取り巻きCともふもふの日 中編
取り巻きC・エリアル視点
前話の続きです
そして次話に続きます
いつから前後編だと思っていた?
いえ、はい、すみませんm(__)m
口を挟ませたら負け、と言う気合いで話す。
「全員一気、と言いたいところですが、それでは目が足りませんね。順番に行きましょう、ピア」
微笑んで、ピアの方へ歩み寄る。
ピアチョイスなのはもちろん、いちばん御しやす…こほん、いちばん素直で優しいからである。
陰謀渦巻かせながらこんちには、今日も今日とて取り巻く令嬢、エリアル・サヴァンです。
今日は嬉し恥ずかしコスプレイベント。年に一度のハロウィーンですよ。
この世界のハロウィーンは前世と少し違ったりするのだけれど、説明は割愛で。
とにかく、コスプレしてお菓子配るのは一緒だから、それで良いだろう。
わたしが作ったアレな衣装をみんなに着せて、とうとうお披露目タイム。
このメンバーに見せて反応が悪ければお着替えも視野に入れているので、結構に大事なお時間です。
ピアのポンチョを脱がせて、被りものを被せる。
小麦色のぴんと立ったウサ耳ケープに、同色のウサハンドなオープンフィンガーグローブと、しっぽに、ウサギレッグ風ブーツ。おっきなリボンで留められた短いケープの中身は、セーラーカラーのブラウスにカボチャパンツだ。
前世で有名な某ピーターさんをイメージした衣装である。
女性は脚を見せないが基本のこの国で、膝上丈のカボチャパンツが受け入れられるかが、ピアの衣装の冒険ポイントだ。カボパンの下にはタイツを履いて貰っているから、ギリギリセーフと思いたい。
「可愛いですわ」
「そうね、可愛いわ」
リリアとツェリが、ピアを見て顔を綻ばせる。
小動物な雰囲気を漂わせるピアには、ウサ耳がとてもよく似合う。
自分で作った衣装ながら、可愛いと自負する衣装だ。
「…この、下衣の丈がかなり冒険しているのですが、大丈夫でしょうか」
「ブーツでほとんど見えていないから、そんなに気にならないわ」
「ブーツもふわふわなのですね。可愛いです」
模範的ご令嬢である取り巻きAのリリアからOKが出たので、大丈夫と判断して良い…はず!
微笑んで頷き、リリアに目を向けた。
「では、次にリリア行きましょうか」
リリアのポンチョを受け取り、ケープのフードを被せる。
「あら、リリアもウサギなのね」
ツェリの感想通り、リリアの衣装もウサギがモチーフだ。
けれどこちらは野ウサギではなく、白ウサギ。時計を持って走るウサギさんをイメージした衣装。
ロップイヤーの白いウサ耳ケープに、ウサギハンドとしっぽ。着せた服は臙脂の上着のテールコート。足元は白いブーツで、胸ポケットには懐中時計を。
ピアのように短パンではないのだけれど、ぴったりしたトラウザーズは脚のラインをはっきり見せる。女性は下半身のラインを見せないのが常識のため、この衣装もこの国の貴族女性にはかなりの冒険。
…日常的に男装なわたしからしてみれば、今さらどうってことない格好だけれど、わたしはわたし、リリアはリリアだ。
「アルでも思うけれど、背が高いと男装がさまになって良いわね」
「エリアルほどには、決まりませんけどね」
「いえ、似合ってますよ、リリアさん。素敵ですっ」
うん。わたしと言う前例があるお陰で、この衣装への忌避はなさそうだ。
「では、」
「私ね」
わたしの言葉を待たずして、ツェリがしゅるりとポンチョを脱ぐ。
脱いだポンチョを受け取って、フードを被せた。
「…すっげぇ色」
今まで喋っていなかったテオドアさまが、ぼそりと呟く。
ツェリの衣装はショッキングピンクと紫。と言えば、イメージしたキャラクターはわかって貰えるかな?
