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取り巻きBと黒猫の妹

…投稿に間が空くと言ったな

あれは、嘘だ


取り巻きB・オーレリア視点


前話別視点です

オーレリアさんから見た黒猫姉妹のお話

 

 

 

 本当に、アルねぇさまの妹なのかしら?

 

 彼女が声を荒げたとき、私はそう思った。

 

 不愉快だ。私がアルねぇさまの妹に生まれていたなら、そんな風にアルねぇさまを傷付けたりしないのに。

 嫌なら、私にちょうだいよ。

 

 あまりに幼稚で、世間知らず。

 私のなかでアリスティア・サヴァンの評価が、最低に近い位置付けになった瞬間だった。

 

 

 

 ツェリからアルねぇさまの妹が学院に来るからその案内をして欲しいと言われたとき、私は一も二もなく了承した。

 アルねぇさまの助けになるならなんだってやるし、アルねぇさまに会える機会を逃したりはしない。それは、ツェリに声を掛けられたほかの子たちも同じで、みんな、声を掛けてくれたツェリに感謝していた。

 

 隣の敷地に移るだけ、そうわかっていても、アルねぇさまが中等部を卒業してしまうとき、みんな泣いていたもの。堂々と会える機会を与えられて、嬉しくないわけがない。

 

 ツェリはそんな反応わかっていたみたいに小さく笑って、それなら昼にでもアルに提案してみるわ、と言っていた。

 鈍感なアルねぇさまと違って、ツェリはちゃんとアルねぇさま好きな子たちをわかって利用するから、アルねぇさま好きの子たちからの人望が厚い。…ツェリは身の上的にあまり身分差を気にしないし、親しくしておけば、こう言うときに声を掛けて貰えるからね。

 

 あ、と言っても、鈍感だからとアルねぇさまに不満を持つ子はいないのよ?アルねぇさまはアルねぇさまで上手く気遣いをしてくれるし、鈍感なところもアルねぇさまの魅力だもの。

 

 テオなんかは、簡単には懐かない、そこもまた猫っぽい!って力説していたわ。…正直少し引いたけど。

 

 ツェリが巧くアルねぇさまを説得してくれたみたいで、お昼休みのあいだに使用人伝で案内お願いと言う連絡が来た。

 自分から動くことの多いアルねぇさまと違って、ツェリは遠慮なくひとを動かす。その姿は、とても公爵令嬢然としていると思うわ。

 

 ツェリは不思議と、生まれながらにして上に立つべき資質を持っていると思わせる雰囲気がある。

 養子縁組みされた当初はあったツェリへの陰口が、中等部の三年間でほとんどなくなったのが良い証拠ね。

 

 ひとを従え、上手く動かす。口で言えば簡単だが、実行するのは意外に難しい。実際、それに失敗して滅んだ国や家は、歴史上に腐るほど存在する。

 だからこそ、自然とひとを従えられて、手足のように動かせるツェリは、言葉にこそ出されないものの一目置かれている。

 

 高等部に入ってからのツェリしか知らない人間は、彼女が生まれてから五年間を牢獄で、それから七年を平民として生きていたなんて、信じられないんじゃないかしら?

 罪人の娘を完璧な公爵令嬢に育て上げた、それが、アルねぇさま。

 

 辛い境遇にも負けずに、穏やかな微笑みを浮かべた、厳しくも優しいひと。

 

 だからアリスティア・サヴァンを初めて見たとき、あれ?と思ったの。

 

 

 

 放課後、校門にやって来たふたりは、対照的な表情をしていたわ。

 優しげな笑みを浮かべたイェレミアス・サヴァンと、人形のように冷たい表情のアリスティア・サヴァン。

 

 ふたりともアルねぇさまによく似た顔立ちをしていたけれど、表情のせいでアリスティアの方はあまり似て見えなかった。

 …アルねぇさまも、似たような表情をすることがあるけれど。でも、アルねぇさまは笑顔に対してあんな表情を作ったりしないわ。

 

 その表情に、アルねぇさまへの失礼な対応も相まって、アリスティアへの第一印象は良くなかった。あまり姉妹仲が良くないらしいとは聞いていたけれど、だとしても姉にあの口聞きはどうかと思うわ。

 

 アルねぇさまたちに見送られて、学院案内を始める。

 アリスティアに話し掛ける気にはならなかったわ。

 

 でも、リリアやほかの子たちはアリスティアに話し掛けていて…。

 

 リリアたちだってあんなやり取りを見て良い気分はしなかったでしょうに、それでも友好的に対応する姿に、少し反省したの。

 リリアたちに受け答えするアリスティアは大人しいけど笑みを浮かべていて、口調も態度も丁寧だったから。

 

 最初のあれは、少し緊張していただけだったのかもしれないわ。

 そう思い直して、アリスティアを囲む会話の輪に入り込んだ。

 

 

 

 それからは和やかに学院見学が進んだ。

 

