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取り巻きCと紅はこべ 上

取り巻きC・エリアル視点

エリアル高等部二年初夏


遅ればせながら新年のご挨拶を申し上げます

本年もよろしくお願い致します

 

 

 

 その、申し出は、夏期休暇の直前にもたらされた。


「ハロウィーンの、仮装用衣装、ですか?」

「ええ、お願い出来ませんか?」


 祈るように手を組んでこちらを見上げる少女たちは、ひどく愛らしい。


 そんな風に可愛らしくお願いされれば、叶えてあげたくなるのがヒトの性と言うもの。


 だけれど、このお願いは、少し。


「ええ、と……」


 取り巻きC、ただいま困惑中です。




 みなさまこんにちは。輝く未来を取り巻いて、フレーフレーお嬢さま、フレーフレーわたしな取り巻きC、エリアル・サヴァンでございます。


 一学期が無事に、無事に?終わりかけた今日このごろ、クルタス王立学院は、長期休暇に向けてどこか浮ついた雰囲気。面倒な試験期間も終わり、あとは結果の発表と数日の授業をこなせば、長い夏期休暇です。


 わたしは、と言えば、緩い謹慎がまだ解けず、演習合宿参加は許可されなかった為、去年に比べて予定が空いている状態。


 当然のようにわんちゃん、ヴァンデルシュナイツ・グローデウロウス導師には呼び出しを受けているし、我らがお嬢さまたるツェリをはじめ、リリアやレリィ、モーナさまなどからも、休暇中に家に来ないかと誘われている。こんちゃんこと、コンスタンティン・レルナ・カロッサ教皇子息との約束もあるし、ゾフィーの仕立て屋にも顔を出したい。


 だから決して、暇、と言うわけではないのだけれど、まとまって時間を拘束されない分、予定に融通はきく。


 そんな、状態なので、ドレスを作るくらいの時間は、余裕で取れる、のだけれど。




「もちろん、材料費も手間賃もわたくしたちでお支払い致しますわ!必要なものは言って下されば、いくらでも手配致します!」

「手伝いが必要でしたら、お針子もご用意致しますわ」

「それでしたら、始めから仕立て屋に頼めば良いのでは?」


 やんわり、ご遠慮したい意思を伝えると、勢い込んで否定された。


「こんなこと、頼める仕立て屋はおりません!」

「でしょうね」


 だからってわたしに頼むのもどうなの。


 若さあふれる少女たちの勢いに圧されながらも、どうにかこうにか、遠回しな断り文句を組み立てる。


「素人の仕立てで構わないようでしたら、作ることはしますが」

「本当ですか!?」

「ええ。ですが、服を作るなら採寸が必要です。着せるにしても、本人の了承が。ですので、着る予定の方全員の了承を、得て来て下さい。その上でのご依頼でしたら考えましょう」


