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大尾の住処  作者: 伊井下弦
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花嫁のれん

精霊流しを観した数日後、私は大橋越しの浅野川を見たくなった。昼飯を外食で済ませ、早々に浅野大橋へと、私は向った。


晴天であり人影も少なく、欄干を頼りにそろりそろりと傾斜を天辺まで、歩み切った。精霊流しが放たれた川上の源流を眺めていると。ここを縄張りとしている鳶が、遥か頭上で輪を描きだした。「お前にくれて遣るものは、今日も持ち合わせちゃいないよ。」と川面に目を落とすと、河は同じ水量をもって、遥か先から流れ迫りくる。


流れはひたすら穏やかで淀みもなく、あくまでも透き通っている。気がつくといつもの老紳士が、いつもとは違った洋装で、私の隣に立っていた。カンカン帽だけは変わっていない。老紳士は河の上流を杖でもって指し、「友禅は、あの辺りで水の流れにさらされ余分な糊や染料を、洗い流されるんですぞ。」「そうなんですか。」と私が聞くと私の問いには答えず、老紳士はこう続けた。「加賀友禅は、京友禅の完成形でな。友禅の生みの親が、歳を重ねてから迎えられ、金沢に身を寄せなさった。そして友禅の技をお伝えなされたのが加賀友禅の始まりなそうな。だから京友禅にはない一部の葉や花に、虫食い跡を描き加えられたとか。それ故、『花嫁のれん』の風習へと受け継がれたのかも知れんのう。」老紳士は、そう言うと、軽く会釈をして、橋を下って消えて行った。


また私の視界の空間は、鳶と私だけとなり。暫くの間、水の流れに耳を傾けながら、花嫁のれんに思いを馳せた。


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