 実際に言葉を交わしてみれば、アリスティアは話しやすくて感じの良い子だった。打ち解けて来ると表情が和らぎ、ふわりと浮かべられた笑顔はとても愛らしかった。

 やっぱり、アルねぇさまに似ていると思ったわ。

 

 でも、アルねぇさまより幼く無垢な印象がある。

 ずっと家庭教師に教わるばかりで学校に行った経験がないと聞いているし、そのせいかもしれないわね。

 

 リリアの説明を聞き、ときに質問を投げる態度は真摯で、真面目な子と言う印象を与えた。

 

 よく観察していれば、気遣いも出来る子であることも見て取れる。

 ほかの子たちは気付いていなかったが、要所要所でさりげなく通路を塞がないように誘導したり、余所見で壁にぶつかりそうになった子の軌道修正をしていた。

 

 ああ、アルねぇさまの妹だわ。

 姉そっくりの、気付かないくらいの細やかな気配りを見せたアリスティアに、アルねぇさまの影を見る。

 

 初見で覚えた悪印象は、覆されていたわ。

 

 仲良くなれそうだと、確かに思ったのに。

 

 

 

 アルねぇさまはアリスティアたちが来る前、私たちにふたつのことを伝えていた。

 ひとつは、貴族の知り合いの少ないアリスティアの、友人になってくれると嬉しいと言うこと。

 もうひとつは、アリスティアを案内するあいだは、極力自分の話を出さないで欲しいと言うこと。

 

 アルねぇさまの言いつけ通り私たちはアルねぇさまの話題を出さずに話していたから、気付いていなかったの。

 

 アルねぇさまがそんなおかしなお願いをした、理由に。

 

 

 

「その、腕輪」

「これのこと?」

 

 案内の途中でアリスティアが、私の腕にはまったミサンガに興味を示す。

 蜂蜜色の地糸に黒糸で猫が描かれたそれは、アルねぇさまお手製の品だ。ツェリはアルねぇさまから貰ったと言っていたけれど、私やリリアがしているのは、仕立て屋で購入したもの。

 

 アルねぇさまは案外とその辺りに厳しく、売りものをやたらとタダでプレゼントしたりはしない。ツェリは、特例中の特例なのよ。

 

 そんなアルねぇさまお手製の市販ミサンガは、今ここにいるほぼ全員の腕にはまっている。

 刺繍補習組のなかでは刺繍の腕が上がるおまじないとして定着しているらしいので、私たちとしては不思議のない状況なのだけど、事情を知らないアリスティアからしてみれば、不思議に思ってもおかしくないでしょうね。

 

 アルねぇさまのお願いを思い出して少し迷って、無難な答えを口にする。

 

「綺麗でしょう?学院で流行っている、お守りなのよ」

「お守り…でも、黒猫なんて不吉じゃないですか?」

 

 みんなが着けているミサンガはたいていどこかに黒猫が描かれている。きっとみんな、アルねぇさまを思い浮かべてわざわざ黒猫模様のものを選んだのね。

 

 黒猫が不吉だなんて、私たちは思わないもの。

 

「良いのよ。これは特別だから」

「黒猫だから、良いの」

 

 私の隣にいた子が、自分のミサンガを見せて言う。

 

「どうして?」

 

 きょとんと問い掛けたアリスティアに、その子は失言をした。

 

「エリアル先輩みたいでしょう?」

「え…?」

 

 アリスティアの顔がぴくりと引きつったことに、私は気付いたけれど、ほかの子は気付かなかったみたい。

 

「エリアル先輩みたいに刺繍が上手になりますようにって、願ってるの。だから、黒猫が良いのよ」

「…エリアル先輩って、ワタシの姉のこと、ですか?」

「そうですわ。私たちみんな、と言っても、リリアンヌさまとオーレリアさまは違いますけれど、ほかは全員、エリアル先輩に刺繍を教えて貰ったことがありますの。ですからみんな、エリアル先輩に憧れているのですわ」

 

 ね?と頬笑む子に、周囲が微笑んで頷く。

 アリスティアの顔がわずかながら、不快げに歪んだ。

 

 嫌な予感を覚え、感じたままに口を開く。

 

「アリスティア、…アリスティアって、呼ぶには長いわね。アリスって呼んでも良い?」

「え?あ、はい。良いです、よ?」

 

 唐突な話題転換に面喰らいつつも、アリスティアが頷いた。

 それに頷きを返して、にこにこと問い掛ける。

 

「アリスって髪綺麗よね。なにか特別な手入れをしているの?」

「髪、ですか?そんなに特別なことは、していないと思いますよ」

「触っても良い?」

「ええ。良いです」

「私も触って良いかしら?本当に、綺麗な髪」

 

 アリスティアと私の会話にべつの子が混じり、話題がミサンガから離れる。

 アリスティアの表情は、元通りのにこやかなものになったわ。

 

 そのまま流しても良かったが思うところがあって、アリスティアの反応に気を配りつつ、恐らく怒りに触れるであろう言葉を口にする。

 

「アルねぇさまも、とても綺麗な黒髪よね。サヴァン家の血筋なのかしら?」

 

