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取り巻きCと初合宿 よっかめーそのいち

取り巻きC・エリアル視点


引き続く合宿


グロ&メシテロにご注意下さい

ぶった切れ注意報が発令されています<(_ _)>

 

 

 

「唐揚げ?天ぷら?塩焼き?炒め?」


 あなたはどれが良いの?


 物言わぬ蜥蜴トカゲに、そっと問い掛ける。蛇ならともかく蜥蜴、しかもこの大きさとなると、とっさに料理法が浮かばない。


「とりあえず、お出汁で煮てあんかけ、かなぁ?」


 衣笠茸キヌガサタケはあんかけが美味しかった気がする。蜥蜴の最適解がないならほかのものに合わせてしまえと暴論に走り、ちょっと重たい朝食メニューを選択した。




 蜥蜴の躯とおはようございます。今日も清々しく目覚めた演習合宿四日目、クロことエリアル・サヴァンはまだ元気です。天気も良くて良い気分なのに、わたしを囲む食材はどうしてこんなに不穏なの。


 死んだ蜥蜴と一緒にいたら、返り血を浴びたとしか思えないイタドリ(偽)に、見た目がアレな衣笠茸(仮)と鼈茸スッポンタケ(仮)。これプラス飛蜥蜴トビトカゲ一匹を使って、今日の朝食を作ろうと思います。


 大丈夫。調理してしまえば、蜥蜴だなんてわからない…たぶん。




 少し遠い目になりながら、飛蜥蜴とイタドリ(偽)の皮を剥く。


 飛蜥蜴の革って、なにかに使えたりするのかな?いちおう捨てないで置こうか。


 皮を剥いた飛蜥蜴は、元の形がわからないように細かーく切って行く。全長は長いが横幅はないので、一食で一匹消費出来そうだ。イタドリ(偽)は3センチくらいで。鼈茸(仮)も小さく短冊切りにして形をごまかす。衣笠茸(仮)は切らずにそのままだ。


 全部鍋に投入して、出汁やら臭み消しの香草やらも加えて煮る。調理法が雑?正しい調理法がわからない以上、丁寧でも雑でも大して結果は変わらないと思うの。ああ、もちろん、イタドリ(偽)をあとから入れるとかの、気遣いはしているよ?


「…蜥蜴、なの?」

「だから見ない方が良いって言ったじゃないですか」


 煮ている間にあんの準備と調味料を吟味しているなか、恐る恐ると言った体で問い掛けてきたパパことパスカル・シュレーディンガー先輩を振り向いて言う。今朝の見張りは、パパとテディことテオドアさまだ。クララことクラウス・リスト先輩と姫ことヴィクトリカ殿下は、二日連続でペアになったみたいだね。くじなので、そう言うこともある。

 今日も早起きな姐さんことブルーノ・メーベルト先輩は先ほど素振りしに出掛けた。あんちゃんことラファエル・アーベントロート先輩は、無事なのかな…。いや、考えるのはやめよう。


 と、言うか、


「蜥蜴を捕って来たのは誰だと…」

「うん。ごめん!」


 すっと目を細めれば、即行で謝られた。そうだよね、クロは狩りに行っていないもんね。悪くないよね。あんちゃんによる蜥蜴狩りを止められなかったのは、昨日狩りに行ったメンバーです。…あんちゃん相手に、止められるとは思わないけれど。むしろ一昨日の蛇狩りを止めたことを、褒め讃えるべきかもしれない。


 いやでも、調理するなら蜥蜴より蛇が良かったよ…。まだ対処法がわかる。ただし、確実に毒がないとわかっている種類の子限定でな。この班の面子で人体実験とか、下手すれば首が飛ぶわ。エリアル・サヴァン終了のお知らせが流れるわ。


「元の形を考えなければ、鶏肉と変わりませんよ。似たようなものです」


 わたしの記憶が正しければ、鳥のルーツは爬虫類だったはずだ。祖先を辿れば同じもの。…それを極限まで突き詰めちゃうと、脊椎動物みんなお仲間になっちゃうけどね。いや、むしろ、生物も無機物もみんな元を正せば量子の集合で…とかの話になるか?


