取り巻きCと初合宿 ふつかめ―そのに
取り巻きC・エリアル視点
合宿は続くよどこまでも…orz
極力早く更新しますって言った結果がこれだよ!!
…ごめんなさいとある事情により遅れました
わたしだけが気付いたのは、偶然だった。
いや、必然、だったのかもしれない。
たぶん、その場でいちばん耳が敏感なのがわたしだったから、ほかのひとより気付きやすかったのだ。
「危ないっ」
手を伸ばして、掴んだ。
身体を襲う、浮遊感。
落ちる−−−、
こんにちは。母を訪ねて三千里、ではなく、レスベル探して山歩き、引き続き演習合宿中のクロことエリアル・サヴァンです。
ただいま休憩を終わらせて、わたしが示した第二ポイント向けて歩いているところですよ。
こんどこそ、正解を引けていると良いのだけれど。
「クロは、普通に音魔法を使うことはないの?」
歩き始めてしばらくののち、姐さんことブルーノ・メーベルト先輩が口にしたのは休憩前の会話の続き、だろうか。
普通に、と言うのは、魔法(物理)ではない使い方で、と言うことだろう。
特に隠す気もないので、素直に答える。
「ありますよ?」
「あ、あるんだ」
「大々的に使いはしませんが、一応、音魔法関連の指導は受けていますからね。あくまで、指導を受けた、程度の腕ですが」
普通の使い方ならば恐らく、アーサーさまの方が得意なはずだ。オルゴールに、魔法を込められるくらいだし。
「カリヨンベルでも、乗せられるの?」
「“でも”と言うか、“しか”と言うか…」
『邪道な使い方は巧いのに、どうしてまともに使おうとするとそんなに不器用なんだろうねきみは』
指導教官の渋い顔を思い出して、目を泳がせる。
明後日の方向を向いたわたしの顔を、姐さんが覗き込んだ。
「“しか”って…?」
「まともに魔法を乗せられる楽器が、ベルしかないのです。ベルでしたら、鐘楼のような大きいものでも、ハンドベルやもっと小さいものでも乗せられるのですが、それ以外の楽器ですとほぼ壊滅的です」
辛うじて、笛。それも、フルートや金管楽器みたいなオーケストラにいる笛ではなく、リコーダーやオカリナ、あるいは良く体育の先生が首から提げているあれみたいな、“笛”と言うより“ふえ”と表現したいようなタイプの笛だけだ。あと、口笛に指笛、草笛に、虫笛なんかでも行けた。
ただし、笛の場合、効果があるのは動物と幼い子供相手だけだったけれど。
あー、うん、だから、縦笛使ってリアルハーメルンの笛吹きは出来るよ。やる予定はないけどな!
この辺の細かい事情は、わざわざ話す必要もないので話さない。“普通の”音魔法が使えるのはベルだけなのは事実だしね。
「それは、楽器が、」
「弾けないわけではないですよ」
パパことパスカル・シュレーディンガー先輩が控えめに口にした問い掛けは、みなまで言わせず否定した。
まあ、そう思うのが自然だとは思いますけれども。
でも残念ながら、音魔法使いってことで、一通り楽器は弾けるようにさせられているのだ。『この不器用娘はなになら魔法が乗せられるんだい!?』と、ヤケになった指導教官の手により、かなりマイナーなものまで。だから、曲がりなりにも貴族令嬢のわたしが、指笛や草笛なんて出来ると言う謎の現象が…。口笛はともかく、指笛と草笛は前世知識じゃないよ。
ほとんどの楽器はあくまで、弾ける、程度のレベルだけれども。
あっ、でも、草笛ならプロいから!子供たちのヒーローになれるレベルだから!