ピンク色の猫耳ケープに猫足のブーツとオープンフィンガーグローブ、しましまのファー風なしっぽ。ケープの下は、下が膝丈短パンのスーツだ。形は短パンな以外普通のスーツだけれど、色はもちろんピンクと紫。紫の短パンの下はピンクのタイツだ。
下衣の丈でも形でも冒険し、さらに色までぶっ飛んでいると言う衣装。女性陣ではいちばん難度の高い格好になっている。
「これは、着こなせるツェツィーリア嬢がすごいね…」
「でも、すごくお似合いですわ」
「そうなのよね、自分でも、似合うのが不思議で仕方ないけど」
テオドアさま同様喋っていなかった殿下が、思わずと感想を漏らし、リリアとツェリが頷く。
どぎつい格好だが、負けずに着こなすのがツェリのすごいところ。
前世ならば某にやにや笑いの猫さんがいるのでそこまでの奇抜さは感じないが、キャラクターを知らないと色のチョイスが異様だ。
わたしが感じる以上に、この世界のひとたちには奇抜に感じる衣装だろう。
うん。これは、ツェリだから、許される格好、って評価かな。
さすがです。我らが悪役令嬢さま。
「次はテオドアさまですね」
「ああ…」
もう、着てしまっていると言うのにまだノリきれないのかこのひとは。
コスプレなんて、開き直ってなんぼなのに。
容赦なくポンチョを剥いで、フードを被せる。
「きゃ、」
あはは。リリアさん、容赦ない反応。
「大胆ね」
ツェリはわたしに呆れた目を向けるのやめてね。
「お耳、ふかふかですね」
ピア、マジ天使。
「…似合ってるよ、テオ」
いやあのヴィクトリカ殿下、横目でわたしを睨むのやめてくれませんかガチで。
理由はわかっているけれどわたしの方の理由もわかって頂けますよね?あ、いや、理由がわかるからこそ睨まれているのかな…。
「っ、あんま見んな」
「似合ってるわよ?」
「そう言う問題じゃねえ…!」
頭を抱えてしゃがみ込むテオドアさまが着ているのは、赤ずきんちゃんの狼をイメージした衣装だ。
焦げ茶の狼耳ケープに、狼ハンドと狼ブーツにふさふさのしっぽ。リボンで留められたショートケープの中はフレンチスリーブに短パンのオールインワン。狼らしさを出すために、腰に少しボロくした布を巻いている。
女性陣ではないので、容赦なく生足生腕を露出した格好だ。テオドアさまが気にしているのは、考えるまでもなくこの過度な露出だろう。せっかく鍛え上げられた肉体美なのだから、見せたって良いと思うのだけれどね。
「ブーツと手袋で、多少隠れているじゃないですか」
「ならお前が着ろよ」
「わたしは…」
その服だと胸元が開きすぎているので駄目だ。鎖骨の下まで見えてしまっている。
腕と膝下なら、別に見せても抵抗はないのだけれどね。
「テオ、エリアル嬢の脚が見たいの?」
「テオドアさま、さすがにその発言はどうかと思いますわ」
「アル、テオの戯れ言なんて聞かなくて良いのよ」
言葉を濁したわたしに代わって、三方向からの援護射撃が入った。
女性に生足短パンは、やっぱりアウトらしい。
援護に笑みで答えて、殿下に目を向ける。
「では、最後ですね。殿下」
「ああ、そうだね…」
ヴィクトリカ殿下がため息を吐いて、ポンチョを脱ぐ。
こちらはテオドアさまと違って潔い。歩み寄って、フードを被せた。
絶句した空気が、ざっくざっくと背中に突き刺さった。
殿下の衣装のイメージは、狼と七匹の子ヤギの狼さんだ。
白い粉を被り、ヤギのお母さんの振りをした狼さん。
狼耳のケープにしっぽ、狼の手足は、粉被りのイメージから真っ白。そして、ケープの下は七分袖の、アフタヌーンドレスだ。
繰り返す。アフタヌーンドレスだ。ヤギのお母さんのイメージである。
「アル、よくもまあ…」
テオドアさまの衣装を見たとき以上の呆れ顔で、ツェリがわたしを見た。
「お似合いでしょう?」
「…まあ、似合っているとは、思うわ」
しれっと答えると、額を押さえつつも頷いてくれた。
ヴィクトリカ殿下は決して女顔ではないのだが、綺麗な顔立ちなので女装でも十分見られる。化け物みたいな失敗女装には、なっていない。
「そうね。テオを女装にしなかった分別を、褒めるべきよね」
「わかって頂けて嬉しいです」
