取り巻きCと水難の相 そのよん
取り巻きC・エリアル視点
第二回演習合宿続き
更新がなめくじの歩みで申し訳ありません
演習合宿、日数的には折り返しました!
流血ありの負傷・暴力・お魚殺傷描写がございます
苦手な方はご注意下さいませ
「では、ちょっと行って狩って来ますね」
「ちょおい!待て待て待て待てぇっ!!」
すちゃ、と片手を挙げて颯爽と湖への孤軍奮闘を宣言したわたしは、ウル先輩に全力で止められた。
「こ、ここはわたしが行きますから、班長はどうか皆さまを……っ!」
ミュージカルばりの演技で苦渋の決断を装って、ウル先輩に懇願する。
ノリが良いウル先輩ことウルリエ・プロイス先輩はその演技を無碍にせず、同じくらい迫真の表情で返してくれた。
「止めても…行くってのか…?」
「わたしひとりの犠牲で全員が助かるなら、安いものでしょう」
くっと悔しげに呻いたウル先輩が、ぐっと拳を握り締める。
ゴディ先輩ことゴッドフリート・クラウスナー先輩の白い目なんて、気にしてはいけない。
「そこまで、言うのか…わかった。言って来い。だが、くれぐれも、命を無駄にするな……って、なるかばかぁっ!」
「ええっ!?そこは大人しく流されてくれるところでしょう!」
「ところじゃない!ここで流されたらゴディにしばかれるわ!!」
茶番で流されてくれなかったウル先輩は、そこは威張るところだろうかとはなはだ疑問な発言と共に胸を張った。
冒頭茶番からこんにちは。今日も元気に山歩き。ツェリさまいちばんお米は……お米は……お、お米、は…に、にば…ん…の、取り巻きC、エリアル・サヴァンでございます。
ツェ、ツェリさまに敵うものなんて、ありませんよ!?ええ、た、たとえそれが、お米、だったと、してもっ…うぐぅ……。
ただいま夏期の第二回演習合宿は四日目。場所はロジアンナ山山頂に位置します湖前でございます。カルデラ風の地形のロジアンナ山ですが、山頂の盆地部分内でも高低差があるようで、雨水が貯まって湖や川が形成されています。頑張れば住めますよ!
天気は快晴。絶好の水泳日和ですね!魚取りには、曇りの方が良かったと言うような話があった気もしますが、まあそれはそれで。
朝からお弁当持って湖目指してピクニックして参りました!
そうして辿り着いた湖を前に、単騎突撃を申し出てみたのですが。
ええ、敢えなく却下です。世界は厳しいですね…。
え?単騎で行こうとするのが間違い?
いやいやー、ちゃんと理由があるのですよー?
「泳げる班員がほかにもいるんだから、ひとりで行かせるはずがないだろう?」
にっこりと微笑んだゴディ先輩は、なぜだか後ろに般若を背負っている気がする。
おかしい。この世界に、般若なんて…。
ちょっとびくつきつつも、反論を口にした。
「必要なのは、鱗ですよね?出来れば不要な傷を付けたくないのです」
薬効がどうの、でないし、どうせ加工するので、今回の採集はさほど慎重さを求められていない。
むしろ、木を伐ってみたり葦に似た植物をざくざく集めてみたりと、大雑把な作業が多い。
魔道具の肝は作り手と込める魔法だから、それも当然かもしれないが、だからこそこの作業だけは完璧を目指したい。
傷ひとつない完璧な鱗を、献上して見せようじゃないか。
「銛で刺しても撲殺しても、鱗に傷が付くでしょう?網や釣竿でも暴れられては駄目ですし、わたしが一撃で殺して獲って来ます」
「んー…」
ゴディ先輩が、目を細めてわたしを見る。腕を組んで唸ってから、きっぱりと宣言した。
「駄目、却下」
「だな」
慈悲なき判決にウル先輩が同意を示す。
「ですg、むに」
「エリアルが仕留める、って言うのは良いよ。どうせなら良いものを、って思う気持ちは理解出来るからな。でも、ひとりで潜る、って言うのは駄目。僕とウルも一緒に潜る」
ゴディ先輩が唇を指で摘まむと言うとても物理的な方法で言葉を止めさせ、わたしを睨む。
「ひとりで潜って水中で不測の事態が起きたらどうするんだい?水中での行動は可能な限り複数人で、常識だろう?」
「え、でも、」
前回の合宿で、るーちゃん…ブルーノ先輩はひとりで潜ろうとした。
