた眠れる…むにゃむにゃ」


 「みなさん、後片付けはしっかりですよ。」


 …研究センターの隊員が駆けつけた頃には、ニグラムの影は何一つなかったという。



         ◇◇◇

 

 美奈と直は、大した怪我もなかったということで、先に家に帰ってきていた。久来と綾は、1日だけ検査入院ということだった。


 「ふぅ…今日は疲れたぜぇ〜。」


 美奈は直の部屋のベッドに寝転がった。


 「何で俺のベッドに寝転がるんだよ。」


 「気分だよ気分。お前も寝転がれよ。」


 美奈はベッドに座りなおすと、自分の膝をぽんぽん叩いて言った。


 「美奈…お前…」


 「話したいことあるんだろ〜? 何年の付き合いだと思ってんだよ〜美奈ちゃんにはお見通しだぞ〜?」


 直は何も言わずに、美奈の膝に頭を乗せて寝転がった。


 「………………。」 「………………。」


 どれくらいの間の沈黙だったか、2人はしばらくそうしていた。


 「………俺さぁ…」


 直がその沈黙を破る。


 「…ん…」


 「人…殺しちまったんだよ。」


 「…ん…」


 「あの時、透子がトドメを刺したら、きっと正当な復讐であっても、きっと思い出して落ち込むことがあるかもしれないって。」


 「…ん…」


 「俺はその時は良かったと思った。どうせ救えなかったし、救いようがないやつなのは分かってた。…だから、これは仕方ないことなんだって。」


 「…ん…」


 「でもよ……なんとなく、震えが止まらない…俺はとんでもないことをしたんじゃないかって…あんなやつでも、殺すのは流石にって…」


 直の声が震え出して、美奈は直の髪を撫でる。


 「俺…また間違ったのか…? 昔みたいに…また自分勝手な正義で取り返しのつかないことをっ…」


「直、アタシの中のお前は、いつでも正しいんだぜ? 捻くれてて、隠キャで、性格悪いけど、直はいつもみんなのためを思って動いてる。頭悪いアタシと違って、いろんなこと考えてる。」


 震える直の頬を、美奈は優しく撫でる。


 「時には、自分が重荷を背負いすぎて、苦しくなることもよくあるよな? 今もこうして、自分のしたことがただのエゴなんじゃないかって苦しんでる。」


 直の目から流れる一筋の熱いものを美奈は指で拭う。


 「直は優しすぎるから、自分の優しさで自分自身が傷つくこともある。だから、アタシがその度に言ってやるよ。直、直は正しいことをした。直が誰かに責められても、アタシはそれを認めない。アタシの中で、直は正義のヒーローだからな。でも、ヒーローも自分ばっかし辛い思いするのはフェアじゃないよな。だから…今だけは…」


 その夜、直は声を上げずに、美奈の膝の上で泣いた。


 美奈は直が眠るまで、頭を撫で続けた。

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