ツェリならこの配慮を、わかってくれると思っていた。
わたしは可愛いものが見たいのであって、ゲテモノを見せるつもりはないのだ。
だから、まず似合わないとわかっているテオドアさまに女装はさせていないし、殿下の格好もイブニングドレスではなく露出を抑えたアフタヌーンドレス。Aラインドレスで腰だけは絞らせて貰ったけれど、ほかは体型のあまり出ない型のドレスにしてある。
顔は綺麗でも腕やら肩やらは、生で見ると明らかに男だからね、殿下。
「ひらひら、可愛いですね」
「かなり、しっかりしたドレスですね」
「殿下に中途半端なものは着せられませんから」
ピアが天使な感想を返し、リリアが無難にドレスを褒める。
男性に着せるドレスと言うことで、かなり工夫を凝らしている。
たとえばクリノリン。この国ではパニエが主流なところを、クリノリンを利用することで歩きやすくしている。クリノリンならスカートが脚にまとわり付かないので、裾捌きを考えなくて済むのだ。ほかにも、随所に工夫を張り巡らせてある。
着やすさへの工夫は、誰の衣装でも意識しているけれどね。
「…王太子にドレス着せようって言う、お前の度胸に脱帽する」
「王太子殿下、だからこそですよ」
唸るようなテオドアさまの感想に、笑って答える。
「誰も王太子殿下相手に無茶は言わないからこそ、非日常でそれをぶち破って見せたのです。ヴィクトリカ殿下ならば、許してくれそうだと言う打算はありましたけれど」
「お前だから、許される話だな」
「ええ。アルだから許される話ね」
「ですよね」
「そう、ですね」
ちょ、ピアまで頷いてる!?
いやいや、ヴィクトリカ殿下は寛大な方でしょう?
そんな思いを込めて殿下に目を遣れば、返されたのは、苦笑。
「そもそも私に女装させようと言う猛者が、エリアル嬢くらいしかいないだろうから、ね」
「それは…確かに」
否定、デキナカッタヨ…。
「まず無理ですけれど、キューバー公爵子息の女装も、見たかったですね…」
ピア以外の全員が、ぱっと顔を背けて口許を手で被った。
…全員、噴き出すのを堪えたね?想像したね?ラース・キューバーの女装を。
あ、覚えていないひとのために補足すると、ラース・キューバーはゲーム攻略対象の、小柄・華奢・女顔な毒舌貴公子だよ!あ、いや、毒舌なのは裏の顔で、表の顔は微笑みの貴公子だけどね!
あと、みんなが口許を被った手は、漏れなくケモノハンドだから、口許を被ったときの効果音は、もふっ、です。ケモノハンドだけどお菓子を渡さないといけないので、指先が露出したオープンフィンガーグローブになっている。
「と言うか、アル、あなたの衣装は?」
「ああ、はい、着替えますよ」
頷いて、ばさばさと上着を脱ぐ。ベストとクラヴァットも外して、衣装出して、と。
「ちょ、更衣室で、」
「え?」
靴だけ脱いでトラウザーズの上からずぽっと。
ぐいんと着込みながら、なにか言い掛けるツェリを振り向く。
指を通して、ボタンを留めて。
「それ…」
「なんですか?」
フードを被って、はい完成。
わたしの衣装のイメージは、某宅急便のイメージキャラクターだ。某宅配魔女の相棒でも可。
説明は簡潔で済む。黒猫の着ぐるみパジャマ、だ。
と言っても、ブーツみたいに足はカバーされているし、手は指だけ出る、オープンフィンガーグローブみたいな形式だけれど。
着脱は簡単。服着たまま羽織ればおっけーである。上着とかはもたつくので、脱いだけどね。
お前だけ仮装の難易度が低い?
いやいや、全身着ぐるみだよ?敷居は…低いね!
防犯上顔見せがルールで、フルフェイス着ぐるみを着れないのが残念で仕方ない。
どうせなら着ぐるみパジャマじゃなく、本格的な着ぐるみを着てみたかった。
周りに散々なコスプレさせといてせこい?ふ、製作者特権だとも!
きっと周囲が期待しているであろう黒猫をチョイスしただけでも、褒めて欲しい。
「…必要ないにしても、あるんだから更衣室使いなさいよ」
「面倒で」
「と言うか、あたなだけ明らかに型が違うわ」
「似合うでしょう?ほら」
両手を顔の横で握って、にゃー、と鳴いてみる。
うわ、キャラじゃなさ過ぎて自分にダメージが…!
