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取り巻きCの初合宿 いちにちめ−そのいち

メリークリスマスヽ(*´ω`*)ノ


いつの間にか枕元にプレゼントを設置して行く

サンタさん的な投稿を目指してみました(笑)


取り巻きC・エリアル視点

エリアルが高等部一年の夏休みのお話


サブタイでお察し頂ける通り続き物となっておりますごめんなさいm(__)m

 

 

 

「あの、」


 指定された集合場所へ赴いて、集まった面々に向けて問いかける。


「この班、ずるくない、ですかね?」

「…師の意図は、感じるな」


 わたしの声を受けたスー先輩が、低く呟く。


「私のせい、かな。すまないね」

「いえ、別に文句はないですよ。先生たちが勝手に気遣っただけでしょうから、殿下はお気になさらず」

「それにしたって、やり過ぎ、ね」

「…だな」

「ですよ、ね」


 殿下が申し訳なさそうな顔をしたのを首を振って否定し、ツェリとテオドアさまの会話に同意を示す。


 いくら王族がいるからとは言え、このメンバーはやり過ぎだろう。




 現地集合からこんにちは。お手て繋いで遠足ならぬ、騎士科演習合宿中の、エリアル・サヴァンです。

 演習合宿と言うのは長期休暇期間中に行われる騎士科特有の学外授業で、夏期休暇中に二回、冬季と春季の休暇中に一回ずつ、年四回行われる。参加は任意だが実戦的な経験を得られる良い機会なので、騎士を志す生徒はほとんどが参加する。

 と言うわけで騎士志望のスー先輩やテオドアさまは当然のように参加し、騎士にはならないけれど実戦に近い経験は必要と、ヴィクトリカ殿下も参加している。

 わたしは参加を迷ったけれど、演習合宿は新たな人脈を作る良い機会だし、実戦経験は必要なので、参加することにした。


 ん?騎士科面子の参加はわかるけれど、なんでツェリまで参加しているのかって?


 これも、演習合宿の特色かな?

 演習合宿は騎士科の授業だけれど、希望して受け入れられればほかの科の生徒でも受講が可能なんだよ。

 魔法を使える生徒はむしろ参加を推奨されるので、ツェリもこうして参加しているのだ。


 戦争に駆り出すための準備と考えると少し複雑な気持ちになるけれど、実戦的な経験は役立つから、止めはしなかった。実力を示すことは、ツェリの未来を守るのに役立つはずだしね。


 今回は夏期休暇中の第一回演習合宿。わたしたち高等部一年生にとっては、初めての演習合宿だ。

 初回と言うことで危険を極力排除した、もうそれ、単なるキャンプだよねみたいな内容だ。言わば、お試し回なのだろう。野宿なんてしたことない人間が大部分であろう貴族の子どもたちに、野外活動を経験させるためのもの。


 使われるのは学院近郊の林野や山地で、まず出発地点に集合し、集まったメンバーと協力して指定された場所に向かって課題をこなし、学院に帰還するのがミッション。

 班ごとの班長と副班長には班員と目的地、課題が前もって知らされているが、それ以外の参加者は集まってみるまで誰とどこでなにをするのかがわからないと言う、なんと言うか、うん、やっぱりお楽しみ行事的な色合いが強い授業だ。


 で、問題の班員、なんだけれど。


 班長はスー先輩。副班長がラファエル・アーベントロート子爵子息、年度始めの模擬試合で四強に残った三年生だ。この二人に加えてさらに三年生がひとり、こちらも騎士科から、ブルーノ・メーベルト男爵子息。男性ながら騎士科の聖女の異名を持つ、学院トップの治癒魔法使いだ。

 二年生は少なくふたりでどちらも騎士科。クラウス・リスト侯爵子息、わたしの直前でスー先輩に負けた先輩と、パスカル・シュレーディンガー男爵子息、同じく八強直前でアーベントロート先輩に負けた先輩。ふたりとも、模擬試合でツェリの障壁を一枚切った方だ。つまり、剣術に関してはそれなりの実力者。さらに、シュレーディンガー先輩に関しては微力ながら火魔法が使える。


