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取り巻きCと雨宿り 後編

取り巻きC・エリアル視点


前話続きにつき未読の方はご注意下さい

 

 

 

 どれくらい、そうしていただろうか。


 半寝で鐘楼カリヨンを奏でるのが趣味(?)なわたしはながら作業が得意で、作業に没頭しつつ歌を口ずさみ続けた。適当に適当な歌を舌に乗せながら手を動かしていたら、綿代わりのおがくずがなくなったのに気付いて顔を上げて、


「「…………」」


 目が合った。


「あー……」


 意味を成さない声を漏らして、頬を掻く。


 今のわたしは庶民らしい生成きなりのプルオーバーシャツにワークパンツ姿で、針子作業に没頭していたからそれなりにおがくずやら糸くずやらで汚れていると思うのだが、だからと言ってエリアル・サヴァン子爵令嬢でないと言い訳するには、少ぉしばかりこの漆黒の髪と目が邪魔なわけで。


「……ごきげんよう、ラース・キューバー、公爵子息さま」


 若干引きつった気がする愛想笑いで、大人しくエリアル・サヴァンとしての挨拶を投げた。


「今の状況は、理解出来ていますか?」

「……いいえ。ここはどこですか、エリアル・サヴァン子爵令嬢」


 固い声での返事だが、殺気は含んでいなかった。

 これはもしかすると、ある程度正解に近い状況を予測しているのかもしれない。


「リゼムラの下町にある、わたしの知り合いが経営する仕立て屋です。リゼムラの街外れの墓地で濡れ鼠になったあなたを、わたしが捕まえてここに連れて来ました」

「服は」

「そのままでは身体を壊すと思い、替えさせて頂きました。元の服は仕立て屋の方が洗ってくれています」


 ラース・キューバーに問われるまま、素直に答えて行く。後ろ暗いところはないのだ。そのまま答えれば良い。


「替えの服は、この仕立て屋の?」

「売りものです。庶民向けの仕立て屋では、出来合いの服も扱っていますから」


 既製服の概念は、平民でもまだまだ薄いけれどね。それでも、安い早いな既製服は、浸透し始めている。対する貴族は、ショールのようなフリーサイズなものならばともかく、それ以外の服はフルオーダーメイドが主流だ。


「わたしが買い取ったので、あとで現品なりお金なりを返して下さい。キューバー公爵子息さまが普段着ているものに比べれば粗悪品でしょうが、平民から見ればかなり良い品なのですから」


 ちょうどおがくずも終わったところだしと、広げていた道具や布を片付け始める。

 暖炉の火はほとんど燃え尽き、窓の向こうはかなり暗くなっていた。


 ふむ。ずいぶん時間が経ったらしい。ラース・キューバーは、いつから“目覚めて”いたのだろう。


 気が付いたなら、声を掛けてくれれば良いのに。


「良い品……」

「労働階級の着る服としては、ですよ。あなたの普段着と比べないで下さい」


 そりゃ、毛織りに使われているウールも高級品とは言えないし、シャツは綿ですらない麻布製だけれどさ。縫製はしっかりしているし、着心地の良いように端処理やパターンも工夫されている。


 ラース・キューバーがわたしの格好を見て、頷いた。


「確かにあなたのそれよりは、良いもののようですね」

「これは作業着ですから」


 丈夫さと動きやすさで言ったら、特級品なのだ。


「あなたはなにをしていたのですか」

「キューバー公爵子息さまがお目覚めになるまでと、ここで暇潰しをしていました」

「暇潰し、ですか」

「はい。まあ、完成品は売りものにしますから、仕事、とも言えますけれど」


 いちばん近いのは内職だろう。わたしのメシの種そのいちである。

 そのには発案製品のアイディア料で、そのさんは補習講師のアルバイト代だ。あとは、臨時収入に鳥の解体手伝いとか、夏の蜥蜴肉代とかだ。


「仕事……なんのために?」


 予想外の質問だった。

 てっきり、そんなお遊びは仕事にならないとでも言われるかと思ったのだけれど。


 片付けの手を止めて、顔を上げる。ラース・キューバーは、真面目な目でこちらを見ていた。


 少し迷い、正直に答える。


「あまり、家族に負担を掛けたくはないので」


 エリアル・サヴァンとして生まれてこの方、サヴァンの両親にお小遣いをねだったことがない。初等部はじめのうちは仕送りが届いていたが、ゾフィーの仕立て屋に商品を置いて貰うようになってからは断っているし、中等部からは、食費も自分持ちに変えた。学費すら、いまはアルバイトのお陰で免除だ。


