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連続殺霊事件

「……というわけで、一昨日は進路の話しかしていません。他に手掛かりとなることは何も……」

「……そうか」


 俺の返答を受けて、ご当主は顎に手を置いた。

 退魔師の大家《雲野家》のご当主の私室で、ご当主自らの査問だ。緊張感で自然と口が乾く。

 実年齢は俺より年下なのに威圧感がすごい。


 35歳で家督を継いだご当主で雁居の兄、雲野鷹尾くものたかお様は何もかも見透かす瞳で俺を睥睨した。


「本当に他に心当たりはないんだな」

「勿論です! 思い当たることは包み隠さず話しましたよ」 


 勢い込んで言い募る。ご当主はため息をついた。


「あれにも本当に困ったものだ。ところかまわず事件に首を突っ込んだと思えば、今度は行方不明だと? どこまで手を煩わせれば気が済むのか」

「事件? 初耳ですが……」

「《連続殺霊事件》を知っているか?」


 素直に首を振る。そもそも俺は退魔師じゃないから霊は見えない。


「斧で霊を殺す霊がいるんだ。被害者はすでに4人。《殺霊事件》で被害者が斧で殺されたと最初に看破したのが雁居だ」

「あいつにそんな特技が……」


 斧と聞いて、一昨日自殺を看取った女性のことが脳裏をかすめた。あの人も斧で自らの首を掻き切った。

 しかし死んで霊になっても、また殺される事もあるのか……。酷い不条理だそれは。

 ご当主はため息をついた。


「やはり、《殺霊事件》に巻き込まれたと考えるのが順当か……」

「俺も探しに行きます! 俺なら何があっても死にませんから」


 意気込む俺に対し、ご当主は眉をひそめた。


「素人に頼るほど、落ちぶれてはいない、といいたいところだが……」


 そこから先は言わなくても分かっている。雁居の捜索に乗り気ではない退魔師門下生が多いのだろう。

 雁居は《雲野家》開祖である曾祖父の唯一の除霊失敗の生き証人。ただでさえ《殺霊事件》に首を突っ込んでいる雁居は酷く疎まれている。


「……これを持っていきなさい」


 ご当主は俺に黒く細長いケースに入った何かを差し出した。


「なんです、これは?」


 ケースを開けてみると、中には黒縁メガネが入っていた。


「霊が見えるように呪を掛けた眼鏡だ。雁居を探すうちに《連続殺霊事件》に出くわすことがあるかもしれない。そうなれば真っ先に逃げなさい」

「でも俺は今のところ不死で……」


 そうじゃない、とご当主は首を振った。


「生きながら苦しめる方法なぞいくらでもある。不死性にあぐらをかけば、ただ死ぬよりよほどつらい目にあうぞ」


 俺を思っての忠告なのだろう。頭を下げた。


「……わかりました。御忠告痛み入ります」

「いや。こちらこそ雁居を頼む。だが深入りはするなよ」

「はい!」


 雁居、お前は今どこにいるんだ……。


 △▽△


 退出後、ふすま越しにご当主と男の声が聞こえた。

 俺とは別の部屋からご当主の部屋に現れたらしい。

 ご当主の涼やかな声。


「お前も探しに行け、后羿こうげい


 男のため息が聞こえる。


「日本に来たばかりの友人に対して人使いが荒いなタカオは。はいはい、行きますよ。それで、お嬢ちゃんの特徴は?」


(誰だろう、ご当主の友人……?)

 好奇心が疼いたが、無理やり抑え込む。


(誰だっていい。雁居捜索の人手が増えるなら万々歳だ)


 俺はそっとご当主の部屋の前から離れた。


 △▽△


 手掛かりがなければ、探しようがない。

 というわけで許可を得て雁居の部屋を捜索する。


 シンプルなデスクに教科書が並んだパイプラック。多肉植物が窓際に置いてある。女子高校生の部屋というより、まるで引っ越ししたての大学生の部屋だ。酷く物が少ない。


「あれ? カレンダーに印がついてる……」


 画鋲で壁に留められたカレンダーに、赤いペンで時間が書いてあった。4:25と18:58。


「これは……日の出と日の入りの時刻か?」


 俺自身、自殺の見届けのために宵っ張りで何度も朝日を拝んだから分かる。

 ……そういえば、一昨日斧で自殺した女性も日の出の時間帯にその首を掻き切った。


「偶然で片付けていいのか、これは……」


 日の出近くに自殺した女性と、雁居の部屋に残された日の出の時間。

 斧で4人も殺した《連続殺霊犯》を追う雁居と、斧で自殺した女性。

 何かが繋がりそうで、もやもやとしていてもどかしい。


(とりあえず、日の出と日の入りの時刻に、雁居の立ち入りそうなところをパトロールするか? それとも一昨日女性が死んだ場所か? ……悩む時間も惜しい。学校休んで一通り探してみよう)


 焦る気持ちとは裏腹に、できることは少なかった。

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