取り巻きCと牡丹百合 よっかめよる/いつかめあさ
取り巻きC・エリアル視点
エリアル高等部1年の年始
……現実にも作品内にも癒しが欲し過ぎて荒ぶりました
大幅な脱線であまり内容もないですがお許し下さいませm(__)m
-エリはばかだね
頭の中で響いた声を最後に、意識が、
-とり、さ、
駄目だ、と思う前に落ちて行く意識を、留めるすべはなかった。
やっぱり、漏れる邪竜について、わんちゃんに相談すべきかもしれない。
みなさまこんばんは。問題児の汚名返上に失敗した取り巻きCことエリアル・サヴァンです。明日こそ、明日こそは……!
地下の訓練場からフリージンガー団長に連れられ、今は事務仕事のお供です。と言っても、守秘事項も多いなかでわたしが出来る事務なんて、簡単な計算くらいだけれど。
納品書から品名と金額を拾い上げ、表に記載して行く。どうやらこれは医薬系の支出。つまり、るーちゃんことブルーノ・メーベルト先輩が医薬品の入れ換えを行ったために発生した費用だろう。
失敗は許されないものだが、簡単な仕事だ。簡単な仕事、なのだけれど。
空いた片手で、きゅっと腿をつねる。そうでもしないと、かくりと船を漕いでしまいそうだから。
どうにも、眠い。眠くて、仕方がない。まるで、首輪の更新をされたあとみたいに。
昨日に引き続いてで無様に寝るわけには行かないと、深く息を吸い込む。
「……眠いのですか」
「いえ。大丈夫です」
「疲れているのでは?無理はせずとも休んで良いですよ」
えっ、フリージンガー団長が優しい……。いやでも、ただでさえこうして特別扱いして貰っている手前、頑張っている同輩を差し置いて休むわけには、
「サヴァンの力に適応した覚醒児は、超人的な力を行使出来るが使った力の代償に多くの休息を必要とする。ヒトの身に過ぎた力の代償など、私には想像も付きませんし、先の戦闘程度あなたには大したことでもないのかも知れませんが、あなたは病み上がりと聞いています。本調子でないのならば、普段以上に休息は取るべきですよ」
「覚醒児、ですか?」
断る前に続けられた気遣いに、否定よりも疑問が先行する。サヴァンの覚醒児。聞いたことのない言葉だ。
あるいは祖父や大叔母であれば、知っていたのだろうか。
「サヴァンの、祖の力を受け継いで、潰れなかった子のことですよ。ヒトの形を持ちながら、」
「わたしはサヴァン子爵家の娘です。サヴァン公爵家のことは、知りません」
首を振り、息を吐いて書類に目を落とす。書類に集中したいのに、目が滑る。ああ、眠い。
「イディオ家が断絶したときに」
「……フリージンガー団長」
顔を上げ、にこ、と微笑む。
「休憩時間でないのなら、雑談は控えるべきでは?」
「あくまで、休息は不要、と?」
「あなたの雑談相手をするためにわたしを連れて来たとおっしゃるのですか?」
眠気でくらくらする意識の内を悟らせないよう、にっこり笑顔ではっきりと喋る。
-強がらないで頼れば良いのに
不意に聞こえた邪竜の声に、ぱちりと目をまたたく。
-弱みを見せて良い相手じゃないよ?