 こうして、先輩方だけ見ても、十二分に過剰戦力なのだけれど。


 一年生は先輩方の人数に並ぶ五人。

 既出の、わたし、ツェリ、殿下、テオドアさまと、




「ピアも、合宿参加だったのですね」

「あ、ち、父が、参加しても良いと、言ってくれたので」


 一年生の五人目は、なんとピアだった。

 バランス取りのお荷物役と言うなかれ。おそらくピアはメーベルト先輩に並ぶチートキャラだ。

 なぜなら、


「ピアがいると明かりの心配がなくて助かりますね」

「うん。頑張り、ます!」


 ピアは強くはないものの、光系の魔法が使えるのだ。攻撃としては目眩ましレベルだけれど、明かりとしてなら下手なランタンよりよほど便利。

 野外活動においてランタンや松明で手を塞がなくて済むありがたさは、半端でないだろう。


「ああ、アロンソ嬢は光の魔法が使えるのだったね」

「は、はい」


 体力的な心配はあるけれど、そんなの周囲でフォローすれば良い話。

 行く先やミッションにもよるけれど、ピアがいるメリットはデメリットよりもかなり大きいはずだ。


 そして、気付いただろうか。

 一年生が五人もいて、全員が魔法持ちであることに。

 しかも、治癒に明かり、火種に水と、サバイバルにおいて備えたい重要な要素が、全部そろっていることに。


「やっぱり、ずるくないですか」

「…アロンソ嬢も魔法持ちだったか。となると、否定は出来ないな。だが、その分課題の難度は高い」


 わたしの発言に肩をすくめたアーベントロート先輩が課題が書かれているらしい羊皮紙を振って言う。


「向かう先はツァボルスト高地。やることは解毒薬の材料集め。アストリットの眠り薬の解毒に必要な材料を揃えろ、とのことだ」

「アストリットの眠り薬…牡鹿を狩ってこい、と?」

「名前で材料がすぐわかるんだ。さすがエリアルくんだねぇ。確かにツァボルスト高地ですべてそろえられるけど、かなり広範囲を動かないといけないねぇ…」


 解毒薬に必要な材料を思い浮かべて苦笑したわたしを、メーベルト先輩が目を細めて褒めてくれる。ゆったりした話し方に、ただようほんわかオーラ。さすが聖女。文句なしの癒やしキャラだ。


 …小動物ピ アに、天使ツェリに、聖女(メーベルト先輩)とは。ここが聖地か。ユートピアか。


「ちょ、おい、アル、と、ブルーノ先輩、わかる人間だけで話を進めないで下さいよ」

「あ、ごめんねテオドアくん。えっと、スー、とりあえず向かいながら話そうか?お互い、自己紹介もしたいし」

「そうだな。まずは、歩きながら自己紹介をするか。ミュラーとアロンソ、疲れたら遠慮なく言ってくれ、無理させてまで課題をこなす必要性はない」


 歩き始めたスー先輩が、ツェリとピアに目を向けて言う。

 わたしたち騎士科生と違って、普通科生は体を鍛えたりしないのが普通だ。そのことへの気遣い、だろう。


 女性への気遣いもばっちりなんて、さすがは俺たちの兄貴!格好良過ぎるぜ!そこに痺れる憧れるぅ!!


 スー先輩の兄貴振りにときめきつつ、ピアに笑みを向ける。

 ツェリの体力は把握しているけれど、ピアに関しては未知数だ。気配り大事。

 メンバーを見回しても休憩が増えたなんてみみっちいことで文句を言うせっかちさんはいなさそうなので、安心して休憩をねだって欲しい。


「最初は班長のビスマルク先輩からかしら?」

「ああ、」

「待った、先輩」


 ツェリに促されてスー先輩が自己紹介を始めようとしたところで、リスト先輩が手を挙げて止める。


「なんだ?」

「ひとつ、提案なんすけど」


 言ったリスト先輩が騎士科一年組に目を向ける。


「テオと殿下とサヴァン、あれは誰だ?」

「ラフ先輩?」

「ラファエル先輩」

「アーベントロート先輩ですか?」


 リスト先輩が指さしたのは、三年生のラファエル・アーベントロート先輩で、素直に答えた声はそろったが内容がまったく異なった。


 スー先輩がわたしたちを見回して、頷く。


「そう言うことか」

「そう言うことっす」

「わかった。自己紹介だが、学年学科に名前と特性、愛称を言え。で、合宿期間中はその呼び方で統一する。敬語敬称も不要。それで構わないか、ヴィクトリカ殿下?」


 呼び方の不統一は混乱を招きかねない、と言うことなのだろう。


 スー先輩に目を向けられた殿下が、頷きかけて、少し悪戯っぽく笑った。


「敬語敬称不要は喜んで。合宿中に王族扱いされる方が嫌だからね。でも、愛称は自己申告よりみんなで決めた方が楽しくないかな」

「お、良いこと言うな、殿下」

「それなら、クラウスはクララだねぇ」

「ちょ、ブルーノ先輩、ひでぇっ!」


 先輩方のじゃれ合いを、微笑ましく見守る。

 これも教師の意図だろうが、この班は留学生のピアを除いて、全員が王太子派の家の学生で構成されている。同じ派閥の家だと交流が深まるので、自然と仲良くなるのだろう。加えて言えうと、この国の近衛を除く騎士団は比較的、家柄よりも実力重視なところも気安さに拍車をかけていると思う。

