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取り巻きCと初合宿 みっかめーそのに

取り巻きC・エリアル視点


引き続き合宿中


グロ&メシテロにご注意下さい

 

 

 

「…それ、本当に食べものか?」

「失礼な!どう見ても食べものじゃないですか!」


 すりおろした山羊芋を見たテディことテオドアさまの言葉に、わたしはむっとして言い返した。


 すりおろした山羊芋は明らかに長芋や山芋と似た雰囲気で、出汁でのばしてお醤油掛けて、炊き立てご飯に掛けて食べたい、立派な主役級食べものだ。おうどんにもお蕎麦にも良しな和食材、とろろさまである。


 そのとろろさまに食べものか?なんて、信じがたい暴言である。


 と、思うのがわたしだけだなんて、悲しいくらい理解していますけれどね。


 食べたことがある、と言った姐さんことブルーノ・メーベルト先輩すら、山羊芋をすりおろし始めたわたしを見てぎょっとしたのだ。これがこの国でメジャーな食べ方でないことくらい、即刻理解しましたとも。




 白くてどろっ、ねばっ、とした液体と表現すると、なんだか食べものらしく聞こえないとろろさまと一緒にこんばんは。ばんごはんの準備中なクロことエリアル・サヴァンです。


 携帯食料に木の実のみと言う味気ない昼食のあと、テディがすっ転んだりしつつも大事なく基地に帰還したのがまだ日が高い時間。

 昨日のリベンジをしたい!と言うクララことクラウス・リスト先輩はじめ、元気を残した面々は食料探しの旅に出掛け、それを見送った留守番組は夕食の準備をしているところです。


 基地に残ったのは体力のない女性陣、お嬢ことツェリとぴいちゃんことピアに、護衛兼力仕事担当としてすっころんで手のひらに擦り傷を作ったテディ。お料理担当としてわたしと、監督者として姐さんも残るように言われたのは、泳いだことへの配慮、かな。水泳は疲れただろうって、兄貴ことスターク・ビスマルク先輩から言われた。


 見送る寸前にあんちゃんことラファエル・アーベントロート先輩から、蛇と蛙は料理出来るのかって訊かれたのが、すっごく気に掛かっているのだけれど、まさか狩って来ないよな?

 出来るって答えちゃったけれど、まさか姫こと王太子殿下に蛇や蛙を食べさせようとしないよな?


 やりかねない。あんちゃんなら、やりかねないぞ…。


 我らが兄貴と、常識人のパパことパスカル・シュレーディンガー先輩、どうか止めて下さいね!




 基地組は水くみして薪集めして、さあごはんの準備だ!となったところ。


 と言ってもお嬢とぴいちゃんは明日のために、水くみも薪集めもさせずに座って休んで貰っている。ごはんの用意もさせないつもりだ。

 姫には護衛役で残って貰ったので、基地組は、と言うかわたしと姐さんで水くみと薪集めをやったって話だね。


 今晩のメニューは昨日からお好み焼きと決めていた。


 と言うわけで、生地を作るべく山羊芋をすりおろしたのだけれど。


 ねばーっとした物体に、みんなしてどん引いていらっしゃる。


「…このまま食べさせたりしませんから、安心して下さい。ちゃんと加熱します」


 ため息を吐いて言うが、引きつった顔は直らない。


「姐さんが食べられると言ったのですよ?」

「あ、うん。間違いなく食べもの、だよぉ」


 少し視線に非難を込めれば、姐さんが頷いて苦笑した。


「前は丸のまま茹でたから、生で皮を剥くと粘るとか、すりおろすとそんな風になるとか知らなくて、驚いちゃって。山羊芋が食べられないとか、クロの料理が信頼出来ないとかじゃないよ」

「…私だって、あなたが食べられないものを作るなんて、考えてないわよ。嫌いなものを無理やり食べさせようとはするけど、いつも美味しいものを作ろうと努力していることを、知っているもの」