 リリアと、ほか数人。ひと付き合いの上手い子たちが、瞬時に緊張した。

 彼女らも、薄々感付いたのでしょうね。

 

 アリスティアの逆鱗がなにで、アルねぇさまがなんのために自分の話を出さないようにと言ったのか。

 そして私はそれを理解した上で、あえてアリスティアにアルねぇさまの話を投げたわ。

 

「…アルねぇさま?」

「ああ、あなたのお姉さまのことよ?アルねぇさまはれりぃの従姉妹のツェリととても親しいから、ひとつ年下だけれどれりぃも仲良くして貰っているの。アリスが羨ましいわ。れりぃも、アルねぇさまみたいなお姉さまが欲しい」

 

 みんなもそう思うわよね?

 周囲の子たちに問い掛けると、想像したのか頬を赤らめたり弛めたり目を輝かせたりうっとりさせたり、一様に賛同らしい反応が帰って来る。

 一部の子たちは少しアリスティアの反応を心配したようだけど、それでもアルねぇさまの魅力には敵わなかったみたい。まあ、当然よね。

 

 対するアリスティアの反応はと言えば、信じられないとでも言いたげに、目を見開いていたわ。アリスティアにとってはアルねぇさまは、姉に欲しいなんて思うはずもない存在のようね。

 

「…そんなに、良いものじゃないですよ?」

 

 それでもさすがは貴族の娘か、気持ちを笑みに隠して控えめに反論した。

 

 …アルねぇさまを嫌っていると言うのは、嫌だけれど。

 

 感情をきちんと抑えて理性的に対応出来る子。周囲への気遣いも出来るが、それでも自分の意見ははっきり伝える。

 やっぱり姉妹ね。

 

 私はアリスティアを、それなりに高く評価していたわ。

 そのときは。

 

 反応が見られればそれで良い。彼女を不快にする話題を引っ張ったりはせず、少しアルねぇさまの好評価を聞かせるだけで速やかにべつの話題へと先導したわ。

 アリスティアの対応は変わらず穏やかで丁寧で、学院案内はつつがなく進んだのよ。

 

 

 

 問題が起きたのは、アルねぇさまたちと合流が済んでから。

 なぜか来ていたアーサーたちも一緒に、ツェリが用意した部屋で、アルねぇさま手作りのお菓子をお供にお茶をしようと準備していたさなか。

 

 たぶん私と同じ魂胆で、ツェリがアリスティアにアルねぇさまの話を振った。

 アルねぇさまの人望で、今日ひとが集まったのだと。ツェリに話を振られてアルねぇさま大好きな子たちが返答し、自然な流れでアルねぇさまがお礼を述べた。

 

 田舎の領地で家庭教師に教育を受けるばかり。きっと貴族の友人が少ないのであろう妹が、心配なのでしょうね。

 アルねぇさまは続けて、来年から仲良くしてあげて欲しいと言おうとしたわ。

 

 その言葉の途中で、アリスティアが激昂したの。

 

「っ、余計なこと、しないで下さいっ」

 

 先までの大人しい態度が嘘のような、とげとげしい口調だった。令嬢らしからぬ大声とアルねぇさまを睨む視線に、その場が凍り付きかける。

 

 取り成すために真っ先に動いたのは、アルねぇさまだったわ。


「余計でしたら、申し訳ありません。ですが、突然知人のいないところに来ることになるあなたが、心配だったのですよ。あなたはあまり、貴族の知り合いがいないでしょう?」

 

 柔らかく微笑み、優しい口調でそう伝える。妹思いの姉が、わがままな妹をなだめるような態度。そのようすからは、ただただ妹への愛情しか感じ取れない。

 

 けれど私も、そして周囲の子たちも、見逃したりしなかったわ。

 ほんの一瞬、見間違いかと思うようなかすかなものだったけれど。

 確かにアルねぇさまが、傷付いた顔をしたことを。

 

 誰だって失言をすることはある。

 身内だからこそ、つい言い過ぎてしまうことも。

 

 けれど、思わずにはいられなかったわ。

 なんて愚かな子なの、と。

 

「誰のせいだと…っ」

「「アリス」」

 

 恥の上塗りを続けたアリスティアを、見かねたイェレミアス・サヴァンとツェリが叱責する。

 ヴィックやテオも、ほのかながら気色ばんだようすを見せていたわね。

 

 一気に緊張感を高めた空間を納めたのも、アルねぇさまだった。

 

 ツェリを、イェレミアスをなだめ、周囲とアリスティアに謝罪する。その上でアリスティアをたしなめて、彼女の口から周囲への謝罪を引き出した。

 それから微笑んで、お茶にしようと促したの。

 

 流れるような、見事な手腕だったわ。

 緊張をはらんだ空気が弛み、凍りかけた場が動き出す。

 

 アルねぇさまが、不和を望まないから。

 

 アルねぇさまがイェレミアスに連れ出されたあと、残された子たちはアリスティアを囲んで和やかなお茶会を作り上げた。

 ツェリたちがアリスティアとはべつの輪を作ったことも、大きいでしょうね。

 

