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取り巻きCと罌粟の花束

取り巻きC・エリアル視点


前話続きにつき、必ず前話を読了の上今話をお読み下さいませ

そうでないとお話が全く理解出来ませんm(__)m

 


 

 その場でぶっ倒れなかったわたしを、褒めて欲しい。


 上がった息を整え、からからに乾ききって干からびそうに痛む喉を、無理矢理震わせる。


「あ゛…」


 みっともないくらい、掠れてか細い声が出た。


「も、うしわけ、あり、ません…部屋を、間違えた、みたいで…」


 ぐっと拳を握り締め、造り慣れた表情を造って、どうにか吐き出した。




 こんにちは、絶賛混乱中の取り巻きCことエリアル・サヴァン…ねぇ、わたしはエリアル・サヴァンで良いのかな?

 我らがお嬢さまにまで認識して貰えなくて、それで、取り巻きCなんて名乗って、良いのか?


 わからない。どうしたら?どうすれば?




 混乱の極みの中にいるわたしを、ツェリは心配してくれたらしかった。


「あなた、大丈夫?顔色が悪いわよ?」


 立ち上がって、わずかに歩み寄って来てくれるものの、手は伸ばさずに問い掛けるだけ。

 普段のツェリがわたしにするように、心配して頬や背中に触れてはくれない。


「確かにここは一般の生徒の立ち入りを禁止しているけれど、悪気なく一度間違えたくらいで叱ったりしないわ。だから、そんなに真っ青になる必要はないのよ。それとも、具合が悪い?医務室まで、運ぶひとを呼ぶ?」


 医務室まで行かずとも、休むならそこのソファで良い。医務室に行くとしても、いつもなら心配したツェリが付き添いを申し出るはず。


 わたしは、ここに、入っては駄目なの?

 あなたはもう、わたしを要らないの?


 違う。駄目だ。笑って。いまは、わらって。


 うつむきそうになる顔を気合いで持ち上げて、微笑んだ。


「大丈夫です。お騒がせして申し訳ありません。失礼いたします」

「え、ちょっと」


 呼び掛ける声に答えもせず、扉を開けた。バリアフリーのノンレールスライドドアは、滑らかに動いて音も立てずに閉まった。


 廊下であることも忘れて、走り出す。


 ぱたぱたと、リノリウムの床を叩く少し大きめのスリッパが、今にも脱げそうだ。

 息が乱れて、苦しい。


 ああでも、どうか、流れないで。ここで泣いては、駄目。


 真っ白で、明るい、廊下。

 ここは、そう、いつもの、病院の、


「…え?」


 いつもの?


 唐突に状況に気付いて、はたと足を止める。


 見回した、周囲。白を基調とした壁と床。つやつやとした軽そうな金属製の手すり。両側にはプラスチックを表面に張られたスライドドアが並び、頭上から真っ白な蛍光灯が煌々と明かりを落としている。鼻を突く、清潔さを感じさせる匂い。ひとの気配はするのに、薄く、潜められたような空気。


 ごくごく普通の、病院の風景だった。


 もしここが、前世だったなら。


 思わず、自分の手を見下ろす。


 なにも掴めやしなそうな、小さな手。うつむいた視界に映る、長い髪。黒ではない。亜麻色の、腰まで届くような、長い、


「×××××?」


 呼ばれた名前に、過去、聞き慣れた声に、肩を震わせて振り向く。

 まず視界に入ったのは、大輪の罌粟の花束。

 それから見上げた先で、わたしを見下ろすそのひとは。


「−、」


 名前を口にしかけて、止まる。


 この世界に溺れられたら、幸せだろうね。


「×××××?」


 うつむいて目を閉じたわたしに、呼び掛けながら“彼”がわたしへと歩み寄る。


 深く息を吐いてから、吸って、目を閉じたまま口を開く。


「…とりさん」


 呼んだのは、目の前にいるひとではない名前。

 思ったよりもずっと、固くて冷たい声が出た。


「趣味が、悪過ぎるよ」


 呟いた途端、目の前にいた気配が霧散した。


 顔を上げ、目を開けば、さっきまでよりは明らかに高い視界と、壁のない真っ白な空間に、テーブルセット。


 そこに腰掛けて優雅にお茶を飲む邪竜を、睨み付けた。


 さっきまでのはたぶん、と言うか、間違いなく、この邪竜の仕業だ。さしずめわたしの表層心理をいじくって、悪夢でも見せたと言うところだろう。


「どう言う、つもり?」

「どうもなにも」


 桃色の子どもを抱いたとりさんは、悪びれもせずにいっと笑った。


「趣向を凝らしたサプライズだよ。良く出来ていたでしょう」

「趣味が悪い。だいたい、どうしてサプライズなんて」

「とりあえず座ったら?」


 ああもうこのマイペース爬虫類め!


