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ライジングダーク(仮)  作者: Liy
第一章
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003 叔父からの手紙

 003 




 祈念式は無事に終わり、礼拝室に集まった人々は解散するためにゾロゾロと動き出す。出入り口付近は少し混雑しており、しばらく待ってから移動した方がスムーズに動けそうな様子だ。急ぐ理由もないし村のみんなと一緒にゆっくり待つことにしよう。


 しかし、成人を迎えたことになるけれども何が変わったという感じはない。大昔には神様の加護を本当に授かる人もいたらしいから毎年加護持ちになることを夢見ている新成人が何人かいるらしい。加護を授けられた人はすぐにわかるらしく、祈りの後に祝福の光とともに加護を賜った神々のシンボルが体に浮かび上がるらしいのだ。過去に加護を賜った人は、常人より遥かに強靭な肉体を得たり、魔力が増したり、特別な能力をもったりすることがあったとのこと。そういった人は直ぐさま王宮に報告があげられ、優秀な人材として確保される。得た力によってはそのまま神殿に入ることもあるらしいが、今回は対象者はいなかったようだ。もしからしたら私がっ! と、ちょっとだけ期待していなかったわけでもない・・・。


 ともあれ、この後の領都散策についてみんなと話し合っておかないといけない。村にはないものがいっぱいだし、絶対に自分の目で見て回りたい。お父さんたち大人組みも新成人が領都ではしゃぐのは毎年恒例のわかりきったものであるため、観光の引率のメンバー含めてお小言は半ばあきらめているんだろうな。

 今決まっていることとしては新成人は全員ひとまとめで行動すること、私とリンカのお父さん2人が引率に付くこと、はぐれた場合の集合場所くらいだ。


 引率の人以外はこの機会に村に必要なものを買出しに行ったり、いろいろと情報を仕入れたりすることになっている。特に買い物はお土産なども含むため大荷物になる。帰りの馬車の手配などもあるから数日は観光含めた買出し行脚だろう。


 さぁ、そろそろ入り口の方も問題ないようだし・・・観光だっ!!




 *     *




 現在宿屋。村人全員揃って食事も終わり、おのおの部屋へ引き上げたところである。

 観光初日は無難に終わった。表通りを練り歩き、店を賑やかし、適度に買い物もした。グラントなんかは無駄に武器やとかに行きたがったけど、まぁ見事に全員から却下されてたけどね。


「いやいや、疲れたな。引率がこんなに大変だとは思わなかったよ」


「ふふ、そうとう連れまわされたのね。お疲れ様」


 家族水入らずになってお父さんが一息つき、お母さんが軽く声を掛ける。


「祈念式そのものよりもよっぽど疲れたよ。フィリスたちも大人になったのだから、もうちょっと落ち着きを持たないといけないよ」


 初めての領都観光だから気持ちはわかるけどねと、お父さんは苦笑しながら言う。自覚がないわけではないがお約束として否定はしなければならない。


「私は落ち着いているわ。はしゃいでいたのは主にグラントとリンカよ」


「確かにあの二人は特に元気だったなぁ・・・」


 さもありなん。加えてムードメーカーたるフリップもいたのだ、無駄にテンションが上がるのはわかりきったことである。普段からおとなしいサキやディアスは今頃ベッドでスヤァしているかもしれない。夕飯中も眠そうにしてたもの。もっとも明日また今日回りきれなかった分の観光に出るのだけれどもっ!


「そういえば、宿の方からあなた宛に手紙を預かっているわ。お義兄さんからみたい」


 はいっと、お母さんからお父さんへ手紙が渡される。どうやらお父さんの兄で、私の叔父に当たるフーディー叔父さんからの手紙らしい。なんて書いてあるんだろう。

 お父さんは封を切り早速手紙に目を落とし、すぐに顔を上げた。


「フィリスの成人のお祝いの言葉と近況が書いてあるね。どうも今はトレーシア王国にいるみたい。神殿からの依頼で急ぎで行くことになったから、フィリスの祈念式に参加できなくてごめんねってさ」


 お祝いしてもらえないのは残念だけど、手紙で知らせてくれるなんて律儀だなぁ。それにしても叔父さん、トレーシア王国にいるんだ。


「あらあら、確かお義兄さんの仕事って・・・」


「言語学者だよ。詳しくは書いてないけど古語の解読みたいだね」


 言語学者ってすごいよねっ! 聞いた話だと、叔父さんはすっごい頭が良かったから成人と同時にそのまま領都の知人のところでお世話になりながら、仕事をしつつ勉強を続けていろんな国の言葉を覚えちゃったらしい。しかも通訳の仕事だけじゃなくて古い本とかもいっぱい読めるようになって翻訳もしちゃうんだってさ。ちなみに、その叔父さんのおかげで我が家には小さな村にもかかわらず叔父さん直筆のいろいろな本が置いてある。子供から大人まで使える文字を覚えるための本もあるし、生活に役立つ豆知識をまとめた本もある。それ以外にも叔父さんが帰省する度に叔父さん直筆のいろいろな写本が増えているためほとんどの村人は文字が読めるし書けるのだ。これは結構すごいと思う。


「久しぶりに会えるかと思ったけど残念ね」


「そうだね。めったに兄さんには会えないから。しかし神殿からの依頼なんて初めてじゃないかな・・・、仕事の目処が付いたらまた手紙を出してくれるってさ」


 会えないのは残念だけど、仕事じゃしょうがないわよね。手紙だけでも嬉しいわ。隣国とはいえトレーシア王国は遠い。手紙も届くまで結構時間かかるだろうし、下手したら届かない可能性もあるもの・・・。


「お父さん、こっちからは叔父さんに手紙だせる? お返事書いたほうがいいと思ったんだけど・・・」


「うーん、流石に無理かな。この手紙には兄さんの滞在場所とかは書いてないし、自宅の方に送ってもいつ帰ってくるかわからないし」


 むーん、トレーシアへは無理か・・・。いつになるかわからないけど、今度会えたときにしっかりとお礼を言うことにしよう。


 いったん叔父さんの話に区切りがついたので、お小遣いで購入した今日の戦利品をお母さんに見せる。散策中に露天で手に入れた安物のアクセサリーだが村の工芸品に比べればやはり細工の細かさが違う。特に金属部分の意匠であったり、全体的な装飾品の大きさなんかもだいぶ小さい。村では見ない小物や装飾品についてお母さんと一緒にあーだどーだと品評する。祈念式につけていった髪飾りは普段使いには向かないから、明日あたりはいろいろ見てみる予定にしよう。


 装飾品についてなんてお父さんは興味もないのか、この話題には入ってこない。しかし、ずっと前からお母さんとこの日について策を練っていたのだ。お父さんを逃がすわけがないのである。二人揃って左右からお父さんの腕を片方ずつ取る。


「お父さん、成人祝い期待してますっ!」


「わたしもたまにはプレゼント欲しいなぁ」


 引きつった笑顔を浮かべてお父さんは頷くのだった。まる。




お読みいただき、ありがとうございます。

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