ふたりぼっちの化け物のひとりぼっちの戦い
視点秘匿
過去のお話
残酷描写多発につき、苦手な方はご注意下さいませm(__)m
昔のひとは、言いました。
病は、気から。
それが、どれだけ無謀で彼女を傷付ける行為かなんて、理解していた。
それでもすべての障壁を捩じ伏せ抉じ開けて、愛しいひとの許へと走った。
たとえ、地獄を見せることになろうと。
たとえ、この先に未来などなかろうと。
彼女が壊されるのだけは、受け入れられなかった。
だから、血にまみれ、ぼろぼろになりながらも、彼女の牢獄に向かった。
「……っ!?」
ぎょっとした彼女が、なにか喋る前に眠らせる。
音の波でくるんで、持ち上げた。
これから先を、見せたくはない。
「あなたを、必ず、守りますからね」
微笑んで、立ち上がった。
立ち塞がるのは近衛騎士団に宮廷魔術師団。
見知った顔がする見知らぬ表情を、ろくに見もしないで蹴散らした。
最奥に立つ将軍を、宮廷魔導師を、しかと睨み据えながら。
急がねばならない。急げ。急げ。
でなければ、逃げそびれる。
早く。早く。早く!
将軍なんて、どうでも良いのだ。だが、宮廷魔導師だけは、なんとしてもここで倒さねばならない。
彼を残せば、逃げる背に追撃を喰らわせられる。
倒せ。倒せ!倒せ!!
放つ大規模な精神攻撃魔法。大部分が倒れるが、本番はここからだ。
生半な精神攻撃魔法なんか効かない猛者こそ、手こずる敵なのだから。
「カミーユ……っ!」
叫ばれた名前に、びくりと振り向く。
ああ、そんな、弱々しい身体を引き摺って来たのか。
でも、止まってはあげられない。ほかのなにをどれだけ犠牲にしようとも、わたしは望みを叶えたい。
一瞥だけくれて、敵に向き直った。
魔法が効かぬなら、切り捨てれば良い。
腰に提げていた片刃の曲刀を、抜き去った。
魔法すら断ち切る、悪魔の刃だ。
精神攻撃、そんなもの、防げてしまえばそれだけの話。
わたしたちが化け物と恐れられる所以は、そんな理由ではない。
ああ。そんなちゃちな理由ではないのだ。
右下から切り上げる構えで曲刀を持ち、ただ、走り抜ける。
切り掛かられることも、魔法を当てられることも、気にはしなかった。
右側にいた人間が、切り伏せられる。
放たれた魔法はわたしに当たる前に消滅し、切り掛かられて付いた傷は血が吹き出す前にふさがった。
唖然とした将軍の首を、一刀に切り捨てる。
「……ばけもの」
誰かの呟きが耳に入った。
にい、と、口端を吊り上げる。
その通り、だとも。
わたしたちの魔法は強過ぎて、ときに自分の身体すら崩壊させる。
だが、それは、逆も言える、のだ。
強い意思で魔法を使い続けるならば、この身に傷など残りはしない。痛みさえ、感じない。
魔力が尽きる、そのときまで、決して倒れることのない不死身の化け物の出来上がりだ。
倒すべきは、宮廷魔導師ただひとり。その他の有象無象など、誤差でしかない。
振り被った曲刀は、魔導師の魔法さえ切り裂いた。
切れるか、と思った魔導師が掻き消える。
瞬間、移動……っ!
思うより早く、わたしの身体は斜め後ろに曲刀を走らせていた。
「ちっ、浅い」
手応えの薄さに舌打ちしながら、更に踏み込んで曲刀を振るう。地を蹴って桂馬跳びの位置、次いで壁を蹴って頭上へ一太刀、袖に忍ばせたナイフを一投。
その間も周囲から攻撃を浴びせられ続け、身体が真っ赤に染まって行く。
自分も他人も入り交じった赤を吸い続けた服は、もはや濡れそぼって動く度に飛沫を散らしている。
疲れはない。痛みもない。身体は軽く、いつまででも戦い続けられそうだ。
そんなの、錯覚でしかないけれど。
早く。逃げそびれることのないよう、目の前の障害を消さなければ。
「おい」
魔導師が、苦虫を噛み潰したような顔で吐く。
「おい。馬鹿やめろ。死ぬぞ」
「あなたが死んだら、やめますよ」
顔にへばり付いた髪を、頭を振り回して払う。髪すら濡らした赤が、飛び散って、
「……っ」
「!」
魔導師の目に飛び込んだ。
逃す手は、ない。
付き出した曲刀は、魔導師の胸を串刺しにした。そのまま切り下げ、切り上げる。
首を落とし、踏み潰した。
ああ。
「恩人に、随分な仕打ちだな」
「誰が、恩人ですか」
よろめいたわたしを背後から拘束し、宮廷魔導師は言った。分身体が、崩れて消える。
ああ。
「でも、ええ、そうですね」
視界が危うい。暗く、歪んで。
「わたしにひとりに集中してくれたことには、感謝しますよ」
音魔法を解いて、無駄に守られていた空間を解放した。なかには、誰もいない。
そうして用意するのは、凝縮した極大の魔法。
放てば、びりびりと空間が揺れた。
「がっ……かはっ」
魔導師が血を吐いて倒れる。引き摺られて、わたしも床に座り込んだ。
身をよじって、魔導師の最期を見届ける。
彼さえ、消えて、くれたなら。
「さようなら」
この先が、どうなったって、構わない。
微笑んで、わたしは尽力の魔法を放った。この国全体に、力が行き渡るように。
逃げ延びてくれた彼女を、決してこの国が害さないように。
化け物は、わたしだけで良い。あの子さえ無事ならば、わたしは一生を牢に繋がれたって構わない。
ああ、でも、叶うことならば。
「あなたと、一緒に、いきたかった」
その顔は血にまみれ過ぎて、ひとりぼっちになった化け物がこぼした涙を、見留めた人間はいなかった。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
後味の悪いお話ですので
後味の良いお話を早く上げたいところ、なのですが
次話は鋭意努力中でして……(ノД`)
後味の悪さにめげず
この先もお付き合い頂けると嬉しいですm(__)m