-エリはばかだね
まるで、背後から目隠しされたみたいに、急速に意識が落とされる。
-さっきの戦いと言い、今と言い、まるでやり方がなっちゃいないよ
わーがお手本を見せてあげる。
抗いたいのに、邪竜の力はあまりに強く、そして、優しかった。
-とり、さ、
-引っ込んでな、おちびさん
邪竜の漏れをわんちゃんに告げ口してやる。
そう反論する前に、わたしの意識は闇へ落とされた。
「わたしの身体だからねそれ!!」
ばさっと、クッションを撥ね飛ばして飛び起きる。
「え……?」
状況がわからず、固まった。
色とりどりのクッションの山に、埋もれる身体。ふわふわのクッションは柔らかく、どこか甘い香りと相まって、心地好い安心感を与えた。
「えりちゃん!」
クッションの波の向こうで、桃色髪の愛らしい幼子が笑う。
「モモ……?ここは……」
「しんそういしきのなかだよ」
にこにこと邪気のない笑顔を浮かべたモモが、クッションの波を越え、山を登って手を伸ばす。ぺたり、と柔らかく白い指が頬に触れる。ふわりと香る、桃の香り。
「深層意識」
「えりちゃん、しあちゃんにだめっていわれたのに、むりしたでしょ?」
めっ、と言ってモモがぷくーと頬を膨らませる。
「えりちゃんのからだは、ふつうのひとよりはつよいかもしれないけど、しあちゃんみたいにはじょうぶじゃないんだよ。かしんして、むりをかさねたらだめ!」
「無理なんて」
「じかくのないむりは、じかくのあるむりより、たちがわるいよ」
むに、と左右から頬をつままれた。
「ふりーじんがぁ……ながいなぁ、ふーちゃんでいっか。ふーちゃんにもいわれてたでしょ。うさちゃんにもいわれたよね?」
綺麗な牡丹色の瞳が、わたしの目を覗き込む。
ふーちゃんて、麩菓子じゃあるまいし。そして、うさちゃんはもしやウル先輩……?さ、はどこから来たの?いや、ウル先輩は確かに色味的に兎に似ているけれど。
「えりちゃんがふつうのひとよりつよかったとしても、ふつうじゃないくらいつよいひとからみて、がんばりすぎてるなら、がんばりすぎなんだよ。そんなにむりしてたら、こわれちゃうよ」
うるっと、桃色の瞳が濡れる。
庇護欲をそそる姿。謝って、もうしないと言ってあげたくなる。でも。
「わたしが壊れるだけで、わたしの大切なひとが守れるなら、それで」
わたしはどうなろうと構わないのだ。壊れようが、壊されようが。そのときに、大切なひとの幸せが約束されているのなら。
「うん」
モモは仕方ないなと言いたげに笑って、肯定も否定もしなかった。
「でも、それはいまじゃないでしょ?」
つまむ指が離れ、むぎゅ、と左右から頬を潰される。
「せっかくいままでがんばってきたのに、いまつぶれたらもったいないよ」
ぱ、と手が離れ、細い幼子の細い腕がうなじに回った。
「えりちゃん、よくがんばったね。いいこいいこ。えらいねぇ」
頭を胸に抱き寄せられ、なでなでとあやされる。
「モモがまもってあげるから、いまはゆっくりやすむんだよ。えりちゃんは、ひとりじゃないからね。だいじょうぶ。だいじょうぶ。モモが、ついてるからね」
戦いなんて知らないであろう柔く綺麗な手が、優しく髪を滑った。何度も、何度も。
「いつだって、えりちゃんがこまったら、モモがたすけてあげるからね。モモは、ずぅっと、えりちゃんのみかただからね。あんしんして、いいんだよ」
とくん、とくんと、穏やかな心臓の音。
「モモ、そんな言葉、どこで覚えたの?」
「へんげのりゅうはすごいんだよ」
苦笑して見せれば、へへん、と胸を張られた。
「えりちゃんより、わんちゃんより、しあちゃんよりだって、ずっとすごいんだから。モモがいれば、ひゃくはしらりきだよ!」
「百柱」
「そう。ひゃくはしら」
「それはすごいね」