 鉄くずをお皿に盛られて出されるよりは、蜥蜴の方が良いね。うん、我ながら暴論。


 煮えた蜥蜴肉をひとかけスプーンですくい上げて、パパに差し出す。


「食べてみますか?あーん」

「え、あ、…ん」


 おお、行った。度胸あるね。


「あ、ほんとだ…鳥って言われたら気付かないかも」


 もぐもぐと噛んで飲み込んだパパが、目を見開いて感想を漏らす。


「臭みとか、大丈夫ですか?」

「大丈夫。…美味しい。信じられない」


 鍋を見下ろす顔は疑わしげだ。うん。気持ちはよくわかる。

 蛙とか、鼈とか、蛇とか、見た目のイメージと食感が、乖離してたりするのだよね。


 でも、考えてみよう。ヤツらは脊椎動物で、肺呼吸だ。虫や魚よりも、哺乳類に近いだろう。むしろ鯨やイルカなんかより、わたしたちが普段食べる鳥や豚に近いかもしれない。


 と言うわけで、蛇や蛙でも料理出来ると言ったけれど、予想外の蜥蜴でもなんとかなったみたいだ。スプーンを洗って、自分でも食べてみる。ん、行けそうだ。


「テディも食べてみますか?」

「え?ああ、貰う」


 視線を感じて訊けば頷かれたので、テディにもひとくち、あーん。


「…ああ、確かに、鳥だと言われれば鳥に思えるな」


 思ったより鳥だったので、少し路線に修正を入れる。

 いちど鍋から取り出した具の中から飛蜥蜴のお肉とイタドリ(偽)を半分取り、別にしておく。残りはお皿に盛って、あんかけ待ちだ。


 お鍋に残った煮汁から香草を除き、調味料を加えて味を調える。とろみ粉を加えてあん完成。あつあつを掛けたいので今は掛けるのをがまん。


 分けて置いたお肉とイタドリ(偽)にユリ根(仮)を切って加えて、炒める。味付けをあんと変えれば、ほぼ同じ具材で二品が出来た。


「クロって、良いお母さんになれそうだよねぇ」

「ははっ。ええ、平民に生まれたかったですねー」


 いつの間に戻って来たのか姐さんに声を掛けられて、苦笑して答える。

 少ない食材を七変化させるのは、主婦の技の見せどころだろう。


「騎士団でも喜ばれるよぉ?兵糧って、同じものばっかりだったりするから」

「ああ、確かに。でしたら、クロは騎士団で人気者になれますかね?」

「なれるなれる。基本的に食事を楽しみにしているからねぇ、料理が上手い兵は、どの隊でも喜ばれるよぉ。それが理由で、取り合いになったりもするみたい」


 炒めものを盛り付け、あんを温め直しているあいだに、みなさま続々と起床。今日は昨日と違って、みんなちゃんと寝たみたいだ。…あんちゃんも無事だった。ほっ。


 わたしを見下ろした兄貴が、ぽんぽんと頭をなでる。


「…毎朝悪いな」

「いえいえ。料理は、趣味なので」


 にこっと笑って料理を配る。気を利かせた姐さんとパパが、お茶を用意して置いてくれた。焚き火を囲んで、食べ始め。


 安全な食事であることを示すために、わたしから率先して食べ始めますよ。


 料理の材料は言わない。言ってはいけない。


「美味ーい。見た目はアレだけど美味いんだよなー、このきのこ」

「形的に、こう言う食べ方に合うのですよね」

「そうそう。やっぱわかってんなー、クロは。さっすがー」

「ありがとうございます」


 衣笠茸(仮)のあんかけを食べたクララが、にぱっと笑ってサムアップ。中華食材のイメージが強いのであんかけにしたけれど、お褒めに預かり光栄です。


「本当だ。美味しい」

「初めて食べたわ。こんなきのこ」

「市場に出回るきのこは、マッシュルームばかりですからね」


 スーパーに行けば数種類のきのこが並んでいる前世が恋しくなるよ。ああ、舞茸さん舞茸さん、きみに会いたいです。松茸さんも、化学合成で香りだけ表現した某お吸い物で良いから欲しい。きのこきのこ、ああきのこ。マッシュルームと椎茸だけじゃ満足出来ないよ。うぅー。