 ふたりの言葉を肯定するように、こくこく、とぴいちゃんが頷く。


「ただ、その見た目が、ね…」


 ヴィジュアルのインパクトは、確かに大きいですね。糸を引くって、腐ったものの特徴でもあるし。

 でも、白くて伸びる、だったら、チーズとかで見慣れていると思うのだけれど…。


 とろろご飯を提案しなくて、正解だったな。


 どん引いた視線は気にしないことにして、黙々と生地作成を続ける。ソースはそれっぽく作ったから良いとして、青のりと鰹節がないのが痛いな。


 ざくざくと山菜や野草を切り刻みながら考え込んでいると、お肉を切っていた姐さんが、これはどうするの、と訊いてきた。


「タン…舌はそっちのソースにお願いします。ほかのお肉はこちらに下さい」


 作っておいた塩ダレに、鹿タンと猪タンを漬けて貰う。タンは断然塩味で炭火焼き派だ。異論は認める。

 材料的にお好み焼きだけだと男性陣が満腹にならないし、焼くための道具がフライパンひとつだけで間がもたなそうなので、焼き肉とスープもメニュー追加したのだ。と言っても焼けるものは、お肉ときのこくらいなのだけれど。


「はーい。これが終わったら、なにをすれば良い?」

「わたしはもう大丈夫なので、テディのお手伝いをお願いして良いですか?」


 スープ作りは、テディに一任してある。普通の塩味スープになるぞと言われたけれど、焼き肉にお好み焼きならその方が合うと思う。


 わかったと言ってテディの方に向かう姐さんを見送って、わたしはお好み焼きの準備を進めた。




「それ、食べられるのか?」

「ブルータス、お前もか!」

「え?」

「いえ。…この段階では食べられませんが、ちゃんと焼けば食べられますよ」


 生の小麦はお腹を壊します。


 帰って来てお好み焼き生地を見て暴言を放つとは、クララ、ひどい。

 思わず突っ込みを入れながら、帰って来た面々を見…、


「…よく、わたしに向かってそれが食べものか、なんて言えましたね」


 探索組の戦果を見て、わたしは思わず言っていた。


「いや、これは」

「食べられるのは知っています。ですが、見た目、確実に、わたしのこれの方が食べものらしいです!」


 探索組が荷物から控えめに取り出したのは、きのこに山菜。唯一あんちゃんだけが、堂々と背負っていた爬虫類を下ろした。わたしから目を背けながら、兄貴もその隣にどさりと爬虫類を下ろす。


「兄貴」

「…すまん」

「パパ」

「…ごめんね」

「クララ」

「…すまない」


 順繰りに目を向ければ、謝罪と共に逸らされた。

 息を大きく吸い込んで、叫ぶ。


「調理するのはわたしなのに、どうして、どうして止めてくれなかったのですかああぁああぁぁっ!」


 頭を抱えて、膝から崩れ落ちた。


 きのこ、山菜、爬虫類。これだけ伝えれば、まあ、爬虫類は首傾げかもしれないけれどそこまで打ちひしがれることとは思わないだろう。しかし、そんな落ち込むなよと言う前に内訳を聞いて欲しい。


 まず、きのこだが、この世界と前世では生えるものや名前が異なるので見た目が似たもので言うと、衣笠茸キヌガサタケ鼈茸スッポンタケ紅天狗茸ベニテングダケに、極め付けは冬虫夏草トウチュウカソウ、だ。いちおう言っておくが、この世界でも赤い地に黄色の斑は基本毒きのこである。見た目が紅天狗茸そっくりかつ効果もそっくりなきのこが、しっかり存在する。もちろんクララ監修で取って来たものは無毒なのだろうが、見た目は完全に毒きのこだ。それに、見た目がアレな衣笠茸と鼈茸を加え、グロ注意でお馴染みの冬虫夏草である。いじめか。