え?そんな自慢要らない?えー…結構頑張って練習したのにぃー。
肩をすくめて、苦笑を見せる。
「弾けは、します。魔法を乗せられないだけで」
「それって音魔法使いとして、問題にならないの?」
「ならないですね。楽器を使わなければ良いだけの話なので」
音魔法使いのほとんどが、ヴァイオリンやフルート、トランペットのような、持ち歩きに便利でどこでも演奏出来る楽器や、ピアノやオルガンのような設置箇所の多い楽器を相棒にしているそうだ。音楽療法として傷病人を相手にすることの多い音魔法使いに、大仰な楽器は馴染まないから。
その定石を理解していれば、使い勝手の悪いベルでしか音魔法を使えないのは不便では、と思ってもおかしくない。
けれどろくな楽器が使えないとて、逃げ道が存在しないわけではなくて、
「え?」
「わたし自身が、楽器ですから」
にっこりと笑って放った言葉の意味を、即座に理解出来たひとは、いなかったみたいだ。
「…どう言うこと?」
疑問をあらわにする姫ことヴィクトリカ殿下に、まだ説明していなかっただろうかと首を傾げる。
…アーサーさまは知っているから、伝わっていると思っていたのだけれど。
なんだか少し愉快な気分になって、謎掛けのように問い掛ける。
「楽器がなくては、音楽は奏でられませんか?」
前世では、ワイングラスにものさし、フライパンに雨垂れ、果てはお腹やちくわまで楽器にしていたけれど。
ああ、ちくわが食べたいなぁ。練り物や餅巾、こんにゃくにちくわぶが入った、あったかいおでんをたらふく食べたい。お豆腐とちくわが入った、具だくさんのけんちん汁も良いなあ。
思いっきり思考を脱線させるわたしの隣で、むう、と考え込んでいた姐さんが、ぴこんっと効果音が付きそうな動きを見せた。
「そっか、歌えば良いんだ」
「そうですね」
見事正解を当てて見せた姐さんに両手で丸を作って見せたあと、でも、とひと指し指を立てる。
「歌うだけでも、ないのですよ」
「楽器で伴奏をする、と言うことか?」
「そう言うことも、ありますね」
あんちゃんことラファエル・アーベントロート先輩の言葉に頷くが、わたしが言いたいこととは違う。
首を捻る面々の中で、テディことテオドアさまが、ああ、と小さく呟いた。
「そもそも楽器なんか使わなくても、お前は魔法で好きな音を出せるんだもんな」
「あ…」
テディの指摘に、姫が虚を突かれたような顔で声を漏らした。
「そうか、普段エリア…クロは楽器なんて使わずに、音魔法を使っていたね」
その通り。
そもそも音魔法と言うのは、“音を操る”魔法なのだから、楽器なんてなくても好きな音が奏でられるのだ。
実のところ、わたしが限られた楽器でしか音魔法を使えないのは、そこがネックなんじゃないかと考えている。
もともと独学で音魔法を使い始めたわたしは、“自分自身の魔法を使って発生させた音”か“肉声”に魔法を乗せていた。そしてその後“ベルの音をお手本に、音を物理攻撃として利用する”ことを目指した。この感覚が抜けなくて、魔法で出した音と肉声、そしてベルにしか、魔法を乗せられないのだと思う。
それで困ることと言えば指導教官から睨まれるくらいなので、別段問題と思ってはいなかったりするのだが。
「はい。好きな、と言っても、明確に想像出来る音だけですけれど、楽器なしに音を奏でて、魔法を乗せることが可能です。思い浮かべた音が曖昧だと効力が現れませんし、楽器を利用するより余分に魔力を消費するので、ほかの音魔法使いの方々はよほどせっぱ詰まらない限りやらないそうですが」
ちなみに、最も手軽に音楽を奏でる手段である歌が、音魔法の媒体として利用されにくいのも、このあたりに理由があるらしい。楽器の力を借りずに正確な音を出すのが難しいから、だそうな。
「…余分に魔力って」
「音を出す分の魔力です。そんなに増えるわけでもないのですが、楽器を弾けば不要になる魔力ですから、余計な魔力消費を嫌う方はまず使いません」
「そんなことを、いつもあっさりやってたのか」
「いえ、あの」
どう言ったら良いだろうか。
目を細め、過去、まだ小さかった愛しい少女に説明した話を思い出す。
「…音魔法が異例なだけで、実際は例えばパパがやっていることと、大して変わらないことなのですよ?」
「ん?おれ?」
唐突に名前を出されたパパが、ぱちぱちと目をまたたいた。
「ええ。パパは火魔法使いで、火が起こせますよね?」
「うん。と言っても、大した火力ではないけど」
「自分が出したものでない火を、操ったことはありますか?」
「え…?」
ああ、やっぱりないのか。
なにか理由があるのか、単に気付いていないのか。
わたしはこの国の魔法教育の手落ち部分を指摘した。
「操れる、はずなのですよ。火に介入する能力が、火魔法のはずですから」
「そう…なの?」
「そうなのです。ほら、昨日お嬢が鹿の血を操ったでしょう?鹿の血はお嬢が出した水ではありません。にもかかわらず、お嬢は鹿の血を操れる。自分が出していない水にも、魔法を乗せることが出来るからです。同じことが、火魔法でも出来るはずです。普段、自分が出した火にやっていることを、別の火に応用するだけですから」
お嬢ことツェリは普段自分で水を出して障壁やらなにやらを作っているが、たとえば雨水やなんかを利用して作ることも可能なのだ。出来るように、わたしが教えたから。
「…例えばウルのような、雷撃使いでも、か?」
「反射神経も必要になりますが、落雷の軌道をずらすとか、ほかの雷撃使いの攻撃に介入するとか、可能だと思いますよ」
「ああ、そっかぁ」
うんうん、と納得したように頷いて、姐さんが微笑んだ。