 表面上は、なにごともなく取り繕われた場。

 

 だから本当は私も、その流れに乗るべきなのだろうけれど。

 

 アリスティアの評価を地に落としていた私は、もう嫌われても構わないと言う気持ちで問い掛けたわ。

 

「アリスはアルねぇさまのこと、嫌いなの?」

 

 表面上和やかだったその場が、その瞬間びくりと固まった。

 アリスティアが少し驚いた顔で私に目を向け、離れた位置のアルねぇさまとイェレミアスに一瞥を向けたあとで、意を決したように私を見据えたわ。

 

「ワタシにとっては、あのひとよりもほかの家族の方が、ずっと大切ですから」

 

 視線を逸らすことなく、きっぱりと言う。

 

「…どう言うこと?」

「あのひとのお陰で、サヴァン家がいろいろな優遇を受けていることは、理解しています。間違いなくあのひとは国防の要で、いなくてはならないひとなのでしょう。それでも得られる利益以上に、両親は苦労しています。周囲の視線も、扱いも、サヴァン家に好意的ではない」

 

 挑むみたいな目線で、アリスティアが私の目を見据える。

 

「あのひとが努力していることも、認めます。あのひとは今まで、魔力を暴走させたことがない。それは並々ならぬ努力の賜物でしょう。けれどあのひとがどれだけ素晴らしい人間で、あなたたちにとって愛すべき人間だったとしても、ワタシから見ればあのひとは家族を苦しめ、両親に並々ならぬ苦労を掛ける、悪なのです」

「それはアルねぇさまが、サヴァンの魔法を持つから?」

「そうです。あのひとは、強過ぎる」

 

 アルねぇさまを姉にあるいは娘に持つことで、アリスティアとその両親がどんな苦労をしたか知らない。

 けれどそう言うなら、最も苦労しているのはアルねぇさまじゃないの?

 

「けどそれは、アルねぇさまのせいではないじゃない。それに、アリスが苦労したならアルねぇさまだって、」

「それくらい、わかっています」

 

 アリスティアが私の言葉を遮り目を閉じると、首を振る。

 

 再び目を開き私を見たアリスティアの表情は、自嘲と諦め、そしてなにかよくわからない感情が入り交じった、どこか寂しげなものだった。

 

「それでも、なにも恨まずにいられるほど、ワタシは強くないのです」

 

 深くため息を吐いて、アリスティアがうつむく。

 

「あなたから見れば筋違いで、わがままな主張でしょう。嫌ってくれて、構いません。けれどワタシは母さまの…いえ、なんでもありません。とにかくワタシは、あのひとに味方する気はないのです」

 

 アリスティアがもういちど首を振り、言葉を切った。

 もう言い訳はしない、と言う意思表示。

 

 学院を案内したときに感じた通り、真面目な子なのだろうなと感じたわ。

 愚かなほどに真面目で、真っ直ぐな子。

 

 やっぱり似ている、と、思ってしまったのよ。

 彼女はアルねぇさまの、妹だと。

 

 それでもアルねぇさまに敵意を示した彼女を、受け入れるわけにはいかないの。

 

「れりぃは、アルねぇさまの味方よ」

 

 宣言した私に、アリスティアが敵意を向けることはない。

 

 不器用なところは、似ていないわね。

 

 くすっと笑って、その手を取ったわ。

 

「だから、あなたはれりぃと友だちになってね」

「え?」

 

 意味がわからない、と言う顔をしたアリスティアを、笑う。

 

「近くで監視した方が、安心だもの。そばでアルねぇさまの素晴らしさを伝え続ければ、あなたの考えも変わるかもしれないし」

「…ワタシは、変わりませんよ」

「それでも良いわよ。れりぃが勝手に、話すだけ。良いじゃない。あなただって、敵の動向がわかった方が都合が良いでしょ?」

 

 呆気に取られたように私を見つめたあとで、アリスティアがため息を吐いた。

 

「それならワタシは、あのひとの悪口を吹き込みましょうか」

「受けて立つわ」

 

 微笑んで、頷いて見せる。

 敵対関係にあるからと言って、友好を結べないわけではないわ。

 アリスティアがアルねぇさまを嫌うからと言って、私がアリスティアを嫌いになる必要はないのよ。アルねぇさまだって、それで怒ったりしないもの。

 

 私が差し出した手を、アリスティアはそっと握ったわ。

 固唾を飲んで成り行きを見守っていた子たちが視線を見交わしたあとで、アリスティアへと目を向ける。

 

「わたくしとも、仲良くして下さいませ」

「エリアル先輩の素晴しさを、しかとお伝え致しますわ!」

「この学院に入るなら覚悟してね!嫌でも、エリアル先輩の話を聞くことになるわよ!」

 

 口々にアリスティアに言って、その手を握る。

 アリスティアは最初こそ驚いていたが、やがて柔らかな笑みを浮かべたの。

 

