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取り巻きCは音で遊ぶ

取り巻きC・エリアル視点/義弟アーサー視点


一話目の一年前くらいのお話


アーサーが暗いです

 

 

 

 リーン…ゴーン…ガーン


 鐘楼カリヨンの中で、鐘の音が反響して重なり合う。


 ガーン…


 目を閉じたまま、鐘の音に耳を澄ませた。


 音は波である。

 この鐘楼カリヨンの中で鐘の音を聴くと、その言葉の意味を実感出来る。

 証明も、可能だ。


 カーンコーン…


 鐘楼カリヨンの中にいるのは長椅子に寝転ぶわたしひとりで、奏者の席に座るものはいない。


 キーン…ゴーン…


 にもかかわらず、鍵盤は動き、鐘の音は響く。


 ゴォ…ン、ゴォ…ン、コーン…


 鐘の音はよく響いて心地良いけれど、響き過ぎていけないな。

 エリアルになってから覚えた楽譜をさらいながら、わたしはぼんやりと思った。


 鐘の音と言われると、いまだにウェストミンスターの鐘を一番に思い出してしまう。

 この学校のチャイムは、違う音なのに。


 この世界に、存在しない曲。


 どんなに聴きたい曲でも、“知らない”曲を鐘の音で響かせるわけには行かない。


 いまだに耳馴染みのないと感じてしまう曲を、わたしは目を閉じて聴き続けていた。


 いつか、この音が懐かしいと、感じる日が来るように。




 何時間、そうしていただろうか。

 扉を開く気配に、はっと身を起こす。


「ツェリ?」


 ここに来るとしたら頻度が高いのはツェリだけれど、今日は、休日だ。

 読むように言った本にわからない箇所でもあっただろうかと、考えながら視線を向けた先にいたのは、ツェリよりも小柄な人影だった。


 逆光で顔は見えないが見覚えのある髪色に、目をまたたく。


 アーサー・ミュラー公爵子息。

 ツェリと養子縁組みの計画が進みつつある家の末っ子で、王太子の取り巻きBでもある、可愛らしい顔立ちの子どもだ。

 わたしより二つ年下のはずだから、今は初等部の四年生か。


「…失礼しました。アーサーさま、何かこちらに用事ですか?」


 ツェリの養子縁組みのために、ミュラー公爵家には何度も出入りしていた。

 だから、彼とも面識がある。


 男ばかりな三人兄弟の末っ子だが、下の兄君あにぎみでも八歳差と、兄弟との年の差が広い。

 兄君ふたりは公爵閣下そっくりの美丈夫だが、アーサーさまは母君に似て女顔…こほん、甘めの優しげな顔立ちをしている。


 鐘楼カリヨンの立ち入り許可は公爵子息なのでお持ちのはずだけれど、用事があるかと考えれば、思い付かない。


 アーサーさまの後ろで、扉がパタンと閉まった。


 差し込む光が途切れて、表情がわかるようになる。


「魔法で…弾いてたんですか…?」


 どうして、彼はこんなに悲しげな顔をしているのだろう?


 奏者なしで演奏しているところを見られては、否定のしようもない。


「はい。すみません、うるさかったですか?」


 やっぱり、何時間も鐘を鳴らし続けるのは騒音被害で怒られるだろうか。

 よく響くと言っても本場(?)イギリスはビッグ・ベンほどには、響き渡らないはずなのだけれど。届いて隣の初等部第一校舎まで。校舎から離れた位置にある宿舎群には防音の結界もあって、鐘の音は届かない、はず。


