表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/16

太陽は散った

 竜となった雁居の頭に乗って、世界中を飛び回る。


 世界はまさに地獄だった。雲間から容赦なく3つの太陽光が降り注ぎ、地表の温度は500℃にもなった。鉛すら溶ける温度だ。

 当然人が生きていける環境ではない。雁居が気を使ってできるだけ雨の中を通ってくれたが、耐え切れず何度も死んだ。

 雁居は雨を切らさないようにしているが、だんだんと太陽の熱に押し負けているのが分かった。


 中国、アメリカ、オーストラリア、カナダ、イギリス、ドイツ、ロシア……。主要都市ですら、容赦なく壊滅している。建物は燃えるか溶けるか、人も動物も植物もみんなみんな死んでいた。


(だが、その死を無駄にはしない)


 ――とうとう100万人の死を目撃し終えた。運命の枷が外れる音がする。俺はただ人になった。

 竜となった雁居のたてがみを撫でながら言う。


「雁居、ありがとう。もういいよ。あとは死ぬだけだ」

『……透君も死んじゃうんだね。転生しても地球はもう終わりなのに……』


 雁居は悔しそうだ。自分の力が及ばなかったせいだと思っているのかもしれない。


「終わりにはしないよ」


 俺は雁居の後悔を吹き飛ばすように断言した。


『透君……?』

「やっとわかったんだ、俺がなんでこんな呪いを掛けられたのか」


 あの時の僧侶どもは言っていた。

 “もし末法の世、……この者が……功徳は、……神に……”、と。


「この数百年、死ぬより苦しかった。けど、お前や皆を助ける為なら、……悪くない」

『言っていることが分からないよ、透君……』


 うん、と頷いた。言葉にはしづらい。だから試すしかない。


「さよなら、雁居。いい来世を――」


 俺は雁居の頭から真っ逆さまに飛び降りた。


『透君――――!!!』


 雁居の悲痛な叫び声が頭の中にこだまする。

 地面が迫る。ぐしゃりと自分の首の骨が折れるのを、どこか他人事のように感じながら、――俺は確かに死んだ。


 △▽△


 俺の《功徳カウンター》は【カンスト】していた。

 数百年溜めた膨大な功徳を使って、俺は転生する。

 ――太陽殺しの神に。


 △▽△


 気が付いたら宇宙にいた。

 自分がどこまでも拡散していく感覚が、酷く心地よい……。

 俺は宇宙で、宇宙は俺。このまま悠久の時に身を委ねていたくなる。


(……でも、それじゃなんのために死んだのかわからない)


 気力を振り絞って自分を意識する。手足、胴体、頭と意識を巡らせるうちに、俺は形作られた。

 后羿から譲り受けた弓をぎゅっと握りしめる。


 ぱちりと目を開くと、目の前には暗灰色と金色が交じりあった地球が浮かんでいた――。

 暗灰色の部分は雁居の雨雲で、金色の部分は灼熱の大地になった場所なのだろう。

 徐々に暗灰色の部分が減っていく。猶予は一刻もない。


 振り向くと3つの太陽が燦然と輝いていた。

 これが諸悪の根源。これを射落とせば――!


 太陽に向けて后羿の太陽殺しの弓を引こうとして、矢がないことに気付く。思わず目を見開く。これじゃ太陽を殺せない。

 地球が死んでいく有様を歯噛みして見守るしかないのか、と絶望しかけた時――頭の中に声が響いた。


『――この矢を』


 目の前に3本の白羽の矢が現れた。


「天帝様?」


 応えはない。それが答えかもしれない。


 ゆっくりと矢をつがえ――射離す。

 ヒュウン、と矢は真っ直ぐ太陽に向かって飛び命中した。

 太陽は震えるように明滅する。拍動と共に小さくなり輝きは色あせていく。

 最後にはとうとうしわくちゃのただの小さな岩になった。


 2つ目の太陽も同じ運命を辿り、……とうとう『甲』の太陽に弓を向けた。


「いいですね、天帝様。あなたのご子息の命、俺がもらいます」


 ため息のような風が吹いた。


『構わない。覚悟はしている』


 頷く。『甲』に向けた矢にありったけの力と祈りを込めて、――射離した。

 矢は白い光を帯びて、力の奔流になる。

 光の矢は吸い込まれるように、太陽の中心に命中し、『甲』は散った。


 太陽を失い、世界は闇に包まれた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