そのことを説明すると、先輩たちは呆れ顔でため息を吐いた。
「エリアル。きみ、自分が女の子だって自覚あるかい?」
「女に服脱がせたり濡れさせたりしねぇようにっつう、ブルーノの気遣いだろうが」
あー…………そう言う。
今さらながらにるーちゃんの気遣いに気付いて、ふむ、と頷いた。
ゴディ先輩とウル先輩が、深く、深ぁくため息を吐く。
「女が男装とか、短髪とか、騎士科とか、なんか深い事情でもあんのかと思ってたんだよ」
ウル先輩が言いながら、おもむろに後ろからわたしの首元へ腕を回す。
「深謀遠慮の上で、苦渋の決断をした結果なんじゃねぇかと、多少の同情とかも、しなかったわけじゃねぇんだよ。なのに」
「にぎゃっ」
するっと、わたしの首に腕が回り、そのまま腕で絞め寄せられて細身のくせに逞しい胸板に後ろ頭がぶつかる。
「蓋を開けてみれば単なる考えなしの馬鹿かこんにゃろう!」
「ちょ、苦しっ…にゃあぁぁあぁぁぁあぁぁっ、痛い、痛い痛い痛いぃっ!」
首を絞められこめかみで拳をぐりぐりされて、堪らず情けない悲鳴を上げる。
「このこのっ、ちったぁ、周りの思いとか、考えやがれっ。騎士科っつったって一応は女なんだから、最低限周囲を困惑させないだけの恥じらいは持てこのじゃじゃ馬猫がっ!!」
「ね、猫でも馬でもありませっ、にぃぃい、痛いぃいぃ、ひぃぃん…」
「…鳴き声は馬と猫だな」
腕組みして首を傾げたゴディ先輩が、完全に見物人と化して呟く。
いや、見てないで助けてー。
「うっせー、どーだ、参ったかこの馬猫ーっ」
「ふぇぇ、参りましたー」
涙目で降参すると、ようやく解放して貰える。
い、痛かったぁぁぁ。鈴鳴るかと思ったぁぁぁ。
べそべそと拗ねながらぐりぐりされたこめかみをさする。腫れていない?へこんでいない?
「……大丈夫か?」
「だ、だいじょぶ…です…ありがとうございます…」
「ウルは手加減ないからな…湿布使うか?」
あまりに痛そうで忍びなかったのか、まさかの第二王子派の三年生が慰めてくれた。
思わぬ優しさに、ちょっとびっくりする。
「よしよし、ブルーノ特性の湿布薬を塗ってあげよう」
「いーです」
そんな彼らに便乗して今さら慰めに来たゴディ先輩へジト目を向け、つーんとそっぽを向くと、優しい三年生たちに微笑みかけた。
「ありがとうございます。ですが、すぐ水に入ってしまいますから」
「ああ、そうだったな」
「ワタシたちは泳げないから変わってやれないが、少し休まなくて平気か?」
なんでこのひとたち、こんな優しくなっているの?
え?偽物?
つい、ぽかん、としてしまったわたしに気付いて、三年生たちがむっとする。
「ワタシが後輩を気遣ったら、なにかおかしいか?」
「いっいえ。申し訳ありません。なにも、おかしくなどは…」
「ウル先輩被害者の会としては、放って置けなかったんですよねー?」
にやにや笑ったアクセル先輩の言葉に、三年生のひとりがかあっと顔を赤らめる。
「煩い」
「被害者の会?」
「なんでもない。行くならさっさと行けのろま」
「アッハイ」
促されたので、邪魔な上着や荷物を取り払い始める。
『は!?』
声を上げたのは、なんにんだったろう。
靴と靴下も脱いだところで、肩を掴まれた。
「あなた、なにをして…」
「靴の替えがないので」
そう言えば、彼は触れることをためらわないななんて思いながら、ラース・キューバーを振り向いた。
肩に乗せられた手を退けながら言う。
ショートブーツとは言え編み上げだしそうそう脱げないとは思うけれど、水中で落としても困る。濡れると傷むし乾きにくいし、泳ぐのに邪魔だ。
「これから泳ぐと言うときに、余計な装備は邪魔ですから」
「いやいやー、ボクだけなら大歓迎なんだけどー、ほかの男の前で服を脱ぐのはやめて欲しいなー」
「……上着しか脱ぎませんが?」
日曜日の昼間に居間で高いびきをかく父親を見下ろす女子高生のような目でマルク・レングナーを見て吐き捨てる。今以上に脱いだら痴女だろうに。
なぜか結構な人数が、ため息を吐き出した。え、なに?もしかしてわたし、痴女だと思われていました?