 暗に、わたしは交渉に一切協力しない旨を含ませたが、予想に反して少女たちは目を輝かせた。


「それはつまり、この方々の了承を得られれば、エリアルさんがこの企画に参加して下さる、と言うことでよろしいでしょうか?」

「え、そう、ですね。企画としては面白いと思いますし、出来る範囲での協力は、致しますが、あの、わたしがやりたがっている、等の理由での交渉は、」

「そのようなことは致しません!ただ、衣装の調達がいちばんの課題でしたので、そこが達成出来る見込みがあれば、交渉に本腰を入れられますから」


 にこにこと言った少女たちは、企画書を残してわたしの前から立ち去った。


 半ば呆然とそれを見送り、残された企画書に目を落とす。


「こう言ったものを」


 学生らしい企画だ。学園祭などがあれば、盛り上がる企画として提案されるであろうもの。

 だが、今まではなかった。


 きっかけは、おそらく。


「思い付くようになったのは、わたしの影響、でしょうか」


 賛否はどうあれ、面白い試みではあると思う。学生の間でなければ出来ないことであろうとも。


 けれど、難しいだろうな。


 苦笑して、わたしは企画書を畳んだ。


 その予想が大間違いだと気付かされたのは、わずか三日後。




「参加者の了承、得られましたわ!」


 おそらく署名を集めたのであろう紙束を掲げて、少女たちの代表者は宣言した。


「え、全員、ですか」

「いいえ」


 少女は首を振って、わたしに一枚の紙を差し出す。


「残るはおひとり。エリアル・サヴァンさま、どうかみなさまのご希望を、叶えて頂けませんか?」

「わたし、ですか?」


 思わぬ要求、だった。


「服を作るなら、着る方の了承があれば、」


 差し出された紙に目を落として、固まる。


「…………着用者?製作者、ではなく?」

「もちろん製作もお願い致しますわ。ですが、着用もぜひ、お願いしたいのです」


 乗 せ ら れ た。


 気付いて両手で顔を覆いたくなる気持ちを堪える。


 彼女らは最初からそのつもりで、だから真っ先にわたしに衣装作成を依頼しに来たのだ。条件次第で企画に参加する、その一言を言質に取るために。


 そして交渉したのだろう。道連れは、エリアル・サヴァンだと言い添えて。


「こちらが、エリアルさん以外の参加予定の方ですわ。全員から、了承を頂いております」


 追加で差し出された紙束に名前の並ぶ、そうそうたる面々。


 その、最後に記された名前を見て、敗北を悟った。


 この面子が了承しているなか、わたしだけ断るなどと言う道はない。


「わかりました。採寸等の予定を、確認しても?」

「はい!みなさまにはある程度予定をお聞きしてありますので、ここからエリアルさんの都合の良い日時を挙げて頂ければ」


 用意の、よろしいことで。


 ため息を堪えて笑い、わたしは予定の書き込まれた紙に目を落とした。




「どうして許可してしまったのですか……」


 採寸しながら、ついつい苦言を漏らす。


「ごめんね」


 大人しく採寸される尊きお方、バルキア王国王太子、ヴィクトリカ・ルイ・バルキア殿下は申し訳なさそうな顔で笑うと、でも、と続けた。


「去年は驚いたけれど、楽しんだから、これでみんなが楽しめると言うなら協力したいと思ったんだ。それから」


 殿下は首を傾げると、こんな機会でもないと、絶対に出来ない格好でしょうと問うて来た。


「それは、そうでしょうけれど」


 立場的に着たいとは言えないし、周囲が着せたいとも言えないだろう。不敬罪で首が飛びかねない。物理的に。


「服だけでも、着ることで多少気持ちが理解出来るのではないかと、思ってね」

「なるほど」


 確かにそれは、一理ある。

 着てみなければわからない苦労と言うのは、あるものだ。


 例えば夏祭りの浴衣。髪を上げ、衣紋を抜いて、カランコロンと下駄を鳴らす女の子は涼しげで愛らしいけれど、実際は下着に帯にと暑くてたまらないし、履き慣れない下駄は足を痛め付ける。


 貴族の装いもそうだ。

 平民から見れば煌びやかで豪奢で、着心地も良さそうに見えるだろうが、贅沢に布や金糸銀糸を使い金銀宝玉を身に付ければ重くて仕方ない。汚してもゴシゴシ洗ったり出来ないし、よくあんな格好でダンスなんて出来るものだと感動する。


「いやでも、良いのですか?わたし、不敬罪で捕まったりしませんよね?」


 だが限度はあるだろう。

 なにせ相手は王太子殿下だ。


「学生時代の戯れには、ある程度寛容だよ。そうして交流することで、気心の知れた腹心になるからね。父も、学生時代に親しくなった相手を、複数重用している」


 そこで止めてくれれば良いものを、ヴィクトリカ殿下は、それにと続けた。


「エリアル嬢も着るのでしょう?楽しみにしているよ」


 にこりと微笑み掛けられれば、うっと言葉に詰まってしまう。


「あまり、期待しないで、頂きたいのですが」


 そもそもわたしが選出されるのは、この試みの趣旨に反するようにも思わなくはないのだけれど如何に。


「どうしても嫌ならば、エリアル嬢は外すように、私から言うけれど」


 気乗りしない気持ちが伝わったのか、殿下が気遣うように顔を覗き込んで来る。


 その申し出は正直なところ、非常に魅力的なのですが。


「いえ。一度お受けしたことですから。それに、わたしだけ逃げようものならほかの方々の反応が」


 特にこのあと採寸の方々が怖い。


 と言うか、よくもあのふたりにこんな企画持ちかけられたな!!命知らずか!?