 騎士科の誰もが認める実力者であるスー先輩やアーベントロート先輩、メーベルト先輩は、家柄を問わず騎士科全員から敬われている。


 殿下の言葉を受けたスー先輩は、少し考えて頷いた。


「確かに、愛称は自己申告でない方が呼びやすくなるか。殿下の案に従おう。では、俺から行くぞ。騎士科三年、スターク・ビスマルク。獲物は両手剣で魔法は使えない。力仕事と体力には自信があるから、なにかあれば遠慮なく頼れ。疲れて歩けないならおぶってやる」

「スーは料理も得意だな」

「いや、得意と言うほどでもないが」

「いやいや、先輩は得意って言って良い方っすよ!」


 なんと。

 兄貴は料理が出来る系兄貴だったようだ。


 いや、うん。近衛はともかく他の騎士は野営もするから、軍系の家出身なスー先輩が料理出来ても、実は不思議がないのだけどね。うん。騎士科男子と普通科女子なら、料理が出来る割合は騎士科男子が勝つと思う。


「で、呼び名だが、」

「兄貴で!」


 しゅばっ!っと挙手して提案する。

 テオドアさまに、すごーく呆れた顔で見られた。


「お前、まだ言ってたのか」

「良いじゃないですか兄貴。こう、みんなの親分!みたいな感じで」

「面白い!採用!サヴァンお前わかってる!」


 からからと笑いながら、リスト先輩がわたしの頭をなでた。がしがしと乱暴に髪を掻き混ぜる手には、遠慮がない。


「じゃ、スー先輩、じゃなくて、兄貴は、兄貴で!次、副班長!」

「ちょ、クラウス、他のひとの意見を、」

「え?良いんじゃない?兄貴。僕も賛成だよ。良いよねぇ、ラフ?」

「ああ。私は構わん」


 独断先行しかけたリスト先輩をシュレーディンガー先輩がたしなめようとしたところで、ほわんと微笑んだメーベルト先輩が兄貴案に乗り、にやっと笑ったアーベントロート先輩まで便乗した。

 実力主義でも先輩は敬う体育会系。基本的に上級生には逆らわない。


「許可出たぞ!」

「…みたいだね」


 どや!と笑ったリスト先輩にシュレーディンガー先輩が苦笑を返す。

 うん。普段の関係性が伺える一幕だね。


「なら、次は指名通り私から。ラファエル・アーベントロート。騎士科三年だ。使う剣はフランベルク。剣以外だと、投げナイフもやる。兄貴と同じく魔法は使えない。あと、私は料理音痴、らしいな」

「あー…、えっと、ラフ先輩の料理音痴は真剣にシャレにならない域だから。お前らラフ先輩にだけは、料理させんなよ?」

「あれは…うん、ほんっとーに、気を付けて…」


 アーベントロート先輩の自己紹介を聞いた二年生ふたりが、ひどく実感のこもった表情で一年組を見回した。

 メーベルト先輩が苦笑して、二年生ふたりを見る。


「そっか、ふたりはあのとき同じ班だったねぇ」

「その節は、マジでお世話になりました」

「ふふ。合宿中なのに呼び出されたから、なにかと思ったよ」


 …料理で治癒魔法使い緊急呼び出しって。


 一年組が無言で視線を見交わし、アーベントロート先輩を見る。


「え?食物兵器?」

「「「「ぶっ」」」」


 思わず飛び出た発言に、アーベントロート先輩を除いた先輩四人がいっせいに吹き出した。


「っくはっ、さ、サヴァン、くくっ、おま、ぶふっ、良い!ふっはは、上手い!」


 苦しげに爆笑しながら、リスト先輩がわたしの背をばんばんと叩いた。


「食物…っ、兵器って…ぅっく」


 メーベルト先輩が笑いをこらえようと頑張ってぷるぷるしている。


「…私自身は自覚がないのだがな」

「いやっ、…お前の料理は、っ、確かに兵器だぞ…くく」


 スー先輩、兄貴まで愉快そうに肩を震わせている。笑う姿を見ると、兄貴も高校生なんだなあ、って感じだ。


「…アルお前、思っても口に出しちゃいけないことがあるぞ?」

「…いえ、つい」

「案外抜けているのよね、あなた」

「そこもエリアル嬢の魅力、だけれどね」


 集団で笑いの発作に襲われる先輩組を後目しりめに、テオドアさまからたしなめられる。

 しみじみと抜けていると言われると、耳が痛い。


「…アーベントロート先輩の呼び名は、どうしますか?」


 耳が痛いので、話をずらすことにする。


「普通に呼ぶなら、ラフ先輩、か?」

「普通過ぎませんか?」

「お前は呼び名になにを求めてるんだよ」


 そんな呆れ顔しなくても。


 だって、料理が兵器で、ナイフを投げて、使う剣がフランベルクだよ?