「まず、ひとつめね」

 

 そんなアリスティアへ、胸を張って言う。

 

「アルねぇさまはこんなに、人望があるのよ。この学院で、大々的に人気を集めているんだもの!」

「本人は気付いていらっしゃいませんけどね」

「あら!そこが良いのでしょう?」

「そうね。そこも魅力だわ」

 

 かしましくアルねぇさまについて語っても、アリスティアは不機嫌になりはしなかった。理解しよう、と言う態度が伺えたわ。

 

 どうやらアルねぇさま本人が関わらなければ、ある程度は冷静でいられるらしいわね。

 そんなことで熱く語り合っていたところに、話の本人が乱入して来た。

 

 私たちの会話には気付いていないようすで、アリスティアに微笑み掛ける。

 

「アリス、あちらの、モーナ・ジュエルウィード侯爵令嬢が、わたしとあなたが並んだ写真を撮りたいそうなので、付き合って頂けますか?」

 

 やはり本人には敵意を向けるらしいアリスティアが、顔をしかめた。

 

 アルねぇさまと写真なんて、私だったら喜んで撮るのに。

 

「は?どうしてあなたと」

 

 眉を寄せて答えたアリスティアを、こっそりつねった。

 

「なんですか」

「ずるい」

「なら代わって下さいよ」

「むう」

 

 私たちの小声の応酬をよそに、アルねぇさまが言う。

 

「良いでしょう。今日の記念です。それに、」

 

 アリスティアに顔を寄せて発されたその先の言葉は、聞き取れなかった。どうやら魔法で、聞き耳を遮断したらしい。

 

 なにやら言い合いしたあとで、アルねぇさまが無理矢理アリスティアを立たせて引っ張って行く。

 完全に野次馬と化した私たちの視線が、いっせいにそのゆくえを追ったわ。

 

 壁際に立ったアルねぇさまが、アリスティアの肩を抱いて満面の笑みを浮かべる。笑顔を浮かべていることの多いアルねぇさまでも、めったに見られないような満面の笑みよ。

 目の当たりにした周囲から、悲鳴に近い歓声が上がったわ。

 

 笑みのままアリスティアになにか言葉を掛けていたアルねぇさまが体勢を変えた。後ろから抱き締められたアリスティアに、羨ましい、と言う呟きが漏れる。

 

 どんな言いくるめをしたのだろう。満面ではないものの、アリスティアが笑みを浮かべた。そんなアリスティアの頭に、アルねぇさまが頬を寄せる。ジュエルウィード侯爵令嬢が、すさまじい早さでシャッターを切っている。

 

「オーリィ」

 

 阿鼻叫喚の争乱のさなか、ツェリが私に近付いた。

 

「アリスと、記念写真を撮ったらどうかって」

 

 意図を察して、ほかの子たちに素早く伝言を回す。

 アルねぇさまから解放されたアリスティアを、すぐさま捕まえて連行したわ。

 

「ほらほら、笑って笑って」

「あなたもあのひとも、強引過ぎます」

 

 私にかじり付かれたアリスティアが、半眼で呟いた。

 ひとこと毒吐いてから、アリスティアはお手本のような笑みを浮かべる。その脇腹を、くすぐってやったの。

 

「ちょ、や、ふふっ、やめっ」

「せっかくの記念なんだから、楽しそうにしなさいよ!」

「なんっ、ひゃ、くっ、ははっ、もうっ」

 

 アリスティアが反撃しようと、手を伸ばして来る。アルねぇさまに喰って掛かるだけあって、気骨のある子よね。

 逃げようとしたけれどアリスティアの方が腕が長いので、捕まってしまう。

 

「きゃっ、ははっ、ふっ、はははっ」

「仕返し、よっ!っふぁっ、ええっ!?」

 

 笑い転げる私に勝利を宣言したアリスティアに、べつの子から魔の手が伸びた。

 

「にっ、ふふ、二対一はっ、ふぁっ、ずるいわ!」

「それなら、私も参戦しようかしら?」

「え?きゃあっ」

 

 次々と参戦者が増えて行き、きゃっきゃと笑いながらふざけ合う。

 そんな私たちを、ジュエルウィード侯爵令嬢が楽しげに撮っていたわ。

 

「もうっ、いい、加減に、してっ」

 

 いい加減怒りそうなアリスティアのようすに、魔法の言葉を発動する。

 

「そうね。ヴィックが見てるもの」

 

 ぴたり、と令嬢たちの動きが止まるなかで、アリスティアだけがきょとんとしている。

 王太子の前でとんだ醜態をさらしたと気付いた令嬢たちは青ざめているが、実際のところヴィックはさほど気にしていないでしょうね。だって、ヴィックはどうせアルねぇさましか気にしていないもの。

 

「ヴィック…?」

「王太子殿下よ」

「あ…」

 

 取り繕うようにすまし顔で整列する令嬢たちのなか、ひとりだけ理解していなかったアリスティアそう教えれば、目を見開いて絶句した。

 