 そして山菜。形的にはイタドリを剛毛で毛深くしたような感じだけれど色がやばいものに、謎の白っぽいごつごつした塊はたぶん百合根で、黒っぽいごつごつした塊はライチ的ななにかだろう。どれも、初見では食べものに見えない。特にイタドリ(偽)!なんだその色は!なんで葉にも茎にも鮮血のごとき真っ赤な斑点が出ていて、さらに真っ赤な剛毛が生えているの!?イタドリ(本物)の紫の斑点でもうわぁ…ってなるのに、真っ赤とか、真っ赤とか、怖いよ!殺人現場か!


 でもって爬虫類!でかいよ!そんなおっきな飛蜥蜴トビトカゲなんて、どこで見つけたの!?でかいよ!オオトカゲサイズだよ!全長がわたしくらいあるよ!しかもそんな、ド派手な橙地に黒模様なんて…。しかも、すでに内臓は取られて解体するだけになってるし!なってるしぃっ!!食べる気満々じゃないですかぁあっ!!


 単体ならともかく、全部一気だよ?この材料で、めしを作れと言われているのだよ?これが冷静でいられるかぁっ!!


 頭を抱えるわたしの背を、クララが控えめに叩いた。


「いや、落ち着けって、虫子茸ムシコタケは食べるつもりで取って来たんじゃなくってな、ほら、薬効高いだろ?珍しいし、姐さんが欲しいんじゃないかと思って、だなー」

「ほかは」

「きのこに関しては、見た目アレだが美味いぞ?山菜だって、見た目に反して味は良いやつだし」

「…その見た目アレな食材が、わたしの作ったコレより、食べものらしさで勝るとおっしゃるのですか?」


 しゃがんで組んだ腕に顔を埋め、目だけ出してクララを睨む。

 虫子茸と言うのは、字面でお察しの通り冬虫夏草のことだ。


「あー、その、うん、それは、悪かったってー」

「美味しいものを作ろうって、頑張ったのに…。もう、クララは飛蜥蜴の丸焼きでも食べていれば良いじゃないですか。食べたくないのでしたら、食べなくて良いですよ」

「いや、食べたい!めっちゃ食べたいから!だからいじけないでくれ!ほんっとーに、オレが悪かったから!ごめんって、な?」

「ふんっだ」


 クララの手を振り払って立ち上がり、兄貴を見上げる。


「今日のばんごはんはもう仕込んでしまったので、これは明日以降ですね。もう、夕食にして大丈夫ですか?」

「ああ。…その、悪かった、な」

「いえ。探索ご苦労さまでした。すぐ、ごはんにしますね」


 気付けば日がかなり傾いていた。じきに暮れるだろう。


 テディがスープを、姐さんがお茶を配っている間に、手早く焼き肉用に用意したお肉ときのこを焼いてしまう。お好み焼きが焼けるまでの、間もたせだ。


「熱いので気を付けて下さいね」


 それぞれお皿に盛って手渡す。どのくらい盛れば良いかは、ここ三日の食事量で把握済みだ。


 全員にお肉を行き渡らせたら、薄切りにした猪のバラ肉フライパンに乗せる。その上に、山菜をたっぷり入れたお好み生地を乗せて、遠めの火でじっくり焼いて行く。


「焼いて食うもんだったのか」

「小麦粉を生で食べたらお腹を壊しますよ」

「…そうだな。ごめん」

「いえ」