 フランベルクって、あえて剣の刃に波を付けて傷口を治りにくくした、鬼畜な武器だよ?


 そんな、普通な呼び方なんて、失礼じゃないかな?


「ファンファン、とか」

「お前は呼び名になにを求めてるんだよ!?」

「…記憶に残るような強い印象?」


 インパクトは大事だろう。


「アーベントロート先輩を見て、ファンファンってあだ名を提案出来るあなたがすごいわ…」

「可愛くないですか、ファンファン」

「可愛いから問題だと思うけどね」


 ツェリや殿下にまで呆れ顔をされる。

 うーん。まあ、わたしもファンファンは問題あると思ったのだけれどね。


「と言っても、ファンファンはとっさに言いにくいから駄目ですね。んー…」

「ラフ先輩で呼びやすいだろ」

「ですがそれでは面白みがないでしょう?」

「呼び名に面白み求めてないから。お前、もしかして兄貴ってのも面白みで提案したのか?」

「兄貴は兄貴ですよ!」


 兄貴を前に兄貴以外にどう呼べって言うのだ。

 あんちゃんとかにいちゃんとかでは、兄貴の兄貴たる魅力を表せな、


 あ。


「あんちゃん、とかどうですか?」


 別に家名からあだ名を付けてはいけない決まりはない。アーベントロートだからあんちゃん。ありじゃないかな。


「おま、グローデ導師に続いてラフ先輩まで…っ」

「ん?グローデ導師?導師がどうかしたか?」


 テオドアさまの突っ込みにようやく笑いの発作から復活したらしいリスト先輩が反応する。


「いや、アルがラフ先輩をあんちゃんって呼ぼうとか言い出して、で、こいつグローデ導師をわんちゃんって呼んでるんで、グローデ導師に飽きたらずラフ先輩までその名付け方の犠牲にするのか、って」

「…グローデウロウス導師を、わんちゃん…?」


 シュレーディンガー先輩が、信じられないものを見た、と言う顔でわたしを見た。


「本人の許可は貰ってありますよ?」


 幼き日に舌が回らず、わんでりゅ…わん…わんでりゅしゅにゃ…うぅ…わ、わん…と呟いていたら、もうわんで良いからそう呼べと言われたのだ。

 以来わんちゃんはわんちゃんで、訂正を求められたことはない。


「いや、許可を得られているのがおかしいよね?」

「パスカル先輩、アルとグローデ導師に関しては、突っ込まない方が良いですよ」

「そうね。真面目に考えると頭痛がしてくるわ」


 …なんでそんな、こいつ仕方ないやつだからみたいな目で見られているのだろう。


「単に、小さいころからお世話になっていると言うだけです。呼び方も、幼いころからの癖ですから」


 テオドアさまには説明した記憶があるのだけれど、そんなにわんちゃん呼びが印象的だったのだろうか。てっちゃんって呼んだ方が良いのかな?


「でも、良いんじゃね?あんちゃんで。良いっすよね、先輩がた?」

「…俺は構わないが」

「僕も良いよ。あんちゃん、可愛いねぇ」


 案外先輩方ノリがよろしくていらっしゃいますよね。

 なお、アーベントロート先輩は当人なので発言権はありません。


 上級生が良いと言うなら逆らわないのが騎士科生。


「んじゃ決まりっと。じゃ、次は聖女さまっすね」

「…ブルーノ」

「あ、やっぱり僕のこと?」


 リスト先輩の指名に兄貴がメーベルト先輩を促して、促されたメーベルト先輩がほんわり苦笑して、僕男なんだけどなぁと頬を掻いた。そう言うところが癒しなんです聖女さま。


「えっと、ブルーノ・メーベルトです。騎士科三年で、特技は治癒魔法。使う武器はバスタードソードで、兄貴やあんちゃんほどは強くないよ。たいていの怪我や病気は対処出来るから、なにかあったらすぐに言ってね」