ほら、みんな顔背けちゃったよ。どうしてくれよう。って、
「うにゃあ!」
猛然と歩み寄って来たテオドアさまに抱き締められ、すごい勢いで頭をなでられた。
「殺す気か!なんだお前、猫か!やっぱり猫の化身だったんだろう!」
「「やめい!」」
あんまりな反応に対応出来なくなったわたしに代わって、ツェリと殿下からダブル突っ込みが入る。
セクハラ魔と化したテオドアさまはわたしからべりんとはがされ、ふたりの手でぽいっと投げ捨てられた。
ちょ、殿下、足蹴、足蹴が出てますよ!?狼レッグだから大して痛くないだろうし、止める気はないけど衣装が駄目にならない程度にね!
て言うかテオドアさま、猫好きだからって、その反応はさすがにどん引きだよ!しかも、ツェリのときは普通だったじゃん!なんで!?
着ぐるみ!?着ぐるみがいけないの!?
「可愛いです…」
混乱するわたしにてこてこと歩み寄って、頬を赤らめたピアが、褒めてくれた。
「ありがとうございます。ですが、ピアの可愛さには敵いませんよ」
「いえっ、ほんとに、すごく、可愛いですっ」
ぶんぶんと首を振って、一心にピアが訴える。
うんうん。可愛い可愛い。
とりあえず萌えたので、ピアの頭をなでこ。女の子同士だからセクハラではありません。ピアの頭もわたしの手ももふってるので、気分はなでこでも効果音はもふもふ。
「猫がウサギを…って、なんだか捕食みたいですね」
「その感想はどうなの」
もふんとわたしを小突いて、ツェリがわたしとピアの手を引く。
「記念写真撮りましょう。ほら、リリアも」
いつの間にか、部屋の端に写真機を構えた女の子がいた。
いや、さっきから地味に写真撮ってたけれどね。殿下の足蹴とか。
ツェリが中等部のときに仲良くなったらしい、写真が趣味の女の子だ。
…最初はいなかったと思うけれど、いつの間に入ったのだろう。わたしが更衣室にいる間かな?
女子四人で、並んで写真に写る。
「テオもヴィックも、入って」
ツェリが、男性陣を手招く。
少しためらったようだが、殿下とテオドアさまも並ぶ。良かった、テオドアさま、衣装は無事みたいだ。
みんなで笑って、写真に収まった。
「あ、この写真、あとで有料で販売するから」
「え?」
「あの子がハロウィーン期間中に撮った写真は後日有料で販売するから、了承してね。ああもちろん、被写体になった相手には無料で焼き増しするし、これは見せないで欲しいと言う写真は、言えば販売も露出もしないわ」
エー…お嬢さま、いったいなにを…。
「盗撮対策よ」
わたしの戸惑った表情を読んで、ツェリが説明する。
写真機を構えた女の子を呼び寄せ、腕を見せる。
彼女の腕には、目立つ腕章がはめられていた。
「ハロウィーン中はこの腕章を付けた人間以外、写真機の使用を全面禁止にしたの。その代わりに、みんなが欲しいような写真を腕章の生徒が責任を持って撮り、被写体の許可を得た上で販売するのよ。売上の二割は、被写体に還元する予定。撮られた覚えもない写真が出回るより、その方がマシでしょう?」
「そうですね。さすがお嬢さま、ご慧眼です」
殿下を女装させてしまったので、不用意に写真が出回るのはまずい。足蹴もね。
「ご理解頂けて重畳。じゃあ、良い被写体になってね?ここの面子は間違いなく、写真が売れる面子なのだから」
「わたしは、」
「あなたもよ」
ぐいっとツェリに腕を引かれて、ツェリとふたりで写真にぱしゃり。
「あなたの写真がいちばん売れる予想なのだから、たくさん撮られなさい」
「またまたー。フィルムの無駄ですよー?」
笑って肩をすくめると、室内の全員、それはもう、端に控えるメイドさんに至るまでに、え、お前なに言ってんの?と言う目で見られた。
え、わたしなんでそんな目で見られてるの?
「サヴァンさん、さっきみたいな体勢、いくつかお願いできますか、あの、にゃーって、猫っぽい感じの」
「え、あ、はい」
「はい、次、もっと、はい、もう一声!はいっ、ありがとうございます。次、王太子殿下と絡んで貰えますか?」
困った顔を作る間もなく、カメ子さんに指示出しされて応じる。
「絡むって、えっと、これで良いですか?」
「良いです良いです。最高です!」
跪いて殿下の手を取ると、すごく、イイ笑顔で頷かれた。
「次、ちょっと甘える感じでなにか出来ませんか?あ、良いです完璧です!もう一声お願いします。あ、ごちそうさまです!では次はアクスさまと…」
い、勢いに圧されて従っちゃったけど、こんなに撮ってもフィルムの無駄じゃ…。
結局その後も大量に写真を撮られ、ソファにくたんと沈むはめになる。って、やめてこれはポーズじゃないから!
