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大尾の住処  作者: 伊井下弦
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子供の頃の夢を見る

その夜、私は夢を見た。私が、寝床に入るとほどなくして、昔飼っていた犬が、私の横に、あらわれた。その犬は私が、子供の頃に、子犬から育てた秋田犬だった。犬は布団の端にかぶりつき、私の布団をはぎとった。そして私を見ながら、前屈み伏せて尾を振っている。これは、外に出て遊ぼうと言うサインである。私は、それに従った。犬は、私を先導し扉へと導いた。扉を開けるとそこは、朝の光で包まれた、昔二人で遊んだ公園だった。犬は、扉を開けるや否や外へ走り出て、私に向って振り返り、再び伏せて尾を振っている。これは二人で鬼ごっこをしようという合図である。私は、光の中へ飛び出した。


すると足の痛みも悪い目も治り、走ることが出来た。私が、走り出すと犬は立ち上がり、全速力で走りだす。私はそれを追った。犬は、時々私を振り返りながら、右へ左への方向を変える。あっという間に、私は犬に追いつき、私は犬の背にタッチした。次は私が鬼の番である。


犬と私は向い合い、お互いに間合いを取る。どうやら犬は、私がいつ走り出すのか、わくわくしているのが見て取れる。いきなり犬に背を向けて、私は走り出す。犬は、少し間隔を保ちながら、私を追いかけてくる。前速力で私に追いつき、袖口などにかぶりつくとこの遊びは終了してしまうので、犬はわざと追いつかない速度で私を追いかける。犬に、味噌付けてもらっている状態である。私は急に立ち止まり、犬の方に振り替える。そして右に左に販促飛びをやって見せる。犬もそれに合わせて右に左に動きを合わせる。犬は、全ての意識を私に集中しているのに違いない。そしてまた、私は犬に背を向けて走り出す。私の速力が落ちてくるのを見計らって、犬は私に追いつき、私の背中や袖口の端を甘噛みし、私は犬に捕まることなる。今度は犬が鬼になる。


そんなことを何回か繰り返し、疲れてくるといつものベンチに私は、へたり込んだ。犬もベンチに登り来て、お座りの体制で私に身を寄せ、私の頬を何度か舐めた。私は、犬を抱き寄せ、犬の首筋を撫ぜた。「どうしていた?」と私が聞くと、犬は、伏せながら私の脇の下から顔を突っ込んできて、私の太ももに顎を置き「くぅん、くぅん」と鳴きながら甘えてきた。きっと寂しかったのかも知れない。犬は、私が東京に就職してから何年か後に、亡くなっている。きっと私の事を、待っていた瞬間も、犬には有ったのだろうと思った。


暫くして「もう何処へも行かないよ。ずーと一緒だよ。」と私が言うと。犬は、私の脇下から顔を抜き、ベンチを降りて少し歩き、こちらを振り返った。私を、どこかへ連れて行こうとしていると思った。私もベンチを降り、犬に従った。犬は、私の少し前を歩きながら時々私を、振り返って付いてきているのを確認しているようだった。そして公園を出ると、公道上のバス停の下で座り込み、私を待った。私はバス停まで行くと、ほどなくしてバスが来たので、私は、バスに乗り込んだ。しかし、犬は地面に座ったまま、私が乗り込むのを見守った犬は、私とは一緒には来なかったのだ。


バスは走り出し、気がつくと東京の街を走り抜け、見たこともない街で終点を迎えた。バスを降りると目の前に、小さな喫茶店が有った。扉を開けると、人で一杯だった。カウンターにひと席見つけ、私はそこに座りコーヒーを頼んだ。周りの人はみな物静かで、しかし「灰皿使います?」とか「新聞読みます?」とか聞いてきた、皆私に優しくあれやこれやと私にかまった。その優しさが異様だったので、私は酷く不愉快になり、直ちに店を出た。店を出ると、店の前に有ったはずのバス停が無くなっていた。


そして目が覚めた。まだ夜中だったが、私は、犬にも街にも見捨てられたような気がして、寝ぼけながら、ひととき泣いた。今、私はひとりなのである。


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