引きつった笑みを浮かべたゴディ先輩が言う。
「あ、だよな。焦った…。ああ、でも、服の替えは…」
「わたしひとりくらいでしたら、濡らさず水に入れます。ほかに泳ぐ方がいらっしゃる場合は、濡れて頂くことになりますが」
ただ近くを泳ぐだけならば自分以外にも気を回せるが、索敵や戦闘中まで離れた位置の人間を守ると言うのはめんど…骨だ。
え?面倒?嫌だなそんなこと言うわけないデショウ。仕方なくデスヨ、シカタナク。
髪をくくりながらラース・キューバーに目を向ける。
「キューバー公爵子息さま、申し訳ありませんが荷物を見ておいて頂けますか?」
真っ向対立する相手だが、なんだかんだ言って根っこはまとも人間だ。
先輩方に頼むのは気が引けるし、マルク・レングナーは論外です。
「…僕は泳がなくても良いと?」
「あなたまで泳いでしまうと、万一のときに頼れる方がいなくなってしまいますから」
前回の合宿ではツェリも殿下もいたが、この班で物理魔法が使えるのはわたしだけだ。溺れた人間を地上から力業で引き上げられる人間はいない。
…何度思ったかわからないが、つくづく前回合宿の班員は恵まれていた。いや、今回の班員だって決してレベルが低いわけではない。ただ、前回の班が優秀過ぎた。もし今回の班員で前回と同じことをしろと言われたら…まあ出来るかもしれないが質は下がるだろう。とくに薬学知識と水魔法のないことが大きい。
っと、
「ですよね?ウル先輩」
「そうだな。キューバー、悪ぃが、おれらが潜ってる間の指揮を頼めるか?基本的には待機で構わねぇが、なんかあった場合は対処してくれ」
また独断しかけたと反省しながらウル先輩を見上げると、潔く服を脱ぎ捨て始めていたウル先輩が頷いてラース・キューバーに声を掛けた。わたしと違ってウル先輩は、下着姿まで脱衣する気のようだ。
あ、パンツ一枚ではないよ?防刃的な機能も多少ながら期待出来る、戦闘職向けのインナー上下だ。イメージ的には、自転車ロードレース選手の競技服、とかが近いかな?身体にフィットするフレンチスリーブの上衣と、男子の競泳水着みたいな下衣だ。
まあ、下着は下着なので、貴族でもあるし、その格好で人前に出ることはまずないのが普通だけれどね。
ウル先輩の横でゴディ先輩が、わたしの目を気にしつつ服を脱いでいる。
うん、性格が出るね。
ラース・キューバーがわずかに驚きを表しながら、ウル先輩を見上げた。
「一年の僕が、指揮ですか?」
「どうせ二年後にゃ今の一年が班長服班長になるんだ。今から経験しといて良いだろ。それに、いざっつーときの救助なら、泳げるやつの方が的確な指示出せるからな」
ああそうか、と思う。
一年からもう、二年後が見据えられているのか、と。思えば前回でも今回でも、三年生が下級生へ判断を求めたり自主的に動かしたり指揮を一任したりする場面が見られた。きっと二年間かけて、誰が監督者に相応しいか見極めているのだ。そしてラース・キューバーは、今のところその眼鏡に掛かっている。これまでの期間短期的な指揮を委ねられた二年生たちと同じように。
三年生にもウル先輩は指揮を委ねることがあったが、その指揮能力は彼らの先輩たちや教師陣により、いま班長副班長を任される三年生に及ばないと判断されたのだろう。
それでも、短期的な指揮ならばこなせるだけの能力は十分ある、と。
第二王子派だから、中立派だからと一概に垣根を造るのは、間違いかもしれないな。
あくまで公平な指揮をするウル先輩を見習って、少し反省した。
「べつに決定権渡すってだけだ、三、二年がちゃんと補佐する」
そこで班員を見渡したウル先輩の目には、仲間への信頼があった。
なぜか少し、ぞくりとする。
このひとはきっと、必要ならばどんなギリギリの判断も出来るひとだ。仲間を信じて身を委ね、もしそれで失敗したなら自分で責任を被れるひと。仲間のミスで自分がどんな泥を被ろうと、どんな謗りを受けようと、全て受け入れられるひとなのだろう。
…そして、自分の命令で仲間が命を落とすことすら、覚悟出来てしまえるひとだ。
仲間に死ぬ覚悟すら、させてしまう力を持つひと。誰かに死んで来いと、命じられるひと。
軽い口調や態度に、騙されてはいけない。
知らぬ間に握り締めていた手をほどき、掌を濡らしていた汗を腿で拭う。
こんな信頼を寄せられて、裏切れるか?
彼はきっとこの笑顔で、兵を死地にすら送り出すのに?
わたしの周りに居るのは、貴族で、将なのだ。
当たり前に戦場に立ち、兵の命を背負う者たち。
こんなところで今さら、そんな当たり前の事実を突き付けられる。
ああ、前世が懐かしいな。
腹の探り合いに終始し、命の奪い合いさえしてしまう貴族社会に比べて、前世のわたしの周囲の、なんと善良なこととか。
思わず思考を飛ばしたわたしの肩を、インナー姿になったウル先輩が叩いた。
はっ、として、意識を戻す。
どうやらいつの間にか、ほかの班員への指示を済ませていたらしい。
「準備良いか?」
うう、露になった白い腕や脚に浮かぶ筋肉の凹凸が眩しい…。なんなのその上腕二頭筋は!噛み付くよ!?お腹もきっと、シックスパックなのでしょう!ぐーぱんしたい!!
おっと、いけないいけない。少し、我を忘れていた。
「少し待って下さい」
首を振って、待って欲しいと頼む。
水泳の前に欠かしてはならない、準備体操だ。皆海やプールに入るとき、きちんとやっている?油断は禁物だからね?
