表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/103

ふたりぼっちの化け物のひとりぼっちの戦い

視点秘匿


過去のお話


残酷描写多発につき、苦手な方はご注意下さいませm(__)m

 

 

 

 昔のひとは、言いました。

 病は、気から。




 それが、どれだけ無謀で彼女を傷付ける行為かなんて、理解していた。

 それでもすべての障壁を捩じ伏せ抉じ開けて、愛しいひとの許へと走った。


 たとえ、地獄を見せることになろうと。

 たとえ、この先に未来などなかろうと。


 彼女が壊されるのだけは、受け入れられなかった。


 だから、血にまみれ、ぼろぼろになりながらも、彼女の牢獄に向かった。




「……っ!?」


 ぎょっとした彼女が、なにか喋る前に眠らせる。

 音の波でくるんで、持ち上げた。


 これから先を、見せたくはない。


「あなたを、必ず、守りますからね」


 微笑んで、立ち上がった。




 立ち塞がるのは近衛騎士団に宮廷魔術師団。

 見知った顔がする見知らぬ表情を、ろくに見もしないで蹴散らした。


 最奥に立つ将軍を、宮廷魔導師を、しかと睨み据えながら。


 急がねばならない。急げ。急げ。

 でなければ、逃げそびれる。


 早く。早く。早く!


 将軍なんて、どうでも良いのだ。だが、宮廷魔導師だけは、なんとしてもここで倒さねばならない。

 彼を残せば、逃げる背に追撃を喰らわせられる。


 倒せ。倒せ!倒せ!!


 放つ大規模な精神攻撃魔法。大部分が倒れるが、本番はここからだ。


 生半なまなかな精神攻撃魔法なんか効かない猛者こそ、手こずる敵なのだから。


「カミーユ……っ!」


 叫ばれた名前に、びくりと振り向く。


 ああ、そんな、弱々しい身体を引き摺って来たのか。


 でも、止まってはあげられない。ほかのなにをどれだけ犠牲にしようとも、わたしは望みを叶えたい。


 一瞥だけくれて、敵に向き直った。


 魔法が効かぬなら、切り捨てれば良い。

 腰に提げていた片刃の曲刀を、抜き去った。

 魔法すら断ち切る、悪魔の刃だ。


 精神攻撃、そんなもの、防げてしまえばそれだけの話。

 わたしたちが化け物と恐れられる所以ゆえんは、そんな理由ではない。

 ああ。そんなちゃちな理由ではないのだ。


 右下から切り上げる構えで曲刀を持ち、ただ、走り抜ける。

 切り掛かられることも、魔法を当てられることも、気にはしなかった。


 右側にいた人間が、切り伏せられる。


 放たれた魔法はわたしに当たる前に消滅し、切り掛かられて付いた傷は血が吹き出す前にふさがった。


 唖然とした将軍の首を、一刀に切り捨てる。


「……ばけもの」


 誰かの呟きが耳に入った。

 にい、と、口端を吊り上げる。


 その通り、だとも。


 わたしたちの魔法は強過ぎて、ときに自分の身体すら崩壊させる。

 だが、それは、逆も言える、のだ。


 強い意思で魔法を使い続けるならば、この身に傷など残りはしない。痛みさえ、感じない。


 魔力が尽きる、そのときまで、決して倒れることのない不死身の化け物の出来上がりだ。


 倒すべきは、宮廷魔導師ただひとり。その他の有象無象など、誤差でしかない。


 振り被った曲刀は、魔導師の魔法さえ切り裂いた。


 切れるか、と思った魔導師が掻き消える。


 瞬間、移動……っ!


 思うより早く、わたしの身体は斜め後ろに曲刀を走らせていた。


「ちっ、浅い」


 手応えの薄さに舌打ちしながら、更に踏み込んで曲刀を振るう。地を蹴って桂馬跳びの位置、次いで壁を蹴って頭上へ一太刀、袖に忍ばせたナイフを一投。


 その間も周囲から攻撃を浴びせられ続け、身体が真っ赤に染まって行く。

 自分も他人も入り交じった赤を吸い続けた服は、もはや濡れそぼって動く度に飛沫を散らしている。


 疲れはない。痛みもない。身体は軽く、いつまででも戦い続けられそうだ。


 そんなの、錯覚でしかないけれど。


 早く。逃げそびれることのないよう、目の前の障害を消さなければ。


「おい」


 魔導師が、苦虫を噛み潰したような顔で吐く。


「おい。馬鹿やめろ。死ぬぞ」

「あなたが死んだら、やめますよ」


 顔にへばり付いた髪を、頭を振り回して払う。髪すら濡らした赤が、飛び散って、


「……っ」

「!」


 魔導師の目に飛び込んだ。


 逃す手は、ない。


 付き出した曲刀は、魔導師の胸を串刺しにした。そのまま切り下げ、切り上げる。

 首を落とし、踏み潰した。


 ああ。


「恩人に、随分な仕打ちだな」

「誰が、恩人ですか」


 よろめいたわたしを背後から拘束し、宮廷魔導師は言った。分身体が、崩れて消える。


 ああ。


「でも、ええ、そうですね」


 視界が危うい。暗く、歪んで。


「わたしにひとりに集中してくれたことには、感謝しますよ」


 音魔法を解いて、無駄に守られていた空間を解放した。なかには、誰もいない。


 そうして用意するのは、凝縮した極大の魔法。


 放てば、びりびりと空間が揺れた。


「がっ……かはっ」


 魔導師が血を吐いて倒れる。引き摺られて、わたしも床に座り込んだ。


 身をよじって、魔導師の最期を見届ける。


 彼さえ、消えて、くれたなら。


「さようなら」


 この先が、どうなったって、構わない。


 微笑んで、わたしは尽力の魔法を放った。この国全体に、力が行き渡るように。


 逃げ延びてくれた彼女を、決してこの国が害さないように。


 化け物は、わたしだけで良い。あの子さえ無事ならば、わたしは一生を牢に繋がれたって構わない。


 ああ、でも、叶うことならば。


「あなたと、一緒に、いきたかった」


 その顔は血にまみれ過ぎて、ひとりぼっちになった化け物がこぼした涙を、見留めた人間はいなかった。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


後味の悪いお話ですので

後味の良いお話を早く上げたいところ、なのですが

次話は鋭意努力中でして……(ノД`)


後味の悪さにめげず

この先もお付き合い頂けると嬉しいですm(__)m

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