「ご、ご無礼を…」

「ヴィックなら、どうせべつに気にしてないわよ。テオもアーサーもね。ソファでうたた寝してるアルねぇさまを、微笑ましそうに眺めてるようなひとたちだもの」

「姉さんなにやってるのよ…」

 

 思わずと言ったように漏れた言葉に、内心驚く。

 あなたとかあのひととか、他人行儀な呼び方ばかりだと思っていたのに、姉さん、なんて、ずいぶんと親しげな呼び方をするじゃない。

 

 どうやら自分が呟いた内容に気付いていないらしいアリスティアを面白く思いながら、さらなる情報を渡すことにする。

 

「アルねぇさまなら、ヴィックの膝枕で寝ていたこともあったわよ?」

「王太子殿下の、膝枕?」

「ちなみにれりぃは、アルねぇさまの膝枕でお昼寝したことがあるわ!」

 

 唖然としたアリスティアにそう伝えるが、そんなことよりヴィックの膝枕らしいわ。

 

「そんな状況で寝る姉さんもたいがいだけれど、それを許す王太子殿下もどうなの…」

 

 額を押さえてぼやく言葉は、しごくもっともなものだったわ。

 ヴィックが好き好んで膝を差し出しているのだから、悪いのは全面的にヴィックよね。

 

「首輪の副作用らしいわよ?封印を更新したあとしばらくは、すごく眠くなるらしいけど、知らなかった?」

「…はい」

「まあ、アルねぇさまは初等部からクルタスに通っていたものね。アリスが知らなくても、おかしくはないわね」

 

 私だってツェリから伝え聞いただけだし、多くのクルタス生は単にお昼寝好きだと思っているでしょうね。なまじ黒猫なんて通り名を持っているせいで、ところ構わずうたた寝していても特に気にされていないわ。

 …それもどうなのかと思うけど、そこもアルねぇさまの魅力、よね。たぶん。

 

 アリスは少し難しい顔をしていたが、なにも言わなかった。

 お澄まし顔の整列写真が撮られて、記念撮影が終わる。

 

「そろそろ解散にしましょうか」

 

 ツェリの声掛けで、アリスティアとイェレミアスを校門まで送ることになる。アリスティアと並んで歩きながら、ふと思い付いて言う。

 

「ねぇ、手紙を書いても良い?」

「え?」

「手紙よ、手紙。まだあなたの入学まで数ヶ月あるじゃない。そのあいだ、文通に付き合ってくれても良いでしょ?」

 

 アリスティアはしばらく言葉の意味がわかっていなかったようだが、数拍ののちに理解して、目を見開いた。

 

「べつに、そこまでしなくても…」

「なによ、面倒なの?」

「そうじゃなくて、オーレリアさまだって、忙しいでしょう?」

「れりぃ、よ」

「はい?」

「オーレリアさまじゃなくて、れりぃ。敬語もいらないわ」

 

 表面だけで友人面をしようなんて言っていないのに、まったくこの姉妹は、そんなところまで似ているのね。

 

「忙しくたって、友だちと話す時間を惜しんだりしないわよ。良いわ。返事がなくても勝手に書くから。サヴァン家に送れば良いんでしょ?」

「え、あ、お返事、書きます、じゃない、書く、よ」

「そう。約束よ?クルタス中等部宛に、オーレリア・ミュラーの名前を添えて出せば届くから」

 

 最初の手紙には、ヴィックに膝枕されたアルねぇさまの写真を同封してあげましょう。こっそり悪巧みをしながら、私はアリスティアに微笑み掛けた。

 

 アリスティアが目を泳がせ、少しうつむいてぼそりと呟く。

 

「…ありがと」

「え?聞こえなかったわ。なにか言った?」

 

 ばっちり聞こえていたけど、そう聞き返すと、アリスティアは顔を赤らめてそっぽを向いた。

 

「なんでも、ない」

「嘘。なにか言ったでしょ?なに言ったのよ」

「なんでもないから。ほら、校門に着くよ。…今日は案内、ありがとう。また、春に会いましょう」

 

 早口にそう言い捨てると、イェレミアスの方へと駆け寄って行ってしまう。

 

 アルねぇさまでは見られない可愛らしい反応に、くすっと笑う。

 

「ええ。またね」

 

 もう届かないとはわかっていたけれど、そう呟いてその背を見送ったの。

 

 

 

 最初の手紙に写真を同封すると、写真が撮られた経緯と写真の入手法を問う返信が帰って来たわ。

 アルねぇさまと写真にまつわるあれこれを丁寧に教えてあげれば、

 

『あのひとが自分の笑顔は売れると言っていましたが、そう言うことだったのですね。なにをやっているのだか…。まさかとは思いますが、私の写真まで売られてはいませんよね?』

 

 と、冷静に見せかけてわずかに文字が乱れた手紙が帰って来た。

 