膝や腰、手足に首の関節を、入念にほぐす。
水中で攣って溺れるとか、洒落にならないからね。
「ここまで歩いたんだから、十分ほぐれてんじゃねぇの?」
「いえいえ、水泳と徒歩では使う筋肉も違いますし、むしろここまで歩いたからこそ疲労が貯まっていて危険ですよ」
先輩方も気を付けて下さいね、と、アキレス腱を伸ばしながら忠告する。
目の前に広がるのは、水深が身長を遥かに超える広い湖だ。小さな風呂釜でさえ溺死事故を起こして見せる水と言う脅威を、舐めてはいけない。
小さな油断が、命取りになるのだ。
わたしが準備体操している間に、ウル先輩がわたしとゴディ先輩に向けた指示や注意を投げる。
それも終わって、ようやく体操終了。必要な荷物を身に付けて、と。
よし、準備完了だ。
「先輩、お待たせしました」
ぐいんと肩を伸ばしながら、湖の淵へ近付く。
「おう。行くか」
「はい」
水中での動きや万一の場合の手信号などをもう一度確認して、水のなかに飛び込んだ。
まずはさんにん一緒に、中央の岩を目指す。ウル先輩たちの事前調査によると、岩周辺の湖底に、目当ての魚がいるらしい。
岩に着いたらいちどその上に上がり、湖のなかを観察した。気配を探れば、大きな魚の存在が捉えられる。すべて目的の魚とは限らないが、思ったよりも、数が多い。
「二尾で大丈夫でしたよね?」
「おう。ま、一尾でも良いらしいが、念のためな。これくらいを越すやつが成体だから、そいつを二匹だ」
水も滴る良い男と化したウル先輩が、これくらい、と手で示す。およそ、一メートルくらいか。
「魚影はあるように見えるけど、見付かりそう?」
「見付けるのは大丈夫だと思いますよ」
ただ、この群れに飛び込んで捕まえて、果たして無事に帰って来られるだろうか。
魚を逃がさないために、湖に近付いてからは魔力を抑え込んでいるのだけれど、それで寄って来ているとか……ないよね?
でも、数が多いよこっちに来るよ。イヤダナー、コワイナー。
…お魚さんが、アグレッシブ肉食系でないと良い、ね?
「なんか心配があんのか?」
「ええと…」
どう言えば良いだろう。どう伝えれば良いだろう。
泳ぐと言うことで、さんにんとも大した武器は持っていない。
短刀一本ずつと、先輩ふたりはプラスで銛だ。
例えば相手が鮫の大群だとしたら、まず勝てない装備だろう。
あ、いや、ウル先輩いるし、電撃で一網打尽も可能だけれど。
ううーん…とりあえず訊くべきは、
「水切魚って、肉食ですか?」
訊ねると、ゴディ先輩が答えてくれた。
「雑食と言う話だ。水草とか、水中や水辺に棲息する生きものを主に食べるみたいだな」
「ひとは?」
「うん?」
「ひとは、食べますか?」
わたしの問い掛けでゴディ先輩が呆気に取られた顔をして、ウル先輩が得心したように、それを心配してたのかと呟いた。
「いや、ええ?ひとが食べられたと言う情報は、なかったはずだ。だよな、ウル?」
「前例はねぇな。けど、哺乳類も食べると言う可能性はある。だが、やつらは単独行動が主で、人間ひとり食い尽くせるような数は溜まらねぇはずだぜ?」
そっかぁ……群れない、かあ……。
おーけぃ。わかった。わたしのせいだ。
水底に単独でいるはずの魚たちが、群れて上昇して来ていると言う現状に、嫌な仮説を採択する。
やつら、喰いに、来てる。
わたしはため息を吐いていちど項垂れると、持って来てあった縄を取り出した。片側を、自分の腰に巻き付ける。
「エリアル?」
「どうもなかのようすがおかしいです。迂闊に水に入るべきではないかもしれません」
「どう言うことだ?」
「魚の数が異様に多く、そして、この岩に集まっています」
湖の周囲に防御壁を張ったから大丈夫と思っていたが、残念ながら魚にも竜はご馳走に見えるらしい。
「おそらく、狙いはわたしの肉です」
「はあ?あ、いや、そうか…お前、獣を誘引するんだったな」
「はい。そこで、提案なのですが、」
「もしかして、独りで行こうって思ってるのかい?」
「違います」
状況的には確かにひとりで行くことになるのだが、意味合いが異なる。一人では行くが、独りでは行かないのだ。
「魚釣り、です」