 雑談しながら和やかに進む食事。

 一石を投じたのは、あんちゃんだった。


「こんな味になるんだな、飛蜥蜴は」


 お嬢ことツェリと姫、クララにぴいちゃんことピアの手が、ぴたりと止まった。


「…え?」

「飛蜥蜴だろう?この肉」


 数人分の視線が、わたしに集中する。事前に知っていた面々は、苦笑いだ。兄貴も、気付いていたみたいだね。


「…飛蜥蜴?」

「そこでばらしたら駄目ですよ、あんちゃん」

「いや、鹿とも猪とも違うのだから、気付くだろう?」


 ひとには、現実逃避と言うものがあるのよあんちゃん。


 ほら、お嬢たちがショック受けちゃってるじゃない。


「…事前に、言いなさいよ」

「先入観なく食べて欲しかったのですよ。美味しいでしょう?なにも、忌避する必要はありません」


 生い立ち上意外と図太いお嬢が、深々とため息を吐いた。


「そうね。美味しいわ」


 首を振って、食事再開。

 お嬢、いさぎよい。


 しかし、世の中には潔い人間ばかりではないわけでして。


「…駄目でしたら、残して大丈夫ですよ?なにか代わりを作りましょうか?」


 停止してしまった姫とぴいちゃん、クララに、そっと声を掛ける。騙し討ちは、まずかったかな…。


 はっと目を瞬いたぴいちゃんが、ふるふると首を振って蜥蜴肉を口に運ぶ。


「だ、大丈夫、です!」

「…蜥蜴かー」


 クララが額を押さえる。


「ゆで卵の中に雛がいたとき振りの驚きだなー…。ま、雛入りゆで卵よりはよっぽど良いわ。大丈夫。美味いよ」


 言ったクララは苦笑いで、肩をすくめた。そのまま、食事を再開した。


 孵化前の受精卵を使った料理は、前世でもあったね。わたしは食べたことがないけれど、どこかの国では一般的な料理だったはず…。確かにかじった卵の中に雛より、知らずに食べたのが蜥蜴肉のほうが、衝撃は少ないかもしれない。


 どっちにしろ、受け入れられないひとは受け入れられないだろうけれど。


「無理はしないで下さいね?」

「知る前は普通に食べてたんだから、問題ないだろ」


 いや、案外情報で味覚って変わるよ?そのために、食味試験とかは情報を与えずにやるんだし。


 ひとり立ち直れていない姫の顔を、覗き込む。


「姫?大丈夫ですか?」

「食べないなら僕が貰うけど?」


 とろろにはどん引いても蜥蜴は大丈夫らしい姐さんが、首を傾げた。姫がぴくりと肩を揺らして、口を開く。声が出るまでに、時間が掛かった。


「…え、…あ、…いや、大丈夫」


 と言いつつ、姫の手は進まない。


 …普通王太子にゲテモノ食べさせたりしないよね。耐性がなくて、当然だ。


 食べかけのお皿を置き、姫からお皿を奪って、立ち上がる。


「申し訳ありません。別のものを、作りますね」

「い、や、そんな、」

「無理して食べて、具合を悪くしても駄目ですから。無理なものは無理と言って、良いのですよ」

「…私が食べたくないって言ったときと、対応が違う気がするわ」


 身内とそうじゃないひととの差ですよ。とは言わず、笑って答える。


「好き嫌いと、生理的に受け付けるか否かは違いますから。お嬢の場合は、嫌いなだけでしょう?それに、本当に駄目なものを無理やり食べさせはしなかったはずですよ?」


 生理的に受け付けないものは、アレルギーの可能性がある。この世界では忌避病と言われるそれは前世に比べて研究が進んでいないため、アレルギーかどうかはっきりしないものを迂闊に無理やり食べさせるのは危険だ。好き嫌いは単なる嗜好性のこともあるが、身体の防御反応の場合だってあり得るのだから。


「…そうだったわね」

「と言うわけで、お気になさらず。クララとぴいちゃんも、無理なら無理と言って下さいね?」

「平気です」

「いけるいけるー」


 ぴいちゃんとクララから大丈夫とお返事。ほかの面々も確認したが、大丈夫のようだ。意外と図太いね、みんな。


 あまり時間も使えないので、手早く山菜ときのこにユリ根を加えて、炒めものを。お肉は忌避感を起こさせてしまうかもしれないので、入れなかった。朝だし、タンパク質はなくても良いだろう。