 心配しなくても、兄妹の写真が出回ることはアルねぇさまが阻止したわよ、と教えてあげる。

 ご兄妹の写真が…っ、と嘆く子たちは、わたしだけでは不満ですか?とアルねぇさまに問われて撃沈していたわ。出回ったのはお澄ましの集合写真だけだから、これならばアリスティアに掛かる不利益も少ないでしょ。

 

 アリスティアの手紙はいつも敬語で、敬語はやめてと言ったのに、手紙は残るものだからと断られたわ。細心の注意を払っているらしい手紙の文章は丁寧で、文字も綺麗よ。

 アルねぇさまも敬語で話すようしつけられているらしいし、やはりサヴァン家のしつけは厳しいのかしら。

 

 アリスティアは真面目で、からかうと面白いわ。

 私がアルねぇさまの話を投げると、すごく不服そうなひとことが帰って来ることがあるのよ。

 

 写真の話にも、

 

『あれだけ誘拐されていて、まだ懲りないのでしょうか』

 

 と、呆れたようにひとこと述べられていたわ。

 

 その言葉が気になって、アルねぇさまに会いに行った。約束もなしに訪れた放課後のサロンには、偶然にもアルねぇさましかいなかった。ソファに並んで座り、アルねぇさまの淹れてくれたお茶で他愛もない雑談をしたあとで、問い掛ける。

 

「アルねぇさま、誘拐されたことがあるの?」

「え?」

「アリスから聞いたのよ。アルねぇさまが誘拐されたって」

「アリスから…。確かに、幼い頃に何度か誘拐されたこと、が」

 

 頷いて答える途中で、アルねぇさまの言葉が止まる。

 どうしたのかと見上げれば、目を見開いて口許を押さえていた。

 

「アルねぇさま?」

「あ、いえ、なんでもありません」

「なんでもない顔じゃないわよ?」

 

 指摘すれば、困ったように笑ったアルねぇさまが肩を落とす。

 

「少し、自己嫌悪に陥って…どうして忘れていたのか…」

「なにかあったの?」

 

 アルねぇさまは頷いて、唇を噛んだ。

 うめくみたいな声で、吐き出す。

 

「わたしの巻き添えで、誘拐されたことがあるのです。アリスが」

 

 アルねぇさまの表情には、自分を責める気持ちがありありと浮かんでいたわ。

 慰めるにしろ、共に嘆くにしろ、詳細を聞かなければ始まらないわね。

 

「それは、アリスひとりが?」

 

 問い掛けた言葉に首を振り、顔をうつむけたままアルねぇさまが語り出す。

 

「わたしも一緒でした。たしか五歳のころ、家族で出掛けて、両親が目を離した隙に…。アリスを人質にわたしをぎょそうとしたのでしょうね。アリスをべつの部屋に連れて行こうとした犯人を、アリスを傷付ければ殺すと、脅しました。いいえ。脅すどころか、アリスを乱暴に扱ったので魔法で倒しましたね、大の男数人を、アリスの目の前で」

 

 両手で顔を覆ったアルねぇさまは、泣いているみたいに見えたわ。

 怖がられないわけがない、と、小さな声で呟くの。そんなに、悲しまないで欲しいのに。

 

「誘拐の主犯は魔法使いで、そのあとすぐわたしは強い魔法を封じられました。そのときはまだ魔法封じに上手く対処出来なくて、誘拐犯の中でアリスをひとりにしてしまいました」

 

 アルねぇさまは明らかに後悔しているようすだけど、五歳児が誘拐されてどうにか出来る方がおかしいと思うわ。

 私のようすを気にする余裕もないのでしょうね。アルねぇさまは、顔を覆ったまま話を続けたわ。

 

「それでもどうにか魔法封じを破ろうと足掻いて、ようやく無理矢理に破れたところでわんちゃんが来て…?それから、ああ、そうです、そこで無理がたたって倒れてしまって数日目覚めなくて、その後もしばらく高熱で寝込んで…」

 

 はた、とアルねぇさまが言葉を止める。

 顔から手を離し、呆然と呟いた。

 

「わたし、アリスが無事に助かったのかを、知りません」

「今無事なのだから、無事でしょう?」

「生きているからと行って無傷とは…わたしは二週間以上寝台から出られなくて、そのあとも、わんちゃんにひと月捕まっていて、でもそのあいだ、アリスのことを訊くくらい出来たはずなのに…熱で混乱して、アリスも誘拐されていたことを忘れていた…?」

 

 青ざめたアルねぇさまの背に手を伸ばして、そっとなでる。

 最低の姉ですね、と珍しく弱音を吐いたアルねぇさまを、抱き締めたわ。

 

 いつもは大きく見える身体は、触れてみればこんなにも細い。

 

「アルねぇさまのせいじゃないわよ。悪いのは、誘拐犯でしょ」

 

 なんの気休めにもならないであろう言葉しか吐けない自分に、歯噛みする。どうしてもう少し、マシなことが言えないのよ。


「けれどわたしさえいなければ、アリスは」

「アルねぇさまがいなければ、今のツェリはいなかったでしょうね。そもそも、バルキア王国が存続出来ていたかも怪しいところだわ」

 