「なぜ?」


 どうして彼は、こんなにわたしへ疑問をぶつけるのだろう。


 関係ないと、拒絶してしまうことも出来た。

 けれどわたしは拒絶せず、その疑問に答えた。


「いるだけで迷惑な化け物なのに、さらにお世話になるなんて申し訳ないですから」

「…………」


 ラース・キューバーが訝しげに目を細めてわたしを見つめた。

 その視線を避けるように、手元に目を落とす。


 いまも、むかしも、わたしは家族に負担を掛けてばかりだ。

 その上いまの家族には、親愛の情を返せてすらいない。

 頼りたくないなんて本当は嘘で、ただ後ろめたいだけなのかもしれない。生まれたときからわたしにはある程度育ちきった自我があって、家族が手を差し伸べる余地を与えなかった。恐れるならそれでかまわないと、最初から諦めきっていた。


 手早く机を片付け、自分の身体を叩いてから糸くずおがくずの落ちた床を掃く。

 そんなわたしを、ラース・キューバーは無言で見つめていた。


 ふと、顔を上げてラース・キューバーに目を向ける。


「ずいぶん長く雨に当たっていたようすでしたが、身体に異常はありませんか?」

「え……?あ、はい、ありません」

「そうですか。いまは平気でもあとから不調が出るかも知れませんから、今日は暖かくしてゆっくり休んで下さい。帰る先は寮で大丈夫ですか?徒歩でもよろしければ案内しますよ」


 自分の上着を羽織り、荷物を肩に掛ける。残してあった二着の上着を持ち上げて、ラース・キューバーに見せた。


「上着、好きな方を着て下さい。お代はもう払ってありますから、どちらを選んでも良いです。元々着ていた服は、乾いたか訊いて来ま、」

「捨てて良いです」

「勿体ない」

「でしたら、あなたに差し上げましょうか。この服も、あなたに返せば良いのでしょう?」


 とっさに脳内で算盤を弾いてしまった自分が憎い。ラース・キューバーの着ていた服一式は、わたしが坊っちゃんに着せた服に払った金額の優に四倍は下らないお値段だろう。いや、下手すると十倍を越えるかもしれない。

 今日のお世話の迷惑料を払って、十二分にお釣りが来る金額だ。


 駄菓子菓子。違う。だがしかし。


「その服でしたら返して頂ければわたしが着ます。ですが、キューバー公爵家の紋章が入った服など着れません。捨てるにしてもそちらでどうにかして下さい。下手に処理すれば、要らぬ勘繰りをされかねませんよ?」


 脱がせたときにその辺はチェック済みである。坊っちゃんの衣服にはハンカチや靴下、下着に至るまで、名門キューバー公爵家の紋章が刺繍されていた。おそらく御用商人ならぬ御用テイラーが、小物までひとつひとつ作り上げた一級品だろう。

 内職とは言え針子の身としては、ぜひ研究材料に欲しい品だが、紋章入りの服(下着含む)なんて危険物は、涙を飲んでご遠慮したい。


 指摘すればラース・キューバーは意味を理解してくれたらしく、わずかに眉を寄せながらも頷いた。

 指摘ついでに、もうひとつ教えてやる。


「下町であろうと服の質で身元くらい割り当てられますからね?あなたが着ていたような格好で下手な場所をうろついていれば、たちまちスリやら強盗やらの餌食になりますよ。安全に生きたいのでしたら、今後は下町を独りで歩かないことです」


 選べと上着を突き出しながら、語る。


「世の中には異常な人間がいくらでもいますからね。誘拐されて狂った金持ちの慰みものにされるなんて、あなたも遠慮したいでしょう?そうなったとき、首が飛ぶのはあなたの従者でしょうし」


 坊っちゃんは高い方の上着を手に取って顔をしかめた。


「そう言うあなたは?どこにでも独りで出歩くと、噂を聞きましたが?」


 ……え?


「…………」

「なんです」


 思わず坊っちゃんの顔をまじまじと見つめてしまい、不機嫌そうに聞き返される。


 いや、うん。思い違いだよね。


 瞬間浮かんだ馬鹿な考えを、自嘲ついでに口に出して笑い飛ば、


「いえ、申し訳ありません、まるであなたがわたしを心配しているような言葉だなどと馬鹿な、」

「っ……!」


 笑い飛ば、そうとした、のだけどな。


 口許を片手で隠し、赤面して瞠目したラース・キューバーに、笑みが固まる。


 ……えぇ?


「……まさか、わたしの心配を?」

「っ、わ、悪いですか!?」


 信じられない気持ちで問い掛けたわたしに、ラース・キューバーが自棄気味に吐き捨てる。


「そんなナリだろうが、あなたも、一応は女性でしょう!?万一のことがあったとき、女性の方が外聞が」

「いや、あの」


 まじか。


 どんだけひとが良いんだよこの坊っちゃん。腹黒クーデレキャラのくせに。


 うっかりギャップ萌えとか感じそうになってしまった自分に動揺しつつ、額を押さえる。


「わたしは危険人物なので常にわんちゃん、ヴァンデルシュナイツ・グローデウロウス筆頭宮廷魔導師さまに居場所がわかるようになっていますし、そもそも、お嬢さまでも盾にされない限りはたとえ一対多数でも相手の好きには……」

「っ、」


 元々赤くなっていたラース・キューバーの顔が、ますます上気する。心なしか、瞳まで潤んで来ているような気さえした。


 え、いや、女顔の男子高校生に涙目で睨まれて、わたしはどうすれば良いの?ねぇどうすれば良いの!?