 わたしの塩対応にちょっとしょんぼりしたクララの肩を姐さんが叩く。


「ごめん、僕らも結構、失礼な反応しちゃってて、間も悪かったんだよ」

「それは食べものかって、テディも作っている途中に訊いていたものね」

「しかも、テディ、謝ってない、です」


 珍しくぴいちゃんが、ひとを攻撃している。

 非難の目を向けられたテディが、目を泳がせてから言った。


「クロ、悪かった」

「…作ったものに驚かれることは、慣れていますから」


 わたしの常識はこの世界の常識から少しずれている。フライパンを振って巧いこと生地をひっくり返しながら、ため息を吐いた。


 ただ、この三日作ったものを喜んで貰えていたので、欲張りになっただけなのだ。

 疑うような言葉に少し、弱くなってしまっただけ。


「ほんとに、悪かった。ごめん」

「もう良いですよ。そんなに怒っていませんから」


 ため息に責められた気分を感じたのか謝罪を繰り返すテディに笑みで答える。


 いけない。わがままでひとを困らせては、駄目だ。空気が、心地良過ぎて、まるで前世のわたしのように振る舞っていた。それは、駄目だ。


「でも、」

「では、こうしましょう」


 澱みそうな空気を変えるために、にっと笑って周りを見回した。


「これを食べて、美味しいと思ったら、食後に『お見逸れしました、クロさま』って最敬礼でクロを崇め奉って下さい。それや調理前の山羊芋を見てちらとでも、それを食べるのか?と思った方全員がです。良いですか?最敬礼ですよ?跪いて地面に額付き、平伏して下さいね?」

「すごいこと要求して来た…!?」

「それから、対象者はこの合宿が終わるまでわたしの言葉に絶対服従して下さい。わたしが正義です。良いですね?」

「さらに重ねて来た、だと!?」

「わたしは寛大な人間ですから、そのふたつをしっかりこなせたならば、許してあげないこともないです」

「いやそれちっとも寛大じゃねーよ!?」


 さすがクララ、ノリがよろしくていらっしゃる。

 にこお、っと笑みを深める。びくうっ、とクララの肩が跳ねた。


「なにか、問題でも?」

「ありません、サー!」


 びしいっと背筋を伸ばして、クララが返答した。食事中でなければ、立ち上がって敬礼でもしそうな勢いだった。


「クロって、フリージンガー団長にすごく気に入られそうだよねぇ…」

「私もそう思ったところだ」

「…なにか言いました?」

「いや?」

「クロの話じゃないよぉ」


 ぼそぼそと会話していた姐さんとあんちゃんに目を向けると、にこっと微笑んで首を振られた。


「それでしたら、良いです」


 頷いて、フライパンに目を戻す。

 お好み焼きは美味しいけれど、この待ち時間がけっこうじれったい。でも、せっかちさんをやると生焼けになるし…。

 ちなみに、今回は卵や麺がないので大阪風だが、広島風も好きだし、もんじゃ焼きもたこ焼きも好きだ。箸巻きや大阪焼きなどの変わり種も好き。ソースとキャベツと小麦粉、この組み合わせは偉大。異論は認めない。