「メーベルト先輩は、あねさんって感じですよね」

「くはっ、サヴァンお前ほんと良い所突いて来るな」


 素直な感想を言うと、全員がメーベルト先輩から目を逸らした。

 肩が震えている。


 ひとり気遣いもなにもなく忌憚ない反応を返したリスト先輩を、メーベルト先輩が目を細めて見る。


「クララ、僕の権限でもって今後クルタス内での君のあだ名をクララで定着させることが決定したからねぇ」

「ちょ、姐さん、それ冗談にならないやつ!」

「うん。可哀想だけど、仕方ないよねぇ」


 メーベルト先輩は兄貴やあんちゃんとは別の意味で、クルタス内で一目置かれる存在だ。騎士科の聖女にして、専科も含めてクルタス生いちの治癒魔法使いの上に、魔法を用いない治療や手当て、薬学などにも長ける。本人は騎士を志望しているが、宮廷魔術師団からの勧誘もすごいと言う話だ。もちろん学院内での発言力も強く、よほど理不尽なことでも言わない限り彼の意見は通る。

 そんな彼がリスト先輩をクララと呼んだら、結果はお察しの通りだ。


 リスト先輩が血相を変えて訴えるの(に姐さん呼びな辺り、リスト先輩も大概だけれど)を華麗にスルーして、メーベルト先輩がわたしへ目を向けた。


「エリアルくん、さすがに姐さんは酷くないかなぁ」

「お似合いだと思ったのですけれど」

「いや、僕、男だからねぇ?」


 抗議しても和やかな空気。もう、才能だと思う。


「女っぽいと貶すつもりで言ったわけではなくて、なんと言うか、女性的な格好良さがあるなあと、思って。メーベルト先輩って、兄貴とはまた違った、こう、安心感のある頼り甲斐を感じて、格好良いのですよね」


 やんちゃしても、しょうがないなぁと見捨てないでいてくれそうな、包容力を感じるのだ。腕力では測れない、強さ、えーっと、たおやかさ?みたいな。


「…僕から見たらエリアルくんの方が格好良いけどなぁ」

「いえいえ、メーベルト先輩は格好良いですよ。なにかをきわめたひとって、とても素敵です」

「はは。面と向かって言われると、照れるなぁ…」


 はにかむメーベルト先輩、マジ聖女。


 ふたりでふにゃふにゃと微笑みを交わす。


「え、待ってなんでオレは怒られてサヴァンは和んでんの!?」

「アルだから仕方ないわ」

「エリアル嬢、だからね」

「アル、だもんな」

「サヴァンくん、なにもの…?」

「天下の宮廷魔導師さまを誑し込める、魔性の猫、ね」

「あ、うん。理解した」


 ちょっと、せっかく和んでるのに外野うるさい。


「ブルーノが落ちたから姐さんで良いか」

「呼び名が混沌として来たな。まあ良い。おい、クララ、お前が次だ」


 あんちゃんと兄貴によりメーベルト先輩の呼称が姐さんに落ち着き、兄貴がリスト先輩…クララに指示を出す。


「あ、兄貴までクララ呼び!?うー、ひでぇ…あー、えっと、騎士科二年クラウス・リストっす。獲物は兄貴と同じ両手剣だけど兄貴と違って片刃で、魔法は使えねっす。あとは…まあ、そんな感じっすね」

「クララはきのこに詳しいから、食料採集のときに頼ると良いよぉ」

「あと、クララは火起こしが上手いから、一年生は習うと良いかも。おれが魔法で火種作っても良いんだけど、なにごとも経験だから」

「よくわからないきのこを口にするのは危険だからな。自己判断せずクララを頼れ」

「ああ。きのこはクララに訊けば間違いないからな」

「先輩たち、ひでぇっすよ!!パスカルまでっ!!」


 相談の余地なくクララと呼び名を決められたクララが、抗議を叫ぶ。


「あ、おれはパスカル・シュレーディンガーです。騎士科二年で、姐さんと同じくバスタードソードを使ってるよ。魔法は、あんま大したことないんだけど火魔法が使えて、あとは、そうだな、うーん、クララ、ほかなんかあったっけ?」