モモの見た目は二歳か三歳くらいの幼子だが、優しく響く声に幼子特有の甲高さはない。穏やかで、温かくて、心を溶かす声だ。
国が国なら神になっていてもおかしくなかったと、とりさんは言っていたか。危険はないとも言っていたけれど、神に祭り上げられるほどの力とは、いかばかりか。
邪竜トリシアや筆頭宮廷魔導師ヴァンデルシュナイツ・グローデウロウスよりすごいと言うのも、あながち間違いではないのかもしれない。
「そうだよ!モモはすごいの。だから、えりちゃんは、モモにたよっていいんだからね。モモも、しあちゃんだって、えりちゃんのみかただからね」
見た目は、とても愛らしい幼子だけれども。
「モモとしあちゃんなら、ぜんぶしってるから、たよれるでしょ?げーむにもでてこないし、えりちゃんよりつよいから、あんしんでしょ?モモ、えりちゃんにたよってほしいなぁ」
そしてこの竜、自分の愛らしさを理解していると見た。
甘えるような声で頼れと言って来る、そのあざとさに育て親の影を感じて遠い目になる。
わたしの頭を離したモモが、肩をぐっと押した。
「いいこのえりちゃん、がんばりやさん。モモがそばにいるから、いまはゆっくりやすんで。ほら、いいこさん、ねむろう?」
小さな身体からは想像も着かない、有無を言わさぬ力で、クッションの山に沈められた。ふわふわのクッションに囲まれて、身体の力が抜けて行く。
「ん、いいこ。たくさんがんばったね。いいこだったね。がんばったぶん、やすんでね」
小さな手でわたしをなでながら、そっと愛らしい唇で、優しく歌い出す。
「!?」
「おきちゃだめ。おやすみのじかんだよ。ほら、いいこだから」
その歌声にぎょっとして跳ね起きそうになったら、ぐっとおでこを押さえ付けられた。耳許で囁かれた声に、腰が砕ける。
なるほど、変化の竜。変化の竜ね。
「……おやすみなさい、モモ」
「おやすみ、えりちゃん。モモのかわいい、がんばりやさん」
そうしてまた、紡がれる、愛しい声での、愛の歌。大衆歌謡曲に新しい歌詞を乗せた、前世では世界的に有名だった曲。優しく口ずさむのに最適な曲調と、それに反して熱烈な歌詞。
彼の声の子守唄なんて、聞き惚れて眠れないかと思ったのに。
とろとろと、解け行く意識は、簡単に眠りの淵に落とされた。
すやすやと穏やかな寝息を立てる黒髪の少女を、桃色の髪の幼子がそっとなでる。
「眠った?」
そんな幼子の背後から、声が掛かる。
「うん。よくねてるよ」
「そ。ならいいけど」
「しあちゃんはやさしいねぇ」
ぱしん。
口元を手で押さえた黒髪の少年が、こいつなに言ってるんだと言いたげな顔で幼子を見下ろす。
「……わーのどこが、やさしいって?」
「いま、はぁ!?ってさけびそうになったの、こらえたところとか?」
「わーは、優しくはないし、易しいつもりもないよ」
ぎゅ、と顔をしかめ、表情に見合わぬ静かな動きでクッションの山に腰を落とす。
「つかれてるえりちゃんのために、ゆっくりやすめるじかんをつくっておいて?」
「それは、」
「だとしても、やさしいよ」
幼子が、にこっと笑う。
「それが、だれのためだったとしても。やさしいと、モモはおもうよ」
「……」
無言で深々とため息を吐いたあとで、黒髪の少年はわさわさと艶やかな髪を掻き混ぜた。
「モモには敵わないなぁ、ほんと。誰に似たんだか」
ぼやいて、少年は眠る少女の頬をつつく。
「この、おばかのばかさ加減も、いったい誰に似たのか。困るんだけど、良い加減」
言いながらも、その手付きは優しい。
「やっぱりやさしいよ、しあちゃんは」
幼子は、笑ってぽすりと、少年の膝に収まった。
ふつ、と不意に目が覚める。
いや、覚めていない。
自分を包むおびただしい数のクッションに、ここはどこ……と思ってから、次いで覚醒、と言って良いのかわからないが、とりあえず覚醒して身を起こす。