 混乱のあまり頭も回らなくなってただラース・キューバーを見つめていたら、赤面涙目の坊っちゃんが、きっとわたしを睨み付けて言った。


「とにかく、化け物だろうが強かろうが、あなただって年頃の女性なのですから、あまり迂闊な行動は避けなさい!今だって男とふたりきりで同室しているなど、なにを考えているんです!!」

「アッ、ハイ。モウシワケアリマセン」


 勢いと剣幕に圧されて、反射的に頷いて謝罪する。

 よろしい、と腕組みしたラース・キューバーが頷く。


 その顔はまだ赤いが、ふんっと腕を組んで、だいぶん落ち着きは取り戻しているようだ。


 どうしてこうなった。


 若干遠い気持ちになりつつも、まあ坊っちゃんが大丈夫なら良いかと自分を納得させた。ついでに、弁明もしておく。


「ふたりきりと言っても、すぐ隣にこの家の方が居ますよ?平民の家は壁も厚くはありませんし、少し声を上げれば助けが来ます」


 だからそこまで不用心なわけではない、と続けようとしたとき、控えめなノックが耳に入った。


「アルくん?大きい声が聞こえたけど、大丈夫?」


 ヴィリーくんの声だ。


 ほらね、とラース・キューバーに視線を流してから扉を開ける。


「大丈夫です。彼が目覚めて、少し驚いたみたいで」

「ああ、そうなんだ。身体に異常はなさそう?」

「ええ、大丈夫そうです」

「なら良かった。帰るなら、馬車を呼んで来ようか?」


 ゾフィーの仕立て屋からクルタスまでは歩けない距離ではないし、わたしはいつも歩いている。だからこれは、坊っちゃんへの気遣いだ。


 まだ、雨は降っている。


 振り向いて、ラース・キューバーに問い掛けた。


「わたしはいつも歩いて帰っていますが、馬車を使いますか?馬車と言っても、平民向けの辻馬車ですけれど」

「歩いて帰れる距離ですか?」

「それなりに歩くことになりますが帰れます。わたしの足で、四十分ほどですね」


 本当は自転車が欲しい距離だけれども、舗装のない道は自転車に向かないし、そもそもこの国では自転車文化が発展していない。移動手段は馬車、馬、徒歩の三択だ。わんちゃんは魔法移動もするけれど、瞬間移動なんて出来るのは、わんちゃんレベルの魔導師くらいなもの。貴族ならばともかく、街に住む平民は馬車なんて持っていない家がほとんどなので、街のなかくらいなら余裕で歩く。大荷物や体調不良、遠出などのときだけ、辻馬車や乗り合い馬車を使うのだ。

 これが、農民になると逆に、一家に一台馬車があったりするらしいけれどね。でも、それはもっぱら農作業用と荷運び用だ。黄色ナンバーの白い軽トラを思い浮かべてくれれば、わかりやすいのではないだろうか?


