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取り巻きCと牡丹百合 みっかめ

取り巻きC・エリアル視点

エリアル高等部1年の年始


暴力・出血その他あまり綺麗でない描写が含まれますのでご注意下さいませ

 

 

 

 窓が割れる音に、しまったと思う。


 あわててパジャマを着込み、浴室を飛び出した。


「怪我は」


 つい飛び出したのは、そんな声で。


 まぬけな体勢で立ち往生している血まみれの侵入者(未遂)と、ばっちり目が合った。


 取り巻きC、ただ今演習合宿3日目です。




 みなさまこんばんは。お嬢さまから遠く離れても、わたしは、取り巻きCを名乗るのを、やめない!最近やたら好戦的と言う評価を受けている、戦える系取り巻き、取り巻きCことエリアル・サヴァンです。


 なんでこんばんはかって?


 今が夜だからだよ!!


 ええ。ええ。

 取り巻きCの冬期演習合宿3日目は、薬の調合補佐と竜馬の解体で過ぎましたよ!

 ほかの参加者たちが騎士団の訓練に参加させて貰っているなか、わたしとるーちゃんだけ仲間外れ!

 ……命令違反者は建物外に出せませんって言われたら、やらかした自覚はあるだけに、言い返せないじゃないか!


 ただ、フリージンガー団長も慈悲はあったのか、与えられた仕事を終えられれば、合流しても良いとお達し下さった。


 もちろんやってやりましたよ!午前中に意地で薬草の粉砕をすべてこなし、薬の調合は、るーちゃんにまかせて、午後で昨日殺された竜場四十頭以上の解体をこなしましたとも!

 夏期演習合宿のやらかしで、気の遠くなるような数の蜥蜴を解体した玄人くろうとを、舐めんなって話ですよ!


 ふふ。魔法を使ったのか、って?


 使いました。監視付きだったのに。ばっちり。だってその方が早いし。音魔法は昨日がっつり見せちゃったし。


 結果監視役の度肝は抜いたけれど、夕食前にきっちりきっかり、解体を終えることが出来た。


 達成感にあふれて、今は夕食の席に着いている訳なのだけれど。




「ええと、なにか?」


 向けられる視線が気になって、食事の手を止めた。


 昨日のフリージンガー団長の指摘を自分なりに反省し、今日は1年生の多い席に座ってみたのだけれど、座って以降の視線がすごい。

 視線を貰うのはいつものことだけれど、同じ卓のひとからちらちら見続けられると言うのはあまりないので、さすがに気になる。


 だから、交流目的に座ったんだし……と、声を掛けてみた。別に責める意図はなかった。


 責める意図はなかったから、そんなに気まずそうな顔を、しないでくれるかなぁ!?


「あー、いや、」


 ひとりに焦点を当てて見つめれば、標的になったと気付いたらしい相手がよどみつつ答える。


「あんた、綺麗に食うなと、思ってさ」


 本音か怪しい台詞だったが、なにかしら会話に繋がるならと、大人しく乗ることにする。


「そうですか?」


 食べかけのお皿に目を落とし、首をかしげる。


 仮にも子爵令嬢なので、ひと通りの礼儀作法は叩き込まれている。だから、貴族として恥ずかしくない程度のマナーはわきまえているけれど、抜きん出ているとは思わない。王族として徹底的に教育されているヴィクトリカ殿下の方が、確実に綺麗に食べるだろうし、アーサーさまやリリア、レリィだって、わたしより綺麗に食べられるはずだ。


「……あんた、今、思い浮かべたやつら、国の頂点集団だろ、比較対象がおかしいんだよ。下を見ろ、下を」

「別に普通だと思、」

「王族や公爵家侯爵家と並んで違和感ねぇやつを、普通に据えるんじゃねぇよ!」


 ……言われてみれば?


 きょとん、としたわたしの前で、律儀に話し相手になってくれる目の前の生徒が、わさわさと頭を掻き回す。


「あんた、優秀ですよって顔してるわりに、抜けてんだか、なんだか」

「抜けていませんよ」

「抜けてるだろ」

「抜けていません」

「抜けてねぇやつは猫扱いされねぇから」

「猫ではありません」

「猫じゃねぇならな」


 前の彼が、どん、と卓を叩いた。


「明らかに湯浴みしましたっつー濡れ髪で男だらけのとこ来んな!みんなそれが気になって食事に集中出来ねぇんだよ!」


 叫んだ彼に、よくぞ言ったと言いたげな視線が、同じ卓のみならず近くの卓からも寄せられる。

 え、もしかして、視線の理由、それ?


