さようなら あの人
電車に乗ってて、ホームで恋ダンスを踊っている人を見かけて思いついた(∩´∀`∩)
駅のホームは今、私は立っている。
あの人は一体今、どこにいるのだろうか?
私は駅のホームを見渡したが見つからなかったため、ホームを歩いて探す事にした。
ホーム自体は大きくはないのだが、身を隠せる場所はかなりあるため隅々まで自分の目で探さなければならなかった。
とてもめんどくさい。わざわざせっかくここまで来たというのに、あの人を探さなければならないなんてとてもめんどくさかった。
少し歩くと自動販売機の後ろにこそこそとしているあの人の姿を見つけた。……そこは男らしくどうどうとしてほしかった。だって全てがダメなのだから……
私は今からあの人と一緒に死ににいく。あの人の会社が倒産して、奥さんもそれをきっかけに逃げ出したらしい。
だけどまぁ自業自得だと思う。あの人は会社ではセクハラ三昧で家では奥さんに暴力を振るっていたらしい。
私はあの人の愛人だ。あの人は嬉しいことや悲しい事やむかついた事とかなにかと理由をつけて私の店にくる。そしてアルコール度数の高いお酒を飲んで、酔っ払いながら私の体にその気持ち悪い手で触ってくる。
毎日吐き気を催しそうだった。まぁあの人は一応お客様だから笑顔でなんとか切り抜けた。
……だけどもあの人は私の店によく来る。酷いときは1ヶ月毎日ずっと。多分笑顔で接してくれる私に心の安らぎを見つけたのだろう。そして私にセクハラをしても優しく諭されるだけだったからやりやすかったのだろう。
けれどもだからといって死ぬ時に一緒に死にたいというのはおかしいと思う。だって私はあの人の恋人でも愛人でもないのだから……
あの人は今から3分後に来る電車に引かれて死ぬつもりのようだ。
あの人は私と死ぬ前に手を繋ぎたいと言ってきた。怖いとか言ってくる。
どーでもいいわ、ひとりで怖がっていろとでも思う。
だって私は死ぬ気なんてさらさらないのだから。
だけど私はそれを悟られないよう優しく手を繋いであげた。汗でヌメリとしていて吐き気を催しそうだった。
そしてキスをしたいとまで言いだした。……それは流石に無理だ。気持ち悪い。想像するだけでも気持ち悪い。こんなタラコ唇のデカい版の奴なんかとキスなんて泡を吐いて気絶しそうだ。だから私は少し困った顔をして止めるよう優しく諭した。だが、あの人はいつもは簡単にあきらめるくせに今回はなかなかしぶとく子供のように我が儘を言ってきた。
だけど運良く電車がまもなく訪れるというアナウンスが入った。私は一安心した。
あとは軽ーく背中を押せば済むだけだった。私は押すためにあの人の後ろに行こうとしたら、あの人は汗塗れの手を離さず、どこに行くんだ? 僕と一緒に死ぬんだろう。と唾を飛ばしながら迫ってくる。
私はしょうがなくあの人の横に並んだ。そして運命の瞬間がきた。電車が勢いよくこちらに死神のように向かってきた。
私はあの人の背中に手をかけて勢いよく背中を押した…………
パーーン
***
電車にぶつかったあの人は無惨にも電車の下にいた。当たったあと、また引かれてしまったのだ。
可哀想と少しは思ったがすぐに切り替えた。これから僕はあの人の分まで生きなくてはいけないんだ。今僕には妻がいるから、あの人と結婚する事は出来なかったけどもう大丈夫。だって……僕の心の中でいつものように笑ってくれているから……