「パスカルは木に詳しいから、薪集めのときはパスカルの指示に従うと良い。ひでぇよみんなして…」


 この中だと、クララがいじられキャラみたいだね。


「ぱぱ?」

「お前の発想力がこえぇよ!」


 小声だったのにテオドアさまに聞き咎められた。

 わたしだって、パパ呼ばわりするつもりはなかったのに。


「ん?サヴァンはなんて?」


 ほら、テオドアさまのせいでクララが立っ…興味を持ってしまったじゃないか。

 じとっと睨むとテオドアさまも意図に気付いたらしい。


 クララから目を離して呟く。


「……聞かなかったことにします」

「いや言えよ」

「聞き間違いでした」

「ん?聞こえないな。なんだって?」

「聞き間違、」

「サヴァンがなんて言ったって?」


 ちょ、クララヤンキーか。


 テオドアさまは必死にしらばっくれようとしたが許されず、諦めたように答える。


「……ぱぱ」

「は?」

「ですから、…ぱぱ」


 全員の視線が、無言でわたしに集まった。


 ああもう。テオドアさまのばか。


「ぱぱー」

「おお、娘よ!…って違うから!」


 やけっぱちで胸に飛び込んだら、がしっと抱き締められたあとで、ぽーいと突き放された。


 ノリツッコミなんて、シュレーディンガー先輩やりおる。


「ってごめん、大丈だいじょうだね…」


 女子を突き放したことを気にしたらしいシュレーディンガー先輩が、ふらりともしていないわたしを見てため息を吐いた。


 うん。茶番で空気は変えられた…って信じてる!


「パックとかどうですかね?」

「アル、あなたにしてはとてもまともな意見だけれど、さっきのをなかったことにするのは無理があると思うわよ?」

「そこは優しさで流しましょうよ」


 空気を読んで争いをなくすって、大事だと思うんだ。元日本人としては。


「…パパにするか」

「短いし呼びやすいっすね」

「うん。パスカルくんに合ってると思うよ」

「では、パパで、」

「「ちょ、悪ノリやめましょうよ先輩方!!クララも!!」」


 突っ込む声はシュレーディンガー先輩と、見事にそろった。


 ちらりと視線を交わして、わたしから口を開く。


「うかつな発言をした、わたしが悪かったですから」

「いや?良いと思うぞ、パパ」


 やめて兄貴の口から出るパパとか破壊力あり過ぎるから!


「良いよねぇ、パパ」

「ああ。私はパパを推す」

「三年は三人ともパパが良いと言っているが?」


 騎士科生は上級生に以下略。


 わたしは額を押さえ、呻くように呟いた。


「ごめんなさい。ぱぱ」

「…まあ、合宿中の話だから」


 うなだれるわたしの頭に、ぽす、とパパの手が乗った。


「んじゃ、パパの紹介はここまでで、一年は誰から行く?」

「…レディーファーストで行くかしら?私、ピア、ヴィック、テオ、アルで」

「うん。私はそれで構わないよ。アロンソ嬢も良いかな?」

「え、あ、はい…」

「え、わたしも一応女、」

「猫は最後よ」

「わたしは猫では、」

「じゃあ、ツェツィーリア嬢から、どうぞ」


 ええー…。


 しょぼん顔のわたしをスルーして、ツェリが自己紹介を始める。


「普通科一年、ツェツィーリア・ミュラーよ。武器は護身術程度に短剣が使えるだけだけれど、水魔法での防御なら自信があるわ。料理は出来ないわけじゃないけれど、あまり得意ではないわね。体力はそれなりにあるつもりだけれど、騎士科生ほどではないかしら」

「ツェリは、ツェリか?」

「それが順当だけれど、捻りはないね」


 そこでなんでみんなして、わたしに目を向けるのですか。


「お嬢」

「ふむ」

「おう」

「良いねぇ」

「よし、決まりだな!ミュラー嬢はお嬢」

「すげーしっくり加減」

「確かに」

「…それで納得されると、すごくもの申したい気分になるわね」


 わたしがぼそりと答えた言葉に三年組が頷き、クララ、テオドアさま、パパが感想を述べると、お嬢が眉を寄せてぼやいた。


「まあ良いわ。ピア、自己紹介」

「は、はい。えと、ピア・アロンソです。普通科一年の、留学生、です。あの、棒術は少し出来ますが、それ以外の武術は全然で、光魔法が、少し、使えます。料理も、出来ます」


 …とうとうみんな無言でわたしを見るようになったよ。


 見られても、ピアの良いあだ名なんて、


「ぴぃちゃん」


 くらいしか思い付かないって。

 個人的には小動物っぽさが出て、良いと思うけど。


 今度は全員の視線がピアに向いて、びくっとしたピアがぱちぱちと目をまたたいた。


 あー、うん。と言う空気が流れる。


「…決まりだな。構わないか?アロンソ嬢」

「はい。大丈夫、です」

「ん。よろしくな、ぴぃちゃん!じゃ、殿下!」


 普通科だからか留学生だからか、ぴぃちゃんに関しては兄貴が確認を取って、ぴぃちゃんを了承したぴぃちゃんの頭をクララがなでた。

 ぴぃちゃんが目を見開いたあとで、はにかむ。ああ、可愛い。呼称の相乗効果で、いつもの三割り増し可愛い。普段も可愛いのに三割り増しだから超可愛い。可愛い。


「騎士科一年、ヴィクトリカ・ルイ・バルキアです。武器は片手剣で、時間の魔法が使えます。主に、結界だね。ものの保存も出来るから、新鮮さが必要なものの保存なら出来るよ。あと、肉の熟成、とかね。申し訳ないけれど、料理については肉の熟成以外ではあまり役に立てないと思う」