「つまり、音魔法使いが普通に利用する方法がすでにある火を操ることで、クロがやっているのは自分で火を出して操ること、ってことだねぇ。音魔法使いが変わっているだけで、この国の主流はクロのやり方なんだ」
「そう言うことです。ですから、わたしはべつにすごいことをやっているわけではないのです」
ほかの魔法使いが当たり前にやっていることが、音魔法に関しては当たり前でなかった、と言うだけなのだ。
なんと言うか、うん、もう少し柔軟性持てよ、と言いたい。
したり顔で頷きを返していると、テディから突っ込みが入る。
「…いや、普通の魔法使いも、そうぽんぽん魔法使わないからな?」
「え?」
いやいや、だって、お嬢もわんちゃんもわたしの指導教官も、普通にぽんぽん魔法使って…、
「グローデ導師は魔導師だし、お前がぱっと思い浮かべるような魔法使いは、みんな宮廷魔術師だろうが。普通じゃない、一流の魔法使いだ」
…言われてみれば、そうでしたね。
でも、パパだって、昨日あっさり魔法を使って、
「パパは火力こそ低いけど、魔力だけ見りゃそれなりに高いからな?」
パパに代わってクララことクラウス・リスト先輩が言う。
さっきからなんで、わたしの思考を読んだみたいに意見が出るんだろう。
「高いって言っても、クロや姐さんには遠く及ばないけどね。おれの場合は訓練途中だから、出来るだけ魔法を使うようにしているんだ。使わないと上手くならないし、錆び付くばかりだからね」
「パパは高等部からだもんねぇ、クルタス」
「うん。もっと早く来ておけば良かったって、本当に感じてるよ」
パパの口調は実感がこもったもので、わたしはきょとんと首を傾げた。
クルタスでなくても、どこかしら学校には通っていたはずだ。魔法に開花したならば、それなりの教育も受けたはず。なのに、
「そんなに、違うもの、ですか?」
学校が違うだけで、そんなに実感がこもるほどの違いがあるものなのだろうか。
確かに魔法はクルタスが国内随一だろうけれど、貴族が通うような学校ならばどこだって一定水準は満たしているはずだ。
「違うな」
「うん。かなり違うよ」
疑問に答えたのは、パパでも姐さんでもなく、テディと姫だった。
「…こんなかで、初等部からクルタスって、クロだけか?」
「いや、私もだ」
「そうそう、あんちゃんは初等部からクルタスで、僕と兄貴は中等部からだねぇ。テディと姫も中等部からだし、クララは高等部から、だよねぇ」
「オレも、さっさとクルタスに来ときゃ良かったって思うんすよねー」
「うん。僕もそれは、賛成だなぁ」
二対五。なんだろうこの、圧倒的アウェイ感。
「えっと…?」
「…この国の王族として、本当に恥ずかしい話なんだけどね。もしツェツィーリア嬢が初等部を王都の王立学院で過ごしていたなら風当たりがもっと酷かったと、断言出来るよ。実力主義のクルタスと違って、王都の王立学院は家柄が重い」
「それは、クルタスでも、」
「王都の王立学院では、それ以上なんだ。王族を筆頭に、純然たる格付けが徹底されている。クルタスの中等部に入学したとき、正直感動したよ。息をするのが、かなり楽になった」
姫がすごく実感のこもった声で呟き、クララがだよなーっと同意した。
「家格が高いからって実力ねぇやつがえばって、家格の低いやつを馬鹿にしてさ。ほんっとーに、生きにくい学校だったぜ。オレのこの口調も、さんっざん顔しかめられたしなー。ま、オレは侯爵家だったからなんか言われたりはしなかったけど。クルタス来たらさ、ほら、クロお前、中等部で生徒会役員やってただろ?子爵家の、それも令嬢が、生徒のてっぺんに立てるのかって、すっげぇ驚いたよ」
「王都の王立学院だと、高位貴族の男子が役職を独占してたからね」
「そのくせ書類仕事は、従者任せだったりするしなー」
なら、役職なんかに就くなよなー。
あけすけなクララの言葉にみんな苦笑を浮かべたが、否定するひとはいなかった。つまり、その言葉が紛れもない事実、なのだろう。
「魔法の教え方も、クルタスならどんな魔法でもある程度学ぶ手順が様式化されているけれど、ほかの学校だと指導者の裁量次第だからねぇ。僕の場合はクルタスで治癒魔法を教えている先生がわざわざ出張って教えてくれたけど、そうでなかったら今ほど魔法が使えたと思えないよ」
「おれの場合は中等部まで地方だったから、魔法に関しては本当に、独学よりマシ程度の授業しか受けられなかった。どうにか親が家庭教師を付けてくれたけど、それだって月に一度だけだったし」
「王都の王立学院と比べても、魔法の教育はクルタスが秀でるね。身分問わず魔法を使える子供を集めて教育しているだけあって、経験が違う」
姐さん、パパ、姫から比較した結果を言われて、自分が恵まれていたのだと気付く。
わたしをクルタスに行かせることを決定したのはわんちゃんだったから、わんちゃんに感謝すべき、だな。お嬢をクルタスにと進言したのも、わんちゃんだったはずだ。
きっと、いろいろな情報を手にした上で、最善を選択してくれたのだろう。黙って気遣いをしてくれる、そう言うひとだから。
「…クルタス王立学院って、すごい学校だったのですね」
「平民の魔法持ちなら誰でも一度は、入学を夢見る学校だよ。身内贔屓とか誇張とかじゃなく、素晴らしい学校だと僕は思ってる。まだまだ、改善点もあるけどねぇ」
「上げて落とすところが、姐さんらしいっす」
「えぇ…?なにそれぇ?」
「イエ、ナンデモナイッス」
知らぬ間に姐さんの前に出ていたので、振り向いてクララを見た姐さんの顔は見えなかった。
朗らかな口調の姐さんとは対照的に、クララは冷や汗を浮かべて硬い口調だ。
どうかしたのだろうか?体調不良?