 とにもかくにもどちらかと言うと平民寄りなわたしは四十分の徒歩くらい苦ではなく。しかし相手はお坊っちゃまなので、さて、どう答えるか、と、


「今の、時刻は?」

「十七時三十分ですね」


 ここに来たのがお昼時だったはずなので、五時間も作業に没頭していたことになる。

 坊っちゃん、いつから正気に戻っていたのだろう。見ていないで声を掛けてくれれば良かったのに。


 声を掛けられたところで、気付いたかどうかは怪しいけれど。


「そうなると、徒歩では少し遅くなりますね」

「そうですね」


 わたしは普通に二十時とかに帰寮していますとは、言えなかった。怒られそうだし。


「では、馬車を呼びますか?」


 訊ねると、ラース・キューバーは少し迷ったあとで首を振った。


「遅くなるのも問題ですが、目立つ方が嫌ですね。歩いて帰りましょう」


 ふむ。確かに、公爵子息が辻馬車で乗り付けたら、目立つだろう。手前で降りても良いが、誰かに見られる可能性は否定出来ないし。


「外は雨ですが、大丈夫ですか?ああ、雨具はわたしの予備があるので、貸しますよ」

「雨具があるなら大丈夫です」

「わかりました」


 頷いて、ヴィリーくんに視線を戻す。


「と言うことなので、馬車は大丈夫ですよ。お気遣いありがとうございます」

「どういたしまして。ああ、あと、彼の服なんだけど、小物は良くても大物や靴が乾きそうにないんだ。返すのは、後日でも大丈夫かな?」


 振り向く前に、ラース・キューバーが答えた。


「あとで侍従に取りに来させますので、ここの住所を教えて貰えますか?」

「それでしたら、注文票を書きますね。受け取りの際、本人確認用としてお持ち下さい」


 にこっと微笑んだヴィリーくんが、少々お待ち下さいと言って背を向ける。


 その間に部屋の隅で干してあったわたしの予備の雨合羽を回収した。拭いてから干したし、暖炉の火を付けてあったし、こちらはちゃんと乾いているようだ。


 こちらを見ていたラース・キューバーに差し出す。


「どうぞ」

「これは?」


 上着を着込んだラース・キューバーが、首を傾げた。


「雨具です。雨合羽ですよ」

「雨合羽……」


 突き返されるかと思ったが、坊っちゃんはいぶかしげな顔ながらも雨合羽を受け取った。


「軽いですね」

「下から被って、首のボタンを留めて下さい。手はそこを通して……わたしのものだと、少し丈が短いですかね?きつくないですか?」


 変形ポンチョだし多少のサイズ差は関係ないだろうが、オーダーメイド慣れしている坊っちゃんには不快かもしれない。そう思っての一言だったが、ラース・キューバーは大丈夫ですと首を振った。


「あなたは当たり前のように、他人の世話を焼くんですね」

「え?」

「他人に尽くされることが当たり前と言う人間では、こうも自然に他人の世話は焼けないでしょう。行儀見習いの侍女などが良い例です。けれどあなたはまるで生粋の使用人のように、違和感なく世話を焼いて見せる」


 まるで、ルドのように。呟かれたのはラース・キューバーの侍従の名だろう。姓はない、ただのルドルフ。キューバー公爵家では本来あり得ない、魔法の使えない侍従だ。たったひとり、ラース・キューバーがそばにいることを許した男。


 生粋の、使用人、ね。


「……幼い頃から自分のことは自分でやっていましたし、お嬢さまに尽くすのがわたしの生き甲斐ですから」

「四年やそこらで身に付くものでは、ないでしょう」

「四年やそこらで身に付けたものではないですから」


 そう答えたところで、B6くらいのサイズの羊皮紙を一枚持ったヴィリーくんが戻って来る。


「お待たせいたしました。内容を確認して、サインを」

「サインはわたしがしますから、内容の確認だけお願いします」


 ヴィリーくんから紙を受取り、内容をざっと確認してからラース・キューバーに渡す。シャツに靴、下着やハンカチに至るまで、すべての品目がしっかり記載された注文票は、読みやすい丁寧な字で書かれている。


「遅くても明日の夕方までには乾くと思います」

「内容は……」


 確認の途中でラース・キューバーが表情を変える。


「なにか不備が、」

「着替えは、誰が?」


 ……あ。


 今まであえて誰も突っ込まなかったところを指摘されて、空気が止まる。

 下着までぐっしょりだったために、着替えの際はいちど坊っちゃんを完全に素っ裸にした。わたしが、だ。


 ついわたしに視線を向けてしまったヴィリーくんの動きで気付いたのだろう。ラース・キューバーが、わたしに目を向けた。


「……わたしです」

「あなたは……」


 呆れてものが言えないとでも言いたげに、ラース・キューバーが言葉を留める。仕方ないじゃないか、自分で着替えてくれなかったのだから。緊急事態だし、わたしは悪くない。


「べつに男性の裸くらい、見慣れていますから」

「「は?」」


 男子ふたりの声が、そろう。吐き出した言葉は、それくらい予想外のものだったらしい。


 いや、でも、だって、ねえ?