 怒鳴りつけたくなったが、深く呼吸して収めた。それでも手荒く椅子を引いて、どかりと腰を掛ける。


 とりさん自ら注いでくれたお茶を、ひと息に飲み干した。


「で」

「で?」

「なんの目的のサプライズだったの」


 腕を組んでとりさんを見やれば、怒気に気付いたモモが不安そうな顔をした。

 恐る恐る伸ばされた手を取り、抱き上げてやる。


 とりさんはにいっと笑ったまま、のんびりと言った。


「だって今日は、そう言う日でしょう?」

「は?」

「えいぷりるふーるだよ!」


 意味がわからない、と言う表情になったわたしへ、腕の中のモモが言った。


 エイプリール、フール…?


 さっきまではろくに働いていなかった頭が回転して、今日は四月朔日だと言う情報を伝える。


 思わず、深く、深く、深ぁぁぁぁぁく、ため息を吐いた。


「…この暇人が」

「いやいや、モモの訓練でもあるんだって」


 毒付くもしれっと笑われる。


「モモの訓練?」

「そう。今日の夢のヴィジュアルは、モモが造ったんだよ。登場した人間の人格や声、性格も含めてね。土台とか大まかな骨組みはわーが造ったし、喋る内容にもちょっと手を加えてエリを忘れさせたりしたけど、あとはみんなモモが造ったの。良く出来ていたでしょう?」


 つまり、変化のための表現力を鍛えた、と言うことか。

 それは確かに、すごいと思うけれど。


「モモはすごいけれどとりさんはすこぶる趣味が悪い」

「途中までは巧く騙せて、愉しかったよ」

「ほんと性格悪いなぁもお!」


 とりさんが手出し出来るのが、現状わたしだけで本当に良かった。


 ぷにっとモモのほっぺたを挟んで言う。


「モモー?いーい?とりさんのこう言うところは、絶・対・に!見習ったら駄目だからね!」

「あい!」


 元気で素直な返事に、微笑む。


「よーしよしよしよし!モモは偉いね。良い子良い子。今日の夢も、すごく良く真似られていたよ。良く頑張ったね」

「モモ、えらい?」

「うん。偉いよ」

「ほめてもらえるかなぁ?」


 ん?


 褒めて貰えるかって、


「とりさん、褒めてあげていないの?」

「ん?ああ、結果見るのを優先したから。モモ、おいで、良く頑張ったね。あとでご褒美あげるから、今は休みなよ。疲れたでしょう?」


 わたしの腕から取り上げたモモに話し掛けるとりさんの声は、すごく優しかった。まるで、慈愛の塊みたいな。…どうしてこの優しさを、人には向けないのか。


 とりさんに褒められたモモは、向日葵のように、ぱあっと笑ってから、とろり、と意識を眠りに溶かす。モモが眠った途端、その身体はふわりと解けて消えた。意識が表層から消えたのだろう。


 優しい顔をいつもの生意気そうな顔に戻して、とりさんがわたしを見る。


「騙されて眠り続けることも、出来たのに」

「馬鹿を言わないで欲しいな。現実から逃げて夢で生き続けるなんて、あり得ない」

「本当に?本当に、さっきのが夢だったって言える?」


 ひとを惑わせる邪竜は、意地悪く嗤ってそそのかす。


「本当は、こっちが夢なんじゃないの?だってエリは、自分がどうして死んだのか覚えていないでしょう?現実に耐えかねた×××××が、逃避してこの妄想の世界に引き籠もっているわけじゃないって、どうして言えるの?」