 唖然として、まだ若干しっとりひんやりしている髪をつまむ。

 湯浴みをしたわけではない。そこまでの時間はなかった。ただ、


「髪と顔が血で汚れてしまったので、水で流しただけだったのですが」


 しかもそのあと音で軽く水を飛ばしたので、したたるほどには濡れていない。湯上がりほかほかではないのだ。


 前の彼が、呆れた顔になる。


「事実がどうあれそう見えて、あんたは年頃の女なんだよ。フリージンガー団長も言ってただろ、自分の身は、自分で守れ」

「……昨日のあれを見てまだ襲う度胸があるなら、むしろ讃えたいですが」


 我化け物ぞ?と言う気持ちを込めて言えば、真面目な顔をして前の彼は語る。


「男なんか、馬鹿な生き物なんだよ。それに、いくらあんたが強くても、例えば湯浴みを襲われでもしたら、嫌だろ」


 嫁入り前だし、と言う彼は、わたしを女の子扱いしているらしい。


 確かにそこの男女差は、無視出来ないか。


 ため息を吐いて、肩をすくめた。


「わかりました。湯浴みや就寝中は、部屋に侵入されないようにします。ご忠告どうも」

「わかればいんだよ。わかれば。それよか、血って、竜馬のか?」

「ええ」

「解体はどんくらい進んだんだ?」

「終わりましたよ」


 言って、料理を口に運ぶ。今日の主菜は具沢山のポトフ。生姜が効いていて、身体が温まる。


 は?と、なかなかに強い疑問符が、前から飛んで来た。


「もう終わったのか?早くね?」

「解体は、慣れているので」

「へぇ、そりゃ」


 疑う気はないのか頷いた彼が、ふっと笑う。


にいさんがたが喜ぶな」

「兄さん方?」

「ルシフルの騎士だよ。あんたと手合わせしてみてぇってさ」

「ああ」


 そんなひとばかりとは思わないが、なかには戦闘馬鹿もいるだろう。強い相手と聞けば戦ってみたいのは、戦闘馬鹿の性だ。


「実戦経験の豊富な方とはあまり戦ったことがないので、ぜひご指導お願いしたいですね」

「ああ。強いぜ、あのひとたちは」


 にっと笑う目の前の彼の笑い方は、少しウル先輩に似ていた。


 ああ、そう言えば彼は。


「あなた方の竜馬戦は、善戦でしたね」


 ウル先輩と竜馬を倒したひとりだったと思い出して、なにげなく話題を振っただけだったのに、とてつもなく胡乱な視線を返された。


「んだよそれ。イヤミか」

「えっ?いえあの、好い戦いだったので、ここの騎士の方々からもなにか言われたのではと思ったのですが。とくに悪意は……」

「いやお前、あんなにあっさり倒しといて、あんな苦戦したのを褒められても、イヤミにしか聞こえねぇよ」

「わたしの場合はただ相性が良かっただけですよ」


 ぱたぱたと手を振って否定するも、胡乱な瞳は戻らない。


「会場がいちばん熱狂していたのは、間違いなくあなた方の試合でしたよ。それに、苦戦したとは言っても、棄権することなく最終的には勝てたわけですし」

「ほぼ、プロイス先輩頼りでな」

「そうであったとしても」


 なんで彼はこんなに卑屈なんだと疑問に思いながら、言葉を続ける。


「どれだけ苦戦しても、ウル先輩が強くて頼りになっても、あなた方は誰ひとりとして諦めも見せませんでしたし、ウル先輩の背に隠れもしませんでした。立ちふさがる強敵に、折れることなく挑み続ける。誰にでも出来ることではありませんし、ひとを守る騎士として、とても大切な資質ですよ。