「専科の医学の演習に参加させて貰っています。死体の解剖に、怪我人の応急手当、病人の診察や重病人の介護、患者のための処置に、いちいち心を揺らすとお思いですか?」


 相手は“男”じゃない。“患者”だ。


「あの状況では必要な処置でした。ヴィリーくんは接客中でしたし、わたし以外に誰がやれたと?」

「そう、だね。そう言えば、火事のとき普通に診療所で手伝いしていたね」

「……マルク・レングナーの服を普通にひっ剥がしていましたね」

「ご理解頂けてありがたいです。内容は大丈夫でしたか?」

「ええ」


 ラース・キューバーから注文票を受け取って、ヴィリーくんから借りたペンで二ヶ所にサインする。

 ヴィリーくんが注文票をふたつに切って、片方をラース・キューバーに渡した。


「では、確かに承りました」

「はい」


 ヴィリーくんから紙を受け取ったあとで、少し目を泳がせた坊っちゃんがヴィリーくんを見下ろした。


「あの、ご迷惑をお掛けしたみたいで、すみませんでした。ありがとうございました」

「いえいえ、おれは特になにも。あなたを連れて来て介抱したのはアルくんですし、手伝ったのは姉たちですよ」

「では、姉君あねぎみにもお礼を伝えておいて貰えますか。受け取りのときに、侍従に謝礼を、」


 ラース・キューバーの言葉を、ヴィリーくんが手を挙げて留めた。


「お礼ならもう、アルくんから受け取りましたから。それに、おれたち、アルくんには色々借りがあるので、この程度なら軽いものですよ」

「借りがあるのは、わたしの方で、」

「いやいや、アルくんのお陰でどれだけ売り上げ伸びたと思ってるの。それだって、もう注文すごい量入ってるよ?きみはもっと、自分の価値を知るべきだ」


 ヴィリーくんが、こつん、とわたしの額を小突く。


「うちに来るお客さんの八割は、アルくん愛好家なんだからね。軽々しく考えて貰っちゃ困るな。母さんも姉さんたちもアルくんが来るの楽しみにしてるし、ユッタやローレは今度はどんな提案をするのかってワクワクしてるよ」


 にこっと笑ったヴィリーくんが指の背でわたしの頬をなでた。


「もちろん、おれもアルくんが来てくれるのは楽しみだし、いつでも待ってるよ」


 あれ、ヴィリーくんの片手にそろばんの幻影が見えるよ?不思議だなぁ。


「……お金儲け的な意味で?」

「そうだね!」


 いとさわやかな笑みでヴィリーくんが肯定する。いさぎよ過ぎる。


 いや、うん。素直なことは良いことですね。


 思わず遠い目になりかけたところで、くすっとヴィリーくんが吹き出した。


「と言っても、お金儲けは二割くらいだけどね。残り八割のうち、四割は純粋な興味。今度はどんなものを作って来るんだろうってね。で、残りの四割は」

「四割は?」

「単純に、逢いたいから」


 えっと、そんな、恥ずかしげもなくさらりと言われると反応に困るのですが。


 それ、わたしはどう受け取れば……?


「アルくんが来ると母さんも姉さんたちも機嫌が良くなるんだよね。ユッタやローレも楽しそうにするし。おれもアルくん好きだから、逢えるの嬉しいしね。もしなにかで路頭に迷っても、アルくんならいつでもうちで歓迎するから」