「あっ、おはようえりちゃん」
ぱっとこちらを振り向いて頬笑む、桃色の天使。
「よくやすめた?」
「お陰さまで」
さてここからはどうやって出るのだろうと思いつつ立ち上がり、そばに来たモモを抱き上げる。
モモはわたしの頬を両手で包むと、嬉しそうに頷いた。
「よし。げんきになったね。よかった」
自分が元気なだけでここまで喜ばれると、少しこそばゆいものがある。
「でも、まだほんちょうしじゃないからね。むりしちゃだめだよ?」
さらに諌められると、もう、いたたまれない気持ち。
「えりちゃん?わかった?」
「……ゼンショシマス」
「もぉー」
ぷーっとむくれつつも、モモがわたしの髪をなでる。
「いつも、みてるからね。むりしたら、またこうして、やすませるからね!」
見た目三歳児だと言うのに、言動は完全にお母さんだ。
「えりちゃんのこうどうをせいげんするのはいやだから、いかせてあげるけど、ほんとはもっとちゃんと、やすんでほしいんだからね」
細い腕が首に回る。
「モモのかわいい、がんばりやさん。モモがいること、わすれないでね?」
ちゅ、と柔らかい温もりが、頬に触れる。
「いってらっしゃい、えりちゃん」
「行ってきます」
答えれば、ふわりと、意識が浮かぶ感覚。
今度こそ、目が覚めた。
むくりと、使い慣れない寝台の上に起き上がる。
昨日あれほど感じていた眠気は、露ほどもない。心なしか、身体も軽い気がする。
窓を見れば、まだほの明るくなったばかりの空。
こんな時間に目覚めたのにすっきりしているのは、果たしてどんな魔法なのだろう。
窓に近付けば、自分でも自分で張ったのではないかと錯覚するくらい、わたしに似せられた防護の魔法。けれどわたしの魔力は使われていないし、そもそも今のわたしではこんな魔法は張れない。惚れ惚れするくらい省魔力の、それでいて、ゾッとするくらい効果のありそうな魔法だ。
やり方がなっちゃいないとの言葉に、反論の余地もない。
邪竜の漏れは、内緒にしよう。
疲れが取れ、頭さえ冴えている心地で、思う。
-ありがとう、モモ、とりさん
心の中で呟いて、身支度を始めた。
さて、今日はどんな一日になるだろうか。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
ラジオネームぴーちさんからお便りを頂いています
『おやすみしなきゃいけないひとも、おやすみできないひとも
みんな、がんばってるね。えらいね。ありがとうね。
モモのかわいい、がんばりやのいいこさんたち。だいすきだよ』
拙い作品ではありますが、少しでもみなさまを笑顔に出来ていれば幸いです
さて、話は変わりますが
なんとこちらの作品が百万字を越えていました!
百万ですってよ奥さんヾ(・・;)
よくもまぁ、お付き合い下さる方がいるものだと
読者さまに頭が下がる思いです
本当に、いつもありがとうございます<(__)>
……本編もままなっていない状態なので実現のお約束は出来ませんが
感想欄などでリクエスト頂けたら
お礼兼外出自粛支援のSSS書こうかな、と、ほのかに思っております
もしも読みたいネタがある方は次の更新(早くても4月末になるかと思います)までに
感想欄か割烹コメかメッセージでどうぞ
未来予想図は書けないので高等部2年進級前までの時間軸もしくはif軸での対応になります
……前回似たようなことやった時もリク零だったので
今回も来ないだろうなとは思っている!(笑)
ないのに捻り出す必要はないので、要望ある方だけお気軽にどうぞ
ざっくり大雑把でも細かく指定でも大丈夫ですが
書き手は調彩雨なので出来ばえはあまり期待しないで下さい……( ;∀;)
ここまで読んで下さってありがとうございました
続きも読んで頂けると嬉しいです




