ゴーストタウン
日本に着くまで2日かかった。明け方の太陽がまぶしい。
亡者避けの結界で守られている空港に降り立ち、久々に日本の空気を味わう。
よく日本の空港は醤油の匂いがするというが……俺の鼻に届いたのは砂埃と血の匂いだった。
訪れた1年ぶりの崎森市は、まるでゴーストタウンだった。
ほとんど人通りがなく、店も閉まっている。
路上には胴体を切断された死体がぽつぽつと転がっていて、ハエや蛆がたかっていた。
その上を車が引き潰す。誰も信号を見ていない。
それもそのはずで、亡者の太陽党員達が斧を片手に徘徊しているからだ。車ならば止まらなければ突破できるが、赤信号で止まった途端に餌食にされる。
「スイスより酷いな……」
「……まぁな、だが『甲』を倒せば太陽党員達も殺す理由はなくなる。あいつが魂を集める祭司で太陽復活の肝心かなめの術者だからな」
そこではたっと気付く。これから俺たちはどこに向かえばいいんだ?
「そうだ、その『甲』はどこにいるって?」
「それが、崎森市で待つとしか言ってなかったんだよなあいつ……」
二人して暫く黙る。生者の匂いに釣られて、わらわらと亡者たちが集まってきた。
后羿は弓を手に取り、俺は霊刀を構えた。
「……ひとまず、雲野邸に行くか。タカオが心配だし、拠点も必要だ」
「わかった。一気に駆け抜ける!」
それからは一心不乱に亡者を斬った。ほとんどは后羿が仕留めたようなものだったけど。本当に強い。
(これなら『甲』も確実に……)
そうして、切り開いた道の先の雲野邸は――影も形もなく、ただ空中に黒い穴が浮かんでいた。
「何だ、これ……」
呆然と呟く俺。
后羿は信じられないものを見たような顔で呻いた。
「一度だけ見たことがある。異界だ。『甲』が太陽復活の儀式を行うための……もしや、供物となる霊魂が集まりきったのか?」
「この中に『甲』が?」
「恐らくな」
雁居も中にいるのだろうか。
可能な限り急いだつもりだが、この2日間心細い思いをさせてしまったことが悔やまれる。
深呼吸をして覚悟を決めた。
「行こう」
后羿は頷いた。
「よし、行くぞ!」
俺達は穴に飛び込んだ。