 竜馬に挑まなかった方々や、挑んでも倒しきれなかった方々にくらべて、あなた方は確かに強くて格好良かったです」


 彼らを見て、何人の子供が騎士に憧れただろう。彼らを見て、何人の民がこの国の未来を明るく思っただろう。

 剣を振ると言う、努力が実力に繋がることで、ひとに希望を与えられた彼らの、なんて尊いことだろう。


「ルシフル騎士団の方々は、その心意気を認めてはくれませんでしたか?」

「……はぁ」


 なんで顔を覆って溜め息なの君は。


「そうだな。よえぇってどつかれはしたけど、来年はもっと強くなれって、稽古付けてくれたよ」

「ああ。やはり、武骨ですが好い方々ですね」


 でなければ、ラフ先輩やウル先輩が懐くわけがないと思った。


「ひとたらしが……」

「なにか言いました?」

「いや。あんた、理想の貴公子とか言われるだけあって、良いやつだよな」

「面と向かって言われると照れるのですが」

「いや、それが照れた顔かよ」


 苦笑した彼と、彼と会話する様子で警戒が解けたらしい周囲との会話が弾み、以降の夕食は和やかに過ごせた。


「じゃあな」

「また明日」


 そのまま今日は就寝だったので、宿舎まで一緒に向かう。彼らは一般宿舎、わたしは上級士官宿舎だ。


 この、特別扱いについては、断れなかった。

 ルシフル騎士団は端々に至るまで男性のみ。従軍女性はなし。一般宿舎は八人部屋で風呂トイレは共用のもののみ。わたしひとりのために大部屋や共同浴場を開けて貰うわけにも行かない以上、個室かつ小さいながら浴室の付いている上級士官用の部屋に泊まれと言う指示に、従わないわけには行かなかった。


 与えられた部屋に入って、小さく息を吐く。


-疲れている?エリ


 頭に響いた声に、苦笑して首を振った。


-少し、気が抜けただけだよ

-ふぅん?まぁ良いけど。さっさと湯浴みして、寝たら?

-そうだね


 頷いて、お湯を貰って来ることにする。今の時間なら、大浴場用のお湯が分けて貰えるはずだ。


 蛇口を捻ればお湯が出る、前世の発達した文明が、少し恋しくなった。


-やっぱり疲れていない?

-そうかも


 苦笑して、肩をすくめる。

 わたしが女だからと言う理由での特別扱いだけれど、正直なところ、ありがたかったと思っている。夏期演習合宿のときのような、ひとのいない土地で少人数ではない、大人数の他人と、ずっと一緒と言うのは、やはり無意識に、少し、気を張ってしまう、から。


 深く息を吐いてから、お湯を貰いに行くために扉を開ける。

 着替えたし、頭に水を被ったとは言え、半日死体に触れ続けた屍臭は落ちない。湯浴みをせずに眠る気にはなれなかった。


 お湯を貰って、湯浴み用の桶に貯める。肩まで浸かれるほどの深さはない、大きいが浅い桶だ。

 夕食時の忠告を思い出し、しっかり窓と扉に防御壁を張り、施錠も確認、カーテンも閉め、湯浴み後の服もばっちり準備し、浴室も施錠してから服を脱ぐ。


 手早く髪と身体を洗い、お湯を被って泡を落とす。浅いがお湯に浸かって、掛け湯で身体を温めた。


 あまりゆっくりしていても、お湯が冷めるし不用心だ。


 ざばりとお湯から抜け出し、タオルで水気を拭き取る。髪の水気は、音で飛ばした。


 下着を着けて、パジャマを、


 がしゃん


 硝子の割れる音に、ぴた、と一瞬動きが止まった。


 しまった。


 思って慌てて、引っ掴んだパジャマを着こむ。


「怪我は!?」


 浴室から飛び出して、思わず口を突いたのは、そんな言葉。


「あぁ……」


 血まみれで落下しかけながら、なんとか窓枠に掴まっている侵入者と目が合って、顔を覆って膝から崩れ落ちた。


-疲れているでしょう、エリ

-そうみたい


 問い掛ける邪竜の声に、今度は否定を返せなかった。


 湯浴み前に仕掛けた防壁。それは、窓と扉の開閉とそこからの侵入を、内側から防ぐものだった。部屋に入ろうとすると押し返されると言うだけのそれに、外から窓を割る動きを防ぐ効果はなく、割られた窓は恐らく、割った本人が予測したよりはるかに高い速度と威力で跳ね返った。