やっとカメ子さんのレンズがわたし以外に向いて、ほっと息を吐く。
ひょいっと腕を取られて顔を向ければ、隣にツェリが座っていた。
もふもふとわたしの腕に触って、首を傾げる。
「これ、私のケープとかもそうたけど、布はなにを使ったの?」
ふかふか起毛の布が、気になったらしい。
話題に惹かれて、リリアも寄って来る。
カメ子さんには、テオドアさまと殿下が捕まっていた。あ、ピアも巻き込まれた。
狼とウサギさん。…完璧に捕食ですね。
「毛布です」
「は?」
「毛布で作りました」
腕をふかふかしていたツェリの手が止まる。
リリアも戸惑いを顕わにして、自分の腕を見下ろした。
「毛布を、服に?」
「軽くて柔らかいものを選びました。暖かいでしょう?」
「暖かい、けど、毛布を服にって」
もうふと読むから違和感を覚えるのだと思うけれど、思い返してみて欲しい。けぬのと読めば、布だ。
紙や風船、ごみ袋だって立派な(?)服の素材として認められるのだから、名称に布と付く毛布なんて、服飾材料として王道と言え…ない?いや、言えるって。言えるから。
「これとか足が取れるので、このまま寝間着にも使えますよ」
「それもどうなの…」
衣装のお腹を引っ張って言うと、呆れ顔で返された。
…このお話はわたしのためにならないと見た。
「それより、写真、確かに盗撮防止は重要ですが、出回らせて良いのですか?」
仮装とは言え高位貴族の子弟=国の重鎮の弱み、である。
下手に犯罪組織に流れでもしたら、危険だと思うのだけれど。
「撮影者はもちろんのこと、買い手にも、悪用しないむねの誓約書を書かせるわ。徹底的に枚数や流通も管理する手はずになっているし、生徒会や教師陣、風点とも協力して、違反者への罰則や写真流出時の対応についても、細かく決めてある。わざわざ宰相の監査も受けて、了承を得てあるわ。取れる限りの対策は、取ったつもりよ」
「いつの間にそこまで…」
「あなたが衣装作りに励んでいる間、ね」
と言うか、高等部一年生にして学校を掌握していると言うことですよね、それは。
ミュラー公爵の口添えはあっただろうし、殿下やテオドアさまの協力も得ていたのだろうけれど、さすがお嬢さま、着々と校内裏番の道を歩まれていらっしゃる。
「ご苦労さまで…ふにゃ…」
「あら、眠いの?」
「いろいろ立て込んでお菓子作りがぎりぎりになってしまって…」
刺繍の教え子たちから行きたいと予告されていたため、結構な人数分を作ったのだ。と言っても、ひとり分を小さくしたので、数の割に量は大したことないのだけれどね。
ひとり分は少ないが数はナルシストばりに用意した。今日ばかりはこのサロンも開放されるので、殿下たち目当ての子たちがついでにわたしにも、なんてこともあり得るかもしれないから。
足りなくて悲しい思いをさせるくらいならば、余って恥をかく方が良い。
余った分はツェリたちに食べて貰えば良いし。
昨日の放課後から作り始めてオーブンをフル回転させて、終わったのが日付が変わってから。
結果寝不足で、あくびが出てしまった。
「下級生たちが来るまで、まだ一時間あるわ。少し寝たら?膝貸してあげる」
普段は重い痺れると膝なんて貸してくれないのに、今日は機嫌が良いみたいだ。
「んん…、申し訳ありません、では、少しだけ…脚が疲れたら、起こして下さいね」
「脚が疲れたらリリアと交代するわ」
もふん、とツェリの膝に頭を乗せる。
明かりを避けて、ツェリのお腹に顔を寄せた。
ツェリの手が、フード越しに頭をなでる。
小さな手の感触に口許を弛めて、わたしはそっと意識を手放した。
…後日見せられた写真の中に、この場面が入っていたのは言うまでもない。
拙いお話をお読み頂きありがとうございます
つらつらと衣装について書いていますが
はたして伝わっているのか
イメージの湧かない説明になっていたらすみません
続きも読んで頂けると嬉しいです