「足りなかったら、申し訳ないのですが携帯食料でしのいで貰えますか?」

「…ありがとう。ごめん」

「いえいえー」


 にこっと笑って姫に新たな炒めものを渡す。食べかけの蜥蜴料理は、姐さんとあんちゃんがそれぞれ貰っていた。


「情けないな…」

「誰でも食べられないものはありますよ。わたしはあれです、家畜の脳味噌を使った料理が、どうしても…うっ」


 視線を落とす姫を励まそうと口にして、自分でダメージを受ける。


 食感も苦手な上に、口に入れようとするとどうしても、前世のニュースで流れたクロイツフェルト・ヤコブ病の患者さんの映像が頭に浮かんでしまうのだ。あー、BSEって言った方が、伝わるのかな?この世界ではあるかわからない病気なのに、怖く感じてしまう。


「クロの好き嫌いとか、聞いたことなかったわ」

「言っていませんからね」

「食べられないものなんて、あったのね?」

「苦手なものはありますよ」


 前世ではいくつかアレルギーを持っていたので、とくに強烈だったアレルゲンはいまでも少し苦手。具体的に言うと、蕎麦と、胡麻と、ピーナッツです。食べられはするのだけれど、ついつい身構えてしまう。あとは、臓モツ系も臭みと食感が苦手だったりする。レバーもホルモンも駄目だ。


「もっと弱点をさらしなさいよ」

「嫌ですよ」


 弱点なんかさらしても、得がないじゃないか。


 それに、最大の弱点なら、常にオープンで示している。


「クロの弱点って、わかりやすいよねぇ?」

「そうだな」

「デスヨネー」


 姐さんと兄貴の会話に目を細めて同意。

 お嬢がきょとんとして、三人を見比べる。


「え?」

「わからないのか?」


 同じく気付いているらしいあんちゃんが、お嬢に問う。


「ええ?」


 困惑するお嬢を眺めて、パパとクララがああ、と呟いた。


「そうっすね。考えるまでもなく、明白だったわー」

「だね。すごくわかりやすい」

「常に周囲に知らしめているようなもんだもんなー」


 頷き合うふたりの会話で、お嬢を除く一年生も気付いたようだ。


「ああ」

「確かに」

「そう、ですね」


 気付いていないのは、お嬢だけ。そんなお嬢に、全員の視線が向かう。


「えっ、ちょ、なによ」

「…本当に、気付かないのか?」


 あんちゃんが、再度問い掛ける。


 お嬢はしばし考え込んだが、浮かばなかったらしい。それでも自分だけわからないのは悔しいらしく、唇を噛んで眉を寄せる。


「わからない、のか?」

「…わからないわ」


 みたび問われて、不本意そうに答える。


 お嬢に向かっていた視線が、わたしに向けられた。どんまい、とでも、言いたそうな視線だ。うん。みんな気付いているね、確実に。


「親の心、子知らず、かなぁ?」


 口端に苦笑を乗せて呟くと、姐さんがお嬢に視線を戻して言う。


「お嬢だよぉ」

「え?」

「お嬢だよ、クロの弱点。明らかでしょう?」


 わたしとお嬢を除いた全員が、深く首肯した。


「お嬢になにかあると、いつも駆け付ける」

「クロの中での最優先事項だよね」

「合宿中も常時意識しているのがわかる」

「ボクとリリアさんとお嬢が、いたら、真っ先に、お嬢を見ます」

「自分への悪意はさして気にしないくせに、お嬢のこととなると沸点が低い。中等部からずっとね」

「いないところでも、自然にお嬢の名前が出る」

「つか、向ける視線からしてほかと違うよなー。明らかに」


 あ、改めて言われると、本当に開けっぴろげだな、わたし…。


 目を見開いたお嬢がおもむろにわたしへ顔を向け、


「−っ!」


 かぁっと耳まで赤くして目を逸らした。あら可愛い。


「そ、そんなの、ずっとだもの。気付かないわよ!」

「当たり前と感じるくらい揺るぎなく、クロはお嬢を大事にしてるってことだねぇ」

「この命より、大事ですから」


 食べ終えたお皿を置き、すすすっとお嬢に近付く。横に跪いて、そっと手を取った。


「いつもお伝えしているつもりでしたが、足りませんでしたか?あなたが望むならば、いくらでも言いますよ。あなたが大切です。あなたがいなければ、わたしは生きて行けません」