 結果が、現状だ。


 大人しく外から窓を守る防壁を張っておけば、出なかったであろう被害を出してしまった事実に、目も当てられない。


 どんどんっ


「エリアル、あなたの部屋に侵入者が。無事ですか?」


 外から扉を叩く音に、立つのも面倒臭く座ったまま防壁を解除し解錠する。

 開いた扉から入って来たフリージンガー団長が、部屋の状況に瞬間固まる。


「ええと、わたしは、無事、なのですけれど」

「フリージンガー団長、なにか」

「エリアル、無事!?」


 苦笑いで答える合間にも、扉前に続々とひとが集まって来る。


 取り敢えず落ち掛けの彼をなんとかしなくてはと、立ち上がり、窓へ、


「私が捕らえます。あなたは下がって」


 窓へ行こうとすると、止められた。フリージンガー団長が集まった騎士に指示を出し、自分は窓へと近付く。


 落ち掛けだった彼を魔法で部屋に押し込むと、ちらりとこちらを見たフリージンガー団長が、便利なものですねと呟いた。


「侵入者、ですか」

「怪我ねぇか、アル」


 いつの間にか入って来ていたるーちゃんとウル先輩が、わたしの隣に立つ。


「わたしは大丈夫です」


 大丈夫、だけれど。


 扉からじろじろ見られているのが気になって、表情がしんなりする。


「……にゃ」


 うつむいて、パジャマのフードを上げた。


「ん?ああ、さみぃのか」


 ウル先輩が着ていた上着を掛けてくれるのに甘えて、そっと身を寄せて視線から逃げる。


「窓割れちゃってるし、部屋移ることになるかなぁ」


 察したらしいるーちゃんが、さりげなく動いて視界をさえぎってくれる。


「そうですね。……もう少し、私の部屋に近い部屋にしましょうか。まさか、昨日の今日で馬鹿をやる脳なしがいるとは」


 ガラスが刺さった怪我もそのままに侵入者を縛り上げたフリージンガー団長が、呆れたような声を出した。


「ノルベルトを倒せる人間を、どうして倒せると思えるのか」

「はっ、模擬試合でどうだろうが、実際はそうして守られてる女じゃねぇか」


 縛り上げられた男が、吐き捨てる。


 そうか守られていることになるのかと、自分の現状を客観的に見てみる。


 侵入者が現れたら、すぐに助けに駆け付けてくれて、かばって、上着を着せ掛けてくれるひとがいて、自分は、かばってくれるひとにすり寄って、影に隠れて。

 なるほど。どこのお姫さまだろう。


「それだけの価値があるので、守りもしますよ。それに」


 フリージンガー団長が、片手で男を持ち上げた。美しい顔を血まみれの顔に寄せ、にぃ、と嘲笑わらう。


「我々が来なかったとして、あなたになにが出来ました?部屋に一歩踏み入ることすら、出来ないで?」

「それだって、その女がやったかなんて」

「防壁はエリアルが張ったものですよ」


 やって来た騎士に男を引き渡しながら、フリージンガー団長は言い放つ。


「良かったですねぇ、エリアルが慈悲深い子で。羽虫のようにそこから叩き落とされても、あなたは文句が言えなかった」

「叩き落とす度胸なんて、」


 ぴたり、と、その場の空気が凍った。


 瞬時に男へ近付いたわたしが、アイスピックのような細長いナイフを、男の眼球に突き付けたからだ。


 ぱさり、と動きについて来れなかったフードが、背中に落ちた。


「口を慎みなさいな」


 ひっ、と男の喉が鳴る。


「ゆっくり休めるはずだったところを邪魔されて、わたしはすこぶる気分が悪い。片目をなくしたくないなら、お利口にお口を閉じておいでなさい」


 少し魔法で眼球を押せば、男の股から水音が響いた。顔をしかめて、身体を離す。


「汚ならしい。その程度の覚悟と度胸で御せると思われるなど、ずいぶんと舐められたものですね。敵の見極めも出来ないとは、破落戸ゴロツキの街、ルシフルの悪人も程度が低い。正直、がっかりです」