 騒音で苦情が来るなら音を漏らさない工夫をしなければいけないなと思考している間に、アーサーさまは間近に歩み寄って来ていた。


「うるさくありません。鐘の音が聞こえて、綺麗だったから、誰が弾いてるんだろうって思ったんです。鐘楼カリヨンの鍵盤は、固くて僕には動かせませんから」

「綺麗と言って頂けると、嬉しいですね」


 綺麗と言うわりに、表情は今にも泣きそうだけれど。


「ここで、聴いていても良いですか?」

「どうぞ」


 頷いて、自分の隣を示す。

 すぐ横に座る姿に、かなり参っているのかもしれないと感じる。


 ほら、落ち込んだときって、妙に人恋しくなったりするから。


 無意識にアーサーさまの手を取って寄り添い、わたしは彼に微笑みかけた。


「アーサーさま、聴きたい曲はありますか?」




 鐘の音が、響く。


 外で聴いた以上に迫力ある音の力に、鳥肌すら立ちそうだった。。


「…っ」


 知らずにじんで、ぼろりとこぼれた涙を、あわてて拭う。


 けれど、僕に寄り添って目を閉じる彼女は、涙に気付かないように鐘の音に聴き入り、楽しげな笑みを浮かべていた。


 優しく握られた手と、猫がじゃれつくみたいに寄せられた身体が、温かい。

 与えられる体温が心を溶かし、またぼろりと涙がこぼれた。


 すがるように繋がれた手を握れば、強く握り返された。


「…ふっ、…ひっく」


 堪えきれなくなった嗚咽が、鐘の音に混じる。


 うらやましくて、嫉妬したはずなのに。


 こんなに離れて、目を閉じても鍵盤を操れる魔法の才能。国を揺るがすほどの、強大な魔力。


 僕が望まれて、得られなかったもの。


 肩に頭が擦り寄せられる。ふわりと香る、日溜まりの香り。


 ねたましいのに嫌いになれなくて、僕は泣きながら鐘の音に聴き入った。




 僕は、文門筆頭と謳われるミュラー公爵家の、三男だ。

 姉妹はいないし、兄上たちとは年が離れていて、学院に入るまではヴィックとテオと叔父の娘だけが、年の近い知り合いだった。


 ほんとうは、ヴィックとテオと同じ学院に入るはずだった僕が、このクルタス王立学院に入ったのは、こちらの方がより高度な魔法の授業が受けられるから。


 僕は、魔法の才能を期待されて生まれた子供なんだ。

 兄上たちに魔法の才能がなかったから、今度こそ、と思って。だから、兄上たちと年が離れてる。


 魔法の才能があるとわかるのは、普通七歳前後、遅くとも十歳ころにははっきりすると言われていて、兄上たちには七歳になっても魔法の才能が現れなかったから、僕が生まれることになった。