 わたしはひとか、それとも蝶か。


 惑わせんと騙る邪竜を、しかと見据えてきっぱりと言った。


「それでも、今のわたしにとってはこちらが現実だよ。夢に逃げて、ツェリから離れたりしない。たとえツェリが、わたしを忘れたとしても」


 そうだ、なぜ、忘却されたことを恐れたのだろう。


 ツェリがわたしのことを忘れたならば、ツェリからわたしと言う危険な存在を、遠避けることが出来るのに。

 直接守れなくなったとしてもいくらでも守る方法はあって、むしろその方がツェリは安全かもしれないのに。


 とりさんが眉間にしわを寄せて、わたしを見返した。


「スバラシイ自己犠牲精神だね。ソンケイするよ」

「大事なものを全力で守ろうとして、なにか悪いか?」

「べつに。わーはそう言うの、大っ嫌いなだけ」


 珍しく明らかな怒りをにじませて、とりさんが吐き捨てた。

 驚くわたしを見て、ため息とともにわしわしと真っ黒な髪を掻き混ぜた。


「知り合いに、そーゆー馬鹿がいるの。ほんと、好い加減にして欲しい」

「とりさん、友だちとかいたのだね…」

「失礼だな。こう見えて、知り合いは多いよ」


 まあ長生きはしているから、知り合いも増えるよね。知り合い=友人とは、限らないけれど。


「友人だってそれなりにいたよ。昔はね。今は封印なんてされているから、交流する相手もそうそういないけど」

「性格悪いのに」

「面と向かってそう言う台詞を吐くエリには、言われたくないね」


 違いない。


 何度目かわからないため息のあとで、不意に真剣な表情を造った。


「あの、さ、とりさん、驚かないで聞いて欲しいのだけれど」


 声も真剣なものを装う。


「なに?」


 とりさんはかすかに眉をよせたものの、落ち着いた口調で問い返して来た。

 少し溜めてから、言う。


「実はわたし、前世男だったのだよ」


 ちっ


 ちっ


 ちっ


 ぽーん


 たっぷり数拍間を空けてから、とりさんが死んだ魚のような目で頷いた。


「ヘー、ソーナンダー、スゴイネー」


 わあ、白々しい。


「もうちょっとリアクション頑張ってよ」

「ならもうちょっと嘘を頑張ってよ。エリの前世の記憶はかなり隅々まで見ているのに、今さらそんなこと言われても信じるわけないでしょう」

「デスヨネー」


 でも、ちょっとくらい疑心暗鬼に陥ってくれても良いじゃないか。


 むすっとしながら、立ち上がる。そろそろ朝だ。


「もう起きるよ。お茶ありがとう」

「んー。いってらっしゃい」


 ひらひらと手を振るとりさんに、ふと思い付いたように言う。


「あー、そうそう」

「なに?」


 にっこりと微笑んで、消える直前に言う。


「わたし、爬虫類って大っ嫌いなのだよね」

「は!?」


 驚く声は無視して、覚醒する。問い詰めようとするとりさんの意識も、シャットダウンだ。


「ふふ」


 慣れたベッドで起き上がり、笑いをもらす。


 せいぜい今日いちにち、悩むが良い。


 小さな仕返しに満足しながら、わたしはいつも通りの朝の支度を始めた。




 その日ツェリに会って名前を呼ばれた瞬間、感極まって無言で抱き付いたのは、まあ、ちょっとしたお茶目さんだ。

 怖い夢を見たと主張したわたしを心配したツェリが一晩一緒に眠ってくれたお陰で、とりさんが夜の夢には介入出来ず、結果二日間意地悪な邪竜を悩ませられたのは、良い誤算だった。


 ん?わたしが爬虫類を嫌いかどうか?

 …さあ、どっちでしょう?




\ ドッキリ大成功!! /


あ、いや、うん、ごめんなさい…orz

例年エイプリールフールドッキリを仕掛けていらっしゃる作者さまたちを見ていて

やってみたくなりまして…( °-°;)


お読み頂きありがとうございます

少しでもハラハラして頂けていましたら作者がによによします( ´艸`)

トリシアさんに負けず劣らず根性ひん曲がった作者です申し訳ありません<(_ _)>


季節ネタなので割烹でやろうかとも思ったのですが

それだとドッキリ感が激減することと

結構重要なネタが出ていると言うことで

本編でやらせて頂きました

遊び心って大事ですよね?ね?(°-°;)


お叱りは甘んじて受けますので感想欄もしくはメッセージでどうぞ…((((°°;)))

こ、これにめげずに続きもお読み頂けると嬉しいですー(>人<)


追伸で

不明な名前を表現するとき「×××××」と書きたくなる方は

ぜひわたしと握手を…(*・ω・)っ

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