 えっと……。


「アルくんって、おれにとってみたら、ゾフィーの仕立て屋でのはじめての妹、と言うか、弟分、みたいな?だからね。元気な姿を見れると、それだけで嬉しいんだ」

「あ、ありがとうございます」

「おれより身長高くなっちゃったのは、ちょっと不満だけど!」


 家族として、なら、純粋に嬉しいと感じる。


 本当になんの力もない孤児で、彼らの家族だったら良かったのに。


 瞬間胸を過った考えを、すぐに叩き潰す。ただの孤児では、ツェリを助けられない。

 微笑んで、ヴィリーくんを見下ろした。


「困ったときは、頼みます」

「任せといて!」

「それと、ぬいぐるみの完成品、机の上にありますから」

「ありがとう。それじゃ、またね」


 ヴィリーくんがひらひらと手を振って、わたしたちに道を譲る。


「またのお越しを、お待ちしております」

「お邪魔しました」

「お世話になりました」


 ヴィリーくんの見送りで、階段を降りる。馴染みのない気配に、眉を寄せて坊っちゃんを制した。


「来客があるようです。少し待っていて下さい」


 潜めた声で伝え、頷くのを確認してからひとり歩き出す。裏口を借りても良かったが、雨天なので道すがら女性陣の下着が干されている可能性があったのだ。

 ご婦人の下着をみだりに見せるわけにも行かない。


 ひとり階段を降りて、表に向かう。普通のお客なら気にせず通れば良いし、坊っちゃんを見せたくない相手ならば裏口を借りれば良い。


「あら、……帰るの?」


 接客していたゼルマさんが振り向いて、名は呼ばずに問い掛ける。


「ええ。裏口を借りても?」

「良いわよ。うちの洗濯物は、乾いて取り込んであるから」

「あ、ちょっと」

「申し訳ありません。急いでおりますので」


 わたしを呼び留めようとしたお客に、接客スマイルで対応して引っ込んだ。


 なぜ、また居るのか。


 うつむいて、くしゃりと前髪を掴む。


「……ミスったか」

「なにか?」


 思わず口を突いた言葉に反応されて、パッと顔を上げる。

 いつの間に降りていたのか、ラース・キューバーが目の前に立っていた。


「あ、いえ、えーっと」


 あの男は、たぶんゼルマさんがもうしばらく引き留めてくれるはず。ならば、すべきことは、


「帰りながら話します。とりあえず、出ましょう」


 坊っちゃんの腕を掴んで、裏口へ向かう。


「ん?帰るのかい?」

「ゾフィーさん、はい、お邪魔しました」

「いや、いつでも頼れば良いさ。ただ、しばらくは」

「ええ。しばらくは来るのをやめます」

「そうしな。どうせ、旅人だ」


 ゾフィーさんがわしわしと頭をなでてから、そうだ、と呟いて紙袋を渡して来た。


「それ、お礼だとよ」

「お礼?」

「あんたのお陰でパン職人になれたガキからさ。あとで食ってやんな」

「あ、ええと、ありがとうと」

「伝えとく。じゃね」


 濡れないように紙袋を鞄にしまい込み、しっかり合羽でガードしてからゾフィーさんに会釈して、今度こそ仕立て屋をあとにした。


「申し訳ありません、少し、急ぎましょう。裏道を使います」


 下町は入り組んでいる。本当ならば安全な大通りを通りたいところだが、そうも言っていられなくなった。


 受け取りと、手直し。偶然で済ませられる話ではあるけれど。

 ……あとでちゃんと、わんちゃんに相談しないとな。


 無意識に右耳に触れ、今晩にも連絡しようと心に決める。


「道が悪くて、申し訳ありません」

「いえ」


 ぱしゃぱしゃと跳ねる泥に少し眉を寄せたラース・キューバーに、小声で謝罪する。


「どうやら厄介なお客さまに目を付けられてしまったようで。私事に巻き込んでしまいなんとお詫びして良いか」

「それで、しばらくは来るな、ですか」

「ええ。たまにあるのです。ゾフィーの仕立て屋は有名になり過ぎましたね」


 先ほど声を掛けて来たのは先日会った旅人だった。坊っちゃんを連れ込んだときにも居た、自称ローランタン皇国の仕立て屋、フロラン・エモニエ。


 わたしは五時間以上仕立て屋に居たのだ。あの旅人もずっと居たのならば明らかにおかしいし、一度帰ってまた来たにしても、同じ仕立て屋に日に二度も訪れるなんてそうそうない。手直しを頼んだにせよ、仕立て屋ならばこそ日を改めるべきだ。ゾフィーの仕立て屋は人気の仕立て屋。ひとりの顧客にかまけていられるわけではないのだから。

 ヴィリーくんがなにも言わなかったと言うことはおそらく、一度退店してから再来店したのだろう。それで、一度あしらってからずっと二階に居たヴィリーくんが知らなかったのだ。


「わたしを狙っているらしいことはわかるのですが、なにぶん意図が掴めません。関わり合いにならない方が良いでしょう」

「あなたなら、真っ向勝負でも挑みそうなものですが」

「相手の身分も目的もわかりませんから。闇雲に突っ込んで馬鹿を見るのはごめんです」


 さすがは真面目に鍛えているだけあって、かなりの速歩はやあしで歩いてもラース・キューバーは文句ひとつ言わなかった。細く入り組んだ路地を、走るような速度で歩く。


「下手なことをして、ゾフィーさんに迷惑を掛けたくもありませんし」

「平民と、ずいぶん親しい様子でしたね」

「そうですね。幼いときからお世話になっています」


 出来るだけ安全な道はどれか。早く帰れる道はどれか。頭の中の地図を検索しながら進む。

 あの旅人に捕まるのも嫌だが、坊っちゃんと居るときに揉め事を起こすのも嫌だ。


「世話、ですか?あなたが施しをするわけではなく?」

「施しが出来るほどの蓄えなんてありませんよ。わたしが作ったものをお店に置いて貰って居たのです」


 目立ちたくない坊っちゃんには悪いが、馬車を使うのが賢いかもしれない。どこかで、馬車が拾えるだろうか。


「あなたがパン職人を育てた、と言うのは?」

「育ててはいません。わたしは提案しただ、け…」


 考えごとに夢中で、自分がなにを口走っているかに意識を向けていなかった。ラース・キューバー相手にぺらぺらと情報を流していたことに唖然とする。


「このようなことを聞いて、どうするのですか」

「べつにどうもしませんが」


 ラース・キューバーが肩をすくめる。


「サヴァン家はそれなりに裕福と聞きましたが、施しをする蓄えもないのですか?」


 しれっと投げられた問い掛け。サヴァン家の経済状況まで調べているのか。


 さて、答えるか、否か。


「……サヴァン子爵家のお金は家のお金であって、わたしのお金ではありませんから。家のお金は領民が働いて稼いでくれたものです。個人的な好みで自由に使って良いものではないでしょう」


 回答をずらして、サヴァン家の経済状況については言及しない。


「施しは悪だと?」

「そうは言っていません。けれど、領地を預かる以上真っ先に考えるべきは自領民の幸福でしょう。他領のことは、他領の領主の仕事です。税収を得ている以上、領主には納税した領民への責任があるのですから」


 余裕がある人間ならば、自分の出した税を他者の幸福に使っても許せるかもしれない。けれど、限られた収益から絞り出した税ならば、納税した自分の幸福のためになって欲しいと思うだろう。


 サヴァン家の領地は決して貧しい土地ではない。田舎ではあるが、雨水豊かな穀倉地だ。高々二代とは言え政策は上手く転がっていて、飢えに苦しむような領民はいない。それでも、改善すべきことはまだまだいくらでもあるのだ。領民から集めたお金は、領民の安全と生活向上に充てるべきである。