 魔法の才能のある子供のいる家は、それだけで少し優遇を受けられたりするから。


 でも、家の期待を受けて生まれた僕に、魔法の才能は現れなかった。


 僕はもう、十歳になる。

 父上たちのがっかりした顔が見たくなくて、僕は学院の宿舎に入り浸った。休暇も出来るだけ帰らず、学院に居座り続けた。


 そんな中で、家から呼び出しを受け、伝えられたこと。

 ツェツィーリア・シュバルツを、ミュラー公爵家の養女にする。


 ああ、見捨てられたんだと、思った。

 僕の代わりに天才的な魔法の才能の持ち主を養子にしたんだって。

 僕は、家族の期待に答えられなかったんだって。


 せめて迷惑はかけまいと、笑顔で義姉になるひとを迎え入れた。

 けれど本当は、悔しくて、悲しくて、仕方なかった。


 義姉上は公爵家に必要な、貴重な存在で、僕は公爵家に不必要な、お荷物だ。


 年を追うごとに苦しくなってくる学院での生活だったけど、家にいるよりはずっとマシで。

 それでも騒がしい宿舎にいるのは耐えられなくて、逃げるように外に飛び出した。


 そんなとき、聞こえてきた、鐘の音。


 鐘楼カリヨンがあることは知っていたし、入館許可も持っていた。

 放課後や、休日、ときおり聞こえてくる鐘の音に、耳を澄ませることもあった。


 でも、今ほど心を揺さぶられたことは、一度もなくて。

 僕の足は自然と鐘楼カリヨンへ向かい、後先のことも考えず扉を開けていた。




 長椅子の並んだ、礼拝堂のような空間。

 扉を開ける音に反応してか、長椅子に寝そべっていた人影が起き上がってこちらを向く。


「ツェリ?」


 呟いた声も姿も、覚えのあるものだった。

 建物の中には彼女ひとりきりで、響いていたはずの鐘楼カリヨンの奏者席にひとの姿はない。


「失礼しました。アーサーさま、何かこちらに用事ですか?」


 エリアル・サヴァン子爵令嬢。ツェツィーリア・シュバルツの友人で、付き添いとして公爵家に共にやって来ていた。

 ツェツィーリア・シュバルツと同じく、いや、それ以上に、魔法の才能に優れた、天才児。


 この鐘楼カリヨンの意味を思い出して、顔が歪む。

 演奏に適度な力を要する鐘楼カリヨンは、物理系の魔法の鍛錬に利用される。


 僕の心を動かした、あの音色は、


「魔法で…弾いてたんですか…?」


 僕が期待され、渇望して得られなかったものが、あの鐘の音の正体だったのか。


 エリアル・サヴァンが小さく首を傾げて、僕を見返した。


「はい。すみません、うるさかったですか?」


 うるさくは、なかった。

 心を揺さぶる音色に、惹かれてここまで来たのだから。


 ためらって、それでも宿舎に帰る気にはなれなくて、僕はエリアル・サヴァンに歩み寄った。


「うるさくありません。鐘の音が聞こえて、綺麗だったから、誰が弾いてるんだろうって思ったんです。鐘楼カリヨンの鍵盤は、固くて僕には動かせませんから」

「綺麗と言って頂けると、嬉しいですね」


 エリアル・サヴァンはそう言って笑ったけれど、僕の表情を気にしているみたいだった。

 きっと僕は、嫉妬に歪んだとても醜い表情をしているのだろう。


「ここで、聴いていても良いですか?」

「どうぞ」


 化け物なんて呼ばれもするひとだけど、実際は優しいひとなんだろう。

 鍛錬の邪魔をしようと言う僕を、エリアル・サヴァンは快く受け入れた。


 示された隣に、座る。


 家族ですらそこまで近付かないような位置に座ったと気付いたのは、エリアル・サヴァンの真っ白な手が僕の手を握ってからだった。


 こちらを向いた顔は、柔らかい笑顔で。


「アーサーさま、聴きたい曲はありますか?」


 当たり前のように問われた言葉に、僕は目をまたたいた。




 隣で泣く気配に、気付いてないわけじゃなかった。

 気付いてないわけじゃないけれど、どうすべきか判断できなくて。


 これがツェリだったら、抱き締めて理由を聞いて慰めた上で叱咤激励するし、女の子相手なら抱き締めて髪をなでて、いくらでも愚痴を聞いてあげるのだけれど。


 あいにくと、男を慰める手段は知らない。


 とりあえず、繋いだ手を握られたので、握り返す。


 押し殺した嗚咽が、耳に届いた。

 まだ、ほんの子供なのに、ずいぶん抑圧された泣き方だ。


 寄り添われるのが嫌じゃないならと、さらに身を擦り寄せる。


 泣きたいなら泣けばいいし、人肌が恋しいなら隣に座るくらいはする。

 鐘の音くらいいくらでも聴かせるし、話を聞いて欲しいなら聞く。


 だから、もっと大声上げて泣けばいい。

 そんな、溜め込んで耐えようとしないで。


 励ましたい、と思っていたからだろうか。リクエストされた曲が終わったあと、無意識に続けた曲は、“知らないはず”の曲で。しまったと思って、でも止めるのも不自然だと、開き直って続けることにした。