 誘拐されて、乱暴に扱われて。心に傷を負って外出を恐れるのは、仕方のないことかもしれない。そんな過去を持つ娘ならば、両親だって外出したがらなくても強制はしにくいでしょうね。

 それでも外に出たのがアルねぇさまで、内に籠ったのがアリスティアなのね。

 

 思ったよりもひどい経験を持っていたアリスティアに、少し尊敬の念を抱いわ。だってそれでも今は外に出て、笑って見せたのでしょう?そして守られた学び舎とは言え、両親の庇護下を離れることになる、学院入学を決めた。

 それは、どれほどの勇気かしら。

 

 大丈夫そうならアリスティアにも話を聞こうと心に決めたけど、とにかく今はアルねぇさまね。

 

「いなければ、なんて、悲しいことを言わないで。れりぃは、アルねぇさまがいなくちゃ嫌よ」

 

 細い身体をぎゅうぎゅうと抱き締めて、言い募る。アルねぇさまの心が、少しでも晴れるように。

 

「過去なんて変えられないじゃない。魔法を使ったのはアリスを守るためだし、忘れてしまったのは熱のせいでしょ?それで自分を責めるなんて馬鹿よ。そんなことするくらいなら、未来を変えるために動くべきだわ」

 

 アリスティアはアルねぇさまが誘拐されたとは書いたが、自分についてはなにも書かなかった。それが忌避なのか、大したことがないと判断してなのかは、わからないけど。

 

「今思い出したなら、謝れるじゃない。アリスが生きていて良かったわね。謝罪も話し合いも出来るわ。今からじゃ過去は変えられない。でも、今から未来は変えられるのよ!」

 

 励ますように、その背を叩く。

 

「れりぃ、アリスと友だちになったのよ。直接じゃ上手く行かないなら、れりぃがふたりを繋ぐわ!ね、だから、ひとりで自分を責めたりしないで、れりぃを頼って、アルねぇさま」

 

 アルねぇさまは自分が原因でアリスティアに嫌われていると思っているようだけど、たぶん問題はそんなに簡単じゃない。複雑で、入りくんで、ねじ曲がっている。

 それをほどく役目は、きっと当事者よりも第三者の方が上手く出来る。

 

 普段より冷たくなった手を取り、両手で握った。

 

「れりぃと手を繋いで、アルねぇさま。そうしたら、もう片手でれりぃはアリスと手を繋ぐから。こじれてしまっているのなら、そこから始めましょ?大丈夫よ。まだいくらでも挽回は利くわ」

 

 少し潤んだ漆黒の瞳が、私を見つめる。

 不安げに揺れていた目が、力を取り戻した。

 

「そう、ですね。まだ、間に合う」

「そうよ。まだ間に合うの」

「未来は、変えられる」

「その通りよ。アルねぇさまには、れりぃがついているんだもの。変えられない未来なんてないわ!」

 

 握っていた手が、きゅっと握り返されたわ。私の大好きな笑顔が、アルねぇさまの顔に浮かぶ。

 

「ありがとうございます。心強いです」

 

 アルねぇさまを支えられる。そのことが嬉しくて、私の顔にも笑みが浮かんだの。

 

「任せて!れりぃが必ず、ふたりを繋げて見せるんだから!アルねぇさまもアリスも、素敵なひとだもの。仲が悪いなんて、もったいないわ!」

 

 だから上手く行ったら褒めてね、と、アルねぇさまにすり寄る。

 

 こう言えば、アルねぇさまの感じる負担が減るでしょうから。

 

「…上手く行ったら、さんにんお揃いのぬいぐるみを作りましょうか」

「素敵!宝物にするわ!」

 

 アルねぇさまの提案に、目を輝かせて頷く。

 さんにんでお揃いのぬいぐるみ、なんて、素敵な約束だわ。けれど今はなにより、アルねぇさまが実現を予測した言葉を言ってくれたことが嬉しいのよ。

 

 必ず、こじれた関係を修復して見せるわ。

 固く決意して、頭をなでるアルねぇさまの手のひらに目を細めたの。

 いつかアリスティアも、この手で目を細める日が来れば良い。

 

 …きっとアリスティアも、本当はアルねぇさまを嫌いたくないんじゃないかと、思ったから。

 

 

 

拙いお話をお読み頂きありがとうございます


このお話でいちばん器が大きいのは

実はオーレリアさんなのでは…?


『黒猫と愉快な悪役たち』では

こっそりと視点による見え方の違いに重点を置いていたりしますので

アリスさんの印象が変わった!と思って頂けると

作者が喜びます

と言うか

書いていてアリスさんがお気に入りになったので

前話のアリスさんが本当のアリスさんだと思われると泣けます( ;∀;)




今話の更新に合わせて

エイプリールフールのお話を移動させました

場所は変わってもお話の内容は変わっていませんので

お気になさらないで下さい<(_ _)>


次話は嘘でなく間が空いてしまう可能性が高いですが

続きもお読み頂けると嬉しいです

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