「魚釣り?」
「わたしがなかで囮になって、魚を捕まえます。捕まえたら縄伝いに音を鳴らして合図するので、先輩方はわたしが食べられてしまう前に綱を引き上げて助けて下さい。わたしが独りで泳ぐより、引いて貰った方が速いですから」
言いながら、自分にくくった縄の端を差し出す。
「わたしひとりでしたら、防壁を張れますから簡単には食べられません。ですが、襲われつつ魚を抱えて防壁を張って逃げるのは、少し辛いです」
だから助けて欲しいのだと、先輩たちに頼む。目的の魚さえ手に入れられれば、あとはみんな追っ払って良いのだ。やりようはいくらでもある。
「わたしひとりであればもしものときの切り札も使えますし、無理そうであれば無茶せず引き揚げをお願いします。単独で無謀なことはしませんから、お許し願えませんか?」
確かに危機ではあるのだが、同時に好機なのだ。おそらく普段ならば水底深く隠れている彼らが、群を成して水際へやって来ているのだから。
ウル先輩はしばしわたしを睨み据えたあとで、言った。
「絶対に、無茶はしないと約束するんだな?」
「!、ウル」
わたしの意見に反対なのだろう。ゴディ先輩が、叱責混じりにウル先輩を呼ぶ。
ゴディ先輩を振り向いて、ウル先輩は問うた。
「なら、お前は代替案を出せるのか?」
「それは、」
「おれらは泳げるっつっても、地上に比べりゃ格段に動きが鈍る。ついてっても足手まといにしかならねぇなら、上で出来ることをやるべきなんじゃねぇか?」
ぐっと歯噛みしたゴディ先輩が、ウル先輩を、そしてわたしを睨んでから、唸るような低い声で言った。
「危ないと思ったらすぐ逃げる。絶対に、怪我するようなことはしない。これが、条件だ」
怪我するな、と来たか……。
「無茶はしないと約束します。けれど、怪我に関しては確約出来ません」
はぐらかすべきでないとの判断のもと、譲れる範囲を明示した。
「例えば包囲された場合などは、どこかを突破する必要が出来るでしょう。戦闘になったとき、怪我を気にしていてはかえって危険になる可能性があります」
「極力、怪我しないようにする程度が、許容限界か?」
ウル先輩に問われて、頷く。
「そうですね」
「ゴディ」
ふたりぶんの視線を受けて、ゴディ先輩が唸った。
「ゴディ、エリアルは、騎士科生だ。スタークに吹っ飛ばされてすっ転んでも、棄権せず模擬剣を折ってまで勝ち星を奪い取った戦闘ばかだぞ?諦めろ」
いやわたしそんな戦闘馬鹿では、……ある、な……やばい否定出来ない。
あーもう、と呟いたゴディ先輩が自棄気味に吐き捨てた。
「わかった。多少の怪我は仕方ない。でも、無茶して怪我したら怒るからな!?」
「無茶はしません。約束します」
「絶対だよ。誓えるかい?」
「ええ。絶対に」
そこまで言及して、ようやくお許しが出た。救難信号について打ち合わせ、先輩たちに命綱を託す。
先輩ふたりに見送られて、単独で水に飛び込んだ。
とぷん、と水に身を投げた途端、待ってましたとばかりの殺気が下方面全体から襲い掛かって来た。
水を蹴って、殺気のただなかに踊り込む。
体長は、五十センチから一.五メートルと言ったところか。水切魚の名の通り、薄氷を削り出したような薄く鋭利な鱗は水を切る刃を思わせる。
無数に泳ぐ魚たちの鱗の一枚一枚が、明るい夏の陽射しを受けてきらきらと輝くさまは、美しいと称賛するに値する幻想的な光景だろう。
…その魚が鋸の刃のようなギザギザとした歯を剥き出しにして、襲い掛かろうとしていなければ、の話だが。
はてさて。
どの子を狙おうか。
飛び掛かって来た魚の一匹が、わたしの周りで渦巻く防御壁に阻まれて弾き飛ばされる。綺麗な鱗が傷付き、数枚脱落した。水流に揉まれて、ちらちらと輝く。
ああ、勿体ない。
防御壁の威力を弱め、さらに自分の身体ぎりぎりに範囲を狭めた。
こんなことをすれば魚の攻撃が通りかねないが、通ったところでおそらく大した怪我にはならない。手足や頭狙いならば避けるなり反撃するなりで済む話だし、胴体なら咬まれても怪我はすぐ消えてしまう。
とりあえず地上の先輩たちに見えないように、少し深く潜った。
え?無茶するつもりなのかって?