 何か聞かれても、適当に演奏したから覚えていないで、通してしまえばいい。


 ずっと、わたしを支えてくれていた曲なんだ。一度くらい、盛大に響かせたって良いじゃないか。


 その後も失態をごまかすために曲数を重ね、気付いたときには隣からの泣き声は収まっていた。




 はっと、気付いて目を開けると、見知らぬ景色が目に入った。

 右腕にかかる重さと、聞こえて来る寝息に混乱する。


 びくりと揺れた肩で目覚めたのか、腕にかかる負荷が減った。


「ああ、目が、覚めましたか?」


 目を細めて僕を見る、黒髪黒目の少女。

 眠る前の記憶を思い出して、自分の失態を理解する。


 その反応を見る限り、先に寝たのは僕なのだろう。

 聴きたいと言った演奏中に泣き出して、挙げ句泣き疲れて眠るなんて、情けない。


 羞恥にうつむく僕の前で、彼女もまた、少し照れたように微笑んだ。


「ごめんなさい。少ししたらお起こししようと、思っていたのですが…」


 わたしも、寝てしまって、と、消え入りそうな声で言う。

 妬ましいはずなのに。どうしてだろう。彼女のことはやっぱり、嫌いになれないみたいだ。


 ひとと言うより、猫を思わせる雰囲気が、いけないのかもしれない。テオいわく、猫は正義らしいから。

 テオが彼女に会ったら、面白いかもしれないな。


 なんとなく、心が落ち着いて来て、笑顔を作ることが出来た。

 充分泣いて、眠ったからかも。鐘の音も、心を安らげてくれた。


「エリアル・サヴァン子爵令嬢、でしたよね?」

「ええ。名前を覚えて頂けていて、光栄です」


 にこっと微笑む彼女と首元の鈴を見て、父上の言葉を思い出す。

 あの歳で、あれだけ感情を操れるとは、どんな生活を送って来たのだろう、と。

 彼女はころころと表情を変えるわりに、一定以上に心を揺らすことがほとんどないそうだ。


 自衛手段とは言え、すさまじい能力だと感心する父上の言葉に、エリアル・サヴァンをうらやましく思った。


 僕は父上に、認めて貰えるようなことが、出来ないから。


 安らいだはずの心にまたさざなみが立ち始めたとき、ぺし、と、真っ白い手が頬に触れた。


 エリアル・サヴァンが、僕を見つめていた。


「憶測ですので間違っていたら申し訳ありません」


 彼女は男装しているし、話し方はどこか執事を思わせる。令嬢なのに、ぎらぎらびらびらしていない、不思議な子だ。

 そう言えば義姉上も、あまりぎらぎらしていなかったな。


「もしやアーサーさまは、ミュラー公爵が魔法の才能を持った子供を得るために、ツェリを養子になさったと勘違いしておられませんか?」

「え?」


 この猫、心でも読めるのだろうか。


 図星を指されて絶句した僕の前で、エリアル・サヴァンは深々と溜め息を吐いた。


「あの、馬鹿公爵…」


 額を押さえて唸ったあとでおもむろに椅子を立ち床に膝を突いて、ふかぶかと、頭を垂れた。


「ご心労をおかけしてしまい、申し訳ありません」

「え、ちょ、なにやってるの!?」


 思わず普段から心がけている口調も吹っ飛ぶ。

 わたわたする僕に構わず、エリアル・サヴァンは頭を下げたまま言う。


「わたしが公爵閣下に、ツェリの後見と養子縁組みをお願いしたのです。公爵閣下はアーサーさまに歳の近い兄弟が欲しかったからと、養子縁組みを受け入れて下さって…。わたしのわがままが、アーサーさまを悩ませてしまい、申し訳ありません」

「いや、ねぇ、大丈夫だから、そんなところに膝突かないで、顔上げて?ほら、立って立って。ああもう、膝汚れちゃってるよ?」


 とにかく慌てた僕はエリアル・サヴァンを立たせて、膝に付いた汚れを手で払ってあげた。


 エリアル・サヴァンが、きょとん、と僕を見下ろしたあとで、ふわっと微笑む。


 花が綻んだみたいな、愛らしい笑顔だった。


 とくん、と心臓が跳ねる。

 なんだかもう、いろいろな意味で僕の心を落ち着かせない子だ。


「あなたがツェリの義弟で、良かったです」


 エリアル・サヴァンの言葉を聞き、さらに彼女の謝罪内容もようやく理解して、僕はぽかんと彼女を見上げた。


「おねぇさんが、父上に?」

「はい。頼みました。ツェリの立場的に、生半なまなかな後見では不安でしたので」

「でも、だって、僕は…」

「おねぇさんって、呼ばれると少し嬉しいですね。これは公爵閣下からお聞きした話ですが、弟が欲しいと、お願いされたそうですよ?」


 エリアル・サヴァンが首を傾げで、にっと笑う。


「弟?」

「ええ。弟です。あなたの、下のお兄さまが、七歳のとき、誕生日のお祝いにお願いしたのだそうです。弟が欲しいと」

「…そんな」

「お兄さまに、ずいぶん愛されて育ったのではないですか?一年遅れのプレゼントを、彼はとても喜んだそうですから」


 言われて、兄上を思い出す。歳の離れた弟だと言うのに、下の兄上はよく僕と遊んでくれた。


「そうそう、あなたは小さいころ、お姉さまが欲しいとだだをこねたことがあるそうですよ?さすがに姉は難しいと、皆さん頭を悩ませたそうです。オーレリアさまが、何度も公爵家に呼ばれたのは、あなたのお姉さま代わりだったそうで」