「なにか困ったことがあったら、私に相談してくれて良いからね」


 優しいなあ、殿下は。


「ありがとうございます。もしわたしではどうにもならないようでしたら、相談致しますね」


 なにせ身分が違い過ぎるので。


「わかっていて承諾したのですから、大丈夫だとは、思うのですけれど」




 と、思っていた時期がわたしにもありました。


「嫌なら」


 つい、心の声が漏れてしまう。


「断れば良かったと思うのですが」

「…………」


 無言。


 ただ、火傷しそうなほどの怒気がこもった視線を向けられている。


 この方も、そして今は後ろに控えている彼もだが。


 このふたりのわたしに対する態度は、一貫して変わらないな。


 その、徹底した抗戦の意思は、むしろ好感さえ湧いて来る。どこかの狐野郎に、見習って欲しいくらい……。


「ちっ」

「おい舌打ち」

「あ、いえ、失礼しました」


 嫌なことを思い出した。


「このあと、レングナー伯爵子息さまの採寸も控えていることを思い出し、…………」

「いきなり黙り込むな」

「申し訳ありません。すっぽかそうかと」

「おい」


 思いっきり顔をしかめて、採寸の相手、フェルデナント・ヤン・バルキア第二王子殿下はわたしを咎めた。


「受けたなら全うしろ。採寸しなくてどうやって服を作る気だ」

「見ればわかりますから」

「「は?」」


 澄まして控えていた後ろの彼と合わせて、ふたりぶんの声が返る。


 こいつなにを言っているんだとでも言いたげな顔だ。


 そんなにおかしなことを言っただろうか?


「採寸しなくても、ある程度の尺は見ればわかります。特に裕福な方は、体に合った大きさの仕立ての良い服を着ていらっしゃるので余計」


 平民の子供とかだと、大きくなるのを見越して仕立てていたり、年上の子のお古だったりするので、服が身体に合っていないし、長く着られる丈夫で厚手の硬い布で作られているので、服の上からだと体型がわかりにくくなる。

 対して貴族の、それも裕福な家の子になると、合わなくなったら仕立て直せば良いだけなので体に合った、着心地の良いしなやかで柔らかい布地の服のため、見た目で体型がわかりやすいのだ。