「…とりあえず、肉は美味い。味付けが良い」

「それはどうも」


 なんだか、妻を怒らせた不器用な旦那さまみたいな対応だななんて考えながら、おざなりに返答する。


 そろそろひっくり返しても良いかな…?いや、もうちょっと焼かないと…。


「やっぱり、だいぶ怒ってねーか?」

「怒っていませんよ」


 良いかなーまだかなー。


「…怒ってねー?」

「いえ、あれは怒ってるんじゃないわ。手元の作業に気を取られているだけよ」


 んー、もっと火に近付…けたら焦げるか。


「いやでも対応が」

「ひどいと反応しなくなるわよ、あの子。没頭すると、周りに目が行かないの」

「たしかに少し、そう言うところがあるね、クロは」


 よし。きっともう大丈夫なはず。


 ぽんっとひっくり返した生地には、絶妙な焼き色が付いていた。


 用意しておいたお好みソース風のタレを塗って、九等分に切れ目を入れる。切れ目から覗く生地にも、しっかりと火が通っているようだ。よしよし、上手に焼けましたー。


「焼きあがったので、お皿を…?どうかしましたか?」

「…ほんとに集中すっと周り見えねーんだなー」

「え?」

「いや、なんでもねーよ。焼けたんだろ?くれ」

「?、はい」


 なにか言われたように思うのだが、気のせいだろうか。

 首を傾げつつ、焼けたお好み焼きを配る。


「あれ?クロの分はぁ?」

「十等分は面倒なので。心配しなくてもあとで食べ…あ、もしかして、毒見が必要ですか?」


 初見で食べようとは思わない見た目かもしれない。

 そんな会話をこなしつつも、2枚目を焼き始める。


「え、いや、毒見とかはいらないけど、クロさっきからなにも食べてないでしょう?」

「手が合いたら食べますよ」

「お肉冷めちゃうよ?」


 それは、フライパンでお好み焼きをやるときに陥りがちな、落とし穴である。

 つまり、焼いている人間が食べられない、と言う…。この落とし穴はたこ焼きパーティー時の焼き手もはまりかねない、恐ろしい罠だ。台所で焼いてリビングに持って行くとかやっていると、特に陥りやすい。