 確かに一時期から、やけにレリィが遊びに来るようになった。姉上と言うより、遊び仲間だったけど。


 愛されて、たんだ。


 すとんと、理解出来て、心が軽くなる。


「僕は、魔法が使えなくても、良いんですか…?」

「ご家族の思いに関しては、ご自分で訊いてあげて下さい。あなたが思っていたことや悩んでいたことを全部話して、本当はどうなのか訊いてみて下さい。公爵閣下も兄君さまたちも、ひどく口下手みたいですから、しつこいくらいに追求して、いっそ泣いて見せると良いと思いますよ」

「泣いて良いんですか?」

「良いのです。末っ子は、家族を困らせるのも仕事ですから」


 困らせるのが仕事、なんて。

 思いがけない言葉に、ついつい笑ってしまった。


 エリアル・サヴァンも、一緒に笑ってくれて、


「あと、これはわたしの個人的な意見ですが」


 微笑んだまま、言ってくれた。


「わたしとしては、魔法を使える人間より、エリアル・サヴァンやツェツィーリア・シュバルツに普通に接してくれて、一緒に笑ってくれる方の方が貴重ですから、あなたが魔法を使えなくても、側にいて欲しいと思いますよ。わたしの弟になって欲しいくらいです」


 その言葉で、彼女を嫌いになれなかった理由がわかった気がした。


 貴族社会にあふれる、身分や肩書き、家柄や能力に固執するものたち。

 彼らと違い彼女は、心を見てくれていたのだ。


 だから彼女の演奏に心を揺さぶられたし、彼女に嫌いな気持ちを抱けなかった。

 …もしかして、一目惚れだったのかな?


 弟…ほんとうは弟よりも、なりたいものがあるのだけど。


「それじゃあ、アルねぇさまって、呼んでも良いですか?」


 今は弟として、好感度を上げておくね。

 あなたが大好きな義姉上ツェツィーリアと、僕が仲良しだったら、きっと嬉しいんでしょう?


 アルねぇさまにまた鐘の音を聴かせて欲しいとお願いして、僕は来たときと比べてはるかに軽い気持ちで帰り道を歩いた。

 一曲耳慣れない曲があったと指摘したときの、アルねぇさまの慌て振りが、すごく可愛かった。


 嫌で仕方なかった新しい義姉上を、心の底から歓迎する気持ちになった。




 その後、アルねぇさまの言う通り、父上と兄上たちに泣きながら悩みを打ち明けたら、三人どころか使用人たちにまで号泣で謝罪された。ちょっと怖かったけど、嬉しかった。

 アルねぇさまの助言についても話したら、さすがエリアル嬢だと褒めちぎっていた。

 さすがアルねぇさま。もう、父上たちの心を掴んでいたみたいだ。


 そのしばらくあと、僕に魔法の才能が開花した。

 しかも、アルねぇさまも得意とする、音を操る魔法だった。

 魔法の先生は悩みがなくなったからじゃないかって言ったけど、僕はアルねぇさまへの気持ちが奇跡を起こしたんだと思っている。


 僕がアルねぇさまと結婚したいと言ったら、家族みんなで応援してくれることになった。子爵家だろうが平民だろうが、アルねぇさまなら大歓迎だって。

 国王陛下にもお話ししたら、魔法の才能をもっと磨いたら認めて下さるそうだ。


 アルねぇさまのためだったら、僕はいくらでも頑張れると思う。

 僕はすぐに魔法を使いこなせるようになって、国王陛下を驚かせた。

 このまま鍛錬を続けるなら、認める日も近いかもしれない、と言って下さった。


 必ず、認められて見せようと、心に誓った。


 だから、アルねぇさま?安心して、僕のこと好きになって下さいね?






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


純真無垢を装った弟系腹黒って

需要ありますかね…(‥;)


腹黒密度の高い作品ですが

続きも読んで頂けると嬉しいです

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