とりあえず引率者の前に出るのはまずいと歩調を緩め、そんなわたしに追い付いた姐さんはいつも通りふわんと微笑んでいた。
姐さんが笑っているなら、クララは大丈夫なのだろうな。
それでも少し気に掛けておこうと思いながら、視線を前に戻した。
「許されるなら、クルタスの専科に行くのも良いかもしれないですね。サヴァン家は兄さまたちがどうにかしてくれるでしょうし、アリスもいますから、わたしひとりくらい好き勝手しても困らな、っと」
「専科に行くくらいなら騎士になれよー。一緒に国防しようぜ!」
言葉の途中でクララの腕が、がしいっと首に回った。
ついさっきは顔色が悪いように見えた気がするのだけれど、杞憂だったのだろうか。わたしの心配を返して欲しい。
にっと笑ったクララの頭を、ぺし、っと姐さんがはたいた。
「こら、無理強いしないの。冬の演習合宿は騎士団に行くはずだから、一緒に参加しよう?専科も騎士も、どちらもよく見て決めると良いよ。一緒に騎士になれたら、僕も嬉しいけどねぇ」
「演習合宿で、騎士団に行くのですか?」
「うん。だから冬は、参加者に選考があるんだ。緩い気持ちで参加すると、受け入れてくれる騎士団の方々の迷惑になるからねぇ」
冬、と言うと三年生は、卒業後の進路が決まる頃のはずだ。そんな時期に騎士団に受け入れと言うことは、騎士になる生徒の見極めも入っているのかもしれない。
「選考となると、わたしは通して貰えるかどうか」
「いや、確実に通るだろ。むしろ参加を求められると思う」
そんな重大な行事に女は混ぜて貰えないのではと口にした言葉は、テディに即行で否定された。
「親父と宰相が女性騎士制度構築を推してるからな。貴重な女性騎士候補を見せ付ける機会を、逃すはずがない」
少し険しい表情でのテディの言葉に、姐さんがくすっと笑った。
ぽんとわたしの頭をなでて、口を開く。
「騎士科生ならほぼ通るよ。よほど、虚弱体質とか素行不良でもない限りねぇ。選考はどちらかと言うと、近衛騎士と一般騎士の割り振りのために行われるんだ。近衛はともかく一般騎士の仕事は、荒事もあり得るから」
つまり、荒事おっけーな生徒が一般騎士へ送られる、と。
「気に入られるととんでもない辺境に送られたりなー」
「はは、今年はどこにやられるんだろ…」
「ああ、先日お前たちが昨年度行った隊の隊長に会ったが、今は西の国境付近の砦勤務らしいぞ?不法侵入が多くて、小競り合いが絶えないそうだ。良い経験になるからぜひ生徒を受け入れたいと言っていたな」
あんちゃんの言葉に、クララとパパが同時に、うっ、と呻いた。
どうやらふたりとも、気に入られた生徒らしい。
「い、良いひとなんだけど無茶振り多いんだよあのひとぉーっ!!」
クララが顔を覆って地に膝を突く。
「あんちゃん、副隊長は!?副隊長は一緒じゃないよね!?」
いつになく必死な様子で、パパがあんちゃんに縋り付いた。
ぽり、と頬を掻いて、あんちゃんが言う。
「いや?一緒に移動したと言っていたぞ?あのふたりは揃っていた方が、実力を発揮するらしいからな。ふたりとも再会を楽しみにしているそうだ」
「うわあぁぁぁぁぁぁぁあ」
パパが、頭を抱えて崩れ落ちた。
虚ろな目で、ため息を吐く。
「また、引き回されて馬車馬のように働かされるんだ…、寝る時間削って山のような書類仕事をやらされるんだ…」
「あいつらもう今年卒業しねぇかな、だそうだ」
「い、一生馬車馬…!?」
「んな、アホな…!!」
顔を上げたパパとクララがおののく。
…どんだけ酷使されたんですか、おふたりとも。
ふたりが足を止めたために立ち止まった姐さんが、振り返って微笑んだ。
「こんな感じで気に入られるとすごく可愛がって貰えるし、入団後も拾って貰えるから、頑張ってねぇ」
この状況でその台詞が出ますか、姐さん…。
「あ、姐さん、人格者で有名なひとに気に入られたからってぇ…!!」
「そうじゃないよ」
クララのブーイングへ首を振って、姐さんはふふっと微笑んだ。
「どんなにバラバラになったとしても、いずれスーやラフ…兄貴やあんちゃんの許にみんな集まるって思ってるから、パパやクララがしっかり指導してくれるひとに気に入られて嬉しいんだよ。あの隊長と副隊長なら理不尽に使いつぶしたりしないだろうし、たとえどんなに厳しくされたってふたりなら折れずに成長して来れるって、僕は信じてるからねぇ」