 他領の孤児の救済や、領主一家の贅沢のために税を納める領民なんて、いないのだから。


「責任、ですか」

「貴族が敬われるのは、血が高貴だからではないでしょう。特別に扱われると言うのならば、その扱いに見合う役目を果たすのは義務です。高貴なる者には、相応の義務が存在します。では、自身を最も敬ってくれている相手は誰か。最も義務を果たさなくてはならない相手は、自ずとわかると思いますが」


 難しく言っているけれど、要はギブ&テイク、と言うだけの話だ。誰から受け取ったか。誰に返すべきか。きちんと理解しなければならない、と言うこと。


 単純な話なのに、理解していない馬鹿貴族が居るのが問題だ。


「わたしは、この街の平民から搾取していませんよ。返すすべがありませんから。わたしがしているのは対等な付き合いと、少しの提案だけです。必要以上の見返りを求めたりはしませんし、お願いはしても強制はしません」


 場合によるけれど。


 あー、やー、うん。あのね?

 強権発動しないとは言え、ね?ほら、馬鹿がか弱い女性をしいたげていたとかだとね?うん。使えるもの全部使って懲らしめてしまうと言うか、ね?


 ち、治安維持への貢献だから!ほら、学生とは言え騎士と名の付く身分だからね!


「ん?アル?どうしたこんなとこで」


 横合いから声を掛けられて、振り向く。


「ナータンさん」


 重たそうな木箱を持ったナータンさんが、こちらを見ていた。


「お、さっきの坊っちゃんも一緒か。無事だったんだな」

「はい。お陰さまで。ナータンさんは、お仕事ですか?」


 仕立て屋に来ていたから、てっきりもう終業かと思っていたのだけれど。


「おう。明日の準備でな。資材が届いたから施工先に運んじまおうと」


 言いながら、路地を抜けた先に停められた小型の幌馬車に向かう。


「ああそうだ、その坊っちゃん、病み上がりだろ?クルタス近くまでなら、乗せてってやろうか?」

「え、でも、仕事中では?」

「行くのがクルタスの向こうなんだよ。通り道に置いてくくらいならわけない」


 渡りに船とは、このことか。


 荷馬車だし狭いだろうし乗り心地は良くないだろうが、目立たなくて速くてタダだ。

 坊っちゃんが良いと言うなら、是非ともご厚意をお受けしたい。


「……良いですよ」


 ちらりと坊っちゃんを見遣れば、少し嫌そうながらそう言ってくれた。


「お願いしても、良いですか?」

「おう。荷物積んじまうから、ちょっと待ってろ」

「手伝います。キ、あなたは、馬車のところで待っていて下さい」


 荷運びするナータンさんを手伝ってから、荷馬車に乗せて貰う。御者台はひとり乗りなので、荷物扱いだ。


 嫌がられるかもしれないと思ったが、魔法でラース・キューバーを支えさせて貰う。転んでも、荷物に潰されても危ないので、許して欲しい。


「今度はなにを造るのですか?」


 幌の隙間から顔を出し、荷馬車を操るナータンさんに問う。

 さっそくお買い求めの雨合羽を着てくれていて、少し嬉しい。


「今度は造るんじゃなく、改修だな。ほら、クルタスの向こうに教会あっただろ、そこの屋根が雨漏りするんだと。壁もひび入ってるし、全体的に綺麗に直したいとさ」

「あの、ボロい教会ですか?真ん中のドが出ないオルガンがある」

「そうそこ。オルガンも直すっつってたぜ」


 うん。ドが出ないオルガンは直すべきだと思うよ。でも、


「よくそんなお金出ますね」

「お前、なに言ってんだ」


 え、なんでわたし、ナータンさんに呆れ顔で見られてるのだろう。


「面倒見る孤児が減った上に、街の景気が良くなって寄付やら領主からの給付が増えた」


 こつん、と後ろ手にわたしを小突いて、ナータンさんが苦笑する。


「お前のお陰だろーよ、ばぁか」

「え?いや、わたしは、なにも」

「してるしてる。ゾフィーの仕立て屋に来る客が、付近で食事したりするし、珍しい商品でよそから買い物に来るやつも増えて宿屋も大儲け。宿屋の増築や新しく店開くやつが増えたからオレら大工も大忙しだ。どこも人手が必要で、育てた孤児を引き取ってる。なあおい、ゾフィーの仕立て屋に客を増やし、孤児を育てる有用性を教えたのは、どこのどいつだ?」