 わたし以上に小さな手を、額へ押し抱く。


「わたしの弱点はいつだって、あなたですよ、お嬢さま」

「…っ、どうして、あなたは、そうやって、なんでもないことみたいに言うのよ!」

「わたしにとっては、呼吸をするより当然のことですから」


 いつものことなのに、珍しくお嬢がうろたえている。うろたえる姿もベリキューです、お嬢さま。さすがわたしの天使。


「…これ、いつものことなの?」

「いつでもどこでもやる。クロは」

「そりゃ、理想の貴公子とか呼ばれるわー。好きだろ、女って、こう言うの」

「それだけが理由じゃないけどね。クロは基本的に、女性を敬うし大切に扱うから。私でも、学ばないとと思うことがあるよ」


 周りの声に目を泳がせてから、真っ赤な顔のままお嬢が言う。


「立ちなさい」

「はい」


 立ち上がったわたしを見据える目は、もううろたえていなかった。


「私が弱点だと言うのなら、横に立ちなさい。互いに互いを、守れる位置に。私にとっても、あなたは弱点だわ。一方的に守られたりしない」

「そうですね、お嬢さま。あなたは強い。わたしの、自慢のお嬢さまです」


 きっと、わたしがいなくなっても、前に進める。


 ぱっと手を離して、微笑んだ。


「大好きです、お嬢さま」

「…私もよ」


 お嬢は頷いて答えると、なにごともなかったかのように食事を再開した。わたしも膝を払い、元いた位置に戻る。


「恥ずかしげの欠片もないな」

「つか、切り換え早くね?」

「…いつものことだから」

「クロもすごいけど、お嬢の適応力もすごいよね?」

「これだけ肯定されたら、心強いよねぇ」


 外野の声は、気にしません。


 向けられる視線は笑顔でスルーして、わたしは食後のお茶を楽しんだ。




 指示を聞くまでもなく、今日の目的ははっきりしている。西の洞窟で、薬の材料となる鉱石、ギャドを探すのだ。これさえ見つければ、あとは帰るだけで良い。

 始めは全部集まるか不安だった課題だが、驚くほど順調に進んだと言えるだろう。


 一昨日いちど洞窟の前までは言ったので、あんちゃん先頭にずんずん進む。


「?」


 ちりり、と、臓腑を握られたような。


 ふとわたしを襲った、なんとも言い難い嫌な感覚。


 なにか、違和感、だろうか。


「クロ、どうかした?」

「いえ」


 隣を歩く姉さんに問われて首を振るも、嫌な感覚が消えなくて周囲を探る。

 特に異常は、見当たらない。


 一昨日の違和感は、足元だった。しかし足音に耳を澄ませても、周囲の音を拾い集めても、なんら異変はない。


「…」


 それなのに、胃が軋むような感覚が、続いている。


 なにを見逃している?なにがわたしに、警告している?


 周囲を、身体を、心を、記憶を、賢明に探る。


 天候?…違う。空は快晴だ。はるか遠くまで目を凝らしても、雲一つ見えない。

 盗賊?…違う。わたしたちを除いて周囲にひとの気配はない。

 足元?…違う。耳に入る足音は、空洞のないしっかりした地面の存在を伝えている。

 動物?…違う。わたしはとりさんの気配を抑えていない。野生動物は、近付くことなく逃げて行っている。


「大丈夫?具合、悪い?」

「大丈夫です。少し、眩しいなって」

「そうだねぇ、良い天気。疲れたら、言ってねぇ?」

「はい。ありがとうございます…」


 嫌悪感か緊張感か別のなにかか、感覚の正体も原因も掴めないまま、それでも足は進んで行く。わたし以外は誰も、異変なんて感じていない。


 気のせい?体調不良?でも、そんな。


 進むにつれて、わたしを襲う感覚は、強烈に、痛烈になって行く。


 勘違いでは済まされないレベル。でも、体調不良ではない。


 なにかが、先に進むなと、伝えている。


 でも、それがなんだかわからない。


「クロ?」


 ついに、足が止まった。駄目だ。進んでは、違う、()()()()()、駄目だ。


 一昨日考えて思い出せなかったことを、ようやく思い出す。

 ラース・キューバーと演習合宿に言ったヒロインは、遭遇するのだ。


 強大な、モンスターに。


−ちりん


 鈴の音を最後に、わたしの意識は消え去った。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


にゃんにゃんにゃんの日ですね!

作者の個人的な事情により

今日、間に合えば、もう二話、行きたいのです、が

無理だね、うん←

もしかしたらあと一話本日中に更新あるかも…?です


ぶった切ってごめんなさい

続きも読んで頂けると嬉しいです

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