 まあ肩パッドやらコルセットやらで体型を補正していたりはするので、測った方が確実なのは確かなのだけれど。


「……なら今の時間の意味は」

「測った方が確実なので。王子殿下に滅多なものを着せるわけにも行きませんし」


 あとは夏季休暇で、激痩せや激太りをしないことを祈るばかりだ。成長期も怖い。


 ある程度調整は利く仕立てにするつもりだけれど限度はあるから。


「それから」


 喋りながらも手は止めない。目分で測ったものと大差ないことの確認だけなので、そう気を張って測ることもないのだ。


「本当に着る気があるのかどうかの確認も兼ねて、ですね。仕立て上げてから着る気はないと言われては嫌ですから」


 採寸を受ける程度は協力の意思があるのだと確認したい。


「はい、終わりました」

「早いな」

「あまり時間を取るのも迷惑でしょう。なにか希望があれば、」


 否。


「あ、やっぱりなんでもありません。お時間頂きありがとうございました。行って良いですよ」

「おい」

「次が控えているので」


 そう言えばと、思い出したように言う。


「お嬢さまが、今日はいつものサロンでヴィクトリカ殿下と合同課題の相談をすると、」


 バタンと扉を閉じる音。


 息を吐いたのは、ふたり同時だった。


 思わず目が合う。


「あなたが始めに断っておけば、こう面倒なことにはならなかったと思うのですが」


 目が合った瞬間に思いっきりしかめられた顔は、彼がほかの人間には見せないようなものだろう。全く嬉しくない特別だけれど。


「遠回しに断ったつもりでしたよ。まさか全員了承するなんて」

「王子殿下がそろって承諾しているにもかかわらず、ほかのものが断れると?」

「わたしは」


 去年より背が伸びたらしく、わたしよりは多少高い身長になった採寸の相手、ラース・キューバー公爵子息に巻尺を当てながら答える。


「服を作って欲しいとしか、言われなかったのです、はじめ」

「小賢しい」


 柳眉を寄せてラース・キューバーが呟く。


「交渉順序や交渉する状況まで、すべて計算尽くですよあれは」

「なにかそう確信することが?」

「ミュラーの養女と一緒のときに殿下へ話を持ち込んだんです、よりにもよって」


 そうだったのか。


 もし、ミュラーの養女ことツェツィーリア・ミュラーがこの話を聞いたらどんな反応をするか。想像に難くない。


「『アルが参加するの?面白そうね』」

「一言一句その通りです」

「それは」


 断らないだろう。なにせ自分が断ればわたしの参加が望めなくなる。つまり面白そうとツェリが顔を輝かせたことが、実現しなくなるのだ。


「『民の願いを聞くのも、王族の役目だからな』」

「見ていたんですか」

「初耳でしたよ」


 なるほど。格好付けか、わたしへの対抗心かは知らないが、あの、第二王子がこんな企画に乗った理由に納得が行った。


 そしてラース・キューバーは、


「目の前で王族が了承したことを、正当な理由もなく断れませんよね」


 よほどの理不尽ならばともかく、ハロウィーンに乗っかったお遊び。可愛らしいかはともかく、ささやかとは言えるお願いだ。


 その場の最高権力者が是と言ったならば、反発しにくくとも当然だ。


「着たくないから嫌だとは、あなたもわたしも外面的に言いにくいですから」


 巨大な猫を被っている者仲間として、気持ちは、って誰?今、被っていなくても猫だろうって言ったの。わたしは、猫じゃない。


「一緒にしないで貰えますか」

「これは失礼致しました」


 肩をすくめて、巻尺をラース・キューバーから離す。


「終わりましたよ。ご協力ありがとうございました」

「本当に早いですね。さすがは仕立屋なだけあると言うことですか」

「わたしは小物を置かせて貰っているだけですよ」


 首を振って、問い掛けた。


「衣装に関して、なにか要望はありますか?」

「殿下には訊かなかったのに僕には訊くんですか」

「第二王子殿下に訊いて」


 眉が寄る。


「お嬢さまとお揃いが良いなどと言われたら、困りますから」


 今年もツェリとリリア、それから、今年はレリィとアリスの分も、衣装作成はわたしに一任されている。ピアは今年は親しくなった令嬢たちと、一緒に衣装を仕立てるらしい。


 だからツェリの衣装を決める権限は、わたしにあるわけで。


 その状態でまかり間違って第二王子に、ツェリとお揃いをなどと言われたら判断に窮することになる。


 まあ第二王子も馬鹿ではないので、さすがにそんなことは言わないと思うが。


「これ幸いと」


 脱いでくれていたジャケットを羽織りながら、ラース・キューバーが目をすがめる。


「王太子とお揃いにしてやろうとは思わなかったのですか?型を同じにして少し質素にすれば、言わんとすることはみな察するでしょう」


 すなわち、第二王子は王太子派に降ったと。


 思わなかったとは、言わない。けれど。


「やりませんよ。対価を得て、仕事として引き受けたのですから」


 わたしに依頼した彼女らが、依頼するにあたって思い浮かべたのは去年のハロウィーンだろう。わたしが殿下に着せた、七匹の仔山羊の狼の衣装。それに、ツェリやリリアに着せた、男装衣装。