 わたしだよ!と、答えるところ、なのですかね。


「ゾフィーの仕立て屋のお客が増えたのは仕立て屋の経営接客や商品が良いからですし、孤児を育てることを決めたのは街のみなさまですよ」

「まあ、そう言っちまえばそうだな。みんな、勝手に動いたのが良い方向に働いたんだ」

「そうです。みなさまの行動の結果ですよ」

「ああ。だから、みんな勝手にお前に感謝してんだよ。好きにさせろ」


 わお。


 にっ、と勝ち誇った笑みを返されて、返答に詰まる。

 さすがは荒くれ者を束ねる大工の棟梁か、ナータンさんが一枚上手でした。


「まあ、景気が良いことは、良いことですよね」

「ああ、その通りだ。お前は街の一員なんだから、一緒に喜んでりゃ良いんだよ」

「……アル、くん、は、ずいぶんと慕われているのですね」


 わたしの横からぴょこりと顔を出したラース・キューバーが、ナータンさんに話し掛ける。


 まさかのアルくん呼びに、ちょっとびっくりした。

 わたしの視線を受けて、少し気まずげに顔を逸らす。菫色の髪が目の前で踊った。


 ナータンさんがちらりとラース・キューバーに目を向けて、笑った。


「不快に思わせたんなら、すんませんねぇ。でも、アル坊はオレたちにとっちゃあ、可愛い妹分みたいなもんなんスよ。一緒にいろいろ、やった仲なもんでね」

「それは、」

「実際、貴族だとかなんだとか、関係ねぇんス。アル坊がオレらに対して威張り散らたことなんざねぇし、痛め付けたこともねぇんス。オレらにとっちゃ、それがすべてなんスよ。言葉でいくら偽っても、実際に取った行動は変えられねぇんスから、どんな噂があろうと、オレらが見たアル坊の行動が本当なんス」


 空前は証明出来ても、絶後はわからない。

 それでも信じると言ってくれるこの街のひとびとは、本当に、すごいと思う。


「そう、ですか」


 たとえそれが、わたしと言う存在を正しく理解していないためだとしても。


 ラース・キューバーは小さく相槌を返すと、黙り込んだ。


「お、アル、この辺で良いか?もう少し近付いても良いが」


 通りを顎で示したナータンさんの言葉で、辺りを見回す。クルタスから、徒歩五分ほどの位置だ。貴族の馬車も辻馬車も通れないような、細い路地だが。


「大丈夫です。ありがとうございます」


 お礼を言って、停まった馬車から飛び降りる。降りる補助にと坊っちゃんに差し伸べた手は、当たり前のようにスルーされた。


「おう。またな」

「はい」


 その手をひらひらと振って、ナータンさんを見送る。


「ここは」

「学院のすぐ近くですよ」


 意識せずラース・キューバーの手を取ろうとして、止まる。


「?どうしました」

「あ、いえ、勝手に手を掴んだりして、失礼だったなと」


 はぐれたら危ないからだったが、この場所ならばそこまでしなくても良い。


 苦笑したわたしに、ラース・キューバーは今気付いたとでも言いたげに目を見開いた。


「大通りまで出ればわかりますよね?そこまで案内します」


 手は取らずに、歩き出す。


「失礼したのは、こちらでしょう」

「はい?」


 呟かれた言葉に、振り向いた。


「訊かないのですか、なぜあんなところに独りで居たのか」

「話したいのでしたら、お聞きしますよ」


 他人の事情なのだから、むやみに掘り返すものではない。


「気にならないのですか?」

「気になったら訊いて良い、と言うものでもないでしょう。お嬢さまに害が及ばなければ、わたしはそれで良いです。下世話な勘繰りをするほど、悪趣味ではありませんよ」

「そうですか」


 足を止めて、前を指差す。


「あの角を曲がれば大通りです。わたしは迂回して帰りますので、あなたは真っ直ぐお帰り下さい」

「え?」

「同じ格好で仲良く一緒に帰りますか?」


 エリアル・サヴァン&ラース・キューバ仲良し説でも、打ち立てると言うのか。


 ラース・キューバーは目を瞬いたあとで、少し不機嫌そうに言った。


「後日、ルド、従者にお金を届けさせます。今日はお世話になりました。もう暗いのですから、あなたも気を付けて早く帰りなさい」

「え、あ、はい。お気を付けて」


 お礼を言われるとは、思っていなかった。足早に立ち去る坊っちゃんを見送って、頬を掻く。


 少しは和解出来た、と言うことだろうか。


 合羽を打つ雨音が消えていることに気付いて、空を見上げる。


 いつの間にか雨は止み、雲の切れ間から星が覗いていた。




 ……二年目の春が、近付いていた。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


長いかな、と思って分けたのですが

文字数見たらそこまで長く…いや、長い?

ちょっとなんかどのくらいから長いと言えるのかわからなくなって来ていますが

みなさまどうお思いなのでしょう

一話二万字超えは長いですか?


今回のように一万字ちょっとで分かれていた方が読みやすいのか

三万字近くがずらぁっと一話になっていても大丈夫なのか

ご意見があればお聞かせ頂けると助かります

参考にします<(_)>


次話投稿までまた間が空いてしまう可能性が高いのですが

続きも読んで頂けると嬉しいです

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