パパとクララはしばし絶句してから、おもむろに立ち上がった。
「立ち止まってる、場合じゃなかったっすね」
「うん。進もう」
立ち上がってもうつむいたままでそう口にしたふたりを穏やかな目で見て、姐さんは頷き踵を返した。
「そうだね。行こうかぁ」
そう言って歩き出した背中は、すごく格好良く見えた。
やばい、姐さん、まじ姐さん。
そして、パパやクララをここまで畏れおののかせながら、姐さんからの信頼まで勝ち得ているその隊長さんと副隊長さん、すごく気になる。
「会ってみたいですね、その隊長さんと副隊長さん」
「気に入られれば会えるんじゃないかなぁ?国境の砦はそれなりの大きさだから、ふたりしか受け入れないってことはないと思うよ」
「いえ、国境は…」
ピアはいないから、言っても良い、だろうか。
小さなため息と自嘲混じりの笑みを浮かべて、わたしはうつむいた。
「国境に近付く許可は、まだ下りないと思います」
『…え?』
聞き返す声は、数人のものが重なっていた。
その中に姫の声も混じっていたことに、少し驚く。
国王陛下は思った以上に、息子へ情報を伝えていないらしい。
「国の許可がないと、あまり大きな移動は出来ないのです。幼いころに何度かさらわれ掛けたことがあって、警戒されてしまったみたいで」
「さらわれ、って、いつ」
「学院に、入る前の話ですよ。どれも大したことには、」
姫の問いに答える途中でぐいっと、肩を抱き寄せられた。ふわりと、薬草の香りが鼻をくすぐる。
「…怖かった、ねぇ」
「い、え…すぐに、わんちゃんが、助けて、くれて…」
言葉に詰まったのは、心が揺れたから。
瞬間、幼い自分が抱き締められたように感じた。
心細さに震えながら、でも誰の手も望めなかった、幼い自分が。
その頃のわたしに与えられた手は、わんちゃんの手だけだった。
痩せて骨張った、大きな手。
その後初等部でツェリに出会い、幼く小さな、けれど荒れた手と手を繋いだ。中等部ではリリアが、わたしを支える手になってくれた。中等部卒業間際には、レリィにも手を伸ばした。
でも、小さなころに手を差し伸べられなかった過去は、変わらなくて。
なのに、姐さんの手は、その過去すら包み込んでしまいそうで。
少し体温の低い大きな手が、包むようにそっと、肩をなでた。
「無事で、良かった」
小さいわたしにそう言って、抱き締めてくれたのは、わんちゃんだった。
わたしにとって家族よりも、よほど家族らしい存在。純粋に、わたしの無事を喜んでくれたひと。
ただ、抱き締めて欲しかった、その願いを、叶えてくれたひと。
その隣に、姐さんが立ってくれたみたいに思った。
「ありがとう、ございます」
「こちらこそ、今まで無事でいてくれてありがとう」
言って、いきなりごめんねぇと手を離した姐さんは、ちらりと流し目で後ろを一瞥してから顔を戻して微笑んだ。
「じゃあクロのことは、僕がお世話になったひとにお勧めしておくねぇ。あのひとなら今は国境から離れたところに配属されてたはずだから。冬も、一緒に合宿出来ると良いなぁ」
「もしかして、姐さんが尊敬していると言っていた騎士さんですか?」
「ううん。そのひとではないんだけど…でも、尊敬出来るひとなのに違いはないよ。クララも言っていたけど、周囲からの信頼がとても厚いひとなんだ。まあ、実はかなり厳しいひとでもあるんだけどね」
…そこで、なんでちょっと遠い目になったのですか姐さん。
思い返せば姐さん、パパとクララがお世話になった方々の方を勧めていましたね。
「ああ、フリージンガー団長か…」
え、待って、あんちゃんまで遠い目ってどう言うこと。
最後尾で顎に手を当て、あんちゃんが説明する。
「問題児はとにかくフリージンガーに預けておけと言われる、有能な指導者だ。どんな荒くれ者でも、彼の手に掛かれば子犬のようにたやすく手懐けられる」
「えっと、見た目が怖い方、とかでしょうか?」
「いや?見た目はちょうど、クロに似ているな。身長もクロくらいだったはずだ。黒薔薇色の髪と目で、線が細く、中性的な顔立ちをしている。見た目から嘗めて掛かる者も多いらしいが、実力は凄まじいから即返り討ちにされているな」
それは、もしや、
「策士…?」
策士タイプ、なひとじゃなかろうか。