「経験ないもんな、ヴィックは」

「やろうとしたら、止められてね」


 殿下が苦笑して、肩をすくめる。

 騎士科とは言え、殿下に料理させるひとはいない。経験がないなら、出来ないのも当然だ。むしろ公爵令嬢ながら料理の出来る、お嬢の方が変わり者と言われるだろう。

 お嬢に関しては、わたしが教え込んだからだけれどね。


 お嬢には初等部のうちに、料理に限らず家事全般をある程度出来るようにしてある。

 初等部時代は平民だったし、未来がわからない以上出来て困る技能ではないから。


 平民でも貴族でも、どこに出しても恥ずかしくない自慢のハイブリッド令嬢なのだ、我らがお嬢は。うちの子さすが。


 だから無言でこっち見るのやめてって。


 爆弾落とすよ?


「姫」

『…っっ』


 さあ、何人だ、いま笑いをこらえたのは。


「っ!ーーっ!お、前、怖いもの知らず過ぎる!!」

「言い得て妙なのはっ、…っ認めるけど、あなた、ねぇっ、くく」


 笑いが堪えきれてませんよお嬢。

 しかも、言い得て妙って言っちゃったよ。良いの?


「…エリアル嬢っ」

「ひめー」

「可愛く言っても駄目!」


 さすがに少し怒った顔で見られたので、パパと同じノリでごまかしてみる。

 駄目と言いながらハグには応じてくれる辺り、ノリがよろしいですな殿下。っと、


「こら、不用意に姫君ひめぎみに抱き付かない」


 お嬢により、べりっと剥がされた。


「あ、はい。と言うか、姫で良いのですか?」


 ファイナルアンサー?


「もう、それで良い気がして来たよ」

「だな」

「ああ」


 だってさ、姫。


「〜〜〜っ、先輩方、意外に悪ノリしますね」

「その方が、おもしろいだろう?」


 おお、兄貴の悪戯っぽい笑みがサマになってて格好良い。

 こう言う普段は見られない姿が見られるのも、演習合宿の醍醐味、かな?