「わたしのお皿には冷めても食べられる部位しか乗せていませんから」


 そんなことには始める前から気付いていたので、対策は折り込み済みだ。


「わたしのことは気にせず食べて下さい。大丈夫です」


 笑って答えると姐さんは少し唇を尖らせたあとで、自分のお皿のお好み焼きを小さく切ってフォークに刺した。


「クロ、あー」

「へ?いやあの、大丈夫、」

「毒見。ほら、あー」

「…あー」


 お毒見を命じられては、断れない。

 あー、と控えめに口を開けると、焼きたてのお好み焼きが差し込まれた。


「あふい…」

「あ、ごめん、大丈夫?」

「ふぁいふぉふへふ」


 はふはふしながら、お好み焼きを食べる。熱いけれど、美味しい。ああでもやっぱり、鰹節欲しいわ鰹節。


 口の端に付いてしまったタレを舐め取ってから、こくこくと頷く。


「大丈夫です。食べられます。ただ、熱いので火傷に注意して、」


 言葉の途中で周囲からの視線に気付く。配ったお好み焼きに手を付けている者は、ひとりとしていなかった。


 …そんなにクロの手料理は不審ですかそうですか。


「ちらとでも美味しいと思ったら、全員、クロに平伏して服従を誓って下さいね」

「ん、あふっ…おいし…」


 頷いてためらいなくお好み焼きを口にした姐さんが顔を、瞬間熱そうにしかめてから、ほわん、とほころばせた。


 飲み込んでから、再度わたしに目を向け改めて言う。


「美味しいよ、クロ」

「ありがとうございます」


 それがお世辞でないことは、ぺろりと平らげる姿で示された。待ち遠しそうにフライパンに視線を投げながら、わたしの分のお肉が乗ったお皿とフォークを手に取る。


「はい、口開けてぇ」


 大食いな姐さんのお皿にはたっぷりお肉もきのこも乗せたのだけれど、すでに空。スープも飲み終えたごようす。手隙な時間は猫の餌やりをすることにしたらしい。


「あー」


 お腹が空いているのはたしかなので、ありがたく親切を享受することにした。

 少し冷めたもののまだ十分温かいお肉が、口に入れられる。タン塩うまうま。


「…アレが、こんなに美味しくなるのね」

「ふむ、美味いな」

「ああ、美味い」

「美味しい、です」

「ありがとうございます」


 姐さんに続いてお好み焼きを口にした面々が、口々に感想を告げる。…それはある意味クロへの服従宣言なのだが、良いのだろうか。


「うん。美味しい。これ、小麦粉だけじゃないよね?なにか、つなぎを入れてる?」

「はい。山羊芋をすりおろして入れています」

「芋?芋がつなぎになんの?」

「山羊芋は粘性があるので」


 お好み焼きにとろろを入れるのは、つなぎとしてと言うよりふわふわにするためらしいけれど。


「まじかー、芋の存在に全然気付かなかったぜ。あー、でも、美味いよ。失礼なこと言って、悪かった」

「食べものもひとも、見た目だけで判断しては駄目ですよ」

「んー。反省してます」


 手料理を褒められて溜飲を下げるなんて我ながら安い女だけれど、嬉しいものは嬉しい。にこにこと微笑んで、フライパンを振るった。


「反省して、罰を受けて頂けるのでしたら、許しますよ」

「罰は確定なのか…!」

「当然でしょう」


 当たり前、と頷いたわたしの口許に、お肉が差し出される。疑問も持たずに、ぱくりと口に入れた。


 もぐもぐしてから、あれ?と思う。妙齢の男女が恥ずかしげもなくやって良い行動では、ないような。


 疑問を持ったくせに、お肉を飲み込んだあとで差し出されたきのこを口にする。

 親鳥を前にした雛鳥のごとく、条件反射で、口を開けてしまうのだ。

 やばい、ナチュラルに餌付けされてる…?


「初めて食べたものだけれど、美味しいね」

「…ああ。美味いよ、クロ」

「−ありがとうございます」


 口の中身を飲み込んでからお礼。そしてまたお肉が口に入る。


 ふと、頭をなでこされた。目を向けると、どことなく和んだ表情の姐さんが、わたしの頭をなでていた。


「なんだか野良猫に餌をあげてる気分」


 やっぱり餌付けなのか…!


 もぐもぐごくんして、姐さんに反論する。


「んぐ、猫ではないです」

「そかそかぁ、クロは猫じゃないんだねぇ。うんうん。可愛い可愛い。はい、あー」

「あー」


 駄目だ逆らえない。はっ、もしやこれが、調教師の後継者としての能力なのか…!?


「猫か」

「猫ではないてす!」


 兄貴とはひさしぶりな気がする受け答え…!


「猫でなかったらなんなのよあなた」

「ひとですよ!」


 お嬢ひどい。


「猫でしょう。首輪付きの。ほら、あーん」

「あー」


 お嬢まで!しかもやっぱり逆らえない!