しないよ。約束したからね。
わたしの基準で無謀と判断される行為は、絶対にしない。
詭弁?あはは。そうかもしれないね。
でも、それがエリアル・サヴァンと言う人間だ。小賢しく、ひとを煙に巻く。
特攻者の末路が警戒を抱かせたのか、次の攻撃は来ない。
失敗、したか。けれど、持久戦が出来るほどには息がもたない。
少し考えて、腕をまくった。ちょうど、カカシのように広々と腕を広げる。
肘から先だけ防御壁を解き、自分の魔法で両の手の甲に傷を穿つ。
魔力を含んだ血の匂いに、野生は理性を吹き飛ばした。
ぐわ、と大口を開けギザギザの歯を剥き出しに突っ込んで来る魚のなかで、大きくて綺麗な個体だけ選り好んで通す。余計なものまで寄せ付けないのは、せっかくの綺麗なものを無駄に傷付けないため。
とりわけ綺麗で大きな二匹を選んでその口に、手刀の形にした手を突っ込んだ。
片手は、巧いことするっと入れられた。しかし、もう片手は失敗して、魚の歯にかする。がりっと、手の肉が削られる。気にせず、喉奥まで手を押し込んだ。
ああ、先輩に怒られるな。
そんなことを思いながら、魚の脳目掛けて咥内から魔法を放つ。びくんと跳ねて、魚は動かなくなった。
選ばれなかった魚が、腹や腰に食い付く。足に喰らい付こうとしたやつには蹴りを、喉笛を咬み千切ろうとしたやつには頭突きを喰らわせてやった。きらきらと、光る鱗が乱舞する。
食い付いたならいっそ封印ごと、肉を抉り取ってくれたら良いのに。
すかさず魔力を誤魔化すのをやめれば、食い付いたやつ以外が泡を食って逃げ出した。
腰の縄に魔法を通して、水揚げして貰う。
…どうしよう、捕らえた二匹はともかく、腹と腰の一匹ずつ、外れないのだけれど。ああ、防御壁を食い破ったのではなく、食い込んで引っ掛かっているのか。通りで痛いのに濡れはしない…って、まるで釣り針だな。まじで釣りか。わたしはルアーか。
ざばあ、と、勢い良く岩に打ち上げられた。魔法で上手く、衝撃を殺す。
魚四匹付きの黒猫を引き揚げた先輩たちが、唖然とする。
待って!言い訳させて!
水揚げされて驚いたのだろう。食い付いていたやつらの顎が弛む。すかさず水避け&防御の壁を解き、無傷の腹を主張した。
「咬まれていません!無事です!お腹なら無傷ですから!こっち二匹が獲物なので、その二匹は好きにして下さい」
言いながら、手を突っ込んだ方の延髄と頸動脈をなかから千切る。ごぷっと、鰓や口から血が吐き出された。
都合、突っ込んでいた手や腕も血まみれになる。
よし、これで怪我のカモフラー…けふん、あまり苦しませずに殺してあげられた。
手を引き抜き、鱗や鰭を傷付けないよう注意して尻尾の付け根を掴んで持ち上げた。
ぼたぼたと、魚の口から血が撒き散らされる。水揚げ後即殺。まさに活〆だ。
絞めて血抜きが済んだら…えっと、さすがにこのサイズの魚の捌き方は知らないぞ。下手に扱って鱗を傷付けても嫌だし…。
食べる目的ではないから、内臓は抜いておかなくても良い、かな?
湖で水洗いして血を落とし、用意してあった保存袋に入れた。
この保存袋は、わんちゃんが貸してくれたやつだ。
演習合宿の話題で、保存袋が便利ーと言う話を出したら、ならいるか?って軽ーくくれた。ぽいって、一ダースくらい。
しかも、ただの保存袋じゃなく、容量は小さいけれど輸送袋の機能付きのやつを、だ。
…わんちゃんはくれるって言ったけれど、とりあえず貸与と言うことにして貰った。そんな高額な品、軽々しく貰えません。
ちなみにくれた理由は、それでまた美味いもん持って来い、だそうです。胃袋を、がっちり掴めたらしい。
「それ、輸送用保存袋じゃないかい?」
「………」
にっこり。
都合の悪いことは、笑って誤魔化すに限る。
「諸事情により、借り受けています」
それ以上は話さないよ?と言う気持ちを全力で押し出して、ひと言だけ答えを伝える。
先輩たちは余分なお魚を、リリースすることにしたらしい。
ウル先輩の手により、達者でなーと放流されたお魚は、脱兎の如く逃げて行った。脱兎ではなく、脱魚だけれどね。
まあ、でかいし荷物になるし、余分に持ち帰る必要はないよね。
無事捕まえられたことに安堵して、へちょん、と岩にお尻を突く。
「…手」
ゴディ先輩の低い声が、わたしに向けられる。
「手、それ、なんだい?」
それはもう、低くて冷たい声だった。
ば れ ま し た…!!