「ほら、次はテオだぞ」

「…不安しかないんですけど」

「男は度胸だ!」

「はぁ…。騎士科一年、テオドア・アクス。武器は両手剣で、魔法は強化系なので、あまり周りの役には立たない、ですね。料理は一応出来ますが、軍の野営料理です」


 ここで転生者七不思議。


「テディ」


 世界が変わっても共通語だったテディベア。

 由来はたぶん異なるだろうけれど、なぜかそのままテディベア。


『ふっ』


 可愛いくまのぬいぐるみをイメージする呼称で、がっちりした体格の、クールが売りな男子高校生を呼ぶ、と言うのはなかなか和む行為でして。


「ぷっ、は、い、良いな、テディ。よし、採用で良いっすね?」

「お、おう。っく」

「う、うん。に、似合って、るよ?」

「くく。良いんじゃないか?」

「だから不安だったのに…」


 先輩方が笑いながらゴーサインを出すのに、テディは両手で顔を覆って呻いた。


「可愛いじゃない。テディ」

「うん。可愛いね、テディ」

「可愛い、ですよ?テディベア」

「可愛いのが問題なんだろ!?」


 ぴぃちゃんにまで追い詰められるテディは、間違いなくクララと並ぶいじられキャラだ。


「お前に拒否権ねぇからテディ。ほら、次、サヴァン。トリだな」


 クララからテディへ無慈悲な通達がなされて、ついにわたしの番が来た。


 …全員に散々なあだ名を付けた自覚があるだけに、どんな呼称にされるか怖いよ。


「騎士科一年エリアル・サヴァンです。武器は片刃両手持ちの曲刀で、魔法も、一応使えます。使えるのは音魔法、ですね。あとは…料理は多少、出来ます」

「多少?」

「アルお前、嘘吐くなよ」

「アルの料理の腕は料理人並みよ。期待して良いわ」


 お嬢それは盛り過ぎです。


「料理人には及びませんよ」

「公爵家料理長の頭を抱えさせたくせに、なにを言うのよ」

「それはまぐれです」


 ツェリの非常食(おかし)袋が見咎められたのだ。あと、オムライス。

 食べて驚き作れなくて頭を抱え、ミュラー公爵家を訪れたときに捕まった。


 でも、それはたまたま変わった料理を作れるだけで、料理の腕とは関係ない。


「…サヴァンくん、なにもの?」


 だからパパ、そんな人外を見るような目で見ないで下さい。


「ただの学生ですよ…事情が少し、入り組んでいるだけで」

「あ、うん…」


 首輪をつついて見せると困ったような顔をされた。

 …エリアル・サヴァンと同じ班にされるだけあって、善良なひとみたいだ。


「それで、みなさまわたしをなんと呼ぶのですか?」


 まずサヴァン派とアル派で分かれている気がするけれど、サヴァンとかアルとかの無難な呼び名には、


「アルだと、まとも過ぎるわね」


 ならないデスヨネー。


 前世だったらサヴァンからサブちゃんとか三郎とか、おもしろみのある名前も出るけれど、さて、ここではどうだろう。


 いやいや、自分で自虐的なあだ名提案したりしませんからね?


「アル、なにかないの?」

「いや、わたしは本人なのですけれど」


 あだ名って、自分から名乗るものではないだろう。


「別にアルで良くないですか?」

「却下」

「ではサヴァンで」

「もっと駄目よ」

「それでしたらご自分でお考え下さい」


 わたしは知らん。


 そう言う意図はなかったけれど、女子に付けやすいお嬢と姫は潰しちゃったしね。

 姐さんも使ったし、わたしはママっぽい見た目じゃない。


 殿下に若って付けようかとも思ったけれど、爆弾な姫にしておいて良かった。


「猫、だとまんま過ぎだよな」

「猫か…」

「猫ではないです」


 兄貴の呟きに条件反射で答える。


「だいたい、猫だとわたしを呼んでいるのかその辺の猫を呼んでいるのか、わからないですからね?」

「なら、お前が良いの出せよ」

「いえ、ですからわたしはほんに、」

「出せよ」


 だからクララヤンキーっぽいって。侯爵子息なはずなのに。


 ため息を吐いて、ついでに吐き捨てる。


「クロ」


 全員が、わたしの頭を見た。

 わたしの特徴であり、とあるあだ名の由来にもなった、極めて珍しい真っ黒な髪。

 そして、黒猫に付けられやすい、安直な名前。


「…お前ほんと、あだ名付ける才能あるな」

「そう言われちゃうと、もうそうとしか思えないねぇ…」

「クロ、な」

「決まり、か」


 結局クララ以外、わたしが呼び名を決めてしまった。


「…結果的に、クロが一番マシなあだ名じゃないか?」

「ならテディはなにか思い付くの?」

「いえ、思い付かないですね」


 不満を言いつつも代替案はないらしく、テディが首を振った。


「テディ、敬語はなしねぇ」

「あ、はい、じゃなくて、えっと、おう」

「ぴぃちゃんはそれが、普通かな?」

「はい。敬語、以外は、使えないです」

「それなら仕方ないねぇ」


 癒やし(ぴぃちゃん)癒やし(姐さん)の共演。つまり癒やし。


「クロは」

「わたしもこれは癖ですから」

「いやお前、猫相手に敬語取れてたよな?」

「…幼い頃からひとには敬語を使うように、教え込まれていますから」


 敬語は一種の、壁だと思う。

 エリアル・サヴァンは、他人に壁を作れと育てられた。


「ご両親、厳しかったの?」

「ほかと比較したことがないのでわかりませんが、厳しいほう、かもしれないですね」


 鈴が鳴るたび血相を変えて、心を揺らすなと言い含められた。

 きっと普通の家族から見たら、異様な家族だろう。


「そっかぁ。じゃあクロも敬語は仕方ないねぇ」


 言いながら姐さんは、よしよしと頭をなでてくれた。


 作意たっぷりの班ではあるけれど、良い班で良かった。そう思った。






拙いお話をお読み頂きありがとうございます


演習合宿のお話

現時点でまだ途中までしか書けていないのですが

確実に長いですごめんなさいー(ノ_<)


話は変わりまして

三週間ほど前に割烹でご連絡した通り

登場人物紹介を設置しました

大した情報はありませんが

こいつ誰だっけ…?となったときなどに役立てて頂ければ幸いです(*´`*)


では

出来るだけ早めに次話をお届け出来るように頑張りますので

続きも読んで頂けると嬉しいです

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