 どうしよう左右を調教師に挟まれたよ。逃げ場がないよ。でも、天使と聖女だからある意味天国…?いやいや、ないない。


「…一歩譲ってわたしが猫だとして、その猫にこれから二日間みなさま絶対服従ですからね?」


 わかっていますか?と視線を巡らせる。


「クロならそこまで非人道的な命令をしない…よね?」

「(にこり)」

「お願い肯定して!」


 パパの懇願には答えずに、焼けたお好み焼きにタレを塗る。


「焼けましたよ。おかわり欲しいひとー」

「流さないで!」

「?パパはおかわりいらないですか?」

「貰うけど!」


 全員挙手なので今度も九等分する。


「はーい、お皿下さーい」

「ねえクロ、流そうとしてるよね?流そうとしてるよね?非人道的な命令をするつもりなの!?」

「どうぞ、熱いので火傷に気を付けて下さいね」

「ありがとう。じゃなくて!」


 おー、ノリ突っ込み。


「パパ、諦めた方が良いわ。クロが言いたいと思っていないことを言わせるなんて、無理なのよ」

「そうだぜー。どうせオレたちに、拒否権なんてないんだ…」


 三枚目を焼き始めながら、パパをなだめるお嬢とクララに口を挟む。


「欲しいですか?拒否権」

「くれんの?」

「いえ。…腕相撲大会は本当にやるのですか?」

「おう!やるぜ!」


 唐突な話題にもかかわらず、クララはにかっと笑って即答した。やる気満々らしい。


「方式は、総当たりですか?」

「んー、そうだなー。腕相撲なら総当たりでもそこまで大変じゃないだろ」

「全員参加で?」

「もちろん!」

「クララ、周りの話も…」

「パパ、決定事項です。今晩就寝前に腕相撲大会、全員参加総当たりで。良いですね?」


 言って見回したところで、口に入れられるきのこ。姐さん、相変わらず食べるの早いですね。


「もぐ…そこでわたしに勝った方は、服従免除にしましょう。平伏すだけで許します。美味しいと思っただけで、なんて、少し横暴過ぎますから」

「待って、それ、私とぴいちゃんが不利じゃない?」

「心配なさらなくても、女性に無体な命令はしませんよ」

「…男には?」

「一年生の、それも女子に、腕相撲で負けるのですか?」


 もぐもぐ。


「良いんじゃないかなぁ?絶対服従って言ったって、合宿の間だけなんだし、余興と思えば」


 わたしのお口にお肉を入れた姐さんが、笑って賛同する。


「負けなければ良い話だろう」

「まあ…そうだな」


 騎士科において、先輩の言うことは基本的に絶対。


「その勝負、受けて立ぁつ!ぜってー負けねーかんな!!」

「お手柔らかに」


 飲み込んでから、宣戦布告を受け入れる。


 こうして本当に、腕相撲大会が行われることになった。




 そして夕食後、片付けを終えた面々が、焚き火の周りに集合する。


「お嬢、机代わりになるものをお願い出来ますか?これくらいの高さで、はい、それで、端は掴めるように」


 どうせなら本格的にと、お嬢と共同で腕相撲リングを作る。

 ちゃんとリーグ表も作った。


「賞品とか付けますか?」

「私かぴいちゃんが最下位なのは確定でしょう」

「うーん、それでは、十位は九位の、八位は一位二位三位の、七位は一位二位の、六位は一位のお願いをひとつ、それぞれ叶えると言うのでどうですか?」

「良いんじゃねー?なんか賭けるものがあった方が、白熱するし」


 わたしの提案にクララが賛同。反対意見はないようだ。


「では、試合方法を説明しますね」


 お嬢を呼んで、デモンストレーションに付き合って貰う。


「こうして向き合って、台に肘を突いて手を組みます。このとき、空いた手で台の端を掴んでも良いです。この端の糸…のようなものに触れると音が鳴るので、それを勝利判定にして下さい」


 繋いだお嬢の手をゆっくり倒して糸に触れさせると、びーっと気の抜けた電子音が響いた。


「肘が台から離れたり、肩が台より低い位置になってはいけません。勝負は右手で行う、で良いですか?」

「左利きいたっけ?」

「私だな。右手で構わん」


 あんちゃんが挙手した以外に、左利きと名乗り出るものはいなかったので、右手で勝負することになった。


「次の試合をする方ふたりで、審判をお願いします。基本的には始めの号令と、肘と肩の位置を見て頂ければ良いです。こんな感じで大丈夫でしょうか」

「良いぞー。つまり、連続試合にはならないように試合するってことだな」

「そうですね。連戦ですと、不利になってしまうでしょうから」


 うん。なにも反論は出ないようだ。ま、単なるお遊びだしな。


「では、まずは兄貴とあんちゃんからお願い出来ますか?審判は、姐さんとパパで。正々堂々、楽しんで行きましょう」


 絶対に負けられない戦いが、そこにはある。なんて。

 第一回腕相撲王者決定戦、開幕だ。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


ブルーノ先輩出張り過ぎのような…

こんなに出張らせるつもりはないのに

気が付くと出張っているブルーノ先輩

なぜ…(´`;)?


そして合宿で初登場のキャラクターは

本名を覚えて貰えないんじゃないかと言う不安の下

毎回しつこいですがフルネームを載せています

うざったかったらごめんなさい

作者ですらクララとか本名クララだった気がして来ているので…(マテ

三人称のときにうっかりクララで書いて後で修正したくらいだし←

いや、うん、ごめんクララ…(‥;)

クララの本名はクラウス・リストです!よろしくお願いします!


続きもお読み頂けると嬉しいです

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