 後半は、外へ目を向けて言った。

 そんなわたしに近付いて、フリージンガー団長がフードを被せる。


「ふむ。良い手触りですね。汚物は、かかっていませんか?」

「防ぎましたから」

「それは重畳です。取り敢えず、代わりの部屋をあげましょう。ここの処理は手配しますから、貴重品だけ持って移動しなさい。そのほかは、明日の朝にでも移動すれば良い」


 フリージンガー団長がわたしの肩を抱き、男から遠ざける。

 そのあいだに男は、騎士の手により連れ去られた。


「本当に、そんな見た目で喧嘩っ早いことで。外見と性格に差があり過ぎでは?」

「双黒の化け物ですよ?外見通りでしょう」

「……今の格好ですと、説得力がありませんね」

「んにゃ……」


 もふり、とフリージンガー団長の腕に納められる。背に回った手が、ぐい、と背中の布を引っ張った。


「これが噂のつなぎ寝間着ですか……なるほど。ゆったりとした作りで、伸縮は少なくともこれならば気になりませんね。なによりこの手触り……」

「にー……」


 突然ぬいぐるみのごとくモフられて、どうして良いかわからない。ぬいぐるみらしく、くてっと大人しくしているべきか、きぐるみよろしく抱き返すべきか……。


「さすがに犯罪臭い!」


 迷っていたらひょいっと、ウル先輩により救出された。


「お前も猫じゃねぇんだから、大人しくされるがままになるな!猫かよ!」

「猫ではありません」

「格好は猫だけどねぇ」


 うっ。


 少し背景が黒い気がするるーちゃんに見られて、思わずウル先輩の腕にすがる。


「まぁ、触りたくなる手触りなのはわかるが……」


 そんなわたしを見下ろして、ウル先輩は苦笑だ。


 お察しの方も多いかと思うけれど、今のわたしの格好は、現在バルキア王国で寝間着の流行最先端をひた走る、きぐるみパジャマである。もふもふ、可愛い、暖かいと、三拍子揃った理想の寝間着である。

 貴族の通う学院であるクルタス王立学院に比べて、平民も多く属するルシフル騎士団は、暖房設備が弱い。ゆえに、防寒として選択したわけだ。


 前もってひとり部屋だと通達されていたので、誰に見せる予定もないし、問題ないだろうと判断した。


 そう。誰に見せる予定もなかったのだよ!!


「……見せもんじゃないんで」


 集まる野次馬の視線に気付いたウル先輩が、抱え上げ抱き込んで視線から守ってくれる。

 引き締まってはいるが安定感のある腕のなかに安堵して、柔らかい銀髪に顔を寄せた。


「気になるなら顔隠しとけ。なんか、どうしても持ってっときてぇもんあるか?」


 ふるふる、と首を振る。


 大事なものは、身に着けるか、お腹に付け足したポケットに、しまい込んである。


「ならこのまま部屋移動すんぞ。フリージンガー団長、部屋の位置教えて貰っても」

「ええ。案内しましょう。それと」


 言葉を止めたフリージンガー団長に、ちらりと顔を向ける。その視線はわたしの横、ウル先輩の頭に向けられていた。


「部屋の移動はしませんが、ウルリエ、ブルーノ、あなた方も十分注意するように」

「去年も言われましたから、承知してます」

「言われなくても」

「ならば結構。……班長を奪うのは、良くありませんからね」


 頷いたフリージンガー団長が、行きますよと歩き出す。


 んん?とウル先輩を見ていたら、ん?とこちらを見たウル先輩と至近距離で目が合った。


「おれの髪色は珍しいし人気だから、高く売れるんだとよ」


 ああ。なるほど。


「綺麗ですものね」


 目を細め、手を回してさらさらの髪に触れる。極上の絹のような、うっとりする柔らかさだ。


「珍しさで言ったら、アルの髪と目がぶっちぎりで一位だけどな」


 葡萄色えびいろの目がわたしを捕らえる。


「目立つだけで、地味ですよ?」

「孤高だろ。格好良いじゃねぇか」


 事実格好良いウル先輩から、当たり前のようにそう言われると照れる。


 照れ隠しで頼れる肩に顔を埋めていたら、下から低い声が投げられた。


「あんまりいちゃついてると、ユリアさんに告げ口するよぉ?」

「「いちゃついて……?」」


 同時に首を傾げれば、今度は前から笑う気配。


「なるほど黒猫を捕らえるには、下心ないことが重要と。なかなか手強い相手ですねぇ、ブルーノ?」

「なんの話ですか?」


 少し苛立ったるーちゃんの声。


 フリージンガー団長と話するーちゃんは、年相応な感じがして、少し、親近感が湧く。


 信頼出来る先輩が、さらに信頼する大人。


 ウル先輩の身体は温かく、一定の速度で歩く振動は心地好くて。


-疲れているのだよ。寝てしまえば良い。ここは、安全だから


 気付けばとろとろと、意識が溶けきっていた。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


前の二日も!これくらいすっきりで!書くつもりだったのです!

誰とは言わない問題児がはっちゃけるからもぉ……(/_;)


さて、フリージンガー団長が可愛いもの好きな疑惑が浮上しましたね(マテ

……たぶん単純に商人の血が疼いただけです


そしてウルリエさんは婚約者さん(ユリアさん)一筋なので

エリアルさんのことは可愛い後輩としか思っていません

エリアルさん抱っこしながら

この寝間着ユリアにも似合いそうだなとか考えています

暖かそうだから喜ぶだろうなとか考えています

末長く爆発して下さい


続きも読んで頂けると嬉しいです

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