 どれも、着る者に似合うように意匠を考え、仕立てたものだ。


 その期待を、無下には出来ない。


 単純にわたしが嫌だし、なにより、


「エリアル・サヴァンは雑な仕事をするのだと思われては、わたしの周囲の信頼まで落とすことになりますから」


 エリアル・サヴァンとゾフィーの仕立屋の関係は、すでに知られてしまっている。


 わたしが信用ならない仕事をすると思われることで、ゾフィーの仕立屋の仕事まで疑われるわけには行かないのだ。


 あるいは、その程度のものを、ツェリやヴィクトリカ殿下が、信頼してそばに置いていると思われることも。


 それに。


「そのようなことをしなくても、ヴィクトリカ殿下が王太子ですから」


 国王は第二王子フェルデナントではなく、第一王子ヴィクトリカを、王太子に指名している。


 わたしが下手な小細工なんてしなくても、それは当たり前の事実で。


 だからこそむしろ、下手な小細工なんてしない方が良いのだ。


 だってそんなことしなくても、ヴィクトリカ殿下が王太子であることは、揺るぎない事実なのだから。


「……第二王子派閥など、取るに足らないと」


 元々わたしには冷たいラース・キューバーの視線が、さらに冷え込む。


「この国の」


 その議論には乗らず、微笑んだ。


「頂点に立つのは誰で、その方はどのような判断をされたかと言う話ですよ」


 さて、と手を叩いて話を打ち切る。


「このままお話しして時間を潰したいところですが、残念ながら次の予定が入っています。衣装に関して要望がないと言うなら、」

「どうせならば」


 わたしの発言を遮って、ラース・キューバーが言った。


「庶民が着るようなものが良いですね。あなたはその方が得意でしょう」

「……得意、と言うことは、べつに」


 思わぬ要望に目をまたたけば、それで多少溜飲が下がったのかラース・キューバーは唇に笑みを刷き。


「あまり下品なものや挑発的な服は困りますが、そうでなければ好きにして下さい」


 言い置いて部屋を出て行った。




 それから嫌々ながらもマルク・レングナーの採寸も済ませ、


「なかなか、挑戦的だと思いませんか」

「それな!いやほんと。俺とかテオドアとかな!」


 明るく笑い飛ばすクララ先輩に癒された。


「え、本気か?って思ったもんな、話持って来られた時」

「それなら、お断りして下されば」

「いや、王子ふたり了承してんのに?」


 絶対後ろに参謀がいたでしょうこの企画組んだ方々……っ。


「いやまあ、楽しければいっかなーって。騎士団入ってもさ、場所によっちゃ伝統であるらしいし」

「えっ、そうなのですか?」


 いやまあ、元の世界でもお祭りでとかあったから、あながちあり得ない話ではない、の、いや、でも騎士団って、ほぼ貴族だよ団員。


「ああ。ま、騎士団に入るようなやつらだから、それなりに身体鍛えてるやつ多いし、なかなか怖い仮装になるらしいけどな」

「それは、まあ、そうでしょうね」


 化け物の仮装なのだから、それで良いのだろうけれど。


「まあ、事故にはならないように配慮しますよ」

「それはどーも。まあ、そうだな」


 にかっと白い歯を見せて、クララ先輩は言う。


「どんな服だろうが、アルが作ったって言や、責められるのはオレじゃなくなるからな。全裸とかでなきゃ怒りはしねぇよ。オレはな」


 ぽんぽん、と私の頭を撫でるクララ先輩。


「そうそうたる面々だからな、この企画。オレやテオドアに対してくらい、気を抜いて行けよ」

「いや、公爵子息と侯爵子息ですけれどね」

「まーな!」


 ケケケッと明るく笑ったあとで、クララ先輩が私の顔を覗き込んだ。


「ヴィクトリカ殿下ほどじゃないが、三年のなかじゃいちばん爵位が高いし、発言力もないわけじゃない。無理なら言えよ。止めてやる」

「クララ先輩」


 ああもう、この学院の騎士科の先輩方は、どうしてこうなのか。


「引き受けたならば、やりますよ。大丈夫です」

「そっか。偉いな」


 そう言うのは、落としたい女子にやって貰えませんかね。


「ま、なんか言われたり絡まれたりしたら言えよ。つっても、なんか言って来たり絡んで来たりする奴らの過半数は、冬季合宿で潰したみたいだけどな?」

「まあ、そうですね」


 ルシフル騎士団に行った方々は、実力も見せたし、とりさんこと邪竜トリシアのやらかしで人心掌握している。変な絡みはして来ないだろう。


 だがルシフルに行ったのは、ルシフルに行かせても問題ない程度の家のものだけなので。


「そうでない方々が問題ですが」

「そこはオレとかテオドアとかヴィクトリカ殿下とかを笠に着ろよ。味方するからさ」

「ありがとうございます」


 変にツェリを巻き込んでも嫌だしな。


「……ハロウィーンの間、一緒にいさせて頂いても?」

「おっ、良いぜー。なんなら騎士科で集まって、一緒に騒ぐか?」

「楽しそうですね、それ」


 今年は演習合宿に行けない。

 おそらくクララ先輩は、そのことをもう知っているのだろう。


 軽く見せても優秀なこのひとは、間違いなく班長になるのだろうから。


 その上でわたしを、騎士科に混じらせてくれようとしている。


「美味しいお菓子作って、持って行きますよ」

「言ったな!?約束だからな」

「はい」


 楽しみが出来たから、頑張れる。


 心から微笑んで、私はクララ先輩を見上げた。


「クララ先輩が主役になるような衣装を、お作りしますね」


 どうせ夏の間は多少のお出掛け以外、わんちゃんの元に留め置かれるのだ。衣装作りに大幅に時間を割いても、問題はないだろう。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


ハロウィンに間に合ったら良いななんて

思って書いていました

今日はハロウィンなので間に合いましたね!!

ハッピーハロウィン!!


予定が狂わなければ

次話は十日前後で上げる予定です

続きも読んで頂ければ幸いです

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― 新着の感想 ―
[良い点] クララ先輩をはじめ、騎士科の先輩達はイケメン揃いですね。 絡みを見ているだけでホッとします。 王太子殿下も相変わらず優しくてかっこいいです。 将来どんな王様に成長するのかな。 [気になる点…
[一言] 新年明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いします。そして、ハッピーハロウィン!! 今話も更新ありがとうございます。 2度目のハロウィンコスプレ、しかも今回は強かなご令嬢方…
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