「うーん。それは少し違うかなぁ?確かに頭の良いひとではあるけれど、策を弄して、と言うより、真っ向からぶつかって優位を認めさせる、みたいな」
「ああ、」
なるほど、理解した。
「調教師、ですね」
「そうだねぇ、うん、馬鹿な獣には容赦しないひとだよ」
「言い得て妙だな。話を聞いただけにしては、上手く人柄を捉えている」
わたしと姐さんとあんちゃんで頷き合うと、クララから思いっきり突っ込みが入った。
「いや待ておかしい。納得してるけどクロの例えからしておかしいし、それに対する姐さんの答えもおかしい。しかもそれだと姐さんみたいな優等生は少しも苦労しないことになる!」
「…いや、クララ、去年はフリージンガー団長のところに、私とウルと姐さんと、問題児が数人集められたんだがな、私とウルはクルタス側の問題児の統率を任され、姐さんは騎士団側の問題児を押し付けられた。まず優等生は取らないところに、姐さんのような優等生が選ばれた、つまり、後継として期待されたって、ことだ」
隣をうかがうと姐さんは遠い目で微笑んでいた。
過去を懐かしんでいるのか、哀しんでいるのか。
「フリージンガー団長はむしろ、目を掛けたお気に入りに対しての方が厳しい」
ああ、はい、辛かったんですね…。
思わずそっと、姐さんの手を握っていた。
「お疲れさまです…」
「いや…うん…ありがとう…。なんだか、クロが一緒に行ってくれるなら、頑張れる気がするんだぁ…」
「はい、一緒に頑張りましょうね…!」
姐さんをこうも追い詰めるフリージンガー団長とやらは少し怖いが、姐さんや、たぶんあんちゃんもいるなら心強いし、わたしで姐さんを支えられるなら少しの苦労くらいどんと来いだ。
「ふふ。ありがとう」
姐さんはにっこり笑って、手を握り返してくれた。
「レスベル、だぁ…!」
そんなこんなで歩き続け、近付いて来た木を見て、わたしはぱあっと顔を輝かせた。
期待まんまんの眼差しで、姐さんを振り向く。
「あれ、レスベルですよね?間違っていないですよね!?」
「うん。正解だねぇ。クロ、えらいえらい」
頷いた姐さんが、ぽんぽんと頭をなでてくれる。
すごく、微笑ましいものを見る顔だ。
「ほー、あれか」
「…さっきの木と、違いがわかんねーんだけど」
「いや、ほら、葉っぱが違うでしょ?」
パパがクララに、落ち葉を拾って見せる。
「さっきの木はここの、へっこみがなかったでしょ?この、心臓型の葉っぱが、レスベルの特徴だから」
「心臓型って、」
「昔のひとがそうやって名付けたんだよ」
ふたりの会話を後目に木へ近付き、鈴なりの木の実を見上げる。
ああ、確かに、
「先ほどの木の実より、赤みが強いですね」
「でしょう?この色を覚えておくと、意地の悪い商人に騙されなくて済むよ」
「色の違い、ねぇ…」
わたしの隣に立ったテディが、さっきの実を取り出して首を傾げた。
わたしが運ぼうとしたら、俺の方が体力あるだろ、と、テディに奪われた木の実たちだ。
「木になってる状態だと、わかりにくいかもねぇ。取って並べたら一目瞭然だよ」
「取り方に、注意点とかありますか?さっきのやり方で大丈夫でしたら、すぐ取れますけれど」
「熟して実が割れるくらいのものが一番だから、さっきより優しめに揺らすくらいが良いかなぁ。魔法を使わない場合もね、木を揺らして落ちて来た実を拾うのが良いやり方なんだよ。量は、さっき取った量の三分の一もあれば十二分に足りるから」
「了解しました。では、少し離れて下さいね」
姐さんから採集用の袋を受け取り、音でそっと枝を揺らした。
ぼとぼとと落ちて来る木の実を、袋で受け止める。
割れた実も含まれているのか、芳醇な果実の香りが漂う。
集まった実は、さっき取った量の半分以上になった。
加減したつもりだったのだけれど、甘かっただろうか。
「…思ったより、大量ですね」
「んー、でも、ちょうど良い時期のしか落ちてないよ。上手上手。よく熟した実が多かったんだねぇ」
袋の中を覗いた姐さんはふわりと微笑むと、ひょいとひとつ実を手に取ってテディたちに見せる。
「ね?ちょっと赤みが強いでしょう?」
「…言われれば、確かに」
「でも、単体で気付って言われてもオレは無理っす!」
「味も違うよ?」
姐さんが折り畳みのナイフを取り出して実を切り分ける。
そのままみんなに配…え、わたしにはくれないの?
手渡されて口に入れた瞬間、あんちゃんを除く四人が一様に顔を歪めた。
「−−すっ」
「っぱい!!うぇぇ、なにこれー」
辛そうな顔で口元を押さえたパパの、言葉を拾ってクララが叫ぶ。
くすくす笑った姐さんが、テディからレスベルじゃない方の木の実を取ってクララに投げる。
クララもパパも夢中で、甘い木の実をむさぼった。
「僕、苦手なんだよねぇ、この味。すっぱ過ぎて」
「先に警告して下さいよ!!ほら、姫見て姫!びっくりし過ぎて、固まっちゃってるじゃないすか!!」
「すっぱ…おい、ヴィック?大丈夫か?口直ししろ、口直し」
魂抜けかけの姫の肩を、テディがぽんぽんと叩く。
ひとりよくわかっていない顔で、あんちゃんが首を傾げた。
「…そんなに、ひどい味か?」
「好きなひとは好きらしいけど、僕は駄目ぇ。クロは、すっぱいの平気?」
「ええ」
ほんとにすっぱいから、気を付けてねぇ、と言う警告と共に、姐さんからみんなに渡したよりも小さく切った木の実を手渡される。
匂いを嗅いでみるが、さほどすっぱそうな香りはしない。ごく普通に甘そうな、梅や桃に似た香り。
ちろりと舌を出して、舐めてみる。すっぱい。うん、あれだ、クエン酸系の、匂わないのにすっぱいからダメージでかいやつ。
味的には、こう、濃縮したシークヮーサー果汁のような…。
ぽいっと口に実を投げ入れて、思いっきりすっぱい顔をする。
すっぱい。すごくすっぱい。でも、このすっぱさが良いような気もする。
「大丈夫?」
「大丈夫です。こんな味、お嬢が好きですよ」
なんでもない顔で残りの実をかじるあんちゃんを見て、あんちゃんに料理は任せまいと心に誓いつつ、苦笑して答える。
わんちゃんから貰ったとってもすっぱい梅干しを気に入ったお嬢なら、この木の実も気に入ると思う。グレープフルーツでも食べるみたいに、ふたつに割ったレモンをスプーンで食べてたりするし。
「すごくすっぱいんだけど身体には良くってねぇ、夏バテや風邪の予防に効くんだよ。すり潰して、湿布薬にすることもあるし」
「湿布薬って!!」
「あとは…うーん…ほかの薬効は気になったら自分で調べてみてねぇ」
「?はい」
なぜか少し頬を赤らめた姐さんに首を傾げつつも、あんちゃんに渡す前に取っておいたらしいレスベルの種子を見せて貰う。
「種子の色も少し赤みが強いのですね」
「うん。あと、レスベルの方が種の厚さが厚いから、種だけならそこも見分けに役立つよ。果実付きで見分けるならかじってみるのがいちばんはっきりわかるけどねぇ」
「それは…そうですね…」
いまだに魂を取り戻せていない姫を見て、しみじみと頷く。
このすっぱさを取り違えるひとは、そうそういな…いや、あんちゃんなら取り違えそうだけれど、まあ、薬を扱うひとならまずいないだろう。
と言うか、姫、そんなにすっぱいもの苦手だったのですね…。
「兄貴に一度連絡して、お昼ご飯にしようか」
「はい」
おにぎりの具、梅干しにしないで良かった。
荷物に梅干しを入れなかったわたしにナイス!しながら、わたしは頷いてお嬢へ通信を送った。
お昼ごはんのおにぎりは好評だった。
有言実行とばかりに十五個のおにぎりを胃に収めた姐さんに驚いたりもしたが、美味しいと笑って食べて貰えると作り手としては嬉しい。
わたしとお嬢経由で三年生が協議した結果、今日は洞窟に潜らず食料探しを続行することになった。
ここに来るまでで半日費やしているからね、妥当な結論だと思う。
と言うわけで、食休み後にふたたび探索開始ですよ。
結構登ったから、と言うことで、少し周辺を探索してみるそうだ。
「レスベルが生えるような高地だと、あまり食料はないかもしれないんだけどねぇ」
「その分、珍しい食材が見付かる可能性がある」
「あ、あんちゃんは食料とか、気にしなくて良いからねぇ!?」
姐さんとあんちゃんの掛け合いに笑いながら、さくさくと山を歩く。
高木が少ないので見晴らしは良いのだが、足元にはたくさんの草木が生えているのでうっかりすると足を取られて転びそうだ。
「高山だと、美味しい鳥がいるとか」
「クロ、思考が肉食なのなー」
「いえ、でも、わたしがいると肉は手に入らないですよ」
昨日の反省を活かして、今日は全力で獣除けと化しているクロですよ…と、もしかして、
「だから、兄貴はわたしを外そうとしたのかもしれないですね」
今更ながらに兄貴の意図を理解。
うん、少しも寄り付かないか千客万来かの両極端だものね。経験を積ませたかったら、クロは邪魔ですね、はい。
「クロがいると、肉が手に入らないって?」
「昨日は、大物狩ってたよな?」
昨日は結局はぐらかしたので、兄貴以外がわたしの事情を知らない。
どう説明しようか迷って、まあ兄貴に対してと同じように説明すれば良いかと、かいつまんで事情を説明する。
「−−−と言うわけで、わたしが側にいると獲物は来ないか来過ぎるかなのです」
「お前、だから野良猫に懐かれてたのか」
「あれはテディでひと慣れしたからでしょうね。始めは気配もありませんでしたから、近付く前に逃げ出していたのだと思いますよ」
フィッシュ&チップスを狙われたときが、初対面だ。
今思えば初対面にしてずいぶんと図々しい猫だった。慣れてからは、平気でわたしを枕やベッドにして寝るし。お返しに、わたしも猫枕しているけれど。
「うーん、でもそうなると、探索はふたてに分かれた方が無難かなぁ?三四で分かれて探す?」
「分かれるならもう少し基地に近付いてからが良いだろう。はぐれたり戻れなくなっても困る」
「それもそうだね。じゃあ、もう少しこの付近をみんなで探索してから下りて、ツァボルスト高地に戻った辺りでふたてに分かれよう」
姐さんの結論に反論する意見は出ず、引き続きぞろぞろと山を歩く。
「?」
「どうかした?」
途中で違和感を覚えて、足元を見る。
なんの変哲もない、草木に被われた地面だ。
「いえ、なんでもありませ、あ」
見下ろした先に、どこかで見たような蔓を見つけてしゃがむ。
芋系のなにか、だと思う。
「ん?ああ、ヤムイモの仲間だねぇ。これは…うん、山羊芋って呼ばれる種だな。食べられる種類だよ。少し早めだけど食べられる時期だし、取って行く?」
「美味しいですか?」
「うーん、今は早いから少しアクが強いかも」
「珍しいのか?」
「高山で自生しているのを探さないと食べられないものだから、流通はしない、と言うか、薬効があるから乾燥させて薬の原料にされちゃうから、食用として手に入ることはまずないよ。僕は師匠の趣味が山歩きだから食べたことあったけど」
「よし、取って行こう。さあ掘れ、クロ」
珍味狙いらしいあんちゃんがわたしに命じる。…調理法を考えるのは、たぶんわたしなんだけどなぁ。
まあ良いやと地面に手を突き、芋の形を探る。真っ直ぐ下に伸びるのではなく、ぐにっと曲がって生えているみたいだ。長い。
土を崩して、引き抜いた。
うん、だいぶ大きいけれど長芋そっくり。旬は秋だったように思うのだけれど、今取って大丈夫なのだろうか。
「?」
また、なにか違和感を覚えた、ような?
「でかいな」
「こう言う植物なんだよ。これは、まだ小さい方」
疑問を形にする前に、あんちゃんに山羊芋を奪われて意識がそちらに向く。
前世の記憶にあるものよりかなり長いし太いように思うのだけれど、これでも小さいのか。
長芋と言えば浮かぶのはお好み焼きだけれど、キャベツもソースもないとなると寂しい感じになるから駄目かなぁ。せめてなにか、キャベツの代わりになる山菜が見つかればべつだけれど。
そんなことを考えながら、もう一本だけ山羊芋を収穫する。
濫獲しても良くないので、ここで取るのは二本だけ。
「ククルクもあっさり見つけていたけど、クロにはお芋探知機でも付いてるの?」
「付いていないですよ。偶然です」
姐さんに山羊芋を渡して、立ち上がる。キャベツを探そう。キャベツキャベツ、高原キャベツ。
手や膝に付いた土を払って振り向くと、クララたちが少し離れた位置にいた。どうやら、パパが食べられる野草を見つけたみたいだ。
姐さんとあんちゃんと顔を見合わせて、しゃがみ込んで野草を摘んでいる面々に歩み寄る。
さくさくと歩くと、やっぱりどこか違和感がある。
なにがそんなに、気になるんだ…?
足元…音…?
でも、足元に特に変わったところなんて…、
「あ、パパ、あっちのあれは?」
「うん?ああ、あれも食べられるものかも。見てみようか」
ふと、立ち上がったテディに呼ばれてパパが立ち上がる。
「…?」
やっぱりおかしい。
なにが、
耳に付くのは、歩き出すテディとパパの、足音?
「!」
意味に気付いてとっさに駆け出す。
「危ないっ」
わたしの突然の声になにごとかとみな振り返るが、ふたりの足は止まらない。
ああ、馬鹿だ、むしろ逆効果だった。
呼び掛けたりせず前を向いていれば、足元の危険に気付いたかもしれないのに。
「待って、止まっ」
叫ぶわたしの目の前で、テディとパパが、がくんっと体勢を崩す。
「手を!!」
めいっぱいに伸ばした手は、ふたりの手を掴めた。
そのまま、思いっきり引っ張る。
わたしとふたりの位置が、入れ替わった。
「アルっ!!」
地面に投げ出され尻餅を突いたパパとテディを確認して、ほうと息を吐いた。
対するわたしの足元は、深い、暗闇。
落ちる−−−、
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
と言うわけで
予告(?)通り、落ちる(物理)でした
ではなく
ごめんなさいぶった切り過ぎですよね
脱線し過ぎで尺が足りなくなったため
落ちたエリアルさんの行方が次回に持ち越しになってですね
次話投稿に間を開けないために
今話の投稿が後ろ倒されたと言う…(‥;)
そのぶん次話は!
次話こそは早めにお届けする予定ですので
落ちたエリアルさんの行方を見届けて頂けると嬉しいです