魚を洗ったときに、魚の血は洗い流されていた。魔法で無理矢理止血しているけれど、抉れた皮膚、裂いた皮膚が丸見えだ。
慌てて隠す前に、両の手首を掴まれて逮捕のポーズ。
白日の下に晒されるのは、ギザギザの歯に抉られた傷と、すぱーり切れた自傷。
目の前に膝を突いたゴディ先輩が、とても、怖い。
「ふ、深い傷では、ありません、よ…?」
「深い深くないの問題かい?」
違いますね。
「手以外は?」
「大丈夫です。濡れてもいないくらいです」
ゴディ先輩の手を掴み返して、咬まれたお腹と腰を触らせる。乾いた布が、なによりの証明だろ、
「男に腰とか触らせない!!」
「たっ」
無実の証明だろうと思ったのに、返って来たのは平手打ちでした。
頭をはたかれて、べしょりといじける。
「頑張ったのに…無茶はしていないですよ?」
「女の子が怪我してまで頑張らないの!次やったら、ブルーノに言い付けるよ!?」
その女子扱いは差別だと、座ったままゴディ先輩に喰って掛かる。
「わたしは騎士科生です!やむを得ない怪我はあり得ると、前もって伝えてありました!!」
「それは怪我の免罪符じゃないからな!?」
「それでも!わたしは必要ならば怪我は厭いません!!女だからと意志を阻まれることは、絶対にごめんです!!」
怒鳴り合うふたりの頭を、ウル先輩がべちこんっと叩いた。
「み゛ゃっ」「だっ」
「お前ら落ち着け。論点ずれてっから」
喧嘩両成敗とばかりにふたりとも黙らせ(物理)たウル先輩が、仁王立ちで腕組みして言う。
「まず、エリアル。隠そうとしたってことは怪我したことに罪悪感があんだろ?悪いと思ったときに言う言葉は?」
「ごめんなさい」
「よろしい。次にゴディ。お前、合宿初日にエリアルとなに約束した?」
初日の約束と言うのは、おそらく馬車に乗り込んだときのあれだろう。
ゴディ先輩が、少し言い淀んでから答える。
「……ほかの騎士科生と、同じ扱いをする」
「さっきの台詞、ほかの騎士科生にも言うのか?」
「言わない」
「なら、わかるな?」
頷いてわたしを向いたゴディ先輩が、頭を下げた。
「約束を破って、悪かった」
「いえ。ですが、必要とあらばこの程度の怪我など気にしないのが、わたしと言う人間なのだと、どうかご理解下さい」
「「それでも怪我したら怒るのが、おれ(僕)だ」」
下げた頭に投げられた言葉は異口同音。
「むぎぅ……」
しゃがんでわたしの鼻を摘まんだウル先輩が、ぐいと顔を近付けて言った。
「名誉の負傷なんて言うやつもいるけどな、本当に出来た指揮官っつーのは、怪我人も死人も出さねぇで済ますもんなんだぜ?敵も味方も殺さず、土地やものに損害も出さないで勝つ。これが勝利の理想型だ。お前の怪我は、指揮官の責任になんだよ。覚えとけ」
戦わずして勝つのが最も良い勝ち方だと、前世で言ったのは孫武だったか。この世界ではべつのひとの言葉だが、世界を違えてさえ受け入れられる兵法ならば、なるほどひとつの道理なのだろう。
出さなくて済む犠牲ならば、出さないのが正しいのだ。
殺すよりも生かす方が、ひとの道に適っているとされるのだから。
ウル先輩の言っていることは、ひととして正しい。
けれど。
それでも。
犠牲が必要なときは、ある。
今がそのときだったかと言えば、そうでもないのだけれど。
「…怪我をして申し訳ありませんでした」
言われてみれば、目の前のふたりは監督者で、なにかあれば監督者責任を問われかねないのだ。勝手な行動を取って、困らせてはいけない。
少し、視野が足りなかったかもしれない。
「ですがこの傷でしたら、一日もあれば塞がりますから」
「あ?それなりに深いだろ?」
「よく効く薬を持って来ています」
わんちゃん印の傷薬は、偉大。とても、偉大。
あと、たぶんだけれどエリアル・サヴァンの身体は傷の治りが早い。経験的に。
「ああ、ブルーノの薬かい?」
「いえ、わ…別口で、腕の良い薬師の知り合いが」
同じ轍は、踏むまい。
うっかりわんちゃんの名前を出しそうになった口を、途中で止める。ブルーノ先輩で、あの反応なのだ。宮廷魔導師にただで薬を貰える仲だなんて、知られてはいけない。
わたし、前回合宿で学びました。出来る子です。
やめてそんな残念な子を見る目で見ないで。
名前を言いかけた?気のせいデス。キノセイ。
「友好関係広いよな、お前」
幸いウル先輩は流してくれたので、そのまま流れに乗ることにする。
「身分問わず関わっていますからね」
「貴族が平民と親しくなるとか、難しくね?」
「そう、ですか?貴族だろうが平民だろうが、親しくなれるかは当人の人柄では?」
身分が釣り合おうが釣り合わざろうが、相性の良い相手とは仲良くなれるし、相性の悪い相手とは反発してしまう。どんなに付き合って利がある人間でも人柄が合わなければ近付きたくないし、どんなに自分に害のある人間でも好ましいと思ってしまえば邪険には出来ない。
人間なんて、そんなものではないだろうか。
とは言え一概に最初の印象だけで、毛嫌いするのは間違いだと思うけれど。ちゃんと向き合ってみれば好ましかったなんてことも、ままあるから。
それにしたって、受け付けないひとと、理由もないのにわざわざ共にいる必要はない。理由があるなら、耐えるしかないのだけれどね。
そして、前世は庶民のから言わせて貰えば正直なところ、
「柵がないので、むしろ労働階級の方といた方が気が楽です、わたしの場合」
「おい」
ぽろりと漏らした本音を受けて、ウル先輩が半眼になる。
あやー、しまった、失言だった。これではまるで、嫌味みたいだ。
「それは、あれか?おれたちといるのは居心地が悪いっつーことか?」
「居心地が悪いとは思いませんが」
「が?」
中途半端な否定はウル先輩の目をますます細めさせた。
「まだ、そこまでよく知ったわけではありませんし、貴族には、派閥や階級がありますから」
「階級、ねぇ?お前が普段つるんでるやつらよりか、おれのが近いだろ?」
「そこは、時間ですね」
ツェリとは十年近い付き合いだし、リリアたちとは中等部の三年間で信頼を築いたのだ。
半年やそこらで、覆せる…ときもあるけれど、それでも簡単に覆るものではない。
それでもうっかり本音を漏らしてしまう程度には、ウル先輩に心を開いてしまっているみたいだけれどね。
むーっと玩具を取り上げられた子供のような顔になりつつも、ウル先輩がしつこく言い募ることはなかった。
「なんだよ、つれねぇの。ま、ぼちぼち仲良くなるか」
この、さらっと感。ぜひとも、どっかの狐に、見習って欲しい。
吹き付けるばかりの北風は心を頑なにするのだと、ヤツは知るべきだ。
「そうして下さい」
「おう。覚悟しとけよ」
頷いて返せば、にぱっと笑顔。憎めないひとだ。本当に、太陽みたいな。
笑いながら、ふと視線を逸らしたウル先輩が、お、と呟いて地面に手を伸ばした。
「鱗だ」
ひょいと拾い上げたのは、きらきら光る鱗。つられて下を向けば、幾枚かの鱗が岩の上に散らばっていた。
「噛み付いた方の二尾から落ちたのでしょうか」
拾い上げ、陽に透かす。
薄氷のような鱗は手に持つと意外にしっかりしており、陽に透かせば真珠のように光った。
「綺麗、ですね」
「これくらいなら貰っちまっても良いと思うぞ?」
「小さい子なら、喜ぶよな」
「小さくなくても、嬉しいですよ」
幼い子供を見る視線を向けられてむくれつつも、散らばった鱗を広い集める。暴れたからだろう。合わせて二十枚弱ほどの鱗が、二尾から抜け落ちてしまったようだ。鱗って、外れたら生えるっけ…ちょっと、申し訳なかったかな…。
若干の罪悪感を覚えつつも、綺麗なものは綺麗だ。加工すれば、装飾品やボタンに使えるだろう。
「魚の鱗でそんな顔出来るとは、安上がりだな」
「ここに来なければ、手に入らないものですよ?」
ほら、綺麗でしょう?とウル先輩に手の上の鱗たちを見せる。欠けてしまっているものもあるが、それはそれで綺麗だ。
「おーおー。綺麗綺麗。落とさないように、ちゃんとしまっとけよぉ?」
笑顔で、わし、とわたしの頭をなでたウル先輩が、立ち上がって湖を見下ろす。
「魚は、もういなそうだな」
「はい。もう逃げました」
「んじゃ、戻るか。ゴディ」
「うん」
ウル先輩の合図に答えたゴディ先輩がわたしから魚の袋を奪い取り、
「ぴゃっ!?」
ウル先輩が、よっ、とわたしを背負った。
「にゃっ?へ?にゃんですかっ?」
「その手で、泳がせられねぇだろうが」
「え?お、泳げますよ、軽傷ですか、」
「黙って言うこと聞く」
「え、ええー…」
ゴディ先輩に睨まれて、困惑の声を上げた。
夏の日差しでウル先輩の身体はもう乾いていて、濡れるから、とも言えない。
「両手、塞がったら、危な、」
「なんのための綱だよ」
まだ腰に付けたままだった綱で、ウル先輩がわたしを自分に固定する。しまった、逃げ道が…!
横でゴディ先輩も、魚を腰にくくり付けている。
「ちょ、え、えぇー?」
「怪我人は、大人しくしてろ」
「これに懲りたら、怪我しないことだね」
二対一で攻められて、相手は三年生。
勝ち目など、あろうはずもなかった。
「よし、行くぞー」
「えー……、あ、水避けます、ね」
せめてと全員に水避けを掛け、諦めてわたしはドナドナされた。
陸に着いたのち、すごく変なものを見る目で見られたあと、残っていた三年生ふたりと中立派の二年生ふたり、さらにはなぜかラース・キューバーも混ざった五人掛かりで、手の怪我について叱られた。
「この、うすのろ。馬鹿なのか?馬鹿なんだな?」
「この、おおばかねこが」
まさか罵られつつ第二王子派の三年生に包帯を巻いて貰う日が来るなんて、四日前は想像もしていなかった。
…人生、なにが起こるかわからないものだ。
拙いお話をお読み頂きありがとうございました
オオバカネコって名前の生物、いそうだと思いませんか?
イリオモテオオバカネコ
アメリカオオバカネコ
オオバカネコモドキ
オナガオオバカネコ
うん、図鑑に混じっていても違和感ないですね!ww
と言うか
アホウドリがいるのだからバカネコがいても
おかしくない
…改めて思うとアホウドリってひどい名前ですね
続きも